「るろうに使い魔-29」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
るろうに使い魔-29 - (2012/10/14 (日) 23:28:04) のソース
#navi(るろうに使い魔) タルブ上空で、未だに鎮座している、『レキシントン』号。 村から離れた森の中で、シエスタは弟達を匿って隠れていた。 あの後、急に竜騎士達が攻め行ったかと思うと、村を根こそぎ焼き払い、目に入るもの全てを消し去っていった。 シエスタ自身、もう駄目だ。と思うような事も何度かあった。それでも可愛い子供たちを守りたい一心で、ここまで逃げ延びたのだ。 (ケンシン…さん…) 子供の前で不安にさせたくない手前、なんとか堪えてはいたが、内心泣きたい感情で一杯だったシエスタは、祈るように彼の名前を口にした。その時だった。 激しい唸り声を上げながら、シエスタ達の上空を何かが駆けていった。ほとんど一瞬のような出来事だったが、シエスタは確かに見た。 あれは間違いなく、家に祀ってあった『竜の羽衣』そのものだったのを。 そして、機敏な動きと速さで、数々の竜騎士たちを翻弄していく姿を、その目で確かに見た。 「ケンシンさん!!」 祈りが通じた、シエスタは喜びと安堵で嬉し涙を流しながら叫んだ。 アンリエッタも見た。タルブ前で布陣を敷いている時、確かにこの眼で。 「あれは…一体…?」 「さあ…私も、あの様な竜は初めて見ます…」 隣で補佐するマザリーニ枢機卿も、呆然とした様子で答えた。だが、あれが何にせよ、自分たちの味方というのだけは分かった。 先陣を切って、数々の竜騎士を打倒し、そして単騎で『レキシントン』号まで一気に飛んでいく。 そして、それを追うかのように、一匹の風竜が、空を駆けていった。アンリエッタはそれを見て、ふと彼女の顔が思い浮かんだ。 「ルイズ…?」 どこか期待を込めるかのような声で、アンリエッタは小さく呟いた。 第二十九幕 『虚無の力、決意と邂逅』 「はあっ!!!」 ワルドの叫びに応えるかのように、風竜は動いた。 一旦空へと上がった風竜は、そこから一方的にブレスを放つことで剣心の反撃の手段を潰していくつもりのようだった。 「どうだ抜刀斎!! 手も足も出なかろう!!」 しかし、巨大戦艦とはいえ、船の上で戦う訳なのだから、ただブレスを放てば良いという問題でもなかった。 乗組員や重大な機関に傷を付けでもしたら、戦力はガタ落ち、それこそ剣心の思惑通りになってしまう事には、ワルドも十分注意しなければならなかった。 (だが、この布陣に対して俺の勝利は動くまい!!) 「………」 対する剣心は、風竜のブレスを的確に回避しながら、同時に人を巻き込まないよう気を配りながら、どうやってワルドを叩き落とすかを検討していた。志々雄からの視線を感じながら…。 先程まで冷笑浮かべて豪胆に自分の野望を語っていた彼だったが、闘いが始まった途端にあの表情。 今の剣心の実力を確認しようと、それこそ一挙手一頭足全て漏らさずに見極めようとしている目だった。 (相変わらず油断も隙もないな…) 無論剣心も、その視線には気付いていた。だから剣心は回避を入れながら、いかに技を繰り出さずに相手を倒すかを思案している最中…。 「ん? 何だ…?」 おもむろに志々雄の方は、興味を剣心から別のものに変えたようだった。 それが気になった剣心は、一瞬だけそちらの方へ視線を移して、そして驚いた。 「ルイズ殿…!」 見覚えがある風竜に、ここからでも見える桃色の長髪。 ルイズ達の姿が、どんどんこちらへとやって来ていた。 すかさず砲撃を始める『レキシントン』号に、ルイズ達もこれ以上近付けないでいた。 「で、どうする気よ?」 お手上げ、そう言わんばかりにキュルケは聞いた。タバサも、これはどうにもならないと首を振る。 だが、ルイズは諦めなかった。 「砲撃は、ケンシンがきっと止めてくれる。だから、合図をしたら向かっていって、その周りを旋回してて!!」 言葉の意味をとれば、何を言い出すんだと言いたくなるような内容だった。剣心が、ゼロ戦から飛び降りて『レキシントン』の所へ乗り込んだのは、遠目でルイズ達も分かっていた。 だが、普通ならそれを理由に闇雲に突っ込むというの無謀そのものだった。返り討ちは必定ともいえた……『普通』なら。 しかしアルビオンでの旅のおかげで、剣心の力量を知っているルイズは、これくらいの事ならどうにかしてくれると信じているからこそ、そう言えるのだ。そしてそれはタバサ達も同じだった。 「…分かった」 正気か、と思うかもしれない。だが、これから何かが起こる。そう予期させるからこそ、タバサもキュルケも何も言わなかった。 「今よ!!」 そのルイズの言葉と共に、シルフィードは怯えながらも旋回。砲弾の嵐へと突っ込んでいった。 砲撃の中を駆け抜けるルイズ達を見ながら、志々雄は的確な指示を下す。 「一斉掃射、用意!! 目標、あの風竜!!」 「何!!?」 それを聞いた剣心が、ハッとしてそちらを見やった。それはワルドからしてみれば、千載一遇の隙であり、そして好機だった。 「隙ありだ、抜刀斎!!!」 風竜の放つ、特大のブレスが剣心の真上から、突如襲い掛かった。ブレスは、剣心を巻き込み甲板に大穴を開けながら、剣心を船の中へと追いやった。 普通なら、まともに喰らえば生きてはいない。ワルドは大きく高笑いをした。 「シシオ様、やりましたぞ!! 人斬り抜刀斎、恐るるに足らず!!!」 しかし、志々雄から返ってきた言葉はこうだった。 「…ワルド、お前、しくじったな」 「はっ……?」 刹那、船の中から喧騒が聞こえてきた。何かと戦っている様な声と音。そして悲鳴も上がってくるのがワルドの耳にも入ってきた。 「なっ…なんだてめえ!!?」 「ぐああっ!!!」 まさか、と思いワルドは船の大砲の方を見る。そこは、志々雄が命じたにもかかわらず、シンと静まり返っており、弾一つ放つ気配はない。 ここに来て、ようやくワルドは、『わざと』攻撃を誘われていたことに気づいた。油断すれば、必ず甲板を破壊するような大技を放ってくると、奴は踏んでいたのだ。 そして、中へと潜入して、恐らく今、砲撃を準備していた兵士たちを薙ぎ払っているのだろう。そうやってルイズ達を守っているのだ。 だがどうやって…あのブレスを…。しかし、その答えはすぐにピンと来た。 (あ…あの喋る剣…あれで吸収したのか…!!!) ワルドは、ギリと歯軋りをした。あの一連の行動から、ここまで正確に読んでいたとでも言うのか。 そして改めて身震いをした。恐るべき機転の速さ。そして今成すべき対応への迅速な行動。これが、最強の人斬りと謳われる所以なのか……? と。 ともあれ、こうしている場合ではない。ワルドは頭を切り替えた。犠牲は出るかもしれないが、やむを得ない。 甲板の中から、何度でもブレスを放ってやる。幾らあの剣でも、怒涛のブレスを何回も吸収出来るはずがない。 そう考え、ワルドは風竜を甲板に着陸させ、そこから覗かせる様に顔を突っ込ませた。しかし――――。 「なっ…!!?」 声にならない叫びを、ワルドは上げた。風竜がブレスを放とうとしたとき、ここぞとばかりに剣心の姿が躍り出てきたのだ。 しまった、これも計算の内か!? そうワルドが逡巡したときには、もう遅い。 「飛天御剣流 ―龍巻閃・『旋』―!!!」 空中で回転しながら放つ、遠心力の一閃。それが風竜の脳天に強かに打ち込まれた。 「グッ…!! グゥオアアアアアアアアア!!!!」 風竜はその衝撃で口を閉ざされ、結果、ブレスは口の中で暴発。大きな身体を宙を舞いながら、風竜は崩れ落ちていった。 「バカな…あの男は何者なのだ…」 この戦いを、艦長であるボーウッドは唖然として見ていた。 急に飛び込んできたと思えば、風竜のブレスを的確にかわし、あまつさえ一回の攻撃を 受けただけでこちらの対抗手段を悉く粉砕した。 そして、一瞬の隙をついて風竜までも倒した。殆ど無傷同然の格好で。 (本当に…奴らは一体…?) 風竜を倒したにも関わらず、その余韻に浸ることなく志々雄を睨む剣心と、それを受けても悠然としている志々雄を見て、ボーウッドは、そんな感想を抱かずにはいられなかった。 「ぐおっ!!! がぁあああ!!!」 ワルドは、風竜に振り落とされ、乱暴な形で甲板へと叩きつけれた。その顔は屈辱と羞恥で歪んでいる。 (何故だ!! 何故……) またしても圧倒的な敗北。しかも剣心は、もうワルドでは無く、志々雄の方を見ていた。 自分など敵ではないということか、その事実が、ワルドにとって、とても悔しかった。 「絶対に…俺も…あそこまで…上り詰めてやる…」 拳で床を何度も叩きながら、ワルドは誓うように、震える声で呟いていた。 「終わりだ、志々雄真実」 逆刃刀を向けながら、剣心はゆっくりと告げた。 対する志々雄は、どこか含んだような笑みをして言った。 「終わり…か」 志々雄はそう笑って、外の方を親指で差した。そこには、『レキシントン』号程ではないにせよ、まだまだ艦隊がずらりと鎮座していた。 「幾らあんたが足掻いたところで、この数はもう止まらねえぜ。それでも闘るっていうのか?」 「それでも、お前を止めねばこの国の全てが犠牲になる。そうはさせん」 剣心は毅然とした態度を崩さず言った。普通の人間なら絶望するかのような戦いでも、一歩も引かない。 「本当に頑固だな。あんたも…」 志々雄もまた、そんな剣心を見て、『剣客』としての顔を覗かせた。ニヤリと笑い、腰の刀の柄に手を触れる。 途端に弾けるような剣気が、辺りを漂う。 「まあいい。それじゃああの時つけられなかった決着の続きを、今始めようじゃねえか」 剣心も、それに応えるように腰を落とし、逆刃刀を強く握る。 周囲がゴクリと、固唾を呑んで見守る中、二人は同時に動いて、そして…。 エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ お互いの剣が交わる瞬間、剣心の頭の中に、朗々とした声が響き渡った。 よく見れば、片方の目はいつの間にかルイズの視線が移り、耳には呪文の声が聞こえてくる。 オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド 剣心は、ルイズ達の方を見やった。志々雄もまた、興が削がれたのか、そちらに視線を移す。 外では、ルイズが杖を掲げて長い口上を唱えていた。 べオーズス・ユル・スヴュエル・カノ・オシェラ ルイズは、不思議そうな顔をしているキュルケはタバサをよそに、呪文を読み上げていった。 今の自分には、何も聞こえない。何も見えない。ただ、体の底から溢れてくる力を、言葉にして吐き出していた。 力はルイズの中でうねり、循環していく。 そして感じる。今から使う呪文は、それこそ今までのとは規模が違う大魔法だということも。 選択を迫られる。『殺すか』、『殺さぬか』 (ケンシン……) ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・べオークン・イル…… 呪文が完成した。後は杖を振るだけだ。 だが、このままでは向こうで戦っている剣心をも巻き込んでしまう。 だから、その分『抑える』。 『レキシントン』号には機関部辺りを狙い付け、他には人を殺さないよう、船だけを破壊する。 そう決めて、ルイズは杖を振った。 『エクスプロージョン(爆発)!!!!!』 「―――――――――!!!?」 瞬間、誰もが目を疑った。 突然大きな光に包まれたかと思いきや、船が炎上を始めたのだ。 辺り一面、燃え上がる船。無事に難を逃れたものは一隻もなかった。それは、『レキシントン』号も同じだった。 「マ…マスト破損!! これ以上舵は効きません!!」 「か、『風石』消失!! 浮力が足りません、墜落します!!!」 あちこちで、船員の慌てた声が飛んでくる。臆病風に吹かれた連中は、既に脱出の準備まで始めていた。 「シシオ様、指示を、脱出の指示を!!」 しかし、このような事態にも関わらず、志々雄は平然として剣心と睨み合っていた。 「やられたな…そうか、あれが…な」 燃え上がる戦場の中、二人は対峙する。 「…煉獄の時といい、これで二度目か。…ここは一旦退くしかねえか」 「そうだな」 「決着も、少しの間先延ばしだな」 無論、続けようと思えば、今始めても剣心は出来た。 だが、それでは志々雄に忠誠を誓っている部下の何人かは、志々雄と共に残る決意をするだろう。 それだと、脱出が間に合わず、結果死人が出る。志々雄をタルブから追い払えたのだから、現状、今はこれで良しとするしかなかった。 悠々な姿勢ながら、剣心と離れる際、志々雄は言った。 「抜刀斎、俺とあんたとの決闘は、あくまでも『余興』に過ぎなかった。それは言ったな」 「…ああ」 「だが、この戦いでやはり再確認させられた。この世界を盗るには、やはりお前達を消さねばならないとな」 そして、最後に剣心に向かって、志々雄は凄惨な笑みを浮かべた。 「精々気をつけるこったな。これから先あんた達の元には、様々な刺客を送り込む。だが、それを全て倒し這い上がってこれたなら、それでもまだ生き残っていられたら、今度こそ『あの時』の決着をつけようじゃねえか」 そして高笑いを残しつつ、志々雄もまた、墜落寸前の『レキシントン』号から離れていった。 「あばよ。『ガンダールヴ』。精々この国を守る『盾』とやらに、なってみるんだな」 燃える船の中、剣心は一人佇んでいた。思いを馳せるように。 そんな彼に業を煮やしたのか、デルフが口を開いた。 「さっきの奴、相棒の知り合いか?」 「…元人斬りの後輩で、時代を懸けて剣を交えた宿敵でござるよ」 剣心は、昔を思い返すように口を開いた。 あの時もこんな風に炎が猛っていた。 『死闘』。そうとしか言い表せない激戦だった。 燃え盛る炎の中、互いに持てる力全てをぶつけたあの戦い。勝ちこそ拾えたが、一歩間違っていれば自分の方が死んでいてもおかしくなかった。 何故今、奴がこの世界にいるのか…それはもうどうでも良かった。 だが、このまま奴を野放しにしておけば、いずれこの世界は志々雄の手中に収まってし まうだろう。 あの男にはそれを可能にする力があると、剣心が一番身をもって知っていたからだ。それだけは絶対に阻止せねばならなかった。 奴を生み出したのは、他ならぬ自分の所為でもあるのだから……。 「何にしてもアイツはヤベェぜ。見た瞬間震えが来ちまった。色んな奴俺は見てきたが、アイツみたいなのは初めて見たぜ」 「…だが、引くわけには行かぬでござるよ」 改めて決意し直すように、剣心が言った瞬間、突然上に影が現れた。 見上げてみれば、そこにはシルフィードに乗り出して、手を差し伸べているルイズの姿があった。 「早く、捕まって!!」 最早あちこちで船が爆発するような音が聞こえてくる。 剣心は、迷わずルイズに向かって思い切りジャンプし、その手を掴んだ。 その時、同時に大爆発を起こし炎上。ハルケギニア最強と謳われた船『レキシントン』 号は、あえなく墜落していった。 その光景を遠くで見守りながら、ルイズ達はその場を後にした。 「あれは…ルイズ殿がやったことでござるか?」 ルイズ達の手を借りて引き上げられる中、剣心は聞いた。 キュルケとタバサも、興味深気にルイズの方を見る。 ルイズは、どう言おうか迷っているようだったが、意を決したのか思い切って口にした。 「実はね…選ばれたみたいなの…『虚無』の力に…」 その言葉に、キュルケとタバサは唖然としてルイズを見た。剣心は、むしろ驚きというより、先行きの心配そうな顔をした。 ルイズは、そんな剣心の心配を知らずか、困ったような口調でまくし立てた。 「あのさ…これ、内緒にしてくれない? ほら…ね…」 「分かってるわよ。それくらい」 真っ赤な髪を掻き上げながら、キュルケは言った。タバサも同じように頷く。 いきなり伝説の話をしたって誰も信じないだろうし、逆に信じてもらっても、戦争や政治の道具に利用されたりするのは目に見えたことだった。 こう見えても、キュルケはしっかり者だし口が堅い。タバサも喋らないだろうし、剣心だって口を滑らすようなマネはしないだろう。 そう考えると、ルイズはホッとした。そして安心したら、急に眠気が襲いかかった。 すっかり疲れたのか、ルイズはそのまま剣心に寄りかかるように身体をあずけると、そ のままスヤスヤと寝息を立て始めた。 「伝説の虚無ねぇ…まさかルイズがね…」 「…これから大変」 感慨深そうに呟くキュルケと、端的に言葉に表したタバサ。 この二人の話を聞いて、剣心は、これから待ち受けるであろう戦いと、それを知らないで安らかに眠るルイズを思いながら、空を見つめていた。 #navi(るろうに使い魔)