一話 『林檎をかむと歯茎が痛い』
朝、起床したルイズが初めに行ったことは、鏡を見ることだった。
額が焼けたようにジンジンと熱く、それが絶え間ない頭痛を与えてくる。
袋にパンパンに物を詰め込むようなおかしな痛みを感じながら、鏡に映った己を見る。
額が焼けたようにジンジンと熱く、それが絶え間ない頭痛を与えてくる。
袋にパンパンに物を詰め込むようなおかしな痛みを感じながら、鏡に映った己を見る。
その額にはルーンと思しきものが浮かび上がっていた。
ルーン? そう認識した瞬間熱量が急速に増加する。
熱い! 熱い! 痛い!
ルーン? そう認識した瞬間熱量が急速に増加する。
熱い! 熱い! 痛い!
死ぬのだろうか? ぼんやりとそんなことを考えながらルイズは部屋をのた打ち回った。
数分後ようやく熱と痛みが引き、よろよろと立ち上がる。
鏡台に手を突いた瞬間、頭の中に何かの情報が流れ込む。
数分後ようやく熱と痛みが引き、よろよろと立ち上がる。
鏡台に手を突いた瞬間、頭の中に何かの情報が流れ込む。
―名前:魔法のチェスト
―分類:家具
―機能:自動で開閉する。
―使用方法:杖を介して魔力を流す。
―追記事項:特になし。
―分類:家具
―機能:自動で開閉する。
―使用方法:杖を介して魔力を流す。
―追記事項:特になし。
それは彼女が手を置いている鏡台の情報に他ならなかった。
ルーンが刻まれたのはおそらく使い魔のあの実を食らったからだろう。
ならばこの流れ込む知識は何なのか?
恐る恐るといった様子でルイズは己の杖を手に取る。
ルーンが刻まれたのはおそらく使い魔のあの実を食らったからだろう。
ならばこの流れ込む知識は何なのか?
恐る恐るといった様子でルイズは己の杖を手に取る。
―名前:魔法の杖
―分類:魔法補助器具
―機能:魔法を行使する際の補助器具。
―使用方法:魔法を行使する際片手に持つ。
―追記事項:特になし。
―分類:魔法補助器具
―機能:魔法を行使する際の補助器具。
―使用方法:魔法を行使する際片手に持つ。
―追記事項:特になし。
つまりこれはルーンの効果だろう。
ほんの少しの幸運に、ルイズは嬉々としながら振り返る。
その目に昨夜食べちらかしら実の上1/3が止まった。
そういえば、と思考する。
使い魔を食らってそのルーンの機能を取り込む、などという話は過去に存在しない。
ならばこの実の何らかの効能か? とその残りの部分を拾い上げた。
ほんの少しの幸運に、ルイズは嬉々としながら振り返る。
その目に昨夜食べちらかしら実の上1/3が止まった。
そういえば、と思考する。
使い魔を食らってそのルーンの機能を取り込む、などという話は過去に存在しない。
ならばこの実の何らかの効能か? とその残りの部分を拾い上げた。
―名前:悪魔の実・ボムボムの実
―分類:魔法植物
―分類:魔法植物
思わず手を離す。これは魔法生物だったのか!?
恐る恐る実を拾い上げた。
恐る恐る実を拾い上げた。
―名前:悪魔の実・ボムボムの実
―分類:魔法植物
―機能:食したものに特殊な能力を付与し、代償として海に嫌われ泳げなくなる。ボムボムの実の場合、爆弾人間になる。
―使用方法:食する
―追記事項:爆弾人間とは、その全身および装飾品、排出物(吐息や唾液、涙や血液など)を爆発物に変え行使できる……
―分類:魔法植物
―機能:食したものに特殊な能力を付与し、代償として海に嫌われ泳げなくなる。ボムボムの実の場合、爆弾人間になる。
―使用方法:食する
―追記事項:爆弾人間とは、その全身および装飾品、排出物(吐息や唾液、涙や血液など)を爆発物に変え行使できる……
次々と流れ込む情報。実の使用法だけでなく栽培方法、そのための必要な環境、他の実の情報、その効能。
あらゆる悪魔の実の情報がルイズの頭に流れ込む。
あらゆる悪魔の実の情報がルイズの頭に流れ込む。
「あは、あはは、あはははははははは!」
ルイズは知らず、歓声を上げた。
キュルケにとってルイズのテンションの高さは異常にしか思えなかった。
朝の食事では周りのいやみを気にすることなくメイドに話しかけ談笑、授業では錬金の実習を命じられて「できません!」とはっきり。
ああ、かわいそうなルイズ! とよろめきかけたキュルケが見方を変えたのは、ルイズがコルベールに話しかけたときだった。
朝の食事では周りのいやみを気にすることなくメイドに話しかけ談笑、授業では錬金の実習を命じられて「できません!」とはっきり。
ああ、かわいそうなルイズ! とよろめきかけたキュルケが見方を変えたのは、ルイズがコルベールに話しかけたときだった。
「ミスタ・コルベール、秘薬の材料の栽培を行いたいのですが……」
「ん? ああ、栽培するスペースかな? それならこの中から好きな場所を選ぶといい。必要ならメイドあたりを一人つけてもらえるが」
「いえ、その……」
「何かね?」
「ん? ああ、栽培するスペースかな? それならこの中から好きな場所を選ぶといい。必要ならメイドあたりを一人つけてもらえるが」
「いえ、その……」
「何かね?」
少しためらったあと、ルイズはコルベールに目を向けた。
「育てたいのは木なんです。それもかなり大きな」
手伝うメイドにはシエスタが指名された。
植えられているのは悪魔の木、さまざまな実を宿す呪われた木。
ルイズは心底楽しそうに、地面から飛び出た実のヘタを撫でた。
植えられているのは悪魔の木、さまざまな実を宿す呪われた木。
ルイズは心底楽しそうに、地面から飛び出た実のヘタを撫でた。
いさかいのきっかけは些細なものだった。
ギーシュの落とした香水のビンをシエスタが拾ったのがきっかけ。
場をごまかそうとギーシュがシエスタに責任を押し付けようとしたのだ。
仮にも女性を尊重するグラモン家の三男がそれはどうかと思うが、彼もおそらく本気ではなかったのだろう。
だが周りがそれをはやしたて、場はシエスタへの仕置きの流れに変わっていた。
ギーシュの落とした香水のビンをシエスタが拾ったのがきっかけ。
場をごまかそうとギーシュがシエスタに責任を押し付けようとしたのだ。
仮にも女性を尊重するグラモン家の三男がそれはどうかと思うが、彼もおそらく本気ではなかったのだろう。
だが周りがそれをはやしたて、場はシエスタへの仕置きの流れに変わっていた。
「やめなさいよ、みっともない」
ルイズの声がなければ、シエスタはきっと恐怖で気絶していたことだろう。
「ミス・ヴァリエール、君とは関係ないだろう?」
「黙りなさい。仮にも貴族ともあろうものが自分の失敗を人に擦り付けるんじゃないわよ、情けない」
「っ! やけに彼女をかばうねえ」
「その子は私の使用人も兼ねてるの。暴挙は許さないわ」
「黙りなさい。仮にも貴族ともあろうものが自分の失敗を人に擦り付けるんじゃないわよ、情けない」
「っ! やけに彼女をかばうねえ」
「その子は私の使用人も兼ねてるの。暴挙は許さないわ」
シエスタはルイズにすがるような目を向ける。
「……ふん、流石はゼロのルイズ、魔法が使えないもの同士仲がいいとみえ……」
ギーシュの真後ろにあったグラスが轟音を立てて爆発した。
「それ以上は許さないわ」
「……だったら何だというんだい?」
「……だったら何だというんだい?」
その爆発の大きさに冷や汗をかきながらも、ギーシュは見栄を張る。
あ、マリコルヌが破片をぶつけられて目をまわしてる。
あ、マリコルヌが破片をぶつけられて目をまわしてる。
「それ以上ふざけたことを言ったらその頭を爆破してあげるわ、ギーシュ」
「面白い。ならば決闘だヴァリエール! ヴェストリの広場で待つ!」
「面白い。ならば決闘だヴァリエール! ヴェストリの広場で待つ!」
そう言うとギーシュは足早に去っていった。
本心では離れたかったのだ、妙な威圧感を放つルイズから。
ルイズは黙って席を立つと、破片の一つを握り込む。
手のひらが切れ軽い出血を起こす。
それを確認し、ルイズは食堂を後にした。
本心では離れたかったのだ、妙な威圧感を放つルイズから。
ルイズは黙って席を立つと、破片の一つを握り込む。
手のひらが切れ軽い出血を起こす。
それを確認し、ルイズは食堂を後にした。
ヴェストリの広場には、すでにたくさんの観客という名の野次馬が集まっていた。
「よく逃げずに来たね、ヴァリエール!」
「あなたごときに逃げる必要が?」
「あなたごときに逃げる必要が?」
ピクリとギーシュの額に血管が浮かび上がる。
ギーシュは思い直す、相手は所詮ゼロだ、僕が負けるわけがない!
ギーシュは思い直す、相手は所詮ゼロだ、僕が負けるわけがない!
ギーシュ、それ死亡フラグ! もしくは敗北フラグ! と叫ぶ声も無視して、彼はそのバラの造花を握り締める。
「ではミス・ヴァリエール! 僕のワルキューレがお相手しよう!」
杖が振るわれ一体の青銅製の戦女神の人形が錬金される。
「うらやましいわね……」
ルイズはひっそりと、ゆがんだ笑みを浮かべた。
「さあヴァリエール! 今なら降参も……」
その言葉は続かなかった。
ルイズの体が前へ傾き地面を蹴る。
格好をつけていたギーシュが反応するまもなく、ルイズはワルキューレの懐へもぐりこんだ。
手のひらが切れた左手をそれに押し付ける。
慌ててワルキューレを動かすが、既にルイズは退避済み。
ルイズの体が前へ傾き地面を蹴る。
格好をつけていたギーシュが反応するまもなく、ルイズはワルキューレの懐へもぐりこんだ。
手のひらが切れた左手をそれに押し付ける。
慌ててワルキューレを動かすが、既にルイズは退避済み。
ルイズが杖を振るう。
杖に反応するようにワルキューレが盛大に爆発した。
唖然とするギーシュに、ルイズは年不相応な妖艶な笑みを浮かべる。
唖然とするギーシュに、ルイズは年不相応な妖艶な笑みを浮かべる。
「もうおしまい?」
「ま、まだだ!」
「ま、まだだ!」
慌てて杖を振るうギーシュ。
杖にあわせ出現する六体のゴーレム。
だがそれに慌てることもなく、ルイズは足元の破片を拾い上げた。
それを握り込み、手のひらの傷を深くする。
その手を振った。
杖にあわせ出現する六体のゴーレム。
だがそれに慌てることもなく、ルイズは足元の破片を拾い上げた。
それを握り込み、手のひらの傷を深くする。
その手を振った。
飛び散る血のしぶきがギーシュにも降りかかる。
「ヒッ!」
小さく悲鳴を上げるギーシュを視界からのけると、ルイズは右手の杖をギーシュに向け左手をパチンとならした。
轟音と共に六体のワルキューレが吹き飛んだ。
轟音と共に六体のワルキューレが吹き飛んだ。
「まだ、やるの?」
ことここにいたってルイズが何をしたかその場にいたものの想像は結論に達していた。
つまりルイズはばら撒いた血を介して何かをしているのだろう、と。
もちろんそうではない。単に血をボムボムの実の能力で爆破しただけだ。
だがそうとはわからないギーシュは己についた血を必死にぬぐう。
つまりルイズはばら撒いた血を介して何かをしているのだろう、と。
もちろんそうではない。単に血をボムボムの実の能力で爆破しただけだ。
だがそうとはわからないギーシュは己についた血を必死にぬぐう。
「ギーシュ、負けを認めるなら杖をこっちに放りなさい。まだやるならあなたはきれいな花火を咲かせて、ボンッ」
ギーシュは黙って杖を捨てた。
ところで諸氏は人の好意に類する感情がどう構築されるかご存知だろうか?
それは落差である。
空腹のときに食べるジャンクフードは満腹のときの高級フレンチよりはるかにうまい。
そう、落差である。
それは落差である。
空腹のときに食べるジャンクフードは満腹のときの高級フレンチよりはるかにうまい。
そう、落差である。
「ミス・ヴァリエール! 左手の治療を!」
「あ、ありがとう……ルイズでいいわよシエスタ」
「ははははい! ルイズ様!」
「あ、ありがとう……ルイズでいいわよシエスタ」
「ははははい! ルイズ様!」
シエスタのルイズを見る目は好意以上の何かがあった。
そう、落差である。
ギーシュにより死の恐怖まで味わいかけたシエスタにとって、同じ位置にいるルイズの好意は通常より大きなものとなったのだ。
ギーシュにより死の恐怖まで味わいかけたシエスタにとって、同じ位置にいるルイズの好意は通常より大きなものとなったのだ。
「何かいやな予感がするわ……」