Soliste Echo -プリキュア スーパースターズ Ver.1.1- 巨人
あゆみは駅を出ると走り出したが、坂の途中で足を止めた。
「すごい坂だね」
「これは…」
トートバックの中のグレルも、この長い坂を見て、早く行け、とは言わなかった。
あゆみは、いちかには異変の話をしていない。いちかが、みらいやリコから名前を聞いただけのプリキュアから電話がかかってきたことに興奮していたせいもあるし、翌日は出張販売の予定で忙しそうだったこともある。その出張販売の場所は横浜から行ける距離だったので、そこで会って話そうと考えた。花見のことは、いちかの方から、「はるかちゃんがそのうち連絡する、って言ったけど、どうなったかなぁ」と言ってきたので、ほかの誰かに聞いてみる、とかわした。
「上り切った…」
「あゆみちゃん、大丈夫?」
「うん。あとは下りだしね」
「どんなやつらなんだろうな」
「『やつら』とか言っちゃダメ」
あゆみはトートバックの上からグレルをこづいた。
この不安な状況にあっても、そこは楽しみである。
〈フーちゃんも楽しみ〉
今はキュアデコルに姿を変えたフーちゃんも楽しそうな声で言った。
「着いた…けど」
上りが長かったのだから、下りも相当に長い。その、下りきったところに広場があった。移動式の遊戯設備がいくつか並んでいる。どうやら何かのイベントをやっているらしい。奥に「キラキラパティスリー」の看板も見えた。
「賑わってるみたいだね」
「うん、いいにおい」
「あ、あゆみ!」
グレルが突然、大きな声を出す。
「どうしたの?」
「太陽マンだ!」
「たい…え?」
トートバックから身を乗り出して指さしている。キラキラパティスリーの建物とは反対の方向に小さなステージがあり、「太陽マン ヒーローショー」と書いてある。
「グレル、今はそれより」
「行ってみようか」
「でも、あゆみちゃん」
「今は、忙しくて難しい話を出来る感じじゃなさそう。それに、宇佐美いちかさんがいないみたい」
長いツインテールだと聞いた。そろいの制服を着た女の子は五人いるが、それに当てはまる人がいない。
「わたしも一休みしたいし」
「だろ。だろ?!」
「いいけど、興奮してバッグから飛び出したりしないでね」
あゆみは、笑顔を振りまいてスイーツを売っている立神あおいたちの横を通り過ぎて、ヒーローショーの会場に向かった。
異変が起こったのは、しばらく後である。
「なに?」
立ち上がる あゆみ。
空に巨大な扉が現れたかと思うと、そこから黒い巨人がこちらに乗り込んできた。手と足、それに顔らしいものがあるから「巨人」と言ってもいいだろうが、それを「人」というのはためらわれる。あゆみは直感した。プリキュアたちに何かが起こったとすれば、あれと関係がある。
「あゆみ!」
「うん!」
一瞬、襟元のキュアデコルが熱を持った。
〈いやな感じがする〉
フーちゃんも同じことを感じている。
海に向かって走る。見たことのないプリキュアが戦っていた。
「あれが、いちかちゃんたち」
「すげぇぞ!」
軽やかに飛び回り、色のきれいなリボンを打ち出しては巨人を翻弄し、拘束している。
その姿が少しずつ大きく見えてくる。だが、護岸の向こうにプリキュアの姿が消えたかと思うと、巨人は扉の向こうに行ってしまった。
「どうしたんだろう」
〈プリキュアの光が消えた〉
フーちゃんがつぶやく。あゆみは浜に降りる階段に飛びついた。そこに、ふたりの少女が上がってくる。
「ごめんなさい」
赤ん坊を抱えた少女と、長いツインテールの少女が、ぶつかりそうになった謝罪もそこそこに走っていこうとする。
「待って!」
うるさいな、と言いたげな険しい表情で振り返る少女たち。
「宇佐美いちかさん、じゃないですか?」
「…そうですけど」
「何があったんだ!」
グレルがバッグから飛び出した。エンエンも続く。
「妖精…?!
じゃ、あなたは、坂上あゆみちゃん!」
「どうしたんですか?
プリキュアのみなさんは?」
「みんなは――
みんなは…」
いちかの視線が落ちる。野乃はなは、それを心配そうに見やったあと、あゆみに視線を戻した。
「ウソバーッカ…さっきの化け物に捕まってしまいました」
「捕まった…」
「いちかちゃんの仲間も、私の仲間も…」
「せや、えらいこっちゃ」
「ネズミがしゃべった!」
「俺はハリハム・ハリー様や!」
赤ん坊のハグたんは、ふたりの曇った表情をよそに、グレルとエンエンに向かってハギュハギュと手を伸ばしていた。だが、今はそれに頬を緩める者はいない。
「つまり、二組のプリキュアが捕まってしまった、ということなんですね」
いちかと はなが頷く。
「変身して助けに行こうよ」
エンエンが言ったが、いちかと はなは弱々しく首を振った。
ポケットから何かを取り出す。石ころに見えたそれは、どうやら変身アイテムのようだった。
「変身できないってことか」
だまって頷くふたり。
「坂上さん、ほかのプリキュアの皆さんは」
いちかがやっと声を出した。
「え、いちかちゃんたちのほかにもプリキュアがいるの?!」
はなは驚いてそう叫んだが、この坂上あゆみという少女が最初に「プリキュア」という言葉を使っていたことを思い出した。
「それが…」
〈あゆみ…さっき、ウソバーッカがいなくなったらプリキュアの光も消えた〉
「だから、それは――え」
「プリキュアがみんなウソバーッカに捕まってる、ってことか!」
グレルが叫ぶ。
「ひょっとして、それを伝えに、わたしのところに」
今度は、あゆみが頷いた。
それきり彼女たちは黙った。ハグたんも、不安げに はなたちの顔を見ている。
「せや、それで、どこ行くつもりやったんや、いちかはん」
「そうだ。
桜が原に行こうと思ってたの」
「桜が原…?」
最終更新:2018年10月06日 10:17