Soliste Echo -プリキュア スーパースターズ Ver.1.1- 決心
三人は苺坂に向かった。そこにある神社の境内。
いちかはポーチから「スイーツ」のマークが描かれたカードを取り出した。
「桜が原は、この世界の町じゃないんだけど、サクラっていうコは、世界を渡っていく力を持ってるんだ」
その後、そのカードを通じて何度かコンタクトを取ったことがあるという。
「スマホみたいに使えるの?」
「っていうか、このカードを持って、サクラとお話ししたい、って思うと――」
いちかはそのカードを強く握って目を閉じた。
時が移る。いちかの眉間が険しくなり、汗が流れ、やがて歯を食いしばったが、やがて、はぁっと息を吐き出した。
「だめだ、サクラの声が聞こえない」
「いつもはすぐに聞こえるの?」
「そういうわけじゃないけど…今は、なんか、届いてる、って感じがしないんだ。呼び出し音も鳴ってない、っていうか」
「ちょっといいですか」
あゆみは、いちかのカードに手を重ねた。
「…」
確かに。なにかとつながる力を持っているもののような感じがする。言えば、キュアエコーの光の力と共通点がある、ような気がした。
「そのサクラっていうコに手伝ってもらう、っていうことですね?」
「うん。
ウソバーッカは、マホウ界に行く、って言ってた。でも、私たちはみらいちゃんやリコちゃんと一緒でないとカタツムリニアは乗れないから」
「わかりました」
「なにが…わかったんですか?」
はなとハグたんが一緒に首をかしげる。それを可愛いと感じている余裕は今はない。
「フーちゃん、グレル、エンエン。
お願い」
〈うん〉
「よしきた!」
「思いを届けるプリキュアの登場だね」
あゆみは、グレル、エンエンと手をつないだ。
胸元のキュアデコルが瞬き、三人のトライアングルが光を帯びる。
「思いよ届け、キュアエコー」
「…」
「キュアエコー…」
「すごい!」
「きれい!」
「かわいい!!」
いちかと はなはもちろん、ハグたんも、小さな体のままのハリーも飛び跳ねて喜んでいる。
「うけてるな…」
グレルがつぶやいた。かすかにほほを染めるキュアエコー。
「あの…カードを貸してください」
「よろしくおねがいします!!」
お辞儀をするようにカードを差し出すいちか。はなも覗き込む。
カードの縁が光っていた。キュアエコーがゆっくりと息を吐く。
はなはそれを、何か困っているのだ、と思ったらしい。突然、大きな声を出した。
「フレ、フレ、あゆみちゃん!
フレ、フレ、エコー!」
「あの…」
キュアエコーが苦笑気味に言う。
「ちょっと集中したいので…」
ハリーがはなの足をコンと叩く。はなは体を小さくして恐縮した。
キュアエコーが手のひらを上に向けると、カードは浮き上がり、零れ落ちた光の粒が、キュアエコーの周りを舞った。やがて光の粒が空に吸い込まれていく。
「サクラさん…聞こえますか?」
〈誰?〉
「サクラの声だ!」
〈誰なんですか?!〉
キュアエコーの目がかすかに動く。
「私は坂上あゆみ、キュアエコーです」
〈プリキュアなの?! いちかのお友達?〉
「サクラ、私だよ。いちかだよ!」
やはり、サクラには、今のいちかの声が聞こえていないようだ。
キュアエコーはいちかに向かって手を伸ばした。わけがわからないまま、いちかはその手を握った。
「えっと…」
〈いちか!〉
サクラの声が明るさを取り戻した。
「どういうこと…?」
はながキュアエコーの顔を覗き込む。
「思いを届ける、それがキュアエコーの光の力なんだよ」
かわりにエンエンが答えた。
「だから、いちかちゃんはサクラってコとお話ができるようになったの?」
「そういうこと」
なぜかグレルがキュアエコーの代わりに威張っている。
その間にいちかはサクラへ事情を説明していた。
〈でも、あたし、そっちに行けないんだ〉
「どういうこと?」
〈ずっと試してたの。でも、この扉が開かない〉
〈うちも手伝ぅとるんやけど、びくともせんの〉
「シズク」
いちかは知っているようだったが、キュアエコーも はなもそれが誰だかはわからない。ひとまずは、サクラの仲間だろう、と理解した。
〈あ、扉が少し軽なったような気もする〉
「ひょっとしたら、キュアエコーの力のおかげかな」
それはありうる。声だけとはいえ、こちらの世界と桜が原との間がつながったせいかもしれない。
「ちょっといいですか」
キュアエコーはいちかの手を放すと、自分の両手を結んだ。それをカードの下に向けて伸ばし、すうっと息を吐いて手を開いた。
〈扉が動くよ!〉
できる。
「いちかさん、はなさん。
たぶん、桜が原への扉を開くことができると思います」
「キュアエコーの力で?」
「いえ、正確には、私とサクラさんの間の――」
「ありがとう!!」
いちかとはなが感謝に満ちた顔を寄せてくる。キュアエコーはまたほほを染めてのけぞった。
「あの、ちょっと離れてもらえますか?」
「はは、ごめんなさい」
ふたりが下がる。キュアエコーは、手で、もう少し、と示した。
2m ほどの距離になると、キュアエコーは正面にあったカードを下から跳ね上げた。カードは光の粒を残して、宙に舞い上がった。
「プリキュア ハートフル・エコー!」
キュアエコーの指から発せられた光が、カードに吸い込まれていく。ふっと光の脈動が収まると、まるでケーキにナイフを入れたように、目の前の空間が割れた。
「サクラ!」
「いちか!」
割れた空間は扉になり、中からかわいらしいピンク色のドレスを着た少女が飛び出してきた。おっとっと、とバランスを崩しそうになり、いちかに抱きとめられる。向こうで体ごと扉に力を込めていたのだろう。
キュアエコーは、よかった、と息をついた。
「サクラ、すぐで悪いけど、私たちをマホウ界に連れて行って」
「うん!」
サクラに続いて、いちか、はな、ハリーが扉の向こうに飛び込んだ。
「エコー、あなたも来て」
「いえ、私は残ります」
「どうして?
みんなを助けるの手伝ってほしいんだ」
キュアエコーは首を振った。
グレルとエンエンも、どうした、と不思議そうに見上げている。
「残ります。
この世界にプリキュアはいないから」
「!」
そうだった。
プリキュアアラモードの五人も、HUG っとプリキュアのふたりも、そして先輩たちも皆、ウソバーッカの中に捕らわれている。みらいたちはまだ無事かもしれないが、それはマホウ界のこと。この世界、ナシマホウ界にいるプリキュアはたった一人、キュアエコーだけ。
昨夜の心配は現実になったのである。
「エコー…」
「心配するな。俺たちにドンと任せておけ!」
「大丈夫だよ」
グレルが胸をたたき、エンエンが微笑む。ポシェットから漏れた光は、フーちゃんも同じ気持ちだということだ。
「あんた…」
顔を上げる。扉の向こうに、きれいな青のキツネがいた。
「あなたは…」
「わたしの名前はシズク。サクラの友達。
あんたに、カードを一枚、預けましょ」
キュアエコーの前にカードが浮かび上がった。さっき、いちかが持っていたのと同じもの。ただし、中央のマークは「扉」だった。
「あんたにはなんや、うちらと近いものを感じる。きっと、このカードが役に立つ思う」
それがどういう意味かはわからない。だが、これからの一人きりの戦いの役に立つのであれば、それが何であっても欲しい、というのが偽らざるところだった。キュアエコーはカードを手に取った。
「すぐに戻ってくる」
いちかが表情を引き締めて言った。
「うん」
「ありがとう、キュアエコー」
走り出すいちかたち。その背中を隠すように扉が閉まる。切れ目はすぐに消え、あたりはなんの変哲もない神社に戻った。
「さて、俺たちの力の見せ所だぞ」
無言でうなづくキュアエコー。
いちかたちの言うとおりであれば、ウソバーッカはマホウ界だ。だが、いつ戻ってくるかわからない。それは、マホウ界で苦しめられてこちらに戻ってくるのかもしれないし、それはそれとしてこのナシマホウ界で悪事を働くのかもしれない。あるいは、狙い通りにみらいたちをも捕らえ、最後のプリキュアを始末しにやってくるのかもしれない。
〈あゆみ…〉
フーちゃんが小さな声を上げた。キュアエコーは手を必要以上に固く握っていた。
不安? ある。あるに決まっている。
だが、この世界にプリキュアは一人しかいないのだ。であれば、道も一つしかなかった。
最終更新:2018年10月06日 10:18