無題:part1 > 768(オールキャラ) 2

 朝になった。
 俺は自分の立場を考えて、誰かが呼びに来るまで部屋にこもっていることにした。外では調査兵団の兵士たちが訓練をしている。
 とりあえず俺は窓からクリスタちゃんを探してみた。……いた。う~ん、確かにトロいな。あっ、あれはミカサだ。うわ、
あいつすげえな。動きが人間の動きじゃねえぞ。獣か?

 コンコンコン

 おっと、やっと誰か来たか。下っ端が訓練してる最中に来るってことは、ドアの向こうは偉い奴の可能性が高いからな。今回は
俺の方から出向いてドアを開けるぜ。俺は軍オタだからそういう階級や上下関係には敏感なんだ。

 ガチャ

「昨夜はよく眠れたか?」
 ドアを開けたら、そこにはつり目の小男。リヴァイ兵士長が立っていた。
「ええ、おかげさまで」
「そうか、それは良かった」
 リヴァイと俺は挨拶もそこそこに切り上げ、本題に入った。
「起きたばかりで悪いが、ちょっと付き合ってくれないか。少し話がしたい」
「構いませんよ。リヴァイ兵士長」
 俺は軍オタだから、偉い相手には敬語で話すんだ。

「リヴァイ兵士長には感謝しています」
 俺は愛想笑いをしながら、リヴァイに一宿二飯の礼を言った。
「ふ、礼なら必要ない。こちらも目的を持ってやったことだ」
 リヴァイも口元に薄く笑みを浮かべて返した。
「団長はご多忙ですか?」
「おかげさまでな。お前のことで走り回っているよ」
「……そうですか」
 こんな話をしながら、リヴァイと俺は調査兵団の陣地を出て、街へ足を運んだ。石畳の街路を歩き、道幅の広い大通り
に出るとリヴァイがふいに口を開いた。
「歩きながらで悪いが、お前のこれからの処遇を決めるためにいくつか聞きたいことがある」

「なぜ歩きながらなんです?」
「分からないか?」
「分かりません」
 俺はなんとなく分かっていたが、わざとそう答えた。
「ふん、食えない野郎だ」
 リヴァイは呆れたように言い捨てた。
「性格でして……」
 俺が悪びれもせずにそう言うと、リヴァイは俺の方を一瞥して、
「ま、そういう性格の方が良いさ。こちらとしてはな」
と言った。
「……お前、ここに来る前は何をしていた? 仕事だ」
 リヴァイがしばらく間を置いた後、唐突に聞いてきた。その時、俺はこの質問がここでの俺の処遇を決定づける、最も
重要なものだと直感した。もし「学生だ」などと答えようものなら、これからずっと座敷牢に閉じ込められてしまうかも
しれない。ここで答えるべきなのはおそらく……。
「軍人です」
 俺はそう答えた。
「本当か?」
 リヴァイはそう聞き返してきた。
「はい」
 俺は重ねて答えた。リヴァイは俺の目をしばらく凝視して……、
「ふん、信じられないが、まあそういうことにしておいてやる」
と言った。その質問が終わると、リヴァイは深呼吸をして、そして先程までとはうって変わってリラックスした表情になった。
「それじゃ質問は以上だ。そちらから何か質問はあるか?」
 これには俺も少し戸惑ってしまった。
「い、いや、質問ならいくらでも……、それより、そんな簡単でいいのか?」
 俺は敬語を使うことも忘れて、リヴァイに問いかけた。リヴァイは俺を見ると「あとは聞かなくても分かるさ」と答えた。
俺はそれを見て、「おいおい、何だよこの人、かっこいいじゃねえか」と思った。
「ところで、リヴァイ兵士長、膝の調子がよろしくないみたいですが」
 俺も仕返しに、唐突に質問を飛ばしてみた。すると、リヴァイの表情が僅かに曇ったのが見て取れた。
「分かるか……?」
「まあ……。なんとなく……」
 俺はそう言ったが、リヴァイの足の引き摺り方は、本当に注意深く観察しないと分からない程度だ。
「そうか……。前回の戦闘で不覚を取ってな。ずっと松葉杖だったんだが、最近はサポーターに変えたんだ」

「……」
 俺は、ずっと聞きたかった質問をここで聞いてみることにした。
「あなた達は……、この世界の軍隊は何と戦っているんですか?」

「ふう」
 あの後、リヴァイ兵士長に「巨人」という敵の話を聞いて、街を色々と案内してもらい、部屋に戻って来たら
もう夕方になっていた。

 ぐうぅぅぅ

 腹が減った。昼食はリヴァイ兵士長にカレーをおごって貰ったが、この時間になるとまた腹も減るものだな。
それにしても兵士長、格好良かったな。やっぱり上官になるような奴は一味違う。しびれるぜ。……おっと、
こんなことを言ってたら、変なフラグが立っちまう。それだけは御免だぜ。俺は。

 そんなことより、クリスタちゃんだ。俺の予想では、今日もクリスタちゃんが食事を持ってきてくれるはずだ。
あの娘は戦闘員としてはトロいが、折衝や外交では使える。口も堅そうだしな。団長が彼女に俺の面倒見役を命じた
のも、その点を買ってのことなんだろう。

 コンコン

 ほら、噂をすれば、だ。

「開いてるぜ、入んな」
 俺はワクワクしながらそう言った。

 ガチャ

「失礼しまーす」
 聞き覚えのある声がして、部屋の中に入って来たのはクリスタちゃんだった。ほら、やっぱりクリスタちゃんだ。クリスタ……。
「う、うわああああっ!!!!」
 俺は彼女を見て、またも叫び声を上げてしまった。
「ク、クリスタちゃん……。そ……、それは……!?」
 俺は震える手で、彼女の背中から生えている……、白い羽。天使のような白い羽を指差して言った。
「えへへ……、驚いた?」

「ク……、クリスタちゃん……、まさか君は、本当に……」
 天使だったのか。と言おうとして、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。いや、そんなはずはない。昨日見たじゃないか。彼女は人間だ。
「実はこれ、大分前に友達が作ってくれたんだ。パンと水のお礼だって言って」
 ほっ……。そうだったのか……。
「それにしても、そんなものを作ってくれるなんて、面白い友達だね」
 俺がそう言ったら、クリスタはニコッと笑って答えた。
「サシャっていう子なの。また今度、団長から許可が出たらここに連れてくるね」
「ああ、楽しみにしてるぜ」
 俺はクリスタが持ってきてくれたパンとスープを口に運びながら、クリスタに尋ねる。
「それにしても良く出来てるな。それ、どうやって身体に付けてるんだ?」
 クリスタは後ろを振り返って、俺に背中を見せながら答えた。
「こうやって両肩を通して、リュックサックみたいに背負うんだ。ベルトは細い糸で出来てるんだよ」
 それをまじまじと見て、作りの精巧さに感心する俺。
「うわ、すごいなこれは。器用なもんだ」
「でしょ?」
 クリスタはそう言って笑った。
 その直後、クリスタはふいに神妙な面持ちになって、俺にこんな質問を投げかけてきた。
「ねえ……。ユウジって何者なの?」
「えっ?」
 そう聞かれて俺は言葉に詰まる。俺がこの世界で何者になるかは、今団長が考えていて各方面と調整中のはずだ。
俺が今、ここで迂闊なことを言うわけにはいかない。
「団長からは何も聞いてないのか?」
 とりあえず俺は質問を質問で返した。
「団長は何も教えてくれなくて、ユウジにも何も聞くなって……」
「そうか……」
 そう言って俺は黙り込んだ。さて、どうしたものかな。
「そういえば昨日軍隊に馴染めないとか言ってたよな?」
 クリスタが唐突にそんなことを言われて戸惑って答える。
「えっ……? 言ったけどそれがどうかしたの?」
「軍隊ではな……、上官の命令は絶対なんだぜ?」
 そう言って、俺はクリスタの質問をはぐらかした……つもりになった。
「じゃあ、ユウジも軍人なんだね」
 ガクッ
 参った。意外と鋭いな、この娘。いや、俺がドジなのか?

「まあ、そういうことなんで、この話は終わりだ。後のことは団長に聞きな」
 そう言って、俺は今度こそ、彼女の質問をはぐらかした。
「ちぇっ……、しょうがないなあ」
 クリスタはつまらなそうに口を尖らせてみせた。
「はは……、そうだ。今朝、そこの窓から君の訓練を見てたぜ」
 俺はこれ以上質問をされないよう、無理やり話題を変えてやった。
「えっ、本当……、恥ずかしいなあ。私ってトロくって……」
 クリスタは照れながらそう言った。
「ああ、トロかったな。だが、その身体にしちゃ頑張ってると思うぜ」
 クリスタの身体は確かに小柄だ。俺が見たところ、身長は140台半ば、体重は40キロ前後というところか。
「うん。私って、小さいよね……」
 そう言って、クリスタはうつむいて静かになった。体型のことを気にしているのだろうか。
「まあ、いいんじゃないか。俺は好きだぜ、そういう体型」
「えっ?」
 クリスタは心なしか頬を赤らめたような気がした。
「で……、でも、戦闘とかになったら、身体が小さいとやっぱり不利だし……。ほら、他の娘たちはもっと
大きくて、私なんか全然敵わないし……」
「まあ、真っ向勝負だとそうだろうな」
「え……?」
「例えばだ。俺がすごく強かったとする。この世界で一番強い。だとすれば、ミカサは俺に勝てるかい?」
 クリスタはちょっと考えて、
「ミカサはすごく強いけど……、ユウジがこの世界で一番強いんだったら、ミカサでも勝てないよね」
と答えた。
「そうだろう、だが、クリスタちゃんには負けちゃうんだ。なぜだか分かるかい?」
「え~?」
 クリスタはまたも考えこんで、
「分からない……」
と答えた。
「答は……、俺がクリスタちゃんの前では猫になってしまうからさ」
「え~っ、ずるいよ。そんなの」
 クリスタは俺の答えに不服そうにそう言った。
「はは、ずるいかな。だけど現実の戦闘ってのはそんなもんだ。事前の計略で相手を虎にするか猫にするか、
ってのがすごく大事なのさ」
「う~ん……」
 クリスタは納得がいかなさそうに首を傾げて唸っている。
「ま、そういうことなんだよ。この世界で最強の敵も、ミカサには倒せなくても、案外クリスタちゃんには
倒せちゃったりするかもしれないぜ」
「でも、巨人には言葉が通じないんだよ?」
 クリスタはそう言って反論してきた。
「そうかな……?」
 俺は、このことについて疑問を持っていた。聞くところによると、アニやエレンという調査兵団の団員が、巨人
に変身出来たという。だとすれば、言葉が通じる巨人がいたとしても不思議ではないのではないか? いや、むしろ
言葉が通じないと決めてかかることの方が危険だ。
「ユウジ……、どうかしたの?」
 俺が無言で考え込んでいたら、クリスタが心配をして声をかけてきた。
「いや、話してみれば案外話の分かる奴らかもしれないぜ」

 翌日、俺は朝からエルヴィン団長に呼び出された。
「お呼びですか、団長殿!」
 俺は団長室に赴き、元気よく挨拶をした。すると、エルヴィン団長は笑顔で俺を見て立ち上がり、
「そんなに畏まらなくてもいい。君はこの世界の住人ではないし、私は君の上官ではない。普段通りに
話してくれて構わない」と言った。
 理性的で、紳士的な人物だ。
「そうかい、それならそうさせてもらうぜ?」
 俺は、一応語尾を上げて確認を取った。
「ああ、それでいい。遠慮せず、何でも話してくれ」
 俺は団長室の隣にある応接間に案内された。団長に促された俺はソファーに腰掛け、向い合って座る形になった。
「この世界の印象はどうかな?」
 団長が聞いてきた。
「平和で、悪くない。巨人がいることを除けばな」
「調査兵団についてはどう思う?」
「統率が取れていて良い部隊だ。だが、人数の面で不安があるな」
 俺の答えに、エルヴィン団長は、「そのとおりだ」と軽く相槌を打った。
「では、人的質の面ではどう見る?」
 俺は、しばし考えてから答えた。
「俺もまだそんなには分からないな。ただ、話を聞いたり訓練を覗いたりした限りでは、少数の精鋭に依存しすぎる
所がありそうだ。戦術よりも個人の技術を重視するきらいもあるな」
 エルヴィン団長は目を瞑って、俯きながら俺の話を聞いていた。
「まあ、まだここに来て二日だしな。俺の言っていることもアテにならないだろうから、気にしないでくれ」
 それを聞いて、エルヴィン団長は目を開け、俺を見て言った。
「いや、君の言う通りだ。少数の精鋭に依存のくだりは、私がリヴァイに依存しすぎたことが原因。戦術よりも
個人の技術を重視のくだりは、私の戦術眼における力不足が原因だろう」
「考え過ぎだと思うぜ……?」
 俺はそう言ったが、エルヴィン団長は真剣に自責しているようだった。
 俺はしばらく何も言わずに黙っていた。すると、エルヴィン団長がゆっくりと口を開いた。
「君の洞察力はさすがだ。……どうかな、それを生かして我が調査兵団にこれから新設する別働隊、諜報部隊の隊長
をやってくれないか?」
「はあ?」
 それを聞いて、俺は思わず呆けた声を出してしまった。「いきなり何を言ってるんだ、このオッサン」とも思った。
「いや、そんな……。無理だよ」
「なぜだい?」
「だってそんな……、諜報の経験も無いし」
「それならこれから勉強すればいい」
 エルヴィン団長は平然とした様子でそう言ってきた。
「私はね、これからは情報戦が重要だと思っているんだ。おそらく君の世界の情報戦は我々より遥かに進んでいる。そうだろう?」
「いや、まあ……、そうだが……。」
 俺はそう答えた。
「私は長距離索敵陣形を考案し、壁外遠征における兵団の生存率を大幅に向上させることに成功した。これは私が作戦に
おける情報というものを非常に重要視していたからこそ出来たことだ。だが……」
「いや、その先は言わなくても分かるぜ」
 俺は右手でエルヴィン団長の言葉を遮った。
「だが、俺は情報の専門家でもなけりゃ、技術者でもない。期待されても本当に無理なんだ」
「そうか……」
 俺はエルヴィン団長が落胆するかと思ったが、意外にも彼は不敵な笑みを浮かべて言った。
「だとしても、君がやるしかないんだ」
「はあ?」
「辞令はもう出しておいた。後のことはリヴァイに聞いてくれ」
 そう言って、一方的に退室しようとするエルヴィン団長。
「ちょ……、ちょっと待ってくれ……」
 俺が静止するも、彼は無言で退室してしまう。代わりに、リヴァイ兵士長が部屋に入ってきた。

848 :名無しさん@ピンキー:2012/07/27(金) 22:58:22.92 ID:i4ZliPeL
ミカサもクリスタもサシャもみんな好きだから、その娘たちのバッドエンド系同人誌読んだら鬱になりそう
中でもミカサはバッドエンド系(鬱系)同人誌が描きやすそうだしな、覚悟はしてるつもり

でもクリスタちゃんのバッドエンド系同人誌は想像し辛いんだよなぁ、あとアニも
和姦が一番平和だろうけど、個人的にはレズとかオナヌみたいに、男が登場しないエロが好き

「どうした? 不安か?」
 リヴァイが何事も無いかのようにそう聞いてきた。
「いや、そういう問題じゃなくて……」
「そんなに心配しなくてもいい、諜報とは名ばかりの、形だけの新部隊だ。要は、お前を巨人との交戦から引き離す口実だ」
「はあ?」
 俺は再び呆けた声を出した。リヴァイはフッと優しげに笑って言った。
「お前は元々この世界の住人じゃない。だからこの世界の住人のために命を張って戦う必要も無い。お前はお前の好きなように
生きればいいんだ」
「いや、それはそうかもしれないが……」
 俺はそこまで言って言葉に詰まった。実際、この好意を無にしてこの世界で生きていけるほど俺は強くない。
「では決まりだな。今後、部隊に編入させたい団員がいたら俺に言うがいい。部下がいた方が良いだろう」
 リヴァイのその言葉を聞いて、俺はすぐに彼女の顔を思い浮かべた。
「それなら、あの娘を。クリスタ・レンズを俺の隊に入隊させてくれ」
 それを聞いて、リヴァイは少し考えるような仕草をしてから言った。
「クリスタ……、レンズ……。ああ、ナナバの班のあの娘か……。そういえばこの二日間お前の面倒を見ていたんだったな。
構わないとは思うが、なぜあの娘を?」
「あの娘は戦闘には向いてない」
「まあ……、そうだろうな」
「それに、俺はあの娘のことが気に入った」
 俺がそう言うと、リヴァイは呆れるように笑った。
「そうか、それならせいぜい頑張るがいい」
「ということは、彼女はフリーなのか?」
「俺の知る限りではそうだ」
 俺はそれを聞いてガッツポーズをしたい気持ちになった。
「有益な情報を感謝するぜ、兵長」
 リヴァイは無言で頷いた。
「それと、お前のことだから解っているとは思うが……」
「怪しい奴を見つけたら報告しろ。ただで遊ばせておく気はない。だろ?」
「そういうことだ」

 それからしばらくリヴァイ兵士長と話をし、俺は部屋に戻ってきた。
「ふう」
 ベッドに仰向けに横たわり、天井を見つめる俺。
 この世界に来て、俺は突然「調査兵団」という、300人の兵団の諜報部隊長に任じられた。とは言っても、これは形だけの
部隊で、特に任務があるわけでもないらしい。ま、俺がこの兵団内で巨人との戦闘を避けて生きるための肩書きというところだな。
 それと、俺の経歴のことだが、どうやら「エルヴィン団長が極秘で育て、今まで極秘の任務に着いていた諜報部員」ということに
なったらしい。「こんなんで大丈夫なのか?」と思ったが、まあ下手に辻褄合わせをしようとするよりは、これぐらいアバウトな方が
いいのかもしれない。
 とにかく、今日はもう夜だが、明日から俺はこの兵団で自由に活動をすることが出来る。なんとかお役に立ちたいところだが……。

コンコンコン

 おっと、こんな夜更けに誰だ? クリスタちゃんでは無いことは確かだ。彼女のノックは2回叩く。リヴァイ兵長なら……、
また明日来ればいいようなものだが……。

「誰だ?」
 俺はドアの横に立ち、ドアの向こうにいる人物に呼びかけた。
「私」
「ミカサか?」
「そう。開けてくれる?」
 俺は静かにドアを開け、ミカサを部屋に招き入れた。
「どうしたんだ、こんな時間に?」
 小声でミカサに問いかける。
「別に。話でもしようと思って」
「なんだよそれ」
「私が来たら問題?」
「いや、そんなことはないが……」
 とは言ったものの……。やはり問題があるかもしれないな。そんなことを考えながら、俺は黙っていた。
「聞いたわ。部隊長になったみたいね。これからは私の上官ね」
「ああ、あんたのおかげだ」
「別に……、私は何もしてない。団長と兵士長が決めたことよ」
「相変わらずクールな奴だな」
「……」
 そう言ってミカサは黙り込んでしまった。
「……」
 俺は彼女が話し始めるまで沈黙しているつもりでいたが、どうやら埒が明かないので、こちらから話をしてやることにした。
「大方、恋愛の相談でもしに来たんじゃないのか?」
 それを聞いて、瞬間湯沸かし器のように急に顔が真っ赤になるミカサ。
「ど……、どうして分かったの?」
「お前がこんな時間に訪ねてくるなんて、それ以外に無いだろう」
「……」
 顔が真っ赤になったまま、再び俯いて黙りこむミカサ。
「エレン……、って奴のことじゃないのか?」
 その名前を出した時、ミカサがドキッとして一瞬身体を強張らせるのが見て取れた。
「ぜ……、全部お見通しなのね……」
「まあな」
「……」

 ミカサはまたしばらく黙っていたが、そのうちゆっくりと話し始めた。
「幼馴染なんだけど……、私ってなんか全然相手にされてないみたいで……」
「告白はしたのか?」
「してない……。なんか……、どうしてもそんな雰囲気にならなくて……」
 こんな風に話しているミカサの周囲にはっきりと哀愁が漂っている。うわっ、こいつがここまでどんよりするだなんて、よっぽど
悩んでるんだな。罪な奴だな、そのエレンって奴は。
「で、そいつは他に好きな奴はいるのか?」
「ううん……、なんか恋愛とかに興味ないみたいで……。あんまり女の子と一緒にいるところも見たことない」
「じゃあ、お前とも話さないのか?」
「ううん、私とはいつも一緒にいる」
 おいおい、こいつ何で悩んでるんだよ。この時点でもう決まりじゃねえか。両想いなんだよ、お前らは。
「そうか、じゃあ早く告白するべきだな」
「えっ!」
 そう言うと、ミカサは驚いて俺を見た。だがすぐに下を向き、またウジウジし始めた。
「でも……、私なんて……」
(ああもう、うざったい)
 と、俺は正直思ったが、当然そんなことは口に出さない。
「自信持てよ。お前は俺から見ても美人だし、性格も良い。不器用なところもあるっちゃあるが、ほぼ完璧だ。エレンって奴も
そう思ってるさ」
「そ……そう?」
 ミカサはまんざらでも無い様子だ。

「ああ、間違いないな。だから、さっさと告白して、エロいことでも何でもしちまいな」
「えっ?」
 その言葉にミカサが反応した。
「おっと、すまない。つい口が滑っちまった」
「エロいことって何?」
 はあ? いきなり何を聞いてくるんだよ、こいつは。
「そりゃあ、エロいことっていうのは、エロいことに決まってるだろ」
 この答えにミカサは納得がいかない様子だ。
「そのエロいっていう言葉の意味がよく分からないんだけど……」
 おいおい、マジかよ。こりゃあ、面白くなってきたぜ。
「ああ、そうだな、こりゃどっちかっていうと俗語だからな。分からなくっても無理ないな」
「……」
 ミカサは黙って俺の話に耳を傾けている。
「じゃあ、エッチなことっていう言葉の意味は知ってるか?」
「知らない」
 ミカサは即答した。
「そうか……。これはな、男に対する最高の褒め言葉なんだよ」
 ミカサはうんうんと頷きながら聞いている。
「男の人に対して、女の人が「あなたとエッチなことがしたい」と言うと、それは「あなたは最高に魅力的」っていう意味なんだ。
ま、男の俺が言うのもなんだが、女の人にそう言われて喜ばない男はいないよ」
「なるほど。そうなのね」
「だから、告白する時にはそう言うべきだな」
「分かったわ」
「あ、だけど人前では言うんじゃないぞ。そのエレンという奴と二人っきりの時にだけ使うんだ」
「なぜ?」
「そりゃあ……、ラブラブすぎて、他の奴らがそこに居辛くなっちまうからだよ」
「そう」
 ミカサはどうやら納得したようだ。
「じゃあ、問題も解決したみたいだし、今日はこれぐらいでいいか?」
「ええ、ありがとう。今日は来て良かったわ」
 ミカサはすっきりした顔で俺に礼を言った。
「礼ならいいさ。また何かあったらいつでも来いよ」
「そうさせてもらうわ。それじゃまたね、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
 ミカサはそう言って、部屋に戻って行った。

バタンッ

 部屋のドアを閉め、俺はベッドに仰向けに寝転がった。
「さて、どうなるかな……」
 俺は静かに独りごちた。


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最終更新:2012年11月25日 15:00
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