Soliste Echo -プリキュア スーパースターズ Ver.1.1- 予感
「…」
一瞬、口を尖らせかけた あゆみに、エンエンが首を傾げた。
「どうした」
グレルがあゆみの勉強机から見上げながら言う。
「ほのかちゃんも出ない」
「なーにやってんだ、あいつら」
腕を組んだグレルが小さな指をパタパタさせている。どこでそういうポーズを覚えたのだ、とあゆみは思った。
春が近い。恒例の、プリキュア花見大会の計画も始まっているはずだ。学校の友人から穴場を教えてもらったので、そこを提案してみようと思って美墨なぎさに電話をかけてみたが通じない。最初にかけたときは夕方だったから、夜を待ってもう一度かけてみたが同じだった。そして、雪城ほのかも出ない。ラクロス部は練習が夜にかかることもあるかもしれないが、科学部はそんなことなさそうな気がする。九条ひかりは就寝が早い、と聞いたことがあるので、おそるおそるかけてみたが、やはり出なかった。
「みんな、忙しいのかな」
「お花見より大事な用事なんかないだろ!」
エンエンの言うことが気になる。たまたま三人とも忙しかった…。学年末で、試験もあるだろうし――それはあゆみも同じだが――暇を持て余している、ということはないだろうが、それは電話に出る暇も、コールバックする余裕もない、というほどのものだろうか。
「あゆみ、どうすんだ」
「明日、もう一回、電話してみる。もうこんな時間だし」
「早く決めてもらわないと困るぞ。俺だって忙しいんだ」
「何に?」
あゆみとエンエンの声が揃うと、グレルは悔しそうな顔でそっぽを向いた。あゆみとエンエンが顔を見合わせて笑う。
「明日まで待っててくれる?」
「しょうがねぇな。俺はもう寝るぞ」
「うん。おやすみなさい」
あゆみはスマートホンを置いた。
「あゆみ…」
さすがのグレルも大きな声を出さない。いや、出せない。エンエンは不安そうにあゆみを見上げている。
翌日、学校から帰ったあゆみは、なぎさとほのかが相変わらず電話に出ないことを確認すると、日向 咲、夢原のぞみ、桃園ラブ、花咲つぼみ、とかける相手を変えていった。最後が朝日奈みらい。誰も出ない。さらに、出なかった人と生活のリズムが違う仲間――例えば、高校生の月影ゆり、小学生の調辺アコや円亜久里、仕事で学校に行っていない可能性のある剣崎真琴――にもかけたがやはり同じだった。
(どういうこと)
最初のうちこそ、「あゆみに何かサプライズを用意していて、それで電話に出ないようにしているのではないか」などとからかっていたグレルとエンエンだが、あゆみがいくら相手を変えても一人も出ない、ということがわかると、笑いが消えて行った。
(何が考えられるだろう)
いや、「大丈夫だ」と思える答えは出てこない。
「ケータイじゃなくてうちにかけてみたらどうだ」
「それは…よくないかもしれない、って気がする」
想像の通りだとすれば家族はかなり心配しているだろう。そこに電話をすることはためらわれる。そして、もっと悪い想像として、家族も同じような目にあっていたり、ということはないか。
ふたたびスマートホンを手に取るあゆみ。ここは、あとで「心配し過ぎ」と笑われるのを覚悟のうえで、全員に連絡を取ってみるべきだった。
しかし。
あゆみは、名前を書きだしたノートを見ていた。何度コールしても出ないのが数人、「電源が切られているか電波の届かないところに」となったのが大半。
結論は出た。「プリキュアに何かあった」のだ。
「でも、そうだとしたら、どうして」
なぜ、あゆみ、キュアエコーが無事なのか。
それはわからない。単に順番の問題で、たまたま最後に一人残っているだけなのかも――
あゆみの背中を悪寒が走った。
(私が、最後のプリキュア?)
体がぶるっと震えた。
「あゆみちゃん」
「あゆみ!」
グレルとエンエンが机から見上げている。その温かい視線にあゆみは我に返った。
(しっかりしなきゃ)
あゆみは自分に言い聞かせた。電話が通じないだけだ、と。湧き上がってくる不安と恐怖を押しつぶすように胸の中で何度も繰り返した。
だが、それは気休めのための努力でしかない。
おそらく、このまま待っていれば、敵が姿を現すはずだ。それが何者なのかはわからないが、プリキュア全員を手にかけたのだとしたら目的があるはずで、黙っているはずがない。
だが、それを待っているわけにもいかない。何かが起こっているのだ。じっとしているのは間違いだ。どうすればいい? たった一人で――
あゆみの顔が上がる。グレルとエンエンはそれを追うように見上げた。
まだ、連絡を取っていないところがある。あゆみは力を込めなおすように手を握って開いた。
スマートホンを手に取り、検索用の入力欄をタップする。思い出せ。名前はなんだった。まだ会ったことがないので、個人の番号は知らない。手がかりは店の名前だけだ。確か。
「あった、キラキラパティスリー」
あゆみは通話ボタンを押した。
呼び出し音が、一度、二度。
(出て。お願い)
三、四。
(お願い、誰か!)
五――
《お待たせしました、キラキラパティスリーです》
女の子の声。
「いた」
《もしもし?》
「あの、私、坂上あゆみって言います」
《はじめまして。宇佐美と言います》
「宇佐美いちかさん?」
《は…はい、そうですけど》
「あの、宇佐美さんの名前は、みらいちゃんとリコちゃんから聞いて」
《みらいちゃんとリコちゃん…あぁ。はい、えっと、それで》
「私も、プリキュアなんです」
《…》
「あの、もしもし?」
《なんですとーっ?!》
最終更新:2018年10月06日 10:03