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【界】ヨルムンガンド

<タイプ> <聖魔> タイプ アスガルド
種族 人獣 ジョブ アタッカー
HP 750 ATK 200
DEF 200 コスト 80
アビリティ
降臨 降臨『黒棘の世界蛇』
――from “ver 3.5 ラグナロク / ~黄昏の黒竜~”


「…さぁ、もういいだろう。ラグナロク、奴を倒せ。
そして我が宿願――黄昏の終焉を塗り替えよ!」

 戦神の号と共に、聖竜はその巨大な翼を羽ばたかせ宙に舞い上がった。

 その口腔に蒼翠の光が集まり、炎の巨人に向けて閃光が放たれる。

 眩い白光が巨人を包むと同時に、煉獄塔が、大地が、すべてが揺れる――。



 幾億と同じ戦いを繰り返してきた神々の黄昏が、特異点たる聖竜『ラグナロク』の出現によって、
これまでとは全く異なる終末を迎えようとしていたその時、
神々の戦場と化した煉獄塔の地下深く、広大な地下空間で世界蛇は静かに佇んでいた。

 触覚を立て、感覚を研ぎ澄まし、じっと目を閉じたままでいる蛇に地上より伝わってくるものは、
無数の神々の力、意志、欲望――
その中に、何よりも白く輝く魂を感じ取ると、蛇は静かに呟いた。

「……あぁ……まだ生きているな“黄昏”よ……いいぞ。
神々が死力を尽くし戦う中で、貴様の力は一層強く輝き、鮮明に我に響き届く。
貴様の頭蓋を噛み砕き、その身を引き裂く時が待ち遠しい……」

 地上から流れ込む闘争の匂いは、蛇をどうしようもなく昂らせた。

 今まさに、このすぐ頭上で、何よりも求めた闘争が繰り広げられている――
しかも、あれほどに焦がれた聖竜がそこにいるのだ。
今すぐにでもその戦場に赴き、聖竜も、神も、魔も、何もかも喰らいつくしてしまいたい――。


 しかし蛇は、そうしなかった。

 理由があった――黄昏の戦場に背を向けて、一人この地下空間へと来た理由が。


 かつて聖竜の存在を知った蛇は、かの者との闘争を求め彷徨った。

 そして、とうとうその居場所をつきとめ挑んだ時――
かの竜は一穿の牙も、爪も交わすことなく、蛇を一瞥するとともに飛び去った。

 出会った瞬間、二獣の魂が触れ合い、聖竜の何かしらの思いが流れ込んできたが、
そのような雑事は純粋なる闘争には全く必要無きこと。
返事代わりに尾を叩きつけ牙を返した時には、既に竜は蒼翠の光を残し飛び去った後だった。

 屈辱であった――常に世界を取り巻き、その内に起こる闘争を生の旨とする蛇にとって、
ここまでにべもなくあしらわれたことは、この世に生まれ出でて初めての経験であった。

 だが、諦めるわけにはいかなかった。繰り返されてきた黄昏の中で、あれ程の存在と闘えたことは無い。
そしてもし、この黄昏の後、再び黄昏が“繰り返されて”しまったら、
“特異点”たるあの竜が再び世界に現れる保障はない――。

 ――ならば闘わん。
二度と我を無視できぬほどの力を手にし、次にまみえた時は、必ずやその牙を我に振り向かせて見せよう。

 そうして、かつて触れた紅蓮の力を求める闘いの中で、蛇は邂逅した――『父』に。


 父は、優しく蛇の顎を撫で、囁いた。

 ――頼みを聞いてほしい、

 と。

 他ならぬ父の頼みだ、普段であればなんなりと聞き届けるであろう。しかし、今は……。

 ――可愛い息子よ、“あの子”と戦いたいんだろう?
紅蓮の力もいいけどね、でも、こうすることが一番なんだよ。何故ならね――

 いつもの、秘密の悪巧みを囁くような、密やかな甘みを帯びた声音……。


 蛇は、父の囁きを思い出しながら、ゆっくりと目を開けた。

 目の前に広がる空間は、地下深くでありながらも不思議な柔らかい光に満ちていた。
光は壁に刻まれた不可思議な紋様から発せられており、生命の脈動のように明滅を繰り返している。

 ここはかつて、あの『古代アルカニア人』により作られ、
誰にも見つからぬように特別な封印が施されていた場所らしい。
その在り処を蛇の姉が突き止めたということだった。
父がそのような役目を与え、あの跳ねっかえりな姉がそれに従ったということは、
ひとりを好むあの兄でさえも何かしらの“役”を与えられているのであろう。

 ならば兄弟の末たる自分もまた長者たちに続き、しかとこの役目を果たさねばなるまい。
そしてそれを果たした先には――。


 巨大な体躯を誇る蛇ですら届かない、果てしなく高い天井の下を進んでいく。
天井を支える無数の長大なアーチが並ぶ通路の奥に、巨大な『光』が見える。

 そして、その手前の空間を埋め尽くす影を目にし――蛇は笑った。

「なるほど……貴様らが父者の言っておられた“番人”どもか。
ここに来て多くの残骸を目にしたが、どうやら貴様らは健勝のようで何より――
しかし、創造主が死してなお、律儀なことよ」

 統率された軍隊のように整列したまま動かぬ影――それは、幾百もの、『機甲』。

 デネブ、ミラ、レグルス、べテルギウス、ミザール――
その他多種多様な機甲が太古の遥けき静寂をまとって居並び、
この空間と、その先にある“何か”を守るため、全ての矛を蛇に向けていた。

 蛇がさらに一歩を踏み出すと、機甲たちの体に一斉に光が灯った。

 薄暗い空間に細波が立つように起動光が広がっていく。その光を一身に浴び、蛇はなお笑って見せた。

「いいな……悪くない……悪くは無いぞ。どうやら地上も盛り上がってきたようだしな、
“黄昏”の代わりにはいささかもの足りぬが、乾きを癒すには充分だ。
我が貴様らすべてを打ち砕き、その使命を終わらせてやろう!」

 瞬間、キュンという僅かな光磁場の集積音と共に、無数のデネブの口から眩い閃光がほとばしった。

 次いで、アルタイル、カペラ、フォーマルハウトたちの放ったエネルギー弾が降り注ぐ。

 蛇は巨体を高速で回転させ、その全てを長大な尾の一撃で祓うと、
返す尾を振りおろし、数十体の機甲を一度に粉砕した。

 轟音と衝撃波でビリビリと空気が震える中、
間髪入れずおびただしい数のアルファードとリゲルが特攻してくる。
そのまま巨体に群がり、輝くエネルギー・ソードで蛇の体を破壊しようとするが、
その頑強な鱗は傷一つ付くことなく、蛇が軽く身を震わせるだけで振り落とされてしまう。
惨めに落ちたそれらを、蛇は巨大な足でワシャと数体まとめて砕き潰す。

 やはり、闘争は楽しい――蛇は無数に生えた触覚をヒクつかせ、
地上で時同じく繰り広げられている熱く激しい闘争を感じとりながら、
自らもまた、聖竜と共に戦っていることを夢想するように暴れ続けた。

 そのまま、日の光を見ることなく迎えた9度目の朝――
無限に沸き続ける機甲にいささか疲れと苛立ちを見せ始めた蛇であったが、まだまだやれると奮起を見せ、
よろめき立つ最後のデネボラにさらなる牙を突き立ててやろうとしたその時、

「――!?」

 地上から感じ取っていた戦いに、異変が起こった。

 せめぎ合っていた神々と巨人の波動が凪ぎ、一瞬の静まりを見せたのである。

「どうした……?」

 蛇は動揺した。何故なら、あの聖竜の存在が“感じられなく”なったからだ。

 その隙を突くように、デネボラが両腕の円盤からソニックブラストを放つ。
蛇は激しい共振波の直撃を受けながらも、地上に知覚を向け、聖竜の波動を探し続けた。

「やはりおらぬ……何があった……!?」

 そんな中、ミラの一群が蛇を取り囲み、大出力の熱線を浴びせる。

「……馬鹿な………貴様が破れたというのか、我以外に……!!」

 蛇は苛立ちまぎれに巨大な腕で数体のミラを掴み上げ噛み砕くが、
そのまま動きを止めた体に後方で出力を上げ続けていたレグルスたちの砲口が向けられる。

 視界の端に無数の緑色の閃光が走った。次いで、体の方々に表皮が砕ける感覚が襲う。

「ぐぬぅぅぅっっ!!!」

 蛇の長大な体が、どうと地に倒れ込む。

 その周りを、さらなる意志持たぬ兵団が取り囲む――
しかし蛇は、複数ある全ての目を見開いたまま動かなかった。

 もはや蛇の目には、機甲の姿など欠片も映ってはいなかった。

「“黄昏”よ……お前がその程度の者であるはずがないだろう……」

 体を焼く熱線、砕く衝撃……しかしそれよりも激しい、全身を蝕む虚脱――。

「この世界蛇が測り違えたと……父者が先見を違えることなど――いや、これは……!」

 蛇の触覚が、僅かな、それでいて新しい力を感じ取った。

 それは急激に大きくなっていき、地上の巨人を、魔を、
神々のすべてを飲み込むかというほどに強大に膨れ上がっていく。

 だがその力はいたく不安定だった。虚無と闇黒をない混ぜたようなその力の持ち主は――

「“黄昏”! これが、このような穢れたものが貴様だというのか…!?
いったい貴様に何が起きている……!?」

 蛇が吼えた。

 すると地上に馳せる心に共鳴するように、壁面の紋様が強く光り出す。

 強く、強く、光を通し、蛇の存在と聖竜の黒い波動がより強く共鳴していく。


 そして蛇は知った――かつての純真さと眩さを失った聖竜が放つ嘆きと悲しみを。


「そうか……だからお前は“変わる”のか……なら、我も連れて行け……」

 そう呟くと、絶え間ない機甲たちの攻撃に身をグズグズに焼かれながらゆっくりと立ち上がった。

「来い……“黒淵”よ、来い!! これもまた紅蓮の、創世の一面よ……
我も『界』を越えよう――存在の向こうの側へと発とう!!」

 蛇の意志に呼応するように空間の紋様が瞬き、地上より黒い炎を呼び寄せる。
炎は蛇の体を取り巻き、それに合わせて黒と赤の靄が空間に立ち込めていく――。

「……そういえば、父者は言っておられたな……“これ”がそうか……我とあの者をつなぐ力……
さすがよ、まことに恐れ入る……やはり何者も、父者の手の上から逃れることはできぬのだ。
聖竜よ……哀れなる特異点よ……自らの意志なく、神々に弄ばれ……
なれば我が貴様と同じ場所に堕ち、同じ闇を纏い……そして……」

 蛇は静かに目を閉じた。

 動かぬ巨体に機甲たちの攻撃が一斉に降り注ぐ――その時、長大な“世界”は黒く染まった。


 * * * *


 ガチリ、と牙を噛み鳴らし、蛇は砕けた最後の機甲の亡骸を吐き出した。

 そしてゆるりと辺りを見渡した後、地下空間の奥へと進んでいく。

 歩く蛇の体は漆黒に染まり、口の端からは時折チロチロと舌のように紅黒い炎がちらついている。

 その背後には、粉々に破壊された機甲の亡骸が海のように広がっていた。

 もう、何一つ動くものはない。落ちるのは静寂の帳のみ――。


 通路を抜けた先には、巨大な『光』があった。

 かつて創世主が作り出し、その意志を継ぐ古代アルカニア人が守護し続けたこの『光』は、
本来ならば“存在してはならないもの”だった。

 破壊してしまえれば良かったのだが、人にも、魔にも、神ですらも、
この『光』を消し去ることはできなかった。

 故には彼らは、『光』を守護し続けることにした――不老の“番人”と共に。


 『光』は謎の“椅子”のような機甲装置に囲まれていた。

 装置の数は、『13』。

 蛇は『光』の前に立つと、眩しそうにそれを眺め、疲れたように腰を下ろした。

「これがマルクトへと繋がる、ファティマの予言を開く『光』、か……
さて父者よ、役目は果たしたぞ。ふふ……姉者も兄者も、きっと褒めてくださる……」

 そして、いつぞやの父の言葉を思い出す。


 ――“あの子”と戦いたいんだろう?
紅蓮の力もいいけどね、でも、こうすることが一番なんだよ。何故ならね――


「やはり、父者のいうことに間違いはないな――」


 ――彼は『鍵』だからだ。『鍵』は『扉』を開けるものだろう?
だからお前は、『扉』の前で待つといい。


「“黄昏”よ、我はここで待とう。そして今度こそ……ふふ、楽しみだ……それまでは……」

 そうつぶやくと蛇は体を丸め、ゆっくりと、静かな眠りに落ちていった。
全長 世界を一巻きする程
重量 大地を沈める程
望み 黄昏の復活
目的地 世界の門
好き 家族
苦手
イラストレーター 小城 崇志
最終更新:2017年04月07日 13:23