第三話
ルイズたちは昼食をとるため、再び食堂へとやってきた。
「いい? ちゃんと席に座らせてあげるし、料理を食べてもいい。だから、朝みたいなことはしないでよね! 絶対よ!」
「分かればいい」
浅倉は満足げに答える。
「分かればいい」
浅倉は満足げに答える。
ルイズたちは席に着くと、さっそく料理を食べ始めた。
貴族を名乗るだけあって、皆上品な仕草で料理を口に運んでいく。
貴族を名乗るだけあって、皆上品な仕草で料理を口に運んでいく。
……浅倉以外は。
「ちょっと! もう少しゆっくり食べなさいよ! 恥ずかしいでしょうが!!」
ルイズが小声で浅倉に話しかけるが、浅倉は意に介さない。
「ちょっと! もう少しゆっくり食べなさいよ! 恥ずかしいでしょうが!!」
ルイズが小声で浅倉に話しかけるが、浅倉は意に介さない。
しばらくすると目の前に料理がなくなり、浅倉は近くにある料理を引き寄せようと、フォークを突き立てる。
が、右に刺そうとすれば左に、左に刺そうとすれば右に、といった具合に料理が動き、当たらない。
が、右に刺そうとすれば左に、左に刺そうとすれば右に、といった具合に料理が動き、当たらない。
その料理を掴んでいる手を見て、浅倉は顔をあげた。
「あげない」
青い髪の少女、タバサがそこにいた。
青い髪の少女、タバサがそこにいた。
浅倉は一瞬睨み付けたが、他の料理を探そうとすぐに視線を逸らす。
召喚された時、不意打ちをくらった相手だとはまだ気づいていない。
召喚された時、不意打ちをくらった相手だとはまだ気づいていない。
浅倉が次に食べる料理を選んでいる。
食堂に平手打ちの音が響き渡ったのは、まさにその時であった。
食堂に平手打ちの音が響き渡ったのは、まさにその時であった。
事の発端は、黒髪の給仕、シエスタが拾った香水であった。
香水を落とし主であるギーシュの元へ届けに行くと、なぜかその落とし主は自分の物ではないと言い張る。
お互いに意見が食い違う中、ある男子生徒が香水を見て叫んだ。
お互いに意見が食い違う中、ある男子生徒が香水を見て叫んだ。
「これはモンモランシーの香水じゃないか!」
「ということは、ギーシュはモンモランシーと付き合っているのかい!?」
数人の男子生徒がギーシュに詰め寄る。
「ということは、ギーシュはモンモランシーと付き合っているのかい!?」
数人の男子生徒がギーシュに詰め寄る。
ギーシュがその場を収拾しようと躍起になっていた時、栗色の髪の、茶色いマントを着た少女がギーシュの元へ近づいてきた。
「ギーシュさん……本当ですか? 本当に裏切ったんですか?」
目から涙をボロボロとこぼしながら、少女は言った。
目から涙をボロボロとこぼしながら、少女は言った。
「だっ、違う! ケティ、これにはワケが……」
ギーシュが弁明しようとしたところで、ぱちんという平手打ちの音が食堂全体に響き渡る。
ケティと呼ばれた少女は、そのままどこかへ走り去ってしまった。
ギーシュが弁明しようとしたところで、ぱちんという平手打ちの音が食堂全体に響き渡る。
ケティと呼ばれた少女は、そのままどこかへ走り去ってしまった。
その場にいたほとんどの者は、唖然としてその光景を見ていた。
浅倉の麺料理をすする音だけが、あたりに響く。
しかし、悲劇はこれだけでは終わらない。
「ギーシュ! よりによって一年生に手を出すなんて!!」
縦ロールにした金色の髪を揺らしながら、モンモランシーがギーシュの前に躍り出た。
誰がみても分かるぐらい、その顔が怒りで満ちている。
縦ロールにした金色の髪を揺らしながら、モンモランシーがギーシュの前に躍り出た。
誰がみても分かるぐらい、その顔が怒りで満ちている。
「モ、モンモランシー! 聞いてくれ! 僕は……」
「うるさい! 私は今、無性に腹がたってるの!!」
そういうと、給仕の手から香水を強引に奪い取り、ギーシュにむけてぶちまけた。
冷ややかな目でギーシュを一瞥し、食堂を去っていく。
「うるさい! 私は今、無性に腹がたってるの!!」
そういうと、給仕の手から香水を強引に奪い取り、ギーシュにむけてぶちまけた。
冷ややかな目でギーシュを一瞥し、食堂を去っていく。
残されたギーシュは呆然としていたが、しばらくすると、その半泣きの表情を一変させ、怒りをあらわにしながら言った。
「君のせいだ! 君が気を効かせていれば、こんなことにならずに済んだんだぞ!」
ギーシュの怒鳴り声に、シエスタはひたすら頭を下げ、謝り続ける。
ギーシュの怒鳴り声に、シエスタはひたすら頭を下げ、謝り続ける。
「そもそも君が……んげっ!」
突然、ギーシュの体が後ろに引っ張られた。
突然、ギーシュの体が後ろに引っ張られた。
ギーシュの襟を何者かが掴んでいる。
「邪魔だ。どけ」
浅倉がギーシュの耳元でそう言うと、ギーシュの体をそのまま後ろに引き倒した。
ギーシュは思わず尻もちをつく。
浅倉がギーシュの耳元でそう言うと、ギーシュの体をそのまま後ろに引き倒した。
ギーシュは思わず尻もちをつく。
浅倉は、いきなりの出来事に目を丸くしているシエスタの方を向き、言った。
「おい、スープはもうないのか?」
「え? あ、あります。すぐにお持ちを……」
「ちょっと待ちたまえ!」
ギーシュが話を遮る。浅倉が面倒くさそうに振り向いた。
「おい、スープはもうないのか?」
「え? あ、あります。すぐにお持ちを……」
「ちょっと待ちたまえ!」
ギーシュが話を遮る。浅倉が面倒くさそうに振り向いた。
「君は確か、あのルイズが喚んだ平民だったな! ゼロのルイズは使い魔の躾すら……って、話を聞きたまえ!!」
再びシエスタの方を向こうとした浅倉に、ギーシュは怒鳴った。
浅倉はギーシュを指差し、嘲笑うように答える。
「そこにいた、お前が悪い」
浅倉はギーシュを指差し、嘲笑うように答える。
「そこにいた、お前が悪い」
「貴様っ!! ……どうやら貴族を怒らせたらどんな目に遭うか、知りたいらしいな! よろしい、ならば決闘だっ!!」
ギーシュが浅倉に向けて、言い放った。
シエスタが顔を真っ青にして、心配そうに浅倉の顔を見たが、当の本人は笑っていた。
ギーシュが浅倉に向けて、言い放った。
シエスタが顔を真っ青にして、心配そうに浅倉の顔を見たが、当の本人は笑っていた。
「ほう、やるのか? ……丁度いい。いくらかイライラしてきたところだ」
ヴェストリの広場で待っている。
そう言うと、ギーシュは足早に食堂を後にした。
そう言うと、ギーシュは足早に食堂を後にした。
その後、ルイズが入れ替わるようにして浅倉に近づいてきた。
見るからに慌てている。
見るからに慌てている。
「ち、ちょっと! なに勝手に取り決めてんのよ! いくらあんたが乱暴でも、メイジ相手じゃ……」
「役立たずは黙っていろ。それより、スープはまだか?」
「役立たずは黙っていろ。それより、スープはまだか?」
呆然とやりとりを見ていたシエスタは、思わずびくりと飛び上がった。
「は、はい。いまお待ちします!」
そう言って、厨房の方へと入っていった。
「は、はい。いまお待ちします!」
そう言って、厨房の方へと入っていった。
その後ろ姿を見ていた浅倉が、思い出したようにルイズに言った。
「そうだ。なにか鏡を持ってないか?」
「え、鏡? 手鏡なら確か部屋に……」
「それでいい。持ってこい」
「なっ!? ご主人様に向かって命令なんて、何様……」
「それと、その広場とやらはどこだ?」
「少しは人の話を聞きなさいよ! 場所? 教えてあげないわよ。使い魔をむざむざやられにいかせるなんてできないわ!」
「え、鏡? 手鏡なら確か部屋に……」
「それでいい。持ってこい」
「なっ!? ご主人様に向かって命令なんて、何様……」
「それと、その広場とやらはどこだ?」
「少しは人の話を聞きなさいよ! 場所? 教えてあげないわよ。使い魔をむざむざやられにいかせるなんてできないわ!」
そう言われて、こいつはもう用なしと判断した浅倉は、他の生徒から聞き出そうと歩き出した。
――いっそ、このままやられて死んじゃえばいいのに……
そんな邪な考えを、半分本気で考えるルイズであった。
そんな邪な考えを、半分本気で考えるルイズであった。
昼の騒動からしばらくののち。
「ヴェストリの広場」と呼ばれる場所で、二人の男を囲むようにたくさんの人だかりができていた。
一人は名だたる名門貴族、一人はただの粗暴な平民。
そんな圧倒的な状況下で、観衆は勝負の行方よりも、平民がどのような負け様を披露するのかに興味を示していた。
観衆をかき分け、ルイズが浅倉に近づく。
「はい、これ。後でちゃんと返しなさいよ! 壊したらただじゃおかないんだから!!」
「いいだろう」
浅倉が手鏡を受け取る。
「はい、これ。後でちゃんと返しなさいよ! 壊したらただじゃおかないんだから!!」
「いいだろう」
浅倉が手鏡を受け取る。
その様子を見て、ギーシュは言った。
「それが君の武器というわけかい? ずいぶんと舐められたものだね」
浅倉からの返事はない。
「それが君の武器というわけかい? ずいぶんと舐められたものだね」
浅倉からの返事はない。
「……まあいい。それより、僕の二つ名は『青銅』。青銅の……」
「御託はいい。とっとと始めろ」
「くっ……」
自分勝手なやつだ。そう思いながら、薔薇の杖を振る。
杖から落ちた花びらが宙に舞うと、青銅でできた人形が現れた。
「御託はいい。とっとと始めろ」
「くっ……」
自分勝手なやつだ。そう思いながら、薔薇の杖を振る。
杖から落ちた花びらが宙に舞うと、青銅でできた人形が現れた。
浅倉はそれを見て、不気味に微笑みながら呟く。
「ほう。なかなか面白いな」
「ほう。なかなか面白いな」
そして、預かったばかりの手鏡を、軽く地面に放り投げた。
「あ、あんた! いきなりなんてことを……!」
ルイズの声に構わず、浅倉はポケットから紫色の箱を取り出した。
金色の、蛇のような紋章が中央に描かれている。
ルイズの声に構わず、浅倉はポケットから紫色の箱を取り出した。
金色の、蛇のような紋章が中央に描かれている。
それを地面の手鏡に向かってかざすと、驚くべきことに機械でできた銀色のベルトのようなものがどこからか現れ、浅倉の腰に装着される。
観衆が驚きの声をあげた。
観衆が驚きの声をあげた。
そんな周囲には目もくれず、浅倉は右手の甲を鏡に向け、左からゆっくりと、半弧を描くようにして胸の前あたりに持ってくる。
そして手のひらを返すと、勢いよく前後させ、叫んだ。
そして手のひらを返すと、勢いよく前後させ、叫んだ。
「変身!」
一連の動作が終わると、左手に持っていた紫の箱を、先ほど現れたベルトのようなものの真ん中にある、大きなくぼみに素早く差し込む。
すると、高い音が鳴り響き、ガラスの割れるような音とともに浅倉の姿が一瞬で変化した。
つり上がった線が数本描かれた仮面に、蛇の意匠が見られる紫色の装甲。
毒を連想させるその色は、装着者の危険な性格を表しているかのようだ。
毒を連想させるその色は、装着者の危険な性格を表しているかのようだ。
浅倉――仮面ライダー王蛇――は、ため息とともに首を回し、手を払った。
「な、何なのよ、アレ……」
ルイズやギーシュも含め、まわりにいた人々は一体何が起こったのか分からず、唖然としていた。
ルイズやギーシュも含め、まわりにいた人々は一体何が起こったのか分からず、唖然としていた。
王蛇は、蛇の頭がついた紫色の杖をどこからともなく取り出すと、その頭の一部分を縦にスライドさせる。
続けて、先ほどベルトに押し込んだ箱から一枚のカードを引き出すと、杖のスライドさせた部分に差し込み、元の位置に押し戻す。
続けて、先ほどベルトに押し込んだ箱から一枚のカードを引き出すと、杖のスライドさせた部分に差し込み、元の位置に押し戻す。
すると、その杖から声が聞こえた。
『SWORD VENT』
直後、手鏡から金色の物体が飛び出し、王蛇の手に収まる。
まるで蛇の尾のような、螺旋状のラインが施された金色の刀身に、紫色の持ち手。
微妙に反れたその太い刃は、斬るよりも叩くといった使い方が適していそうだ。
微妙に反れたその太い刃は、斬るよりも叩くといった使い方が適していそうだ。
ベノサーベルといわれるその剣を、王蛇は逆手に持ち、目の前に構える。
「どうした? やらないのか?」
「どうした? やらないのか?」
その言葉に、混乱していたギーシュの意識が呼び戻される。
半ばけしかけられるようにして、突撃の指示を出した。
「い、行け! ワルキューレ!」
半ばけしかけられるようにして、突撃の指示を出した。
「い、行け! ワルキューレ!」
ワルキューレが駆け出すと同時に、王蛇も大きく手を広げ、地を蹴った。
惨劇が、幕を開けた。