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【悪】ビリー・ザ・キッド

<タイプ> <狂戦士> タイプ ガンナー
種族 人獣 ジョブ アタッカー
HP 400 ATK 40
DEF 50 コスト 30
アビリティ
召喚 なし
覚醒 なし
超覚醒 ワンダイムショット


遥か頭上、雲一つなくギラリと晴れた空を、一羽の鳥が飛んでいく。

ボロボロに傷ついたビリーは無様に仰向けに地に倒れたまま、ぼんやりとそれを目で追った。

「あー…そーいや居たなぁ、そんなヤツ。
成程な、テメェはあのパットとかいうヤツのために来たってワケか…泣かせるじゃねぇかよ。
でもなぁ、契約は契約だ。現にアイツは不死身の体を手に入れて色々楽しんでたろ?」

全身に紋様を刻んだ頭巾の男は、倒れるビリーを見下ろしてそう言った。

「それを今更無かったことにしてくだちゃい~ってな、そういうのは大人の世界じゃ通じねえの。
わかるか?…マジで噂通りのクソガキだよ、テメェは…
いきなりブッこんできやがってよぉ、めちゃくちゃビビっちまったじゃねぇか。
まあテメェがいくら鉄砲撃とうと、オレには効かねえんだけどな」

「……」

「つってもまぁ、あんな奴オレにとっちゃどうでもよくてよ。
“使徒”になれそうな闇を持ったクズが絡んできたから、ちょーっと遊んでみたってだけで…
だからテメェのガッツに免じて解放してやってもいいかな~って思ったんだが…
でもよぉ、テメェも奴に聞いたんだろ? 契約には“期限”があるってよ」

そう言って、頭巾の男はわざとらしく悲しげな表情を浮かべ、

「残念だったな…ビリー、オレにたどり着くのがちょっとばかし遅かった……
…オレな、あいつに言ってた契約期限、間違えちまってたんだ」

そのままのけ反り、ゲラゲラと顔に手を当てて笑った。
ビリーは一瞬だけ目を見開き、苦々しそうな表情で舌をうつ。

「テメェが思ってたより早く逝っちまうって知ってよぉ…
奴ぁ最期はビビリにビビって、目につく人間手当たり次第にグッチャグッチャ、
町から荒野までふらついてよ、お仲間その他お構いなしだ…ハハ! アレだけは結構面白かったかもな」

ビリーは何も言わなかった。

そしてあらぬ方向へ目線を逸らし、しばらく黙ってから…力無く、ひらひらと片手を振った。

「……そんなことよりよぉ…
アンタの言う大人の世界ってのは、片っぽの同意なしに契約ができるモンなのかよ?」

うんざりしたようにそう言うと、ビリーは自分の胸元を、力が入らず震える親指でさした。

乱暴に破かれて、はだけたシャツからのぞくその胸元には、
いつか悪友の胸に見たものと同じ、怪しげな紋様が浮かんでいた――

「マジで今日はついてねぇ…負けた上に、プリティーな自慢の体にこんなダッセェ落書きされてよぉ」

「あ? おい撤回しろテメェ、超クールで嬉しいって言えよ」

「――っつ!」

頭巾の男はビリーの頭に蹴りを入れると、そのまましゃがみ込んだ。
そして、ぐぅっとビリーの顔を覗き込み…ニヤリと悪どそうな笑みを浮かべる。

「テメェは中々有能そうだからよ…ちょーっと協力してもらうことにしたぜ。
“契約”として、テメェが期日までにすべきことはひとつ――ある男を、立派な“鍵”に育ててもらう」


 * * *


静かな夜の荒野、切り立った断崖の頂上――
三人の戦士は、それぞれ測りきれぬ相手の動きを警戒しながら、各々の武器を構え相手を牽制していた。

“悪魔の左”ビリー・ザ・キッドは、突如現れた“災厄を運ぶ風”カラミティ・ジェーンを――
ジェーンは、復讐にかられ先にこの均衡を崩そうとするであろう“怒れる草原の戦士”ジェロニモを――
ジェロニモは、不意な邪魔に苦々しい顔をする復讐の相手ビリーを。

そのまま息苦しい沈黙がいくらか流れた後…ふいに、ビリーが笑い出す。

「…おいジェーン、何を言い出すかと思ったらよぉ…ジェロニモの仇はオレじゃねぇだと?
ハハ、もしかして適当言ってオレを庇ってくれてんのか?
まずったぜ…めんどくせぇ女にホレられちまったもんだ」

「アハハ、アンタってホント、冗談のセンスもクソ以下ね。
…あたしはね、あんたとジェロニモ、それぞれ両方ぶちのめしてやらなきゃ気が済まないの。
勝ち逃げされるのはゴメンだわ…こんな意味の無い決闘で勝手にどっちかに死なれたら、困るのよ」

「おいジェロニモ、聞いたろ? この女はオレたちのゲームをジャマしてぇんだ。
だから根拠もねぇこと言って、オレとお前を仲良しこよしさせようとしてるってわけさ」

「ジェロニモ! あたしの話には、まだ続きがあるの。
アンタの家族が殺された頃、同じように惨殺された人間がたくさんいたのよ。
“犯人”を見たって奴もいたわ。…ビリー、適当言って庇ってるのはアンタのほうなんじゃない?
そいつはアンタの――」

――ガァアン!

銃声が響き、ジェーンの顔から数センチ横を弾丸がかすめる。

「…ジェーン 次は本当に黙らせるぜ…」

魔銃を構えたビリーが、低い声で言った。

歴戦のガンマンであるジェーンにとっては、脅しにもならないちゃちな威嚇――
しかしビリーの表情には、ジェーンを黙らせる確かな凄味があった。
飄々と笑みを浮かべているいつものビリーからは想像もできない、冷たく、しかし激しい表情…

ぐ、とジェーンが口を噤んだのを見ると、ビリーはぱっと表情を変え、ジェロニモを見た。

「テメェの嫁さんとガキはよぉ、最期まで無様に命乞いしてた。
オレはそれ見てじっくり楽しませて貰ったぜ。
弾は勿体ねぇからよぉ、ブーツのかかとで踏みつぶしてやったんだ。ハハハ…! テメェも見たろ?
虫みてぇに潰れた姿をよ!大事な家族をそんなふうにブッ殺されちまって、マジで惨めだなぁ、テメェ!」

「…………」

ビリーの言葉に、ジェロニモの筋肉がぐぅっと隆起する。

「ジェロニモ! 待って!」

ジェロニモが突進し、戦斧を振り上げた。

同時に身を引くビリーの魔銃が火を吹き、
振り下ろされる戦斧をガチン!と火花を散らせて跳ね上げる――

――よぉパット、テメェが残したゲームは中々ハードで悪くねぇぜ…
でもよぉ、勝っても、テメェのくやしがる汚ねぇツラはもう見れねぇんだよなぁ…

剛戦斧と魔銃の攻防の最中、ビリーはそんなことを考え…その目は不思議な感情を浮かべていた。

ジェロニモは、その目に一瞬だけ眉を潜めると――


ドシュッ、という湿った音が響く。


次いで、何か重たいものが地に落ちる鈍い音がして…ビリーは、その場に膝をついた。

「…マジかよ ハハ…不死身でも、痛ってぇな…ハハハハ!」

悪魔の左――そう称されたものが、地面に落ちている…ビリーは左腕の肘から下に熱い滴りを感じながら、
しっかりと魔銃を握りしめ転がるそれを見て、声を上げてゲラゲラと笑った。

そしてジェロニモがゆっくりと歩み寄ってくると、ビリーは笑うのをやめ、覚悟したように顔を上げる。

しかし、自分を見つめたまま動かないジェロニモを見ると、子供のように首を傾げた。

「…なんだ? その顔…さっさとやれよ。
不死身っつってもよぉ、精霊の加護とやらを受けたテメェなら話が違うかもしれねぇぜ?」

「…終わった」

「…あぁ?」

「オレが果たすべきことは済んだ。たった今、オレの妻と子の魂を侮辱した報いを受けさせた…」

ジェロニモはそう言うと、戦斧を下げ――ビリーに背を向ける。

ビリーは、その背中から完全に殺気が消え去ったのを感じ…
大きな溜息をついて、のけ反るように夜空を見上げた。

「ふぅ…マジで、今夜は冷えやがる…」

そしてゆっくりと立ち上がると、スタスタと崖の方へ歩いて行った。

「あ~あ、初めてだぜこんなのよぉ…このオレがなぁ~」

「…ちょっとビリー、止まりなさいよ。何する気?」

ジェーンが呼び止めるも、ビリーは気にせず歩き続ける。

「やめだ、やめ。…旦那ぁ! 見てるかー?
どーやったって、コイツは『鍵』なんかになりゃしねぇよ! “契約”は果たせねぇ。
期限切れでクソみてぇに崩れて死ぬのもダセェしよ、ドロップだ――オレぁ、降りるぜ!」

ここに居ない誰かに向かってか、ビリーは声を張り上げる。

そして切り立った断崖の端――あと一歩で、遥か下に落ちようというところで、ビリーは止まった。

「…良かったじゃねぇか、最後はテメェの勝ちだぜ…32勝29敗、オレの勝ち越しだけどな」

ひとり、そう子供のような顔でククっと笑うと、ビリーは振り向いた。

「ヘイ クソ女! ひとつだけ言っとくぜ。オレの親友はよぉ、良い子ちゃんの保安官だったんだ。
アイツが周りの信頼集めて、裏でオレが悪さする…それがオレたちのルールなのさ。
…だから、殺しをやるパットを見たとか言ってるバカどもに伝えとけ。
ぜーんぶ、このビリー・ザ・キッドが仕組んだことだったってよぉ」

「…ビリー…あんた…」

「オイ、なんだそのキモい顔…そんな憐みなんて御免だぜ。
オレは稀代の悪童ビリー・ザ・キッド様だ…悪いゲームにしか興味ねぇ。
好き勝手やって楽しんで、遊びが終わりゃあ身を退くんだ。そうやって――」

空を見上げたまま、その体が、ゆっくりと後ろへ傾いていく――

「オレはオレらしく生きて――死ぬのさ」

いつもの飄々とした笑みを浮かべて…――ビリー・ザ・キッドは、底の見えぬ崖の下へ、落ちて行った。


 * * * *


――しっかしよぉ、テメェ、軽く不気味だぜぇ。な~んでフツーの顔してオレとつるんでられんだよ?
オレが言うのもなんだがなぁ、『クソ理不尽な契約結びやがって、ブッ殺してやる!!』
とか思わねぇのか?――

いつだったか、頭巾の男は、ビリーに向かって、そう尋ねたことがあった。

契約期間が過ぎれば、ビリーは死ぬ…そんな契約を結んだにも関わらず、
ビリーは存外飄々とした顔で、従順に男に言われた通り仕事をこなしていたからだ。
普通ならば、怒り、憎しみをぶつけてくるのが当然だと、頭巾の男は思っていた。
しかし、その時、彼の顔に浮かんだもの――彼は、笑っていた。
嘲るでも、おどけるでも、呆れるでもなく、ただ、心から笑っていただけだった。

『べっつにぃ。いつもの遊びと変わらねぇしな。
パットが連れてきたターゲットを、オレが制限時間内にぶっ殺す…
今回は、アイツが命がけでターゲットを用意した分、オレも命をかけなきゃならねぇ。
それだけさ…楽しいじゃねぇか。オレはぜってぇドロップはしねぇ主義だしよ、
ゲームってなぁ、懸けるもんがデカいほど、燃えるモンなんだぜ――』


静かな夜の荒野の片隅で…頭巾の男は、その悪ガキを絵に描いたようなニヤリ顔を思い出していた。

「…チッ ま~たダメだったかよ…でもまぁ、オメェのことは嫌いじゃなかったぜ、ビリー」

そう呟くと、はぁと白い息を吐き出し、気だるげに呟いた。

「あ~あ…またイチから使徒くん探さなきゃいけねぇじゃねぇか…ホント、めんどくせぇぜ」
身長 1.6[meter]
体重 55[kg]
名のひとつ ウィリアム・H・ボニー
好物 ターキーレッグ
パット・ギャレット
残りの『契約期間』 40日
イラストレーター 碧 風羽
最終更新:2017年04月07日 00:48