夜。ラティアスはルイズの部屋で夜食のパンを食べていた。
テーブルの上にはそれ以外にも三つの小鉢がありそれぞれスープとサラダ、そして二個の林檎が入っている。
何故こうなっているのか?
時間は召喚の儀が終わり、ラティアスがルイズを学院の広場に送り届けた直後にまで遡る。
ご主人様の髪を大変な事にしてしまったラティアスは、ルイズに詫びた後使い魔達が集まっている中庭にてすやすやと眠り始めた。
その直前『ちょっといろいろあって、張り切りすぎたせいか眠くなっちゃいました。ご主人様、ごめんなさい。ちょっと休ませてください。』と一応ルイズに断りをいれて。
ルイズは夕食時になったら目を覚ましてご飯をねだりに来るのだろうと思い、快くそれを了承した。
問題はその夕食時である。何時まで経ってもラティアスは自分の元に来ないのだ。
明日の授業の前にみんなに自慢出来たのに、という不満げな感情もあったがそれ以上の物がある。
通常使い魔は外で食事―それもかなりお粗末な物―をする事になっていたが、ルイズは特別にラティアスを『アルヴィーズの食堂』に招き入れようと思っていた。
まあそれでも、貴族以外の者を椅子に座らせるなんて事は許されていないから、床で食事してと言わざるを得ないものだが。
テーブルの上にはそれ以外にも三つの小鉢がありそれぞれスープとサラダ、そして二個の林檎が入っている。
何故こうなっているのか?
時間は召喚の儀が終わり、ラティアスがルイズを学院の広場に送り届けた直後にまで遡る。
ご主人様の髪を大変な事にしてしまったラティアスは、ルイズに詫びた後使い魔達が集まっている中庭にてすやすやと眠り始めた。
その直前『ちょっといろいろあって、張り切りすぎたせいか眠くなっちゃいました。ご主人様、ごめんなさい。ちょっと休ませてください。』と一応ルイズに断りをいれて。
ルイズは夕食時になったら目を覚ましてご飯をねだりに来るのだろうと思い、快くそれを了承した。
問題はその夕食時である。何時まで経ってもラティアスは自分の元に来ないのだ。
明日の授業の前にみんなに自慢出来たのに、という不満げな感情もあったがそれ以上の物がある。
通常使い魔は外で食事―それもかなりお粗末な物―をする事になっていたが、ルイズは特別にラティアスを『アルヴィーズの食堂』に招き入れようと思っていた。
まあそれでも、貴族以外の者を椅子に座らせるなんて事は許されていないから、床で食事してと言わざるを得ないものだが。
―自分が召喚したラティアスと一緒に楽しく食事をしたかったのに……―
やがて食事も談笑も終えた生徒が一人、また一人と食堂から去って行き、遂にルイズ一人が食堂に残される。
目の前の皿という皿はほぼ空になっており、残された料理も元の量から10分の9程が無くなっている。
仕方なくルイズはテーブルの上から残っていた白パンを二つほど失敬し、部屋に戻ってそれをラティアスに与える事にしたのだ。
そして部屋に戻り窓を開けてから『ラティアスーッ!』と叫ぶと一分もしない内に彼女は部屋の窓から中へ飛び込んできた。
その直ぐ後で床にドテッと落ちた彼女は、心配して顔を覗きこむルイズに何かをぽつぽつと言う。
聞くと、ご主人様に呼ばれるまで待っていました、ご飯はまだです……との事。
その彼女にルイズは非常に申し訳なさそうにパンを差し出す。
しかし時間が大分経ったせいかすっかり中がすっかり冷めきり、表面がとてつもなく固くなっていた。
しかしそんなパンをラティアスは受け取り「おいしいな、おいしいな」と言いながら両手を使ってさも楽しそうに食べ始める。
その様子に胃がキリキリと痛むような感触を覚え、居ても立ってもいられなくなったルイズはラティアスに部屋で待つ様に言い、食堂まで走って行く。
ルイズが辿り着いた頃、食堂ではメイドの者達がいそいそと片付けをしている真っ最中だった。
まだ間に合う!
彼女は適当にその場にあった小鉢を三つほど取り、この中に残っている分で良いからシチューとサラダと何でも良いから果物を入れなさい、と高らかに言った。
最初メイドの者達はルイズが何を言い出したのか、そしてどういう意図があるのか分からなかった為に互いに顔を見合わせた。
が、貴族の依頼事は聞かなければ酷い目に会うのは分かっている。
メイド達は急いでその小鉢に言われた物を入れていく。
それを受け取ったルイズは得意気に部屋まで戻った。
目の前の皿という皿はほぼ空になっており、残された料理も元の量から10分の9程が無くなっている。
仕方なくルイズはテーブルの上から残っていた白パンを二つほど失敬し、部屋に戻ってそれをラティアスに与える事にしたのだ。
そして部屋に戻り窓を開けてから『ラティアスーッ!』と叫ぶと一分もしない内に彼女は部屋の窓から中へ飛び込んできた。
その直ぐ後で床にドテッと落ちた彼女は、心配して顔を覗きこむルイズに何かをぽつぽつと言う。
聞くと、ご主人様に呼ばれるまで待っていました、ご飯はまだです……との事。
その彼女にルイズは非常に申し訳なさそうにパンを差し出す。
しかし時間が大分経ったせいかすっかり中がすっかり冷めきり、表面がとてつもなく固くなっていた。
しかしそんなパンをラティアスは受け取り「おいしいな、おいしいな」と言いながら両手を使ってさも楽しそうに食べ始める。
その様子に胃がキリキリと痛むような感触を覚え、居ても立ってもいられなくなったルイズはラティアスに部屋で待つ様に言い、食堂まで走って行く。
ルイズが辿り着いた頃、食堂ではメイドの者達がいそいそと片付けをしている真っ最中だった。
まだ間に合う!
彼女は適当にその場にあった小鉢を三つほど取り、この中に残っている分で良いからシチューとサラダと何でも良いから果物を入れなさい、と高らかに言った。
最初メイドの者達はルイズが何を言い出したのか、そしてどういう意図があるのか分からなかった為に互いに顔を見合わせた。
が、貴族の依頼事は聞かなければ酷い目に会うのは分かっている。
メイド達は急いでその小鉢に言われた物を入れていく。
それを受け取ったルイズは得意気に部屋まで戻った。
そして今に至る訳である。
食事を腹八分目にまで収めたラティアスは満足そうに広々とした部屋の中をくるくると旋回する。
食事を腹八分目にまで収めたラティアスは満足そうに広々とした部屋の中をくるくると旋回する。
「あー、おいしかったあ!!有り難う御座います!ご主人様!」
ラティアスは高さを変えつつ尚もくるくると回り続ける。
その様子を見ていたルイズはしみじみと思った。
―今迄で最良の日があるとすればそれは正に今日だ。―
と、その時ルイズの心に窓際にいるラティアスの大声が響き渡る。
その様子を見ていたルイズはしみじみと思った。
―今迄で最良の日があるとすればそれは正に今日だ。―
と、その時ルイズの心に窓際にいるラティアスの大声が響き渡る。
「えぇええええええ?!!お月様が二つあるぅぅっっ!!」
「どうしたのよ?いきなり大声なんか出したりして。月が二つあるのがそんなに珍しいの?」
「どうしたのよ?いきなり大声なんか出したりして。月が二つあるのがそんなに珍しいの?」
ラティアスは丁度窓の外、夜天に輝く二つの月を見つけたのだ。
取り乱したような声がそれに続く。
取り乱したような声がそれに続く。
「だって、だって!ご主人様!わたしの元いた所ではお月様は一つしかないんですよ!二つあるからびっくりしてるんですってば!!」
「一つしかないですって?どういう事……?」
「一つしかないですって?どういう事……?」
その言葉をルイズは不思議に思う。
このハルケギニアでは、月が一つしか見えないといった事例は今までただの一回もない
常に二つ見えていなければおかしいのである。
その事はルイズにある疑問を抱かせていた。
ラティアスは本当にこの世界以外の何処か、異世界から来た存在なのだろうかと。
だが、勿論月の数が違うだけでそうだと断定する訳にはいかない。
そう思ったルイズは部屋にある机の引き出しからありったけの羊皮紙と新品のインク壷を一つ取り出す。
それをテーブルの上に置いてからルイズは敢えて脈絡の無い幾つかの質問をたて続けにしてみた。
このハルケギニアでは、月が一つしか見えないといった事例は今までただの一回もない
常に二つ見えていなければおかしいのである。
その事はルイズにある疑問を抱かせていた。
ラティアスは本当にこの世界以外の何処か、異世界から来た存在なのだろうかと。
だが、勿論月の数が違うだけでそうだと断定する訳にはいかない。
そう思ったルイズは部屋にある机の引き出しからありったけの羊皮紙と新品のインク壷を一つ取り出す。
それをテーブルの上に置いてからルイズは敢えて脈絡の無い幾つかの質問をたて続けにしてみた。
「ラティアス、これから私の訊く事に正直に答えて。良いわね?」
「え?ええ。良いですよ。どんどんどうぞ。」
「じゃあね……あなたが元いた場所は何処?」
「地球です。近くに大きな町がありました。名前は覚えてないですけど。」
「え?ええ。良いですよ。どんどんどうぞ。」
「じゃあね……あなたが元いた場所は何処?」
「地球です。近くに大きな町がありました。名前は覚えてないですけど。」
チキュウ?はて、そんな単語をルイズは今までに一度も聞いた事が無い。
取り敢えずトリステイン公用語で『ラティアス―元いた場所、チキュウ。ハルケギニアの地図には無い』と書き質問を続ける。
取り敢えずトリステイン公用語で『ラティアス―元いた場所、チキュウ。ハルケギニアの地図には無い』と書き質問を続ける。
「そう……じゃ、そこの季節はあなたが此処に来る直前はいつ頃だった?って言うか季節ってあるの?」
「季節はあります。それも4つ。でも今みたいに春めいた感じじゃなくて凄ーく暑かったです。」
「季節はあります。それも4つ。でも今みたいに春めいた感じじゃなくて凄ーく暑かったです。」
ここは同じ。違うという季節ももっと温暖な地から召喚されたのだとすれば納得がいく。
『元いた場所』の下に『四季あり。こちらと同じ。但しここより温暖な気候の可能性あり』と書いて続ける。
『元いた場所』の下に『四季あり。こちらと同じ。但しここより温暖な気候の可能性あり』と書いて続ける。
「ふんふん。次いくわよ。一年は何日?何ヶ月?1月って何日分?」
「一年は365日、12ヶ月あります。1月は30日あります。えーと、時たま31日になったり30日になったりします。
2番目の月はいつも28日で、4年に1回29日になる時もあります。と言ってもこれは人の感覚に限ってですけど。」
「一年は365日、12ヶ月あります。1月は30日あります。えーと、時たま31日になったり30日になったりします。
2番目の月はいつも28日で、4年に1回29日になる時もあります。と言ってもこれは人の感覚に限ってですけど。」
これは若干違う。月の数こそ同じだがこちらでは一年は384日である。
一月の数もころころ変わるなんて事は無い。
『一年の長さ―こちらとは19日の違い。月の数は同じ。しかしその長さはまちまち。』と書き加える。
一月の数もころころ変わるなんて事は無い。
『一年の長さ―こちらとは19日の違い。月の数は同じ。しかしその長さはまちまち。』と書き加える。
「へえ……詳しく説明してくれてありがと。あとはね……あなたと同じ姿をした仲間はいるの?」
「はい!それはもうたくさんいます!私も数えた事は無いんですけど、元いた場所には私と同じ種類だけで多分500匹近くはいたんじゃないかと思います。」
「同じ種類で500匹近くねえ。あなたがその中に紛れ込んだら直ぐ分からなくなるわね。」
「ええ。でも呼ばれたらわたしの方がすぐにご主人様の元へ行くので問題はありません!」
「はい!それはもうたくさんいます!私も数えた事は無いんですけど、元いた場所には私と同じ種類だけで多分500匹近くはいたんじゃないかと思います。」
「同じ種類で500匹近くねえ。あなたがその中に紛れ込んだら直ぐ分からなくなるわね。」
「ええ。でも呼ばれたらわたしの方がすぐにご主人様の元へ行くので問題はありません!」
彼女にとってはなんて事無い一言だったのだろう。
だがそれはルイズに良い使い魔を召喚したという充足感を再び与える一言だった。
だがそれはルイズに良い使い魔を召喚したという充足感を再び与える一言だった。
「ホント?約束よ。それと……あなたとは姿が違うけど似た様な生き物っているの?」
「はい。前に人の多い所にいった時に研究者って人が言っていたのを聞くと、正確には493種類と言っていました。」
「結構いるのね。あんた1種類で500匹近くいるんだから全体で何匹くらいいるのかしら?」
「それはもう想像がつきません。何億、何十億……何百億っていう噂も聞いた事ありますし。」
「何百億ですって?!確かに想像がつかないわねえ。それじゃあ……」
「はい。前に人の多い所にいった時に研究者って人が言っていたのを聞くと、正確には493種類と言っていました。」
「結構いるのね。あんた1種類で500匹近くいるんだから全体で何匹くらいいるのかしら?」
「それはもう想像がつきません。何億、何十億……何百億っていう噂も聞いた事ありますし。」
「何百億ですって?!確かに想像がつかないわねえ。それじゃあ……」
そんなこんなで口述筆記による質疑と応答は続いていく。
最初はすらすらと答えていたラティアスだったが質問が200問目あたりになりはじめた頃から疲れが見え始めてきた。
300問目寸前で欠伸が引っ切り無しに出る様になり、そこから50問もいかない内に滞空しながら舟を漕ぎ始めた。
ルイズの方はと言うと、周りに様々な事がごちゃごちゃと書きこまれた羊皮紙が大量に溢れかえっている事、とっくにベッドに入っている時間であるにも拘らずラティアスへの質問攻めを続けていた。
そしてそれがようやく止んだのは、新学年を迎える前に買ったばかりだったインク壷のインクが空になった時だった。
ラティアスは「もお、らむぇぇ……」と言って部屋に来た時と同じ様に床へ勢い良くドテッと落ちる。
ルイズはラティアスを抱き締めお礼を言った後自分のベッドで彼女を寝かせる。
それからは眠気を必死で我慢して書いた事の纏め上げを行った。
研究熱心な一番上の姉、エレオノールの性格に似ているせいか。
はたまた実技は『ゼロ』でも学科試験は落とさない様に猛勉強を繰り返していたせいか。
不思議とその行為に疲れは感じなかった。
大事な所を抜き出し、下線を引いて、関連事項と照らし合わせて間違いは無いか確認する。
それはまるで重要な試験を明日に控えた学生のそれであった。
そして全ての纏めが出来上がったのは空がうっすらとビロードの様な黒から、深い紺碧色に変わろうかという頃だった。
無論、厳密に言えばこれで全部ではない。
質問の最中ラティアスが眠ってしまったので、聞き出せる事はまだ少ない方だと自覚はしている。
ともかく結論としてラティアスが、自分達が生きているこの世界とは全く違う世界から召喚された事だけははっきりした。
ラティアスが嘘を吐くとは到底考えられない事だし、億が一、兆が一そうだとしてもここまで巧みな物は吐きようも無い。
また人語を理解できる存在で、声を使わず意思疎通出来るのにここまで付き合う意図も分からない。
ふとベッドの方を見ると、ラティアスが軽い寝息をたてて眠っていた。
相変わらず安らかそうで抱き締めてやりたくなるような雰囲気を出していた。
朝の食事まではまだ二時間ほど時間がある。
その内の半分位をラティアスと一緒に寝ていたって良いじゃない。
ルイズはそう思って彼女の元に近づこうとする。
が、ルイズは突然目の前で起こった出来事に足を止める。
最初はすらすらと答えていたラティアスだったが質問が200問目あたりになりはじめた頃から疲れが見え始めてきた。
300問目寸前で欠伸が引っ切り無しに出る様になり、そこから50問もいかない内に滞空しながら舟を漕ぎ始めた。
ルイズの方はと言うと、周りに様々な事がごちゃごちゃと書きこまれた羊皮紙が大量に溢れかえっている事、とっくにベッドに入っている時間であるにも拘らずラティアスへの質問攻めを続けていた。
そしてそれがようやく止んだのは、新学年を迎える前に買ったばかりだったインク壷のインクが空になった時だった。
ラティアスは「もお、らむぇぇ……」と言って部屋に来た時と同じ様に床へ勢い良くドテッと落ちる。
ルイズはラティアスを抱き締めお礼を言った後自分のベッドで彼女を寝かせる。
それからは眠気を必死で我慢して書いた事の纏め上げを行った。
研究熱心な一番上の姉、エレオノールの性格に似ているせいか。
はたまた実技は『ゼロ』でも学科試験は落とさない様に猛勉強を繰り返していたせいか。
不思議とその行為に疲れは感じなかった。
大事な所を抜き出し、下線を引いて、関連事項と照らし合わせて間違いは無いか確認する。
それはまるで重要な試験を明日に控えた学生のそれであった。
そして全ての纏めが出来上がったのは空がうっすらとビロードの様な黒から、深い紺碧色に変わろうかという頃だった。
無論、厳密に言えばこれで全部ではない。
質問の最中ラティアスが眠ってしまったので、聞き出せる事はまだ少ない方だと自覚はしている。
ともかく結論としてラティアスが、自分達が生きているこの世界とは全く違う世界から召喚された事だけははっきりした。
ラティアスが嘘を吐くとは到底考えられない事だし、億が一、兆が一そうだとしてもここまで巧みな物は吐きようも無い。
また人語を理解できる存在で、声を使わず意思疎通出来るのにここまで付き合う意図も分からない。
ふとベッドの方を見ると、ラティアスが軽い寝息をたてて眠っていた。
相変わらず安らかそうで抱き締めてやりたくなるような雰囲気を出していた。
朝の食事まではまだ二時間ほど時間がある。
その内の半分位をラティアスと一緒に寝ていたって良いじゃない。
ルイズはそう思って彼女の元に近づこうとする。
が、ルイズは突然目の前で起こった出来事に足を止める。
「えっ……?!何これ?私、疲れてどうかしたのかしら?」
寝惚けているのかと思ったルイズは何度か目を擦る。
ルイズの目前で一体何が起こったというのだろうか……?
ルイズの目前で一体何が起こったというのだろうか……?