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いちかとゆかりのキラキラパティスリー ~ゆかいな仲間達編(リオ受難編)~




「ここは?」
気がつくと俺はスーツ、いやタキシードか、を着て赤い絨毯の上を規則正しく歩いていた。そして右側を観ると俺の腕を組んで一緒に歩んでいる純白のウエディングドレスに身を包んだいちかの姿があった。思わず『えっこれって?、ひょっとして俺と?』と戸惑いつつもその美しい横顔に思わず見惚れているとその視線に気が付いたいちかがこちらを向く。
「えへへ、今日のあたしはどうかな?綺麗かな?」
ウエディングドレスとメイクのせいもあっていつもより数倍眩しい笑顔に直視出来ず俺はただ「ああ、」としか答えられなかったがそれでも。
「ありがとう!リオ君、私、幸せになるね!」
との言葉と同時に腕をスッと外し先に行こうとしたので追いかけようとすると。
「おいおい、いちかのドレス姿に見惚れてたな~エスコート役はそこまでだよ!」
その声にふと我に返り周りを見回すと知った顔ばかりだった。キラパティのメンバー、苺坂商店街の面々、更によく観るといちご山の妖精達も見つからない様にあちらこちらに隠れて盛り上がっていた。そんな中、ビブリーが近寄って来てそっと耳元で呟く。
「アンタ、エラかったよ!恋敵に送り届ける役なのによく立派に努めたよ!!あたしゃはアンタを見直したよ!」
と褒めてくれるのだが酒が入っているせいなのか今ひとつ何のことか伝わって来なかったがいちかが向かった先で待っている人物を見た時に全てを理解した。そこには全く同じウエディングドレスを着たゆかりが立っていた。
「と言う事は、この結婚式は…」
と確信した瞬間、祭壇に向かおうとするもビブリーがかなり酒が入っているのか「えらい、えらい!」と後ろから頭を撫でながら首に腕を回してるので動けない。更にその様子を見てたシエルが、これまたかなり酒が入っているのか正面から抱きしめて来て。
「ピカリオ、いちかをちゃんと見送る事が出来てあなたは本当に立派だったわ~寂しいかもしれないけどこれからは私とビブリーが一緒に居てあげるから安心して!ねえビブリー?」
「おうよ、あたしとシエルは…グエヘヘの仲、と言う事はピカリオはあたし達の弟だもんね~可愛がってあげるわよ~」
と身動きが取れない中で更に首を絞めてくるので意識が飛びそうになりながらも俺は祭壇のいちかとゆかりの婚礼の儀式を見つめていた。指輪交換が済んで定番の『健やかなる時も病める時も…』と続き『誓いのキスを』の時には力任せにふたりを振り解き祭壇へ向かって駆け出したのだが何故かいつまで経ってもいちかの下には到着しなかった。思わず『いちか~』と叫ぶとこちらを向いて満面な笑みを見せてくれているのだが隣にいるゆかりは勝ち誇った顔で優雅にこちらを見下ろしていた。その姿に尚一層に力を入れるが一向に前に進まない。
「いちか~俺は!俺は~」
と思い切り右手を伸ばそうとした時に『ゴンっ』と言う衝撃が全身に走って、目を開けると自分がベッドから落ちた事に、そして今観た事が全て夢だった事に心から安堵した。
「あ~あ、本当に縁起でもない。とんでない夢を見たピカ!」
と呟きあらためて辺りを見回すと自分の今の置かれてる状況を見て朝なのに思わず溜め息をついてしまった。今の自分はキラパティのイートインコーナーの片隅に置かれてる高さ150センチ程の見た目はログハウスで、平たく言うとちょっと豪華な犬小屋が寝床になっている。当然そのサイズなので中に入る時は妖精の姿にならなければならないし、正直言うとこの扱いには時に枕を涙で濡らす事もあるのだけれども、でもそれ以上に俺自身の目標の為に、そしてさっきの夢みたいな未来を回避する為にも何が何でもここに居続けなければならないとあらためて心に誓った。


目的地に到着してキラパティをオープンした時いちかとゆかりは心底驚いた様子だった。そんな彼女達に俺たちは『一緒に修行をして世界を回りたい』と伝えると途端にゆかりは険しい表情になって何かを言い出しそうになっていたがその前にいちかが俺達3人に飛びついて来て。
「シエル、ビブリー、リオ君!また一緒にスイーツを作れんだよね!嬉しい!嬉しいよ!!」
と涙ながらに抱きしめて大歓迎な姿に正に苦虫を噛み潰した表情をしていたが一息ついて平静を装って伝える。
「いちか、シエルとビブリーをこのキラパティに迎えるのは賛成するわ。でも女性だけの同じ屋根の下で男性であるリオは置く訳にはいかないわ!万が一、間違いがあってはいけないし。オーナーとしてもこれだけは絶対許可出来ないわ」
「え~ゆかりさん、リオ君なら大丈夫ですよ!」
と懸命に庇ってくれる嬉しい言葉にチクリと胸が痛んだが『今がチャンス!』とここに置いてもらう為の最後の手段に出た。
「ゆかりさんっ、必ずここでお役に立ちますからどうか俺をここに置いて下さい!お願いします!!」
と膝をつき頭を床に擦り付ける姿にキラリンとビブリーは息を飲んだ。その姿にいちかはゆかりにすがりつき。
「ゆかりさん、私からもお願いします!ここにリオ君も置いてあげて下さい!!」
との言葉にとても困惑した表情になったが一瞬、ふと何かひらめいたかの様な表情を見せて。
「分かったわ。私も別に3人と一緒に居たくなくて言ってる訳ではないのよ。でもここには住居スペースの部屋が二つしかないから言ってるのよ、そう言う事だから私はいちかの部屋に行くからシエルとビブリーは私の部屋を使ってちょうだい。いいわよねいちか?」
の言葉に『はい』とホッと安堵するいちかの姿にこちらも安心するも、でもよくよく考えたらふたりはこれから同じ部屋に居る事になる訳でひょっとしたら俺の行動は結果的にはふたりの仲を進展させるキッカケを作ってしまったのかもしれないと内心狼狽していると、それを見透かしたかのタイミングでゆかりがオブジェ中のひとつを指差して。
「…そう言う事でここには他に部屋がないので申し訳ないけどあなたはにはあれを使ってもらうわ。その姿では無理だけど妖精のサイズだったら充分でしょう」
と『うふふ』と勝ち誇った顔で俺に伝える。当然いちかは『そんな可哀想ですよ!』と大反対してくれたのが実際問題、部屋の空きはないしとりあえずいちかの側にいる事を最優先にし受け入れた。そしてこの時『この店に居られればそのうちにきっといちかと…』と内心ガッツポーズを取っていたのだが、それがいかに浅はかな考えだったとこの時の俺は知る由もなかった。



いちかとゆかりのキラキラパティスリー ~ゆかいな仲間達編(リオ受難編)~



5人の新体制になったキラパティで初仕事の日、俺たち3人は厨房に集められ朝礼が始まった。そして店長であるいちかから。
「今日から5人体制になった訳ですが、とりあえず3人にはこの店の1日の流れを見て欲しいので今日は見学してもらいますのでよろしくお願いします」
との予想外の言葉に驚く俺たち。それなりに修行を積んで来たので腕に自信があったし実際、コンテストでも何度も優勝してるのに『いきなり見学ってなんだよ』と少し不機嫌になっているとそれを察してかいちかが近づいて来て。
「勿論、リオ君もシエルも何でも出来るし私より腕が上なのも理解してるつもり。だってこの間もお店同士のスイーツ対決も負けちゃったしね。でもこれから一緒にお店をやって行くんだから私がどこまで出来るのか、これまでの修行の成果を3人に見てもらいたいの。ダメかな?」
と真っ直ぐな眼差しでお願いして来られたら断れる訳なく『じゃあ、見せてもらおうか』の言葉に『うん、見ててね』とゆかりの元に戻って行く。すぐにふたりで今日の店に出すスイーツの種類と数量についてディスカッションが始まりどんどんプランが練られ決まっていった。俺たち3人は壁際に移動してその様子を見ていたがふたりのスイーツに対する真摯な姿とその情熱がひしひしと伝わって来て、思わずこちらもすぐにでも一緒にスイーツ作りに参加したくなるほどだった。ふと隣のキラリンを見ると同様に感じたらしく頬が紅潮させながら見入っていた。やがてメニューも決まり『レッツラ、クッキング!』で始まったスイーツ作り、って言うか「未だにそれやってのか」と思わず苦笑してしまったのだがそれはすぐに引っ込んだ。

今のスイーツ界において「『琴爪ゆかり』と言うその名を知らぬものはいない」と言われる程に凄腕だと、世界中の有名店から誘いが引く手数多だと聞いていたけどこれ程とは正直思わなかった。キラパティの厨房は広い方ではない、が逆にそれを逆手にとって無駄のない動きで予め置いてある調味料と材料を数度往復しただけで見る見るうちに生地を焼き仕上げていく様子はまさに神業だった。出来上がったスイーツは全部でおよそ100ほど、7品同時進行だったがデコレーションも含めても全部を作り上げるのに1時間弱しかかからなかった。そして何より驚いたのがいちかの上達ぶりだった。海外に出発する前にウチで修行した日の姿が遠い過去の様に感じる程の立派なスイーツ職人に成長していた。諸外国を回ってるうちに独学で腕を磨いて来たんだろうし、そしてゆかりが帰ってきて随分と手ほどきを受けたのは明白だった。何しろあの動きについて行って更に指示まで出していたのだから。そういえばスイーツ対決の時は自分達の事に夢中で彼女達の作業はほとんど見てなかったし、それに勝敗の決定は来場者の投票だったが僅差の勝利だったのを思い出した。その光景に俺たちは声にならずに固まっていると。
「どうだった?リオ君、シエル?今日は上手く出来たんだと思うんだけど試食してみてくれる?」
と出来上がったスイーツを差し出して来た。それはあの頃と同じうさぎショートケーキ達で、聞けばずっとこの店の定番なんだそうだが一口、口に入れてみるとキラリンもビブリーも。
「美味っしい~!!!」「パルフェッ!!」
とそのあまりの美味しさからか昇天しかねない程の恍惚な表情を浮かべ震えていた。俺も続いて味見してみたが思わず『これはっ!』と声に出してしまった。この優雅な上品さを感じる中に素朴と言うか食した者を元気に、あるいは応援してくれるかの様な優しさが伝わって来た様に感じた。そしてそれを自分が感じた事をそのままいちかに伝えると。
「え、本当に~?!やった~ゆかりさん!!」
と嬉しさのあまりに飛びつきゆかりも優しく受け止め微笑みあってる姿にあらためてふたりの仲の良さが、絆の深さが伝わって来て、と同時に普段ゆかりがいちかにベッタリでも別段気にしない様子にはまだLOVEかLIKEかは分からないけど彼女の事が大好きで心底信頼しているからこそなんだと理解した時には、自分が選んだ道が容易ならざるものだったと再認識せざる得なかった。思わず呆然としているとシエル近づいて来てそっと耳打ちして。
「ピカリオ、パテシエの修行としても恋敵としのぎを削るにしてもここは最適な場所だけど、どうする?」
とキラリンが俺の内心を見透かした様にウインクして来たのに我に返り自分の当初の目的を思い出し。
「ああ、そうだな。俺はここでパテシエとしても男としても大成してみせるよ!」
と笑顔で返すと「さっすが、我が弟!」
といつもの様に抱きついて来たのでそれを見てたビブリーが呆れて。
「あんた達、本当にいつまで経っても変わらないわね~永遠のブラコンにシスコンだわ」
その言葉にいちかとゆかりも可笑しそうに笑いあっていた。こうして俺たち3人はキラパティの一員として働く事になった。

これまではシエルと2人でずっと店を切り盛りしてたので他所を知らなかったせいもあって『キラパティでは果たして?』と思ってたが意外と言うか、あっさり溶け込む事が出来たのはいちかの力が大きかっただなとしみじみ思う。ゆかりの方はと言うと真面目に仕事をしている分、って言うか勿論そのつもりで頑張っているのが伝わった様で特に意地悪や妨害などはなく、むしろ皆で新作のスイーツの開発等で話し合う時には熱い討論を交わす場合があったりして、いちスイーツ職人として見ても常に高みを目指す姿勢は尊敬出来ると感じていた。
キラパティの1日の流れは開店前に皆でスイーツ作りをして準備し備えて、開店後はカウンターにはいちかとゆかりとシエルが交代で立ち、スイーツの売れ行きと追加が必要かのチェックをしている。俺とビブリーは主に店に立ってギャルソンとセルヴーズとして接客し注文取りをしているのだがその大盛況ぶりに常にてんてこまいで、果たしてふたりだった時はどうやって回してたんだろうと疑問に思ったのでいちかに聞いてみたら。
「そうなんだよね~開店前に目一杯、作り置きしておくんだけど午後イチには完売しちゃうから追加分はもうお昼食べないでずっとふたりで作ってたんだよね~でもゆかりさんと一緒だったから全然苦じゃなかったよ」
とふとゆかりの方に目線を送ると気づいて一緒に微笑み合う。その様子に『ああ、あの時にいちかが最初に日本を立つ時に一緒に付いて行ってればこのポジションきっと…』と思うと悔やんでも悔やみきれない。

自分の本来の目的はともかくパテシエとしてキラパティの一員としてそれなりに順風満帆な日々を送っていたのでついつい忘れてしまっていたが、やっぱり俺と言う存在はゆかりにとっては『招かれざる者』だったんだなと、それを実感出来たのはキラパティに来て約1ヶ月後だった。最初の給料日に俺たち3人が整列させられてオーナーであるゆかりが。
「シエル、ビブリー、リオ、お疲れ様でした。これが今月分の給料です。ただ知っての通りこのキラパティは店長のいちかの方針でたくさんの人に安くて美味しいスイーツを提供したいので、優先すべきはお客様ですのであまり高い給料は支給出来ません。どうかご了承ください」
と深々と一礼する隣でいちかが申し訳なそうに頭を掻きながら。
「えへへ、皆ごめんね~でも私、皆と一緒にキラパティが出来て嬉しいんだ~本当にありがとうございます」
とゆかりに倣って深々と一礼する。その姿に思わずいたたまれなくなったのかシエルとビブリーが駆け寄り。
「ボン、私はいちかとゆかりと一緒に修行したいからここに居るのよ!だからそんな事は気にしないで」
「あたしはスイーツが好きなだけ食べられんだったらどこでも良いんだけど、でもこんなにとっても美味しいスイーツがある所を他に知らないからここに居るのよ!」
とそれぞれの自身のキラパティへの想いを伝えるといちかが目を潤ませながらふたりに抱きついていた。続いて俺もと。
「いちか、俺もふたりと一緒だよ。ここでしか学べない事があるからこそ俺たちはここに来たんだ、だからこれからも一緒にスイーツ職人として高みを目指そう!」
との言葉にいちかがこちらにも駆け寄ろうとした瞬間、ゆかりがスッと間に入り。
「いちか、それじゃ皆に渡すわよ。良い?」
の言葉に我に返ってしまったみたいで『はい…』恥かしそうに赤くなりながら下を向いてしまった。シエル、ビブリーに続き給与袋を受け取ったのだが一瞬、ゆかりがほくそ笑んだかの表情をした気がしたので不思議に思っていたら部屋に帰って封筒を開けたら全てを理解した。この1ヶ月間かなり働いてきたつもりなのに随分と少ないなと思ったら計算してみるとこのご時世なのに時給500円だった。更には寮費も差し引かれていて、って俺だけこんな犬小屋なのに!『何故?』と腹ただしく思えたが瞬間、先程のいちかの姿が頭をよぎって落ち着きを取り戻す。『そうかこの待遇は俺だけじゃなくきっとキラリンとビブリーもなんだな」と納得する事にしたのだが後日さりげなくふたりに『給料はどうだった?』尋ねると。
「ああ、あれ。ゆかりはあんな事言ってたけどそれなりに入ってたわよね 謙遜して言ったのかしらね」
と口を揃えて言うのでとぼけて口裏を合わせてそれとなく大体の金額を聞くとどうやらふたりとも自分の3倍以上の金額をもらっていた…。その事実に腹が立ちすぐに抗議しように行こうかと思ったけど、おそらく文句を言えば『気に入らなければ出て行けば?』と返されるだろうし、ゆかりの独断でやった事だから当然いちかは知らない訳で、となると俺が『お金の事で揉めてる』と知れば悲しむ事になる。あの給与明細を見せると言う手もあるがそれだと告げ口したみたいで何だか男らしくないし… と言う事でここは涙を飲んで我慢する事にした。

それから更に数ヶ月が経った頃には人間関係においても色々と変化があった。俺もキラパティに随分と馴染んで来たつもりでいたがそれ以上にキラリンとビブリーは馴染んでいて、と言うのも最初こそはどことなく距離を置いてる感があったゆかりだったが、やはり年頃の女の子同士と言う事もあって今では仲良し4人組状態になっている。そのせいか毎回5人で同じテーブルに座って食事をしているのだが最近は彼女達を遠くに感じる事が度々あった。例えばこの間も。
「ねえ、そう言えばいちかの部屋には新しいベットは入れないの?あれから随分と経つけど」
「うん、キラキラルでもすぐ作れるけどゆかりさんがベット位はちゃんとした物が欲しいからって今探している所なの」
「そうなの。でも中々、良いのが見つからなくて。まあ見つからなくても良いんだけど…」
と少し困った様な表情をしつつもさらりと本音を口にする。
「そういえばビブリーの方はどうなの?シエルと一緒に寝てるんでしょう?」
「あ~、あたしはノワールの元に居た頃は寝る時にはイルを抱いてたのよ。でその癖がずっと抜けないので今じゃシエルにお願いしてキラリンになってもらって一緒に寝てもらっているの…」
と少し前には考えられほどの可愛らしい表情で頬を赤くして告白する。その様子にキラリンは『ポンッ』と妖精の姿に戻り『こんな感じキラ~』とビブリーの胸元に納まり得意げな顔をしている。その様子が微笑ましくて笑いが起きたが、そんな中さりげなく爆弾発言が出た。
「ビブリーってとっても良い匂いがするキラ、だからこうしているとよく寝れるキラ!」
と向きを変えて彼女の胸元に顔を埋めようとする。当然「やめてよ~皆見てるわよ…」と赤くなって抗議しているのだがそれほど嫌がっている様には見えなかった。それよりもそんな光景を見ていちかはどんな反応をするか心配だったがそれは完全に予想外だったので固まってしまった。
「ふんふ~ん!、私のゆかりさんだって良い匂いするんだから!おかげで毎晩よく眠れんだから~」
とゆかりの腕に抱きつき何故か対抗心を燃やしていた。一瞬、いちかとキラリンの視線があって火花が散ったがすぐに。
「本当に良い匂いするならキラリンもゆかりとも一緒に寝てみたいキラ~」
とふわふわとゆかりの元に行こうとするので『ダメっ~!!』といちかとビブリーが声を荒げて制止する。
「ゆかりさんは私のものなんだから!!」
と彼女の頭を胸元に寄せて抱いて身構える。一方、ビブリーはキラリンを行かせまいと必死に抱きしめている。やがて苦しくなったのか。
「冗談キラ…ビブリーが一番…キラ」
の言葉に解放されるとシエルの姿に変身し。
「もうビブリー力入れすぎ!本当にもう、私だって貴方の方が…」
と言いかけた時にビブリーが下を向き涙ぐんでいるのに気がつき駆け寄り抱きしめ耳元でしきりに『ごめんなさい、大好きよ』と囁いている。そんな状況をゆかりは実に楽しそうに「うふふ」と眺め、いちかは『良かったあ』とゆかりの肩に頭を寄せて微笑んでいる。
…そんな様子を一部始終見ていると内心『ここには男の俺がいるんだぞ!』と叫びたくなってくる。いや信頼出来る仲間だからこそありのままの姿を見せてくるのか、それとも…。何れにしても側で聞いてて赤面するばかりだ。更に不可解なのは数分後には彼女達はさっきの事がまるで無かったように普通に会話して楽しんでいるものだから、そんな様子を間近で見続けたせいでいつの間にか躊躇してしまって彼女達の会話の輪の中にに入っていけなくなってしまっていた。ふと、そういえばキラリンとふたりで店をやっていた時には人目を憚る事なくやたらベタベタとスキンシップをとって来た頃が懐かしく感じてきた。

そんな感じな日々が続き仕事の方こそ順調だがそれ以外ではあまりパッとしない日々が続き、それこそ1人で部屋にいると孤独のあまりに再び闇落ちするかもと思う時もあったのだが、でも今はそんな不安を簡単に吹き飛んでしまう位の、何にも増して大切な時間があってそのおかげで『俺は生きていける』なんて言っても本当に過言じゃないんだよな、なんて考えてる時にちょうど『コン、コン』とドアをノックする音が聞こえた。
「こんばんはリオ君、起きてる?」
声の主は勿論いちかで、俺を気遣ってくれて週に何回かはこうして夜食用にスイーツを作って来てくれて一緒に夜の秘密のお茶会を開いている。ふたりでテラスに並んで座って月を眺めながらいちかの淹れてくれたお茶と俺の為に作ってくれたスイーツを食べる、今の自分にとっては何より至上で幸福な時間だった。今晩のスイーツはワッフルだったので内心嬉しくて舞い踊りしそうになりつつも努めて平静を装ってたんだけど一口、口に入れてみるとこれがまた予想以上に美味しくて自然と頬が緩んで来て『やはり腕を上げたなあ』なんて思っている時に、ふと横を見るとそんな俺の表情を見て次に何を言うのか目を輝かせながら期待しているいちかの顔があったのだけれどもここは彼女の成長を促す為にも敢えて。
「まだまだだね!」
と伝えると『そっか~』とガッカリした様子だったがすぐに顔を上げ『次はもっと美味しいのを作るね!』と鼻息荒く立ち上がる姿に思わず苦笑して。
「はは、それでこそいちかだ!」
の言葉に『何よそれ~もう次は絶対、美味しいって言わせるんだから~』とむきになって顔を見合わせるも次の瞬間にはおかしくてお互い笑いあってしまった。その後はふたりで静かに月を眺めていたのだが、そっといちかの方を向くとその月明かりに照らされたその横顔の美しさに『ドキッ』と感じた瞬間にずっと秘め続けた想いが込み上げて来てしまい思わず彼女の両手を取ってしまったそして。
「いちか、実は俺、俺は…」
と言いかけた瞬間に突然背筋に悪寒が走り、辺りを見回すとキラパティのドアの陰から漆黒の闇のキラキラルを纏って立っているキュアマカロンと目が合った…その目は真紅に爛々と輝き、よく見ると指先からはアダマンチウムの爪が伸びている。その姿に恐怖のあまり固まり目を離せないでいると静かに口元が動く。
「イッペン、シンデミル?」
…思わず声にならない悲鳴を上げるのと同時に。
「魔、魔カロン…」
と呟くと突然固まってしまった俺に不思議そうに『マカロン?分かった、次はマカロン焼いてくるね』とのいちかの言葉に我に返り。
「そ、そうなんだよ~俺今度はマカロンが食べてみたいなあ~それよりも明日も早いしもう寝た方が良いよ!ゆかりさんも待っているだろうし」
と思わずまくしたてて伝えると。
「何言ってるの、ゆかりさんは寝てるんだよ~変なリオ君。分かった次はマカロンね!まかせておいて」
と笑顔の返事にふとドアの方を見るとそこには既に彼女の姿はなかった。
「じゃあお休みなさい!」
の笑顔の返事に『ああ、お休み』と返事し妖精の姿に戻って部屋に戻ってベッドに入るも『あの』姿がを思い出す度に身震いしてなかなか眠りにつく事が出来なかった。

翌朝、気がつくと俺の部屋、ログハウスのオブジェはキラパティの入口の脇に置かれていた。瞬時に俺はその状況に理解した。『次は無い…と言う事か』と、これは最後通牒なんだと。その様子にいちかが心配して『リオ君、これはどう言う事なの?』と声をかけてくれるのだけれどもゆかりが。
「いちか、このキラパティは女性だけで心配だからとこれからは彼がここで警護して私達を守ってくれるそうよ。ねえリオ君」
と全く目が笑ってない笑顔で俺に言ってきたので。
「ああ、任せておけ!これからは俺がこのキラパティの平和を守るから夜も安心して眠れるぞ~」
とヤケ気味のテンションで宣言する俺の姿にシエルとビブリーは何かあったんだろうなと察し気の毒そうにこちらを見ている。するといちかのは近くに来て。
「リオ君、色々と気を遣ってくれてありがとうね、今晩はマカロンを持って行くから楽しみにしててね」
とそっと耳打ちしてくれたので一転、幸福が訪れたかと思いきやその様子を目だけは昨晩と同じ輝きを放ってこちらを見ているゆかりの姿が目に入ったので。
「いちか、ありがとう。でも夜更かしは女性のお肌に禁物だって言うし、それに今はまだ寒くて冷えるから暖かくなってからで良いかな」と伝えると。
「え~そう?私は別に大丈夫なんだけどな~じゃあまた今度にするね」
と一連のやりとりの様子を観察してたゆかりは満足そうな表情を見せると彼女の後を追って店の中に入って行った。

その日の晩、寒空の下スキマ風が吹く部屋に戻りベッドに入る。とりあえず今回は生き延びる事が出来たけど果たして俺はこの後どうなってしまうのだろうか… 今の置かれた状況はどう考えても崖っぷちとしか言えないけれども、それでも『いつか必ずいちかを俺に振り向かせてみせる!』とあらためて心に誓い闘志を燃やすリオであった。 果たしてこの後リオが見た夢は現実になるのどうか…。



最終更新:2018年03月10日 11:37