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  • あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ
  • ルイズと無重力巫女さん-88

あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ルイズと無重力巫女さん-88

最終更新:2017年12月11日 23:22

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 世間では夏季休暇の真っ最中であるトリスタニアはブルドンネ街にある巨大市場。
 ハルケギニア各国の都市部にある様な市場と比べて最も人口密度が高いと言われる其処には様々な品物が売られている。
 食料や日用雑貨品は勿論の事、メイジがポーションやマジック・アイテムの作成などに使う素材や鉱石、
 そこに混じって平民の子供向けの玩具や絵本、更には怪しげな密造酒が売らていたりとかなりカオスな場所だ。
 中には専門家が見れば明らかに安物と分かるような宝石を、高値で売っている露店もある。
 様々な露店が左右に建ち並び、その真ん中を押し進むようにして多くの人たちが行き来していた。

 市場にいる人間の内大半が平民ではあるが、中には貴族もおり、その中に混ざるようにして観光に来た貴族たちもいる。
 彼らは母国とはまた違うトリスタニアの市場の盛況さに度肝を抜かれ、そして楽しんでいた。
 見ているだけでも楽しい露店の商品を眺めたり、中には勇気と金貨を持って怪しげな品を買おうとする者たちもいる。
 買った物が使えるか役に立つのならば掘り出し物を見つけたと喜び、逆ならば買った後で激しく後悔する。 

 そんな小さな悲喜劇が時折起こっているような場所を、ルイズは汗水垂らして歩いていた。
 肩から鞄を下げて、右手には先ほど屋台で買った瓶入りのオレンジジュース、そして左手には街の地図を持って。

 思っていた以上に、街の中は熱かった。暑いのではなく、熱い。
 まるですぐ近くで炎が勢いよく燃え上がっているかのように、服越しの皮膚をジリジリと焼いていく。
 左右と上から火で炙られる状況の中で、ガチョウもこんな風に焼かれて丸焼きになるのだと想像しながら歩いていた。
「…迂闊だったわ。こんな事になるんなら、ちょっと遠回りするべきだったかしら?」
 前へ前へと進むたびに道を阻むかのように表れる通行人の間をすり抜けながら、ルイズは一人呟く。
 霊夢や魔理沙たちに負けじと勢いよく『魅惑の妖精』亭を出てきたのは良いものの、ルートが最悪であった。
 チクトンネ街は日中人通りが少ないので良かったものの、ブルドンネ街はこの通り酷い状況である。
 観光客やら何やらで市場は完全に人ごみで埋まっており、それでも尚機能不全に陥っていないのが不思議なくらいだ。

 普段からここを通っていたルイズは大丈夫だろうとタカを括っていたが、そこが迂闊であった。
 一旦人ごみの中に入ったら最後、後に戻る事ができぬまま前へ進むしかないという地獄の市場巡りが待っていた。
 人々と太陽の熱気で全身を炙られて意識が朦朧としかけ、それでも荷物目当てのスリにも用心しなければいけないという困難な試練。
 ふと立ち止まった所にジュース屋の屋台がなければ、今頃人ごみの中で倒れていたかもしれない。
(こんな事なら帽子でも持ってきたら良かったわ。…でもあれ結構高いし、盗まれたら大変ね)
 ルイズは二本目となるオレンジジュースの残りを一気に飲み干してしまうと、空き瓶を鞄の中へと入れた。
 鞄の中にはもう一本空き瓶と、もう二本ジュース入りの瓶が二本も入っている。
 幸いにもジュース自体の値段は然程高くなかった為、念のために四本ほど購入していたのだ。

 他にはメモ帳と羽根ペンとインク瓶、それに汗拭き用のハンカチとハンドタオルが一枚ずつ。
 そして彼女にとって唯一の武器であり自衛手段でもある杖は、鞄の底に隠すようにしてしまわれている。
 万が一の考えて持ってきてはいたが、正直杖の出番が無いようにとルイズはこっそりと祈っていた。
(私の魔法だと一々派手だから、一回でも使ったら即貴族ですってバレちゃうわよね)
 それでも万が一の時が起これば…せめて軽い怪我で済ませるしかないだろう。

 地獄とも言える夏場の市場めぐりにも、終わりというものは必ず存在する。
 自ら人ごみの中へと入ったルイズが歩き続けて数十分、ようやく人の流れが少なくなり始めたのに気づく。
 三本目のジュースに手を付けようかとしていた矢先の幸運。彼女ははやる気持ちを抑えて前へと進む。

 そして…―――、彼女はようやく地獄から脱出することができた。
「あっ…――やった。やっと、出る事が出来たわ」

 予想通り、人ごみの途絶えた先にあったのは休憩所を兼ねた小さな噴水広場であった。
 中央の噴水を囲むようにして日よけの為に植えられた樹と、その周りに設けられたベンチに平民たちが腰を下ろして一息ついている。
 ハンカチやタオルで汗をぬぐう者、近くにある屋台で買ったジュースを味わっている者や談笑しているカップルと老若男女様々。
 ザっと見回したところで二十数人近くがここで休んでいるのだろうか、市場を出入りする通行人もいるので詳しい数は分からない。
 それでも背後にある地獄と比べれば酷く閑散としており、涼むには丁度良い場所なのは間違いないだろう。
 ルイズはすぐ近くにあったベンチへと腰かけると、ホッと一息ついて肩の鞄をそっと地面へと下ろした。
 そして鞄からハンドタオルを取りだすと、顔と首筋からびっしりと滲み出てくる汗をこれでもかと吸い取っていく。

「ふうぅ…っ!全く、冗談じゃなかったわよ…夏季休暇で市場があんなに盛況になるだ何て、今まで知らなかったわ」
 先ほど潜り抜けてきた下界の灼熱地獄を思い出して身を震わせつつ、程よく湿ったハンドタオルを自身の横へと置く。
 鬱陶しくしても人ごみのせいで拭けに拭けなかった汗を拭えた事である程度気分も落ち着けたが、今度は着ている服に違和感を感じてしまう。
 この前平民に変装する為にと買った服も早速汗で湿ってしまったのだが、流石に服の中へタオルを入れる真似なんてできない。
 生まれも育ちも平民の女性ならば抵抗はないだろうが、貴族として生まれ学んできたルイズには到底無理な行動である。
 その為着心地はすこぶる悪くなってしまったものの、それもほんの一時だと彼女は信じていた。

(まぁこの気温ならすぐに乾くでしょうし、ほんのちょっとの辛抱よ)
 丁度木の陰が太陽を遮るようにしてルイズが腰かけるベンチの上を覆っており、彼女の肌を紫外線から守っている。
 周囲の気温はムワッ…と暖かいものの、それでも木陰がある分暑さは和らいでいる方だ。
 もしもこの広場に樹が植えられていなければ、こんなに人が集まる事は無かったに違いない。
 そんな事を思いつつも、ルイズは休憩ついでに鞄から三本目のジュースが入った瓶と携帯用のコルク抜きを取り出す。
「そろそろ飲み始めないと温くなっちゃうだろうし、冷たいうちに堪能しておかないと」
 一人呟きながらもT字型のコルク抜きを使い、手慣れた動作でルイズはオレンジジュースのコルクを抜く。
 そして抜くや否や最初の一口をクイッと口の中に入れて、そのまま優しく飲み込んでいく。
 オレンジ特有の酸味と甘みが上手く混ざり合って彼女の味覚に嬉しい刺激を、喉に潤いをもたらしてくれる。

 途端やや疲れていた表情を浮かべていたルイズの顔に、ゆっくりと微笑みが戻ってきた。
「んぅー…!やっぱり、こういう暑い日の外で飲む冷たいジュースっと何か格別よねぇ」 
 瓶を口から放しての第一声。人ごみの中で飲んだ時には感じられなかった解放感で思わず声が出てしまう。
 涼しい木陰に腰を下ろせるベンチと、殆ど歩きっぱなしでいつ終わるとも知れぬ市場めぐりとではあまりにも状況が違いすぎる。
 あれだけの人の中を今まで歩いた事の無かった彼女だからこそ、ついつい声が出てしまったのだ。
 しかし…それを口にして数秒ほど経った後でルイズは変な気恥ずかしさを感じて周囲を見回そうとしたとき…
「おやおや、随分と可愛らしい貴族のお嬢様だ。こんな所へ一人で観光しにきたのかい?」
 彼女の背後、樹にもたれ掛かって休んでいた青年貴族が突然話しかけてきたのである。
 思わずその声に目を丸くした後、バッと声のした方へ振り向くと思わず自分を指さして「…私の事?」と聞いてしまう。
 年齢はもうすぐ二十歳になるのだろうか、魔法学院はとっくに卒業している年の彼は貴族にしてはやけに安っぽい格好をしていた。
 一応貴族としての体裁は整えているものの、ルイズが今着ている服と比べても格が低いのは一目瞭然である。
 そして同じ貴族である自分に対しての軽い接し方からして、恐らく彼は俗にいう下級貴族なのだろう。

 貴族の家の子として産まれても、その全員が順調な人生を送れるとは限らない。
 とある家の三男か四男坊として生まれれば、親はある程度の教育だけ受けさせて家を追い出す事がある。
 金の無い貴族の家では全員を魔法学院に入れさせる金も無いし、彼らの一生を養える余裕も無いからだ。
 許嫁がいたり魔法の才能があれば別であるが、大抵は杖と幾つかの荷物を鞄に詰められて適当な街へ放り込まれてしまう。
 彼らは魔法も中途半端であれば王宮の仕事が出来るほど頭も良くなく、精々文字の読み書きと掛け算割り算ができる程度。
 王宮での勤めに必要なコネも知識もなく、ましてや宮廷の貴族達から一目置かれる程の魔法も使えない。
 故に彼らの様な低級貴族は平民たちと共に暮らしており、共に同じ職場で働いて日銭を稼いでいる。
 中には壊れた壁や床の修繕なども行っている者たちもおり、日々頑張って暮らしているのだという。

 幸い中途半端な魔法でも平民たちには重宝され、その日の食事に困るような事態は起こっていない。
 魔法学院へ入れる中級や上流階級の者たちは彼らを貴族の恥さらしと呼ぶ事はあるが、声を大にして批判することは無い。
 皮肉にも貴族の恥さらしである彼らが平民たちに力を貸すことによって、貴族全体のイメージ向上へと繋がっているからだ。
 井戸やポンプの修理をしたり、家の修理などのアルバイトも平民たちには好評なようである。
 下級貴族達も無茶な金銭要求をしたりはせず、時にワインや手作りの料理とかでも良いという変わり者もいるのだとか。

 きっと自分に声を掛け、あまつさえ貴族と看破してきた彼もその内の一人なのだろう。
 そんな事を考えていたルイズに向けて、背後に青年貴族はクスクスと笑いながら喋りかけてくる。
「そう、君の事だよ。市場から命からがら!…って感じで出てきた時の君を見てね。…お嬢さん、外国から観光に来たお忍びの貴族さんでしょう?」
 得意気になって勝手な事を喋ってくる下級貴族にルイズは苦笑いを浮かべつつ、

――――違うわよこの三、四流の間抜け!私はトリステイン王国の由緒正しき名家、ヴァリエール家の者よッ!!

 …と、叫びたい気持ちを何とかして堪えるのに必死であった。
 何の為にこんな暑い街中にまで繰り出し、そしてあの地獄の市場を超えて来たのか、彼女はその理由を改めて思い出す。
 ここで怒りにまかせて自分の正体を暴露してしまえば、ここへ来た意味自体が無くなってしまう。
 それだけは何とか避けようと必死になって、彼女は硬過ぎる作り笑顔を浮かべて下級貴族に話し掛けた。
「…そ!そそ、そうなのよ!この夏季休暇を利用して小旅行の…ま、まま真っ最中でしてねぇ…ッ!」
「……あ、あぁそうなんだ」
 半ばヤケクソ気味ではあるが、不気味な造り笑顔と震えている言葉に下級貴族も軽く怯みながらそう返してくる。
 ルイズ本人としてもあからさまに無理してると自覚していたので、すぐさま顔を横へ逸らしてしまう。

(何やってるのよルイズ・フランソワーズ。こんな所で爆発してたら本末転倒じゃないの…!)
 閉じている口の中で歯を食いしばり、相も変わらず激しやすい自分にいら立ちを覚える。
 そして気分を落ち着かせるように一回深呼吸した後、こちらを心配そうに見ていた下級貴族方へと振り向いた。

 相手は気配からして自分が怒りかけていたのだと薄ら分かっていたのか、その表情は若干緊張に包まれている。
 まだ笑みは浮かべていたものの、最初にこちらへ話しかけて来た時の様な軽い雰囲気はすっ飛んでいた。
 ルイズは気を取り直すように軽く咳払いすると、こちらの出方を窺っている下級貴族に申し訳程度の笑みを浮かべて言った。

「ごめんなさいね、何分こう暑いものですから…苛立ってしまったの」
「…え?あぁ、いや…その、それなら…まぁ」
 特別怒っているわけではなく、ましてや媚びているワケでもない微笑みに下級貴族は返事に困ってしまう。
 暫し視線を泳がしつつ、言葉を選ぶかのように口を二、三度小さく開けた後でルイズに言葉を返す。
「こ、こちらこそ悪かったよ。変に子供扱いしちゃってて…」
 当たり前じゃないの!…そう怒鳴りたい気持ちを抑えつつ、ルイズは言葉を続けていく。
「そうだったの。確かに私はまだ十六だけど、ご覧のとおり一人で旅できる程度には独り立ちできてましてよ」
 エッヘンと自慢するかのように薄い胸をワザとらしく反らす彼女を見て、下級貴族は「は、はぁ…」と困惑してしまう。
 しかし、どこの国から来たかまでは知らないが確かに留学を除いて十六の貴族が一人旅行などできるものではない。

 国境を超える為の書類や費用等を考えれば子供には大変であろうし、何よりまず親が許さないだろう。
 とはいえ例外もあり、将来自立する意思のある貴族の子なんかは率先して留学したり国外旅行へいく事もある。
 それを考えれば自分の様な下級貴族にも自慢したくなる気持ちと言うのは、何となくだが理解する事はできた。
 そりゃ安易に子ども扱いしたら怒るのも無理はないだろう。彼はそう納得しつつ改まった態度で彼女に言葉を掛ける。
「…にしても、この時期のトリスタニアへ遊びに来るとは…また随分と勇気があるようで」
「まぁね。本当は秋か冬にでも行こうって決めてたんだけど、どちらの季節とも大切な用事ができてしまったのよ」

 そこから先数分程、思いの外自分の゙演技゙に釣られてくれた彼とルイズは話を続けた。
 ガリアから来たという事にしておいて、国の雰囲気が似ているトリステインへ興味本位に遊びへ来たこと。
 その興味本位で市場に入ったところ揉みくちゃにされて、危うく倒れかけたこと。
 先ほどの市場はもう二度と御免であるが、リュティスと似ているようでまた違うトリスタニアが良い所だと熱く語って見せた。
 無論ルイズは生粋のトリステイン人なのだが、これまで一度もガリアへ行ったことが無いという事はなかった。
 リュティスには家族旅行で何度か行った経験もあり、それのおかげである程度のガリアの知識は頭の中にあったのである。
 幸いにも相手は母国から出たことが無いような下級貴族であり、よっぽど下手しなければバレる事は無い。

 ルイズは自分の言葉に気を付けつつも、顔は良いがタイプではない下級貴族の青年と暫しの会話を楽しんだ。
 家族旅行で訪れた場所を思い出しながらガリアの事を話し、相手はそれを楽しそうに聞いている。
 時間にすればほんの五分経ったころだろうか、黙って話を聞いていた下級貴族が口を開いて喋ってきた。
「いやぁ、貧弱な家の三男坊である自分がこうして君みたいな素敵な人から異国の話を聞けるとは…今日の僕はツいてるよ」
「あら、その顔なら街娘くらいはキャーキャー言いながら寄ってこないものなのかしら?」
 ルイズがそう言ってみると、彼は苦笑いしつつ両肩を竦めるとすぐさま言葉を返した。
「そうでもないさ。僕たち下級貴族の男子になんか、御酌はしてくれるがそこから先に全く進みやしないからね」
 何せ貴族は貴族でも。、金の無い下級貴族だからね。…若干自分をあざ笑うかのような言葉に、彼女も苦笑してしまう。

 そんなこんなで話が弾んだところで、ルイズはそろそろ自分の『やるべき事』を始めようと決意した。
 これまで以上に言葉を選び、かつ悟られない様に聞き出さなければいけない。

 夏の陽気に中てられて、活気づいた王都の中にジワリジワリと滲む…新生アルビオン共和国に対する反応を。
 ルイズは苦笑いを浮かべたままの表情で、ニカニカとはにかんでいる下級貴族へと話しかけた。
「それにしても、王都は本当に賑やかね。聞くところによると、あのアルビオンと戦争が始まりそうだっていうのに」
「アルビオン…?あぁ…ラ・ロシェールの事件でしょう、君よく知ってるねェ」
「トリステインへ行くときに、行商人から聞いたのよ。もうすぐこの国とあの国で戦が起こるって」
 突然話の方向が変わった事に違和感を感じつつも、彼は何の気なしにその話に乗る。
 ルイズもルイズで事前に考えていた『話の輸入先の設定』を言いつつ、聞き込みを続けていく。

「普通戦が起こるってなると王都でも緊張した雰囲気に包まれそうなものだけど…ここは真逆みたいね」
「まぁ時期が時期だよ。こんなクソ暑い季節の中で緊張したって、熱中症で倒れてたらワケないしな」
 彼の言葉にルイズはまぁ確かに納得しつつ、いよいよ本題であるアルビオンへの評価を聞くことにした。

「…ところで、トリステインの貴族の方々にとって今のアルビオンが掲げる貴族による国家統治はどう思ってるのかしら?」
「んぅ?失礼な事を言うね異国のお嬢さん」
 ルイズの質問に対し、まず彼が見せたのは薄い嫌悪感を露わにしたしかめっ面であった。
「いくら俺たちがこの先十年二十年生きられるかどうか分からん貧乏貴族だとしても、連中の甘言には乗らんさ」
「そうよね?私もアイツラの掲げる思想は嫌いだわ、王家を蔑ろにするなど…貴族がしてはならない行為よ」
「その通り。特にこの国の王家に関しては…たとえ奴らが金貨の山を差し出そうとも裏切るような事はしないつもりだ」
 平民と共に暮らす貧乏貴族とは思えぬ…いや、逆に貧乏だからこそ王家を並みの貴族以上に崇めているのかもしれない。
 近いうち女王となるアンリエッタの笑顔を思い出しつつも、ルイズはカンタンな質問を混ぜ込みつつ話を続けていく。
 アルビオンと本格的な戦争が始まったら志願するのか、今後トリステインはかの国へどう対応すればいいべきか等々…。

 ルイズなりに投げかけるそれを会話の中に自然に混ぜ込み、あたかも世間話のように見せかける。
 そうこうして数分ほど話を続けていた時、ふと下級貴族の背後から複数人の呼び声が聞こえてきたのに気が付いた。
「オーバン!俺たち抜きで何ナンパなんかしてんだよー!」
「えっ…!?あ、あぁビセンテ、それにカルヴィンにシプリアル達も!」
 何かと思ったルイズが彼の肩越しに覗いてみると、いかにもな若い下級貴族数人が少し離れた所から手を振っている。
 皆が皆オーバンと呼ばれた青年貴族と同じように、貴族用ではあるが比較的安そうな服を着ていた。
「あら、お友達と待ち合わせしてたのね。それじゃあ、私はここらへんで…」
「え?あっ…ちょっと…!」
 そんな集団が手をありながらこっちに来るのに気が付いたルイズは、話に付き合ってくれた彼に一礼してその場を後にする。
 鞄を肩に掛けてベンチから腰を上げるや否や、呼び止めようとする彼に背を向けて早足で立ち去っていく。
 オーバンも思わず腰を上げて追いかけようとしたものの、時すでに遅く名も知らぬ異国?の少女は人ごみの中へと消えて行った。

 所詮自分は底辺貴族、物語の様なロマンスなど夢のまた夢という事なのだろう。 
 自分の前にサッと現れサッと消えて行った彼女を口惜しく思いつつも――――…ふと思い出す。
 この広場で他の誰よりも目立っていた、あのピンクのブロンドウェーブに見覚えがあるという事を。
「あのピンクブロンド…うん?どっかでみた覚えがあるような、ないような…?」


 それから少しして、あの広場から十分ほど歩いた先にある十字路の一角。
 市場からの距離も微妙な為日中のブルドンネにしては人通りも大人しい、そんな静かな場所で景気の良い音が響いた。

 それはパーティなどで勢いよくシャンパンのコルクを開けた時の様な音ではなく、思いっきり拳で硬いものを殴った時のような気持ちの良い殴打音。
 何かと思って数人の通行人が音のした方へ視線を向けると、彼らに背を向けているルイズの姿があった。
 どうやら、右手に作った拳でもって十字路に建てられた共同住宅の壁を殴りつけた直後だったらしい。
 ギリギリと拳を壁にめり込まそうとばかりに力を入れている彼女の後ろ姿を目にして、人々は慌てて視線を逸らす。

 その洒落た服装からして彼女がタダの平民ではなく、商家の娘かお忍びの貴族令嬢だと察したのであろう。
 ――目があったら巻き込まれる。本能で゙ヤバイ゙と悟った人々は何も見なかったと言わんばかりに、早足でその場を後にしていく。
 そうして周囲の注意をこれでもかと引いたルイズは、はふぅ…と一息ついてそっと右拳を壁から放した。
「結構力は抜いたつもりだけど…イタタ、木造でもこんなに痛いモノなのね」
 後悔後先に立たずな事を呟きつつ右手の甲を撫でたルイズは、先程話に付き合ってくれた青年の事を思い出す。
 もう少し話を続けていれば、今頃食事なりお茶の誘いでも出されていたに違いないだろう。
 あの手の輩というものは大抵よさげな女の子に声を掛けて、さりげなく良い流れになったところで誘ってくるのだ。 
 そう考えるとあの友人たちの乱入は正にあの場を離れるには絶好のチャンスとも思えてくる。

 彼らのおかげで程よくアルビオンに対する情報を聞けたうえ、良いタイミングであの場を後にすることができたのだから。
 早速忘れぬ内にメモしておこうと鞄の中を漁りつつも、同時にルイズはほんの少し残念な気持ちを抱えていた。
「それにしても…案外私の髪の色を見ても、誰も私がヴァリエールの人間だなんて気づかないものなのねぇ」
 あの下級貴族と言い、周りにいた平民も含めてみな自分の髪の色を見てピン!と来なかったのであろうか。
 市場にいた時はともかく、誰かが一人くらい気が付いても良いはずである。少なくとも彼女はそう思っていた
 昨日もそうであった。御忍びの貴族だと街娘にはバレてしまったが、家の名前までは言われなかった。
 と、いうことは…ヴァリエール家は今の御時世民衆の間であまり知られていないのではないのか?
 そんな事を考えて落胆しそうになったルイズは、ふと思う。

「みんな知らない…っていうよりも、公爵家の娘がこんな所にいるワケないって思ってるのかしら?」

 自分で言うのも何だが、下々の者たちからして見れば正にそうなのだろう。
 確かに、名のある公爵家の人間――それも末の娘が一人で王都を出歩くなんて滅多に無い事である。
 そう考えてみると、確かに自分を目にしてもその人が公爵家の人間だなんて思わないに違いない。
 例えば王家の人間が平民に扮していても、誰もその人がこの国の中枢を担う人物だと気づかないのと同じだ。
「そうだとすれば…案外、私が立てた作戦も上手くいきそうな気がするかも…」
 鞄からようやっとメモ帳を取り出し、何回かページを捲って何も書かれていない空白の頁を見つける。
 そして何処かに落ち着いて文章を書ける場所が無いかと、しきりに辺りを見回した。

 ルイズが今口にした『作戦』というのは、アンリ得た直々に命令された民衆からの情報収集のことだ。
 これから一戦交える前に、人々はアルビオンに対しどのような反応を抱いているのかを調べるのである。
 早速それを行うとした昨日、散々な結果で終わってしまったルイズに代わって魔理沙がそれを肩代わりする筈であった。
 しかし、アンリエッタからの命令と言う事もあってこのままではいけないと感じた彼女は、自ら行動する事にした。
 元々責任感もあるルイズとしては、あの黒白に頼り切るというのに一途の不安を感じたという事もあったが…。
 とはいえ考えなしに行っても昨日の二の舞になるのは明白であり、そこで彼女はとある『作戦』を思いついたのである。

 生粋の貴族として育てられたルイズにとって、一平民として民衆の中に紛れ込むのは非常に難しい。
 ならば…敢えて彼女はその゙逆゙側―――ただのイチ貴族、それも国外から来た観光客として扮する事に決めたのである。
 今の時期、王都を観光しにあちこちの国から様々な年齢の観光客が大挙して押し寄せている。
 ルイズは敢えてその中に紛れ込み、アルビオンと戦争状態になった事をさりげなく民衆や下級貴族に聞き込む事にしたのだ。
 さっき聞き込みをしたのは下級貴族であったが自分がトリステイン貴族だと気づかれず、うまく聞き取りを終える事かできた。
 下級貴族ならば平民と同じ環境で暮らしているために彼らの世間話も耳にしているだろうし、情報に困る事も無い。
 ついさっきは、ものの試しにと話しかけてみたが思いの外相手は自分の話に乗ってきてくれた。

 とはいえ、流石に自分とは雲泥の差がある格下の貴族にああも気安く話しかけられたのは色々と大変だったらしい。
 先ほどルイズが壁を殴ったのも、あの若干チャラチャラとした貴族を殴りたくて我慢した結果であった。
 もしもあそこで我慢できずに暴発していたら、今頃すべてが台無しになっていたのは間違いない。
「よし…と!ひとまず一人目…とりかく今日は十人くらいトライしなくちゃね」
 十字路を西の方へと歩いた先、そこにあるベンチでメモに情報を書き終えたルイズはパタンとメモ帳を閉じる。
 そして取り出していたインク瓶と羽ペンをしまうとメモ帳も鞄の中に入れて、スッと腰を上げる。
 ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールの誰にも言えぬ秘密のミッションは、こうして幕を開けたのであった。

 最初に彼女が選んだのは、ブルドンネ街の中央寄りにある大きな通りであった。
 そこは通称『厨房通り』とも呼ばれている場所で、その名の由来である数多の飲食店が群雄割拠している場所だ。
 主な客層は貴族やゲルマニアで商人などをしている平民であり、皆それなりに裕福な身なりをしている。
 店のジャンルは基本トリステインで貴族が好んで食べる高級料理などであり、変化球の様にサンドイッチやデザート等の専門店もある。
 どの店も通りを少し侵食するようにしてテラス席を設けており、日よけのした設置されたテーブルで美味しい食事にありついている。
 無論平民や下級貴族など安くてお手頃な飲食店も規模は小さいものの存在し、市場に次いでかなりの人々が通りを行き交っていた。

 ルイズは市場での経験を生かしてかなるべく通りの端を歩きつつ、王都の地図を片手に話しかけやすそうな人を探していた。
 当然地図を持っているのは観光客を装う為であり、彼女自身王都で迷う心配など微塵もなかった。
 現に周囲を見回してみると、今のルイズと同じように地図を手に通りを不安げに歩く貴族の姿がチラホラと見える。
 若い者たちは地図と睨めっこしつつ歩いており、中には従者らしき者に道案内をさせている年配の貴族もいる。
 彼らは大小の差はあれど軽い手荷物と地図からして、本物の観光客だというのが丸わかりだ。
 そういう人たちに混じって、ルイズは大人しく…かつある程度物知りな平民か下級貴族に道を尋ねるついでに聞き込みをするつもりであった。
「…とはいえ、この人の流れだと上手く話しかけられるかしら?…って、あの平民ならいけそうかも」
 周囲の人々を観察していたルイズは、ふと目に入った中年の平民男性に狙いを定めてみる。

 どうやら人の流れから少し外れて、路地裏へと続く小さな横道の前で一休みしているらしい。
 中年になってまだ間もないという外見の男性は、手拭いで首の汗を拭いつつ燦々と輝く太陽を恨めしそうに見つめている。
 見た感じならば人もよさそうであるし、これなら少し会話した程度で揉め事が起こる心配は少ないだろう。
 ほんの少し足を止めて様子見をしていた彼女は、早速その平民に話しかけてみる事にした。

「そこのアナタ、休憩中悪いけれどちょっと良いかしら?」
「…お?…んぅ、マントは無いようだけど…もしかしてお忍び中の貴族様…でよろしいかと?」
「えぇ、今は気兼ねなく旅行するためマントは外してあるの。紛らわしくてごめんなさいね」

 マントを着けでおらず、しかしその居丈高な物言いと身なりで彼はルイズが貴族であると何となく察したらしい。
 物分りの良い男にルイズもやや満足気に頷いてみせると、平民の男は「あぁいえ!こちらこそ…」と頭を下げる。
 どうやら自分の目利き通り、貴族に対しての作法はある程度心得ているようだ。
 それに安心したルイズも「別に気にしていないわ」と返しつつ、最初に道を尋ねる所から始める。
「初めて王都へ来て道へ迷ってしまったのよ。ここからタニアリージュ・ロワイヤル座へ行くにはどうしたら良いかしら」
「あぁ、ここからそこへ行くんなら…」
 異国の貴族を装うルイズの尋ねに対し、平民の男もやぶさかではないという感じで説明を始めた。
 そりゃルイズは黙っていれば本当に綺麗であるし、本性を露わにしなければ淑女の鑑にもなれる。

 恐らくはルイズよりもこの街に精通している男の説明は、貴族である彼女でも感心する所があった。
 彼の案内があればどんな方向音痴でも、必ず目的地にたどり着けるに違いないだろう。
 丁寧な彼の道案内を聞いた後、ルイズは礼を述べてからいよいよ本題の聞き込みへと移った。
「ありがとう。…それにしても、この前あのアルビオンと一悶着あったというのにこの街は活気に満ち溢れているわね」
「んぅ、そうですか?まぁこことラ・ロシェールじゃあ距離があるし、第一もう終わった事ですしね」
「でも近いうちに戦争になるかも知れないのでしょう?怖くは無いの?」
「まさか!…というより戦争になっても、こっちまで火の粉が飛んでくる事は無いでしょうよ」
 まぁ確かにその通りだろう。平民と一言二言会話を交えたルイズは内心納得しつつも頷いていた。
 自分の『虚無』が原因でほぼ主力を失った今のアルビオンには、今更トリステインへ攻め入るだけの戦力は無いに等しいだろう。
 流石に艦隊が全滅したという事はないのだろうが、少なくとも今のトリステイン艦隊が圧倒される程強くはないに違いない。

 その後その平民に改めて礼を述べてその場を後にしたルイズは、転々と場所を変えながら聞き込みを続けた。
 話しかけやすそうな平民や下級貴族に声を掛けて道を尋ねて、そのついで世間話を装ってアルビオンについての反応を聞く。
 時には今のトリステイン王家に対する評価も耳に入れつつ、一時間ほど掛けて五人分の聞き込みを終える事が出来た。
 ルイズは一旦人気の多い場所から離れ、路地に接地されたベンチに腰を下ろして聞き込みの内容を記録している最中だ。
 遠くからの喧騒と、その合間へ割り込むように街路樹の葉と葉が擦れ合う音がBGМとなってて耳に入ってくる。
 この時間帯は丁度ルイズが腰かけるベンチ側の道が陰になっており、良い涼み場にもなっていた。

「とりあえず決めた目標まであと半分…だけど、結構この時点でかなり枝分かれしてるのねぇ」
 ルイズは羽ペンを傍へ置くと、書き終えたばかりの情報を確認し直してから一人呟いた。
 彼女の言うとおり、街に住む人々から聞いた今のアルビオンとトリステイン王家への評価は以外にもバラバラだったのである。
 ある下級貴族はアルビオンに対して徹底的な報復を唱え、その前にアンリエッタ王女はちゃんと玉座につくべきだと言ったり、
 また平民の商人はあの白の国に関しては後回しでも良いから、まずは国を盤石にするべきだと言う慎重論もあれば、
 いっその事この国をアルビオンに売ってしまえと言う、とんでもない爆弾発言まで出てきたのには流石のルイズもギョッとしてしまった。
 中にはアルビオンと同じように王政ではなく、有力な貴族達による統治を現実的に唱えている者もいた。

 それらを見返した後、彼女はこれらの情報を全てアンリエッタに見せるのはどうなのかと躊躇ってしまう。
 一応彼女からは嘘偽りなく、ありのまま伝えて欲しいという事は手紙には書かれていた。
 だがアンリエッタに伝える情報をルイズが吟味して、あまり過激なものは没にする…という事も不可能なことではない。

 しかし彼女としては、それを――情報に゙色゙をつけるという行為にほんの少し抵抗があった。
 街の人達のありのままの反応を知りたいアンリエッタの気持ちを、裏切る事になるのではないかと。
 顔を俯かせたルイズは暫し頭を悩ませた後、情報を吟味するか否かの二者択一にぶつかってしまう。

「んぅ~…こういう時にレイムかマリサがいてくれれば、私の背中を押してくれそうなもんだけど…でもアイツラを頼るのもなぁ」
 今はこの街のどこかにいるであろう二人の事を思い出した彼女は、一人悔しそうに呟く。 
 自分たちの世界が危機に陥っているというのにどこか暢気で、それでいてヤバい時には頼りになるあの二人。
 良くも悪くもこの世界の常識が通用しない彼女たちなら、どう考えるのであろうか。
 それを考えそうになっていたルイズは慌てて首を横に振り、今はそれを余所へ置くことにした。

「今はそんな事を考えてる場合じゃないわ。姫さまに送る情報の事も…もう半分を集めてからの方がいいかも」 
 ルイズはひとまずそれで納得すると羽ペンとインク瓶、そしてメモ帳を鞄の中へとしまい込む。
 まだ自分で決めた目標の半分にしか達していない今考えても、仕方の無い事である。
 忘れ物が無いかのチェックをした後、ルイズは残り半分を片付ける為に人気の多い場所への移動を始めた。


「…じゃあそろそろ私はこれで。道案内、感謝いたしますわ」
「うん、君も気を付けるんだぞ」
 それから更に一時間と少し掛けて、八人目となる下級貴族の男性から話を聞き終えたルイズはその場を後にする。
 今まで目にしてきた者達より少し年を取っているのであろうか、変にフランクな彼は背中を向けている自分に手を振ってくれている。
 彼女もまた手を振って別れつつ、残り二人までとなった情報収集に終わりが見えてきた事にホッと一息ついてしまう。
 一応聞き込み自体は何とかこなせてはいるものの、街中を移動するのにかなりの時間を要している。
 場所によっては時間帯で人ゴミができることはあるし、通行禁止となってしまい遠回りせざるを得ない事が度々あった。

 ルイズが今いる場所は最初の前半の五人に聞き込みをしたブルドンネ街から、チクトンネ街へと移っている。
 まだ人の少ない場所と言えどもそこは王都、道を尋ねる封を装って聞き込みをするには充分な数の人はいた。
 とはいえ世間話を装って聞き込むために人によって話が長引く事もあり、結果として今の様に一時間以上かけてようやく八人目なのである。
「何だかんだで意外と時間が掛かっちゃったわね…」
 ポケットに入れていた懐中時計の短針と長針を睨みながら呟くと、すぐ近くにある建物から美味しい匂いが漂ってくるのに気が付いた。
 丁寧に煮込んでいる最中のトマトソースと炒った玉葱から漂う甘い匂い、そして焼きたてのパンから漂うバターの香り。
 時計の短針ば12゙を指しており、長針ば1゜を少し過ぎた所まで進んでいる。

 どうやら既に御昼時へと突入しているらしい、そこらかしこの家から食事の匂いが通りに漂っている。
 ルイズは自分の臭覚と舌を刺激する匂いに中てられてか、思わず空っぽになっている自分の腹を抑えてしまう。
「そういえば、朝食以降で口にしたのってジュースだけだったわね…」
 程よくお腹が空き始めた自分の腹を哀しそうに撫でつつ、彼女はここから先はどうしようか悩んだ。
 資金泥棒を追っている霊夢と情報収集をしてくれてるだろう魔理沙には十二時になったらなるべく『魅惑妖精』亭へ戻るようには言っている。
 とはいえ゙なるべぐである為、もしかすればシエスタに話したように夕食時まで帰ってこないという可能性もある。
 特に魔理沙は自分でも調べたい事があると言っていたので、霊夢と二人…もしくは一人で食べる事になるかもしれない。
 何なら昼飯代くらいは捻出できるだけの余裕はあったが、それでも今あの二人に金を貸すのは心配であった。
 だから一度お昼になったら『魅惑の妖精』亭で合流できるなら合流して、どこか程よく安くて美味い店を捜そうと考えていたのだ。

 トリスタニアなら平民向けの大衆食堂であっても、そこそこ美味い料理にありつける。
 これが外国とかだと量さえあればいいだろうという事で味が二の次になってしまうが、そこは食に煩いトリステイン人。
 例え手持ちの少ない平民であっても、食事は万人の娯楽であれと言わんばかりに食べる方も作る方も味に拘る。
 食材は無論、調味料や器具にも手を抜かずそれでいて誰にでも手が出せる安い値段で提供するのがこの国の流儀だ。
 美食に飽きた外国の貴族が一番美味しいと言った食べ物が、トリステインの平民向け食堂で出されているサンドイッチだった…なんて逸話があるくらいなのだから。
 それ程までにこの国はロマリア、ガリアと肩を並べるほどに食い物に関しては煩い国なのである。

「う~ん、あとちょっとだけどお腹減って来たし…軽く腹ごしらえした方がいいかもね」
 ルイズ自身そろそろ何か口にしたいと思っていた矢先に、昼食時というタイミングには勝てなかった。
 幸いチクントネ街にいるので店へ戻るのは然程時間はかからないしだろう。歩いたとしても十分程度であろう。
 思い立ったら即行動…というほどでもないが、湧き上がってくる食欲に勝てるほどルイズは食に無頓着ではなかった。
 すっと踵を返した彼女は『魅惑の妖精』亭のある通りへと向かってスタスタと軽快な足取りで歩き始める。
 まだ任務の事が頭にはあったものの、今すぐにでも自分の目標を成し遂げなければいけないというルールは課していない。
 少し昼食を取って、時間を改めれば良いだけと納得しつつ、何処で食事をしようかという事で頭がいっぱいになり始めていた。

 ブルドンネ街ならば日中でも労働者向きの食堂なら営業しているし、何なら移動販売式の屋台でも良いだろう。
 外で食べるには流石に暑すぎるが、お持ち帰りにして『魅惑の妖精』亭の一階で頂くのも悪くは無い。
 サンドイッチかパスタ、それか選べるのは限られるだろうが思い切って肉料理でガツンと攻めてみるか?
 牛肉より値段の低い豚肉か鶏肉のローストを厚めにスライスしたものと安いチーズをチョイスして、そこに弱い酒の肴にしよう。
 酒をそのまま飲むのは苦手だがジュースやハチミツに割れば、強くなければ快適に飲める。
 そんな事を考えて楽しく歩いていると、ふと彼女は右の方から誰かが走り寄ってくるような音に気が付いた。
 気づくと同時に足を止めて、そちらの方へ振り向いた直後――その走ってきた人影がすぐ目の前にまで近づいてきていた。
 既にぶつかるまで数秒も無いという瞬間の中、ルイズとその人影は当然のようにぶつかり―――小さく吹き飛んだ。

「え…?――キャッ!」

 キョトンとした表情を浮かべた直後、突如右肩に伝わる痛みと共に両足が地面から離れたのに気が付き、
 そう思った矢先には、勢いよく地面に尻餅をついてしまったルイズは悲鳴を上げて地面に倒れてしまう。
 幸い鞄はしっかりと絞めていたおかげで中身が散乱、するというヘマをせずに済んだのは幸いと言えるだろう。
 しかし右肩、臀部から背中にまで伝わる鈍い痛みはとても耐えられるものではなく、暫し仰向けになったまま呻くしかなかった。
 陽の光ですっかり熱くなった地面の熱と痛みの両方を受けつつも、ルイズは何とか頭を上げて人影の方を見てみる。
 ぶつかってきた人影の方は然程大丈夫だったのか、地面に尻餅をつきつつも何とか起き上がろうとしている最中であった。

 人影はこんな真夏日和だというのに全身を隠すようなローブを身にまとっており、見てるだけでも暑苦しくなってしまう。
 丁度フードの部分が顔と頭を隠している為に性別は判別できないものの、身長や体格だけ見ればルイズよりも二回り大きい。
 いかにも『怪しい』という言葉を練りに練って人型に仕上げた様な人間であったが、ルイズは怖気もせずにその人影へと怒鳴る。
「イタタァ…ちょっと!そこのアナタ、何処に目を付けてるのよ!?」
「悪い…!少し急いでたもので…」
 ルイズの抗議に対し口を開いた人影の声を耳にして、ルイズは少し驚く。
 その声色は間違いなく女性、それも体格相応ともいえる二十代くらいのものであった。
 てっきり男だと思っていたルイズは更に言おうとした抗議を止めて、思わず彼女の顔を見ようとしてしまう。

 丁度自分より一足先に立ち上がった彼女を見上げる形となったルイズは、フードの下にある顔を目にする。
 やはり声色から想像したよりも少し上程度の若い女性が、気の強そうな顔と薄いサファイアの様な碧眼で見下ろしていた。
 流石に顔と瞳の色だけではどんな人間なのかまでは判断つかないものの、貴族に向かって「悪い」とは何て言い草だろうか。
 お昼の事を考えてウキウキしていたところを水に差されたルイズが思わず怒鳴ろうとした直前女はスッと右手を差し出してきた。
 突然目の前に突き付けられたその手に驚きつつ、掴めという事なのかと察した彼女はスッと女の手を握る。
 すると予想通り。女は自分の右手に力を入れて、地面に倒れていたルイズを腕力だけで立ち上がらせる事が出来た。

 まさか腕一本で自分を起こした女の腕力に、ルイズは思わず驚いてしまう。
 一体どんな仕事に就けば、女であってもここまでの腕力が育ってしまうのだろうか?
 目を丸くして感心している最中、女はフードを被ったまま頭を下げて謝罪の言葉を述べてくれた。
「申し訳ない、何分急いでいたモノで前を見ていなかったよ…」
「え?いや…ま、まぁ!幸い怪我は…してないし別にいいわよ。次はこういう事にならないよう気を付けなさいよ」
 思いの外丁寧であったフードの女の謝罪にルイズは怒るタイミングを失ったことを苦々しく思うほかなかった。
 てっきり自分を倒したまま「急いでいるから」といって逃げるのを想像していただけに、変な肩透かしをも喰らっている。

 ひとまず女の謝罪を受け入れつつも、暫し苦みのある雰囲気を二人が包んだものの…それは長くは続かなかった。
 女の背後―――先ほど暑苦しいローブの姿で走り抜けてきた路地裏から複数の足音が聞こえてくるのにルイズは気が付いた。
 バタバタと喧しい靴音を響かせて近づいてくるその音にルイズが何かと思った直後、フードの女はそっと彼女に囁く。
「私はここを離れる。急で悪いが、お前も何も見なかった風を装ってここから歩いて立ち去るんだ」
「え?それってどういう――――…あ、ちょっと!」
 制止する暇もなく、女は言いたい事だけ言うとそのままルイズが歩いてきた道の方へバッと走り去っていく。
 思わず追いかけようとした彼女はしかし、路地裏から近づいてくる足音の主達がもうすぐで通りに出てくるのに気が付いた。

 ―――お前は何も見なかった風を装ってここからに立ち去るんだ

 とてもふざけているとは思えない雰囲気が感じられた言葉にルイズは咄嗟に従う事にした。
 どうしてか…と問われれば返事に困っていたかもれしないが、恐らくは「本能的に」という答えを出していたかもしれない。
 そうしてフードの女とは反対方向の道――『魅惑の妖精』亭へと続く道を再び歩き始めたルイズの耳に聞き慣れぬ男たちの声が聞こえてきた。
「…クソ!あの女どこ行きやがった?」
「通りに出たんなら容易に見つけられると思ったが…身のこなしの速いヤツ!」
 聞こえてきた二人分の男の声は聞いただけでも、相当に柄の悪い連中だと判別できるほどの言葉づかいである。
 例え平民であっても、一体どんな教育を受ければあんなオラついた気配が濃厚に漂う声色が出せるのであろう。
 それが気になったルイズが一瞬だけ顔を後ろに向けようとしたところで、新たに二人分の男の声が聞こえてきた。

「慌てるな、ここからそう遠くへは行ってない筈だ。手分けして探そう」
「この路地裏から出たのなら市街地方面に行ったかもしれん。あそこの路地は結構入り組んでいるからな。…俺とお前はあっちだ」
 最初に聞こえてきたチンピラ風の声とは違い、明らかにちゃんとした教育を受けているかのような言葉づかいであった。
 まるで軍でしっかりとした訓練を受けて来たかのような喋り方で、部下で露合う最初の二人に指示を飛ばしている。
 それに対し最初の二人が「あ、はい!」だの「わかりました」と返事を返している事から、後の二人はリーダー格なのであろうか?
 思わず一瞬だけ後ろを振り向こうとしたルイズはしかし、二人分の足音がこちらの方へ向かってくるのに気が付く。

 動かそうとしていた頭を咄嗟に止めたところで、自分の横を二人の男が駆け抜けていくのが見えた。
 先頭を走るのは先ほどガラの悪そうな喋り方をしていた奴であろうか、いかにもチンピラと言えるような恰好をした平民だ。
 対してその後ろについて行っているのは彼よりかは多少の身なりの良い平民の男だ。年は前の奴より少し上であろうか。
 幸い二人はルイズの事は横目で一瞥しただけで話しかける事も無く、彼女が進む方向へパタパタと走っていく。
 ルイズは気づかれぬようじっと彼らの背中を見つつ、あの女の言葉が間違いのない忠告であったと理解した。

 やがて残っていた二人は女が走っていった方向へと向かって行き、通りから物騒な気配が消えていく。 
 道の端っこで世間話に興じていた人々は何事も無かったように話しを再開しており、一見すれば平和そのものである。
 しかし、ついさっきまで只者ではない平民の男連中がいたことには気づいているのか、何人かがその話をしていた。
 無論、彼らの横を通り過ぎるルイズの耳は微かではある物のその話を聞きとっている。
 しかし、大して面白くも無いのでしっかりと聞き流しつつも彼女ははぼそりと独り言を呟く。

「全く、姫さまからの任務と言い、資金泥棒といい、ヤクモユカリとその式達といい、さっきの女や男達といい…夏季休暇になっても休む暇がないのね」
 一学生とは思えぬほどの多忙を前にして、彼女はどうしても愚痴を零したかった。
 誰に聞かせるワケでもないし、ただ呟くだけなら罪にはならないだろうと思いながら。


「―――…で、その愚痴やら相談が混ざってごっちゃになった話を私達に聞かせたかったワケ?」
 ルイズから今に至るまでの経緯を聞いた霊夢は終わるやいなや一言述べた後、一口分に切り分けた豚肉を口の中に入れた。
 アップルソースの甘味とオーブンで皮をカリカリに焼いた豚バラ肉の旨味が上手い事マッチして、未だ洋食慣れしていない彼女の口内を刺激する。
 ただ不味いと問われれば、間違いなく首を横に振る程度には美味しい料理だ。付け合せのパンもソースとの相性が良い。
 そんな事を思いながら、未知なる組み合わせの料理を堪能する彼女の傍に置かれたデルフがルイズに話しかけてた。

『お前さんも色々苦労したんだねぇ。てっきり店で踏ん反り返りながら、オレっち達が帰ってくるのを待ってたと思ってたが…』
「アンタ達の前でそんな事してたら、速攻で弄られるから言われても絶対にしないわよ」

 刀身をカタカタ揺らして笑うデルフにそう言って、ルイズも頼んでいたオムレツ・サンドウィッチを頬張った。 
 表面を軽くトーストしたパンで薄焼きのオムレツを挟んだもので、マヨネーズとトマトソースがパンに塗られている。
 オムレツも薄焼きながらベーコンやジャガイモ、玉葱を刻んだものが入っていて中々面白くて美味しい。
 何でもロマリア方面で良く作られる卵料理らしく、フリッタータと呼ばれるものだという。
 早口で言うと舌を噛みそうな名前であるが、その名前に勝るほどに美味いオムレツである。
 早速一つ目を平らげたルイズは、他にも頼んでいた厚切りベーコンのグリルを待ちつつジュースを一口飲んだ。
 鞄の中に入れていた最後の一本ですっかり温くなっていたが、それでも捨てるには惜しい程にはまだ美味しかった。
「ずるいわねぇ、私とデルフ何て炎天下の中日陰を捜して情報収集してたってのに…アンタだけジュース買ってたなんて」
「私の場合は自分の口座に入ってたなけなしの金で買ったのよ。…っていうか、そこら辺に飲料用の井戸とかポンプがあるでしょうに」
 ジト目で文句を言う霊夢にそう返しつつ、ルイズはチラリと店の外を一瞥する。
 御昼時とあって多くの人が出入りしているが、未だあの黒白の少女――霧雨魔理沙は姿を見せずにいた。

「…ホント、魔理沙のヤツどこほっつき歩いてるのかしらねえ~」
「あんな服だから日射病でやられた…って事は無いと思うけど」
 ルイズの目線で何となく察した霊夢は一言呟いて、料理と一緒に頼んでいたアイスティーに口を付ける。
 彼女に言葉にルイズもなんとなく続けきながら、温いオレンジジュースをゴクゴクと飲み続けていた。

 ルイズに霊夢、そしてデルフの二人と一本が今いる場所はチクトンネ街にある平民向けの大衆食堂である。
 『向日葵畑』という何の捻りもない看板を掲げているこの店は、平民の他に下級貴族達も足を運んでいるのだという。
 確かに店の中にはこんなに暑いのに丁寧にマントを付けた貴族たちが安い料理を美味しそうに食べている姿がチラホラと見える。
 まぁシーリングファンが乃割っているおかげで外と比べれば涼しいのだが、こんな平民向けの店では酷く目立つ格好なのは間違いない。
 更に目を凝らしてみれば、足元にバックパックを置いている貴族の客もいる。恐らく少ない金で旅を満喫しようと計画しているバックパッカーだろう。
 外国から来た彼らからしてみれば、ある程度貴族の舌に合う料理をこんな店で食べれるのはさぞや嬉しい事であろう。

 そんな店の隅っこ、すぐ傍に開きっぱなしの裏口があるおかげでそれなりに涼しいテーブル席でルイズと霊夢は食事を楽しんでいる。
 最も、本来ならこの場に来ている筈の魔理沙が来ないために半ば待っている状態なのだが。
 一応『魅惑妖精』亭の出入り口にメモを残しておいたのだが、果たして店の場所が分かるかどうか。
 本人も今朝出ていく時には遅くなるかもと言っていたので、最悪来ない事だってあり得る。
 まぁあそこから歩いて十分くらいの場所だし、余程の方向音痴か間抜けでなければ迷う事もないだろう。
 店の人にも一応知り合いがもう一人来るとは伝えてあるし、既に自分たちは万全を尽くしたとしか言いようがない状態だ。
 後は魔理沙の気分次第…という事なのである。

 瓶入りのオレンジュースを飲み終えたルイズがウェイターにアイスティーの追加注文をしたところで、
 付け合せのパンを食べようとした霊夢が何を思ったか、彼女に話を振ってきた。
「それにしても、アンタってやる時はやるわよねぇ」
「…?何の話よ」
「さっき話してたじゃない、自分も動いて情報収集したって話を……ハグッ」
「ちょ…アンタ!パンは手でちぎって…ってもう手遅れかー」
 一瞬だけ分からず首を傾げたルイズにそう言うと、パンを手に持ってそのまま齧り付いた。
 パンを千切らずそのまま口にしたところでルイズが顔を顰めたものの、霊夢は気にすることなく口で千切る。
 こんな店だというのにバターの風味と甘みがしっかりとあるパンの味に、思わず笑いかけてしまう。
 そんな彼女に呆れてため息をついたルイズへ、今度はデルフが話しかけてくる。

『まぁ方法としてはお姫様からの命令通り…ってワケじゃないが、情報収集のし方としては間違っちゃあいないね。
 最も、娘っ子。お前さんの場合は平民に成りきるのは無理だって分かってたから、その方法しか手段が無いだろうし』 

 デルフからの評価にルイズは一瞬だけ口を閉じた後、小さなため息をついた。
「それ褒めてくれてるんだろうけど、アンタに言われると小馬鹿にもされてるような気がする」
『まぁ半々だね…っと、いきなり蹴るのはやめてくれよ』
 ルイズからの指摘に彼が素直に返すと、刀身がおさまる鞘を彼女の靴で小突かれてしまう。
 鞘越しとはいえ割と威力のある足に文句を言いつつ、デルフはカチャカチャと金具部分を鳴らして喋る。
 思っていたより効いていないようなデルフの様子を見てルイズは二度目のため息をついて、コップに入ったお冷を飲んだ。


 大きめの氷が幾つも入っている冷水が口内を潤し、喉にとおっていく時の爽快感。
 暫し喉に残る清涼感にほんの一瞬浸る中、デルフに続くようにして霊夢も口を空けて話しかけてきた。
「まぁ私は別に良いとは思うわよ。それで情報が集まるんなら、むしろ良く考えたって褒めてあげるわ」
「…一応言っておくけど、褒めても何もあげないからね」
「じゃあ褒めるのはやめておくわ、けどまぁアンタもアンタで頑張ってくれるってのは私としても助かるし」
 そんな会話の後で、先ほど口で千切って残り三分の二ほどになったパンをもう一口齧って見せる。
 ハルケギニアの作法など知ったこっちゃないと言いたげな彼女の食べっぷりに、ルイズは頭を抱えたくなってしまう。
 もしもここが平民向けの大衆食堂でなくてブルドンネ街のレストランだったら、追い出されても文句は言えなかっただろう。

 その後、ルイズの頼んでいたアイスティーをウェイターが持ってきた所で霊夢も飲み物を頼んだ。
 メニューの文字が分からないために他の客のドリンクを指さしての注文であったが、無事に伝わったらしい。
 ウエイターは彼女の指さす先を見て「アイス・グリーンティーですね?」と確認した後、厨房へと戻っていった。
「グリーン・ティー…って、アンタがいつも飲んでる゙お茶゙の事?」
「そうよ。こっちの世界にも冷茶の類があっただけでも私としては結構助かってるわ~」 
 指さしていた客が美味しそうに飲む氷の入った『お茶』を見つめながら、彼女は嬉しそうに言う。
 それを見ながらサンドイッチを食べようとしたルイズはふと、あの『お茶』に関しての事が思い出す。
「そういえば昨日スカロンも言ってたわねぇ、最近あの『お茶』のせいでお店の売り上げがどうとかって…」
「あぁ、確かそれを専門に出してる『カッフェ』っていう店のせいとか言ってたわね」
 二人とも、街中を移動しているときには確かにそれらしきお店をチラホラと見かけている。
 レストランや他の店に混ざってテラス席を出して紅茶や『お茶』、それに軽食などを提供していた。
 スカロンが言っていた通り、確かにここ最近あぁいう店が貴族、平民問わず話題になっているのをルイズは知っている。
 茶類専門の店という新しいジャンルという事もあって、以前ルイズも何度か足を運んだことはあった。
 春が来る前の季節なうえにまだまだ寒い外のテラス席だった為、結構寒い思いをしたのは今でも記憶に残っている。
 まぁその分頼んだ紅茶とクッキー、それにポテトポタージュが中々美味かったので悪い思い出ではなかった。

 その事を思い出しつつ、ルイズはカッフェに対しての素直な評価を述べていく。
「まぁ彼には悪いけど、これからはあぁいう店が主流になるかもね。手軽に紅茶や軽食を楽しめるって意味では」
「そうよねぇ、私の神社にもあぁいう洒落た店があれば人が寄ってきそうな気がするわ」
「いやぁー、お前さんの神社の場合はそれよりも先に片付けるべき問題が山積みだろうに」
「うっさいわねぇ、アンタに注意される筋合いは…って、魔理沙!アンタいつの間に…」
 自分の提案に横槍を入れてきた声がこの場にいない者のモノだと気づいた霊夢が声のした方へと顔を向けた時、
 裏口から顔だけ出して覗いていた魔理沙にようやく気が付き、思わず大声を上げてしまった。
 霊夢の声にルイズも気が付き、ニヤニヤと自分たちを見つめる黒白を見つけると席を立ち、彼女の傍へと近づいていく。

「マリサ!やっぱり来たか…って今までどこほっつき歩いてたのよ?」
「おぉルイズ。悪いねぇ、ちょいと人助けしたついでに色々ともてなしを受けててな…戻るのが少し遅くなったぜ」

 若干怒っているルイズに対して、魔理沙はいつも通り悪びれてないような笑みを浮かべて返事をする。
 相変わらずの霧雨魔理沙であったが、霊夢としてはあの黒白が人助けをしていたという言葉がにわかに信じ難かった。
「アンタが人助けですって?いっつも人の神社に来たらタダ飯頂きにくるアンタが?」
「ひどい事言うなぁ。お互い独り身なんだから、飯時くらいわいわいしながら楽しみたいだけさ?…まぁそれはさておきだな」
 霊夢の辛辣な言葉に対しても笑みを崩さずそう返してから、彼女はここに至るまでの経緯を説明し始めた。

 …要約すればこうだ。 
 朝食の後、ひとまず情報収集のためにブルドンネ街にでも足を運ぼうとした所で、一人の少女に出会った事。
 少女の名はジョゼットと言い、ロマリアという国から出張してきた青年たちの付き添いのシスターである事。
 彼女が道に迷っていたと言うので出会ったのも何か縁という事で、彼女の情報を頼りに泊まっているホテルを探した事。
 歩いていくうちにブルドンネ街へと入り、川沿いにある一軒のホテルが彼女たちが泊まっているホテルだと知った事。
 流れるようにしてそのまま中に入ってしまい、結果的に彼女の保護者らしい青年二人と知り合いになった事。

「…まぁ後はその二人にも経緯を快適な部屋で話してたら昼から用事があるって言うんで、私も一旦戻ってきたワケさ」
 霊夢の隣に腰を下ろした魔理沙は最後にそう言って話を終えると、ナイフで切り分けたばかりのチキンステーキを口の中へと入れた。
 ハチミツをベースに作ったソースを塗って焼かれた鶏肉は甘味と旨味が上手い事混ざり合い、美味しさを形作っている。
 溢れ出る肉汁は付け合せのマッシュポテトにも合う。ここに白飯でもあれば束の間の付合わせに浸れたに違いない。
 そんな事を思いながら、何故か一仕事終えたつもりになっている彼女は一緒に頼んでいたプチパエリアへと手を伸ばそうとする。
 しかし、それよりも先に呆れた表情を浮かべるルイズの言葉によってその手は止まってしまう。

「なーにが一旦も出ってきたワケよ?…つまりアンタだけ美味しい思いしてたって事じゃないの」
「おいおい酷いこと言うなよルイズ。私がいなかったら今頃ジョゼットのヤツはまだ迷ってたと思うぜ?」
「まぁ実質辛い思いしてたのは私だけだから、精々アンタ達だけでいがみあってなさい」
 お互いテーブル越しに辛辣な意見をぶつけあう光景に、デルフは面白さを感じているのか刀身を震わせている。
 まぁ彼からしたら、相も変わらず仲が良いか悪いかの間を行き来する三人の姿はさぞ面白いのであろう。

『お前ら相変わらずだねぇ?…でもまぁ、これで娘っ子のやってた事は無駄に終わらなかったな。
 何せレイム直々に指名した黒白がサボってたんだからねぇ。…マジメさで比べれば、娘っ子に軍配が上がったって事さ』

 デルフの的確過ぎるる言葉を聞いて、魔理沙が初めて「むむ?」と声を上げて怪訝な表情をルイズ達に見せたものの、
 すぐにまた元の笑みに戻すと、自分と霊夢の間にあるデルフの柄をポンポンと左手で軽く叩いて言った。

「そいつは言葉が過ぎるってもんだぜ、デルフリンガーよ。
 昼飯を食べ終わったら、午前の分も含めてキッチリ情報収集するつもりなんだから」

「私は「これからする」って言ってるアンタよりも、「ここまでやってきた」っていうルイズの方が偉いと思うんだけど」

 午前いっぱいまで実質的にサボっていた魔理沙への容赦ない霊夢の突っ込みは、相変わらず切っ先が鋭い。
 ルイズがそんな事を思いながらアイスティーを一口飲もうとした所で、突っ込まれた魔理沙が彼女の方へと顔を向けたのに気が付く。
 何か言いたい事があるのかと同じく顔を向けたところで、キョトンとした表情を浮かべる魔法使いがメイジに質問してきた。

「ちょっと待てよ?ルイズ…霊夢の言葉通りなら、もしかして外で色々何かしてたのか?」
「今頃気づいたの?…って、そういえばその事を話し終えた後でアンタが来たのよね」
 霊夢に午前中の事を話していたルイズは、その時にはまだ魔理沙がいなかった事を思い出す。

「折角だから話してやりなさいよ。そしたらコイツだってやる気になるだろうし」
「ほぉ~、言ってくれるじゃないか?そこまで言うのなら、さぞや凄い事を成し遂げたんだろうな」
「…あまり期待しないでくれる?アレは私なりに考えた苦肉の策のようなものなのだから」
『いいねぇ、娘っ子の涙を誘う努力をもう一度聞けるなんて…俺が人間なら酒の肴にしたくなる』

 三人と一本がそれぞれ一言ずつ喋った後に、ルイズは魔理沙へ向けて午前の中の事を説明し始めた。
 昨日の件で情報収集は魔理沙に任せようとしたものの、結局納得がいかず自分の足で情報収集に挑んだ事。
 そして昨日の失敗を元に考えた結果、平民ではなく国外から旅行でやってきた貴族に扮するという作戦を考え付いた事。
 考えた本人自身がうまくいくかどうか分からなかったものの、思いの外うまくいき道を尋ねる振りをして情報収集ができた事。
 ひとまず八人分程の情報が集まっているところまで話し終えた所で、興味津々で聞いていた魔理沙がニヤリと笑った。
 それは事あるごとに浮かべているような、誰かを小馬鹿にする嘲笑ではない。じゃあ何かと問われれば…ルイズは言葉を詰まらせていただろう。

 そんな彼女の心境を余所にニヤニヤと卑しくない笑みを浮かべる魔理沙は隣の霊夢に話しかける。
「なぁ霊夢よ、お前さんの言ってたルイズがこの手の仕事に向いてないって言葉は…見事に外れたな?」
「そうね。…こんな事なら、アンタに頼るより彼女に頭を使うようアドバイスしとけばよかったわ」
 笑みを浮かべる黒白とは対照に、紅白は苦虫を噛んだかのような表情を浮かべて氷入りの『お茶』を一口啜る。
 『虚無』という強大な力を持っていても、貴族のお嬢様ゆえに何処か不器用だと思っていたルイズは自分から動いたのだ。
 霊夢本人はてっきり店で大人しくしているかと思っていたからこそ、彼女の行動力にはある程度感心したのである。
 それと同時に、それを見抜けなかった自分と情報収集をサボっていた魔理沙に頼んでしまった事を悔しく思ってもいたが。

「え?…何?…これって、つまり…私が褒められてるって事?」
『何でそんな事をオレっちに聞くんだよ。そんな事しなくたって答えはとっくに出てるだろうに』
 思いの外良い反応を見せた魔理沙と霊夢を前にして、思わずルイズはデルフに話しかけてしまう。
 デルフもデルフでそっけなく返しつつ、戸惑うルイズの背中をそっと押し出す程度のフォローくらいはしてやった。
「あ…そう、そうなんだ。…なんか、我ながら上手く行ったと自分を褒めたくなってきたわ」
「平民に扮する…っていうのは失敗してるけど、まぁ情報収集はできたんだから結果オーライってヤツよ」
「そ、それは言わないでよ!…ワタシだって、できるならそれで収集してたわよ」
 剣に背中を押されたおかげか、なんとなく自信がついてきたところで魔理沙の余計な一言が脇腹を突いてくる。
 それを余計な一言だと思いつつ、まだまだ冷たいアイス・ティーの残りをクイッと飲み干し、ウェイターにおかわりを頼んだ。

 その後、ルイズと魔理沙はそれぞれ頼んだ料理の味を楽しみつつも次は霊夢が何をしていたのか気になっていた。
 他の二人は既に話していた分、彼女だけが何も喋らないでいるというのは不公平なのであろう。
 料理をつつきながらも泥棒捜しはどうなったのかと聞いてくる魔理沙に、若干の鬱陶しさを覚えつつも霊夢は喋り始めた。
「残念だけど、特に進展はないわよ?…まぁ、ここ最近街中で子供が犯人と思われるスリが起きてるって話はチラホラ聞いたけどね」
「と、いうことは…まだこの王都に潜んでいるって事なの?」
 ルイズの言葉にそうかもしれないわねぇと答えつつね霊夢は冷たい『お茶』を一口啜る。

 盗まれた場所から通った道を含めてくまなく探してみたものの、お金を盗んだ子供たちの姿は見当たらなかった。
 一応隠れられそうな場所も探しては見たが、いかんせん街全体が大きすぎるせいできりがない。
 人が多いという事もあったが、何より太陽から降り注ぐ熱気と目が眩むほどの輝きが彼女の集中力を奪うのである。
 いくら水を飲んだとしても、もつのは精々十分程度でそれ以上に時間が掛かれば気怠さと身体に纏わりつく汗でイヤになってくる。
 しかも下手に空を飛べないので、霊夢はあの子供たちがいないかと街中を歩き回っていたのだ。
 幻想郷の知り合いがその時の彼女の姿を見ていれば、きっと指を指して笑っていたに違いないだろう。

「全く…外は暑すぎるわ盗人どもはないわで、イヤになってくるわよホント」
 ここへ来たばかりの春と比べてあまりにも暑いハルケギニアにうんざりしながら、霊夢は言った。
 二杯目になる『お茶』の中を浮かぶ氷を眺めつつそんな事を呟く彼女へ続くようにして、ルイズも口を開く。
「確かに、今年は去年と比べて気温が高い気がするわねぇ…」
『そうだな。オレっちは剣だが鞘越しでもムンムン暑かったからな』
 彼女の言葉にデルフも相槌を打ちつつ、そこへすかさず魔理沙も話しに割り込んでくる。

「ま、この街にいるならいずれ霊夢に尻尾を掴まれるのは問題だし、後は本人の頑張り次第だな」
「午前中サボってお菓子御馳走になってたアンタに言われなくても、絶対に捕まえて見せるわよ」
「なーに、午後からは見事名誉挽回を果たして見せるぜ」
 自分の鋭い一言にも狼狽える事の無い魔理沙のポジティブさには、ある種見習わなければいけないのだろうか?
 二人のやりとりを眺めていたルイズはそんな事を思いつつ、半分ほど減ったサンドウィッチにかぶりついた。

 そんなこんなで話は続き、次第に話題は街中で何か面白いものがなかったかどうかに移っていった。
 何処そこの通りで芸を披露していた者がいたとか、面白そうな店があったとか他愛の無い世間話の数々。
 それに時折相槌を打ちつつついついデザートを頼もうとしていたルイズは、ふとシエスタの事を思い出す。
 確か彼女は言っていた、明日のお休みにでも霊夢達と一緒に王都を歩き回ってみたいと。
 その願いが叶うかどうかは分からないが、今その事を話して二人の反応を探る事はできそうだ。

 結構楽しそうに話している二人へ割り込もうとしたところで、ルイズはふと思いとどまる。
 …果たして、本来ならシエスタ自身が彼女らに聞くべきことを自分が代わりに言っていいものなのか?
 やろうとした寸前でそんな考えを抱いてしまった彼女は、無意味としか思えない悩みを抱えてしまった。
 自分が先に問えば二人の意思をあらかじめ確認して、それをシエスタに伝える事が出来る。
 しかし、それをやってしまうと夕食時に再開するであろう彼女をガッカリさせてしまうのではないだろうか?

 他の貴族からしてみれば、ルイズが今悩んでいる事は大変どうでもいいいことなのは間違いない。
 平民…それも学院で奉仕するメイドの事で、どうして自分たち貴族が頭を悩ませる必要があるのかと誰もが呆れるであろう。
 ルイズとしてもそういう風に考えていたし別に先に言おうが言わまいかという迷いなど、どうでも良い事なのである。
 しかし、一度考え込んでしまった悩みを頭から振り払うという事ができる程ルイズは器用ではなかった。
 シエスタには霊夢や魔理沙たちの分を含めて、双方ともに大小区別なく貸し借りを作ってしまっている。
 ルイズは一貴族としてしっかりと借りは返したいし、シエスタだって霊夢たちに受けた恩を返しきれてないと思っているに違いない。

 だからこそ貴重な休日を、自分たちと一緒に過ごしたいと言っていたのであろうし、
 それを考慮してしまうと、どうにもルイズは迷ってしまうのだ。

(私が気を利かせて聞いてみる?…それとも、サプライズっていう事でシエスタに言わせた方が良いのかしら…)
 おおよそ一般的な友達づきあいのしたことのないルイズにとって、その選択肢はあまりにも難しいものであった。
 中途半端に残ったアイスティーを、その中に浮かぶ氷を眺めながらルイズは二つの選択肢を延々と比べてしまう。
 聞くか?それとも言わせるか?―――誰にも聞けぬままただ一人ルイズは考え続け、そして…。
「―――…ズ?…ちょっとルイズ!」
「ひゃあ…っ!」
「お…っと」
 突然霊夢に右肩を叩かれた彼女はハッと我に返ると同時にその体をビクンと震わせた。
 そのショックでおもわず倒れそうになった中身入りのコップを魔理沙が掴んで、零れるのを何とか阻止してくれた。

 驚いてしまったルイズは暫し呆然とした後で、再びハッとした表情を浮かべてテーブルへと視線を向けて、
 飲みかけのアイスティーがテーブルに紅茶色の水たまりを作っていないの確認して、安堵のため息をついた。
 そして、自分の肩を急に掴んできた霊夢の方へキッと鋭い視線を向け、抗議の言葉を口に出す。
「ちょっとレイム、いきなり肩なんかつかまれたら驚くじゃないの」
「そりゃー悪かったわね、まぁその前にアンタには二、三回声を掛けたんですけどね」
 負けじとジト目で睨み返す霊夢の言葉に、魔理沙もウンウンと頷いている。
 どうやら声を掛けられたのに気付かない程考え込んでしまったらしい、そう思ってから無性に恥ずかしくなってきた。

 思わず赤面してしまうものの、気を取り直すように咳払いしてから霊夢の方へと向き直る。
「…で、私に声を掛けたって事は…何か聞きたい事でもあったの?」
「別に。ただアンタが何か考え込んでるのに気が付いたから、何してるのかって聞こうとしただけよ」
「あ、あぁ…そうなんだ」
 てっきり大事な話でもあるのかと思っていたルイズは肩透かしを喰らってしまう。
 薄らと赤くなっていた顔も元に戻り、ため息と共に残っていたアイスティーを飲み干して席を立った。
 それを見て店を後にするのだと察した霊夢と魔理沙もよいしょと腰を上げて、忘れ物がないか確認し始めた。
 最も、二人してルイズと違って荷物と呼べるものは持っていないので、身に着けているものチェック程度であったが。
 霊夢はデルフを一瞥しつつ何となく頭のリボンを整え、魔理沙は膝の上に置いていた帽子をそっと頭に被っている。
 テーブルの端に置かれた伝票を手に取り合計金額を確認し始めた所で、今度はデルフが話しかけてくる。

『ん?何だ、もうお勘定か?』
「えぇ。いつまでも長居できるわけじゃないしね。……あれ?結構値段を抑えられたわね」
 伝票の数字と睨めっこしつつもルイズはデルフにそう返し、次いで予想していたよりも食事が安く済んた事に喜んでしまう。
 いつもならそんな事はしないのだが、使える金が限られている今は伝票に書かれた金額で一喜一憂してしまう。
 目の前にいる二人と一本はともかく、こんな姿をツェルプストーや学院の生徒に見られたら後日を何を言われるのやら…
 同級生たちに指差されて嘲笑される所を想像して憂鬱になりながらもルイズは足元に置いていた鞄を肩にかける。
 少し重たくなったような気がするそれの重量を右肩に掛けたベルト伝いに感じつつ、霊夢達を連れて外を出ようとした。
 その時であった。ルイズと霊夢が入ってきた本来の出入り口の前に立つ、二人の衛士を見つけたのは。

「ん?ちょっと待って二人とも」
 先頭にいたルイズがそれに気づき、彼女と共に店を出ようとした霊夢達を止めた。


 右手に短槍、左手には何やら巻いて棒状にした何かのポスターを持っており、腰には剣を差している。
 どうやら近くにいた店長である中年男性と、何やら会話をしているらしい。
 お互いの表情は、今いる位置からでも血生臭い事は起こらないと確信できるほど平穏である。
 一体何を話しているのだろうかと気になった時、霊夢と魔理沙もルイズの肩越しから彼らの姿を目に入れた。

「おや、衛士さんじゃあないか。こんな店に何の用なんだ?食事か?」
「そんな感じには見えないけど、近づいて何を話してるのか盗み聞きしてみる?もしかしたらあの盗人の事かも…」
「やめときなさいよアンタ達、下手にちょっかいかけて目ェつけられたら任務に支障が出るかもしれないじゃない」
 二人の提案を即座に却下しつつも、内心ルイズも少しばかり何を話しているのかは知りたかった。
 王都を守る衛士等もこういう店には来ることはあれど、基本的にそれは非番の時か食事を外で済ます時だけだ。
 しかし今店長としているであろう会話は、控えめに考えても何か聞き込みをしているようにしか見えない。
 もしかすれば霊夢の言うとおり、自分たちのお金を盗っていったあの少年の事について話している可能性も…無くはないだろう。

「ひとまず勘定はあそこで支払うから、もう少し…ってアレ?」
「もう少し待つ前に、もうどっかに行っちゃうらしいわね」
 とりあえず彼らが去ってから勘定を支払おう…と提案しかけた直前に、衛士達は手を振って店を手で行った。
 それに手を振りかえす店長らしき男の左手には、衛士の一人が持っていたポスターを握っている。
 一体何だったのかと思いつつ、まぁいなくなったのなら気にすることも無いだろうとルイズは歩き出した。
 彼女の後に続くようにして霊夢達も足を動かし、三人そろって店長のいるカウンターへと移動する。

「ご馳走様、お勘定を払いに来たわ」
 手に持っていた伝票をカウンターに置くと、五十代半ばの店長はルイズに頭を下げた。
「おぉ旅の貴族様、どうもウチでお食事いただき誠にありがとうございます!では…」
 店長が礼を述べて伝票を受け取ってから、ルイズは腰に下げている袋から食事代の金貨を出していく。
 今はまだまだ袋は重いが、今残っている金額では王都で外食しながら泊まるのは一週間…切り詰めても二週間ももたない。
 これが底をつけば自分のお小遣いは文字通りゼロになるし、最悪ドブネズミやら蝙蝠を捕まえて調理する必要に迫られてしまうのだろうか?

 そんな冗談を想像しつつも、それが現実になるまで後一週間程度しかないという事にルイズはゾッとしてしまう。
 脳裏に浮かんだネズミ料理のイメージを振り払いつつ、店長が金貨を数えている間を待つ霊夢を一瞥した。
(私と魔理沙も気を付けなくちゃだけど、霊夢には早いところアイツを捕まえて貰わないとね…)
「…よし。金額に余分がありますので、五十スゥと七三ドニエの御釣りですよ貴族様」
「え?…あ、あぁそうなの。有難うね」



 危うく店主の言葉を聞き逃すところであった彼女は慌てて返事をすると、店主がカウンターの下を漁り出した。
 何をするかと思いきや、取り出したのルイズの顔よりもやや大きい鉄の箱であった。
 取っ手と頑丈な錠前がついているのを見るに、どうやら御釣り用のお金が入っているらしい。
 一緒に持っていた鍵で錠前を外して蓋を開けると、十秒もかからず店長は御釣り分の銀貨と銅貨をカウンターの上へと置いた。
「え~と、ひーふー…一応貴族様も御釣りが合っているかどうか確認をお願いしますよ」
 箱の蓋を閉じた店主にそう言われて、ルイズはすぐにその二種類の硬貨を数えはじめる。
「…確かにさっき言ってた金額通り、それじゃあこのまま頂戴しておくわね」
「毎度ありです。今後近くを通った時はウチの店を御贔屓に」
 貴族様からのお墨付きをもらった店長は満面の笑みで頭を下げて、いそいそと箱に鍵をかけ始める。
 ルイズも袋に銅貨と銀貨を入れていき、最後の一枚となる銀貨を入れた所で、後ろにいた霊夢が声を上げた。

「あの、ごめんなさい。ちょっと良いかしら?」
「んぅ?何でございましょうか」
 てっきりルイズの従者と勘違いしている店長が敬語でそう聞き返すと、彼女はある物を指さしてみせる。
 それは先ほどやってきた衛士達が彼に渡していった、巻いたままにしているポスターであった。
「そのポスター…さっきまで来てた衛士達が置いていったけど…ちょっと気になってね」
「ん、あぁ…これですかい?」
 霊夢の指差は先にあったポスターを見た店主がそう言ってポスターを手に取ると、
 丁度真ん中の辺りで括っている紐を解きつつ、質問をしてきた彼女へ手短かに説明しはじめた。
「何でも、王宮の方で指名手配犯が出たからそれの似顔絵ってんで持ってきたんですよ」
「指名手配…ですって?」
「それまたエラく物騒で今更過ぎるな?この街で指名手配される奴なんて、それこそ星の数ほどいるだろうに」
 解いた紐を足元のゴミ箱に捨てた店主の口から出た単語に、ルイズと魔理沙も反応する。
 指名手配のポスター自体は別に珍しいものではないが、少なくともそういうモノが貼られるという事は滅多に無い。

「指名手配とはそれまた御大層じゃないの?」
 流石の霊夢も聞き慣れぬ言葉に素直な感想を漏らすと、店長は「まぁ事情が事情ですしな」と返しつつ、
 巻かれていたポスターを両手で広げながら更に衛士達から聞いた情報をそのまま彼女たちに伝えていく。

「今朝こっちの方で衛士姿の白骨死体が見つかった事件があって、それに関しての容疑者候補が一人上がったらしくてね、
 それがどうやら…身内の衛士さんらしくて、しかも昨日から行方不明っていうだけで白骨死体を作った張本人扱いされてるらしいんですよ」

「何ですって?」
 今朝、その現場の近くにいた霊夢は、下水道にたむろしていた衛士達やアニエスの姿を思い出した。
 確かあの時、先に現場にいた人々は皆衛士姿の白骨死体がどうとか言っていたのは覚えている。
 それから後の進展は全く聞いていなかったが、まさか今になってその話が出てくるとは思ってもいなかった。
 しかし、彼の口から語られるその情報に違和感を感じたであろう彼女が一つ質問をしてみる。
「容疑者候補…?それって何か証拠とか…詳しい情報はないの?」
「さ、さぁ…そこまでは言ってませんでしたが。…あぁ、そうだ!これが容疑者候補とかいう衛士さんの似顔絵らしいですよ」
 霊夢からの質問に店長は首を傾げつつも、自分の方へと向けていたポスターの表面を彼女たちの方へと向ける。
 丁度ルイズの顔より少し大きいポスターに書かれていた似顔絵は、どうみても女性のそれであった。
「へぇ~…女性の衛士が犯罪ねぇー?何か色々ワケありそうだけど…」
 ポスターに描かれているその顔を見て色々と勘ぐってしまう霊夢に、魔理沙がすかさず続く。
「きっとセクハラしようとしてきた同僚をうっかり……って、どうしたんだルイズ?」
 しかし、自分たちの前にいるルイズがそのポスターの似顔絵を見て、様子が変なのに気付いてその言葉は止まってしまう。
 店長も「貴族様、どうかしまして…?」と気遣うものの、彼女はそれを無視してじっと似顔絵を見続けている。 

 いかにも男の職場の中で働き、鍛えて来たかのような鋭い目つきに似合う厳つい表情。
 青い髪に碧眼という、平民出とは思えぬ整った顔つきは下手すれば貴族と見紛う程の綺麗さ。
 美しくさと強さを兼ね備えたかのような戦乙女のような女性の似顔絵を、ルイズは知っていた。
 ここへ来る前―――そう、『魅惑の妖精』亭へと戻る道すがら、彼女はこの顔とそっくりの女性と出会ったのである。
 時間にすればほんの一瞬であるが、突然通りに出てきたぶつかった記憶は今もはっきりと頭の中に残っていた。
「私の記憶違い?…ううん、違うわ…私、この顔の女性(ひと)と通りでぶつかって…―――……?」
 独り言をぶつぶつと呟きながらポスターを見つめていた彼女は、ふと似顔絵の下に文字が書かれていたのに気が付く。
 何かと思って視線をそちらのほうへ向けると、こんな文章が書かれていた。

―――○○○○○○詰所所属衛士隊員『ミシェル』
―――――同僚殺害及び軍事機密情報の売買に関わった疑いあり!
――――――この顔にピン!ときた方は、すぐに最寄りの衛士詰め所か警邏中の衛士に声を掛けてください



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