Soliste Echo -プリキュア スーパースターズ Ver.1.1- まだ
マホウ界では、リコとことはがウソバーッカの中に飛び込んだ。魔法で中からみなを脱出させることができるだろう、と考えたからだったが、そうはならず苦戦していた。
はな、いちか、みらいの三人は辛うじて脱出に成功した。そこで、あのウソバーッカが、かつて はなが不思議な空間で出会ったクローバーという少年に「闇の鬼火」がとりついたものであることがわかる。はなは、クローバーを傷つけたことを謝り、闇の鬼火につけいらせないようにするため、六角塔の「時の扉」を目指す。
六角塔は見つかり、闇の鬼火にクローバーを利用させないようにすることはできた。だが、闇の鬼火は、中にプリキュアたちを抱え込んだまま巨大化してしまう。
はな、いちか、みらいは走った。まだアスパワワもキラキラルも魔法の力も戻ってこない。ハグたんを抱え、クローバーと一緒に走るしかなかった。
だが、巨大化した闇の鬼火は今にも追いつきそうだ。
もう足も心臓も限界だ。だが、止まるわけにはいかない。足をもつれさせただけでも捕まってしまうかもしれない。そう、頭に思い浮かべてしまったのがよくなかったのか、はながつまづいた。
「はなちゃん!」
みらいが戻ろうとする。
「立って!」
いちかが悲鳴を上げた。
ウソバーッカの大きな手が上から覆いかぶさってくる。はなは、はぐたんを腕の中に抱え込んだ。
「!
…」
ショックが来ない。はなは恐る恐る顔を上げた。
はぐたんを抱えたはなの体をかばっているのは。
「エコー。
エコー!」
ハートフル・エコーの光に怯えたウソバーッカは、熱いものにふれてしまった子供のように手を引っ込めていた。
「ありがとう!」
キュアエコーは答えなかった。肩を大きく上下させて、荒い息をしている。
遅れてきたグレルとエンエンはその場へ大の字になって倒れこんだ。
「大丈夫?!」
いちかとみらいが走ってくる。キュアエコーはその場に崩れ落ちた。
「エコー!」
「――夫です」
それも声になっていない。
「遅くなってごめん」
みらいがその手を取った。エコーは、かぶりを振った。
ウソバーッカは、マホウ界でみらいたちを取り逃がした後、何度かナシマホウ界に侵入しようとした。キュアエコーにできることは、そのたびに扉を閉じるくらいだったが、「思いを届ける」プリキュアであるキュアエコーの力を逆に作用させることでしのいできた。つまり、この世界に入り込みたい、というウソバーッカの「思い」を妨害する、という方法だったが、それにはシズクがくれたくれた「扉」のカードが手助けとなった。
だが、それにも限度はある。五度目でついに突破され、侵入を許してしまった。それを追ってきたが、被害にあった人々を見なかったことにもできず、それを全部やろうとしたキュアエコーは文字通り、疲労困憊であった。まだ光の技を使うことはできるが、声を出す気力は残っていなかった。
震える足で立ち上がる。グレルとエンエンもお互いに助け合いながら立った。
「エコー…」
キュアエコーの胸の宝石はもう光を失いかけている。立っているのがやっとのはずだった。
クローバーと目が合う。彼は、その緑色の瞳でキュアエコーを見つめた。
今、彼が何者なのかをエコーに、あるいは、クローバーにキュアエコーについて説明できる余裕がある者はいない。だが、クローバーは今の様子から、キュアエコーが はなの友人であり、ウソバーッカと戦って弱っているのだ、ということを理解した。
「あの…」
クローバーは両手を差し伸べた。握手だろうか、とキュアエコーも手を伸ばした。
「…。
あ」
クローバーの手から淡い緑色の光がにじみ出した。それは暖かく力強い。疲れきったキュアエコーの体にしみていく。しかし。
「待って!」
キュアエコーはその手を振り払った。詳しいことはわからないながら、クローバーが何かキュアエコーのためにしてくれているのだ、ということを察していた はなたちも驚いた。
「どうしたの、エコー」
「その力は、ひょっとして、あなたの…」
クローバーの、いくらか傷ついたような表情が緩んだ。わかったのか、という顔だった。
「それは」
「いいんです」
クローバーは振り向いた。その足元に円陣が現れたかと思うと、クローバーは光になった。
「何をするつもりなの?!」
緑色の光は「芽」を出した。それはあっという間に双葉から本葉へと成長し、キュアエコーや はなたちの足元から茎を伸ばし、朝顔の蔓のように巻き付いてくる。
不快感はなかった。むしろ、その暖かさが安心をくれる。強張った体が緩み、しおれた心がほぐれていく。
一方、鬼火には逆の効果があるようだった。身もだえて苦しんでいる。
それだけではない。
(あれは…)
鬼火が腹部を押さえている。その指の間から緑色の光が漏れている。クローバーの光だ。それが突然、はじける。
「出れた!」
ずっと上の方、緑の光がはじけたあたりから声が聞こえた。
「リコ! はーちゃん!」
「あおちゃん! ひまりん! ゆかりさん! あきらさん! シエル!」
「さあや! ほまれ!」
「プリキュアが…」
脱出してきたのだ。
同じようにクローバーの光で力を得て、そうして得た力を合わせて。
再会の喜びもそこそこに全員が一斉に変身した。あたりが昼の光で埋まる。
これで――
「エコー、おかしいぞ」
(いない)
飛び出してきたのは9人。はなや いちか、みらいの仲間たちだけだ。
どういうことだ。プリキュアは全員、捕まっているのだと思ったのだが。
「マジカル!」
キュアエコーは駆け出した。自分の体が軽くなっていることに気づく余裕はなかった。
「エコー!
エコーも一緒だったんですね。ありがとうございま――」
「ウソバーッカの中で、ほかのプリキュアを見なかった?」
キュアエコーは、彼女には珍しく、キュアマジカルの言葉を遮るように言った。
「ほかの…」
「ブラックやホワイトがいた筈なの」
「見てません…」
キュアマジカルの肩からキュアエコーの手が落ちる。
(思い違い…?)
その可能性はあるだろうか。
キュアエコーは顔を上げた。まだ腹を押さえている鬼火をにらみつけるように。
(誰か。
私の声が聞こえますか?!)
キュアエコーの思いが飛ぶ。
(…誰…?)
それは弱い。だが、戻ってきた声に全員が顔を上げた。
「今の声…」
「まだ、誰かが捕まってるの?」
「でも、みんないるよね…」
キュアエールやキュアホイップたちがお互いの顔を見る。
「まさか、フローラたちがこの中にいるっていうこと?」
キュアミラクルが叫んだ。頷くキュアエコー。
花見の計画があったことを知っているキュアホイップたちは、「全員と連絡が取れない」ということを聞いて、さすがに偶然とは考えられない、と思った。
「それに」
キュアエコーは視線をさらに上げた。プリキュアたちが変身したときの光はもう消え、ウソバーッカの大きな体の背後も、自分たちの後ろも、空全体が闇に閉ざされている。多くの人がその下で怯えているはずだ。
「この状態で、ブラックやホワイト、ハッピーやサニー…40人もいるプリキュアが一人も活動していないなんて。
ありえない」
以前のキュアエコー、あるいは坂上あゆみを知るものなら、その断言口調に驚いたかもしれない。
そして、再会と、もう解決も同然と喜んでいるキュアエールたちとは正反対の、頬が強張り、緊張をたたえたその目に。
「エコー…」
キュアホイップが小さな声で言った。
そうか、まだ一人なんだ。
キュアエコーは気づいた。
事態が好転してなどいないこと。そして、弱っているように見えるウソバーッカだが、まだプリキュアを内部にとらえていられるだけの力は持っていることに気づいていたのは、キュアエコー一人だった。
(まだだ)
「グレル、エンエン、行くよ」
「うん」
「おぉっ!」
「エコー、どうするの?」
キュアエコーが振り向く。
「みんなを助けに行きます」
「ウソバーッカの中に?」
「無茶だよ。
あの中は!」
「みなさんが出られたんですから、大丈夫です」
「だけど」
それに、限界が近い。クローバーの光で一時的に力は戻ったが、そう長くは持たないような気がする。今のうちに、みんなを助け出さなければ。そして、キュアミラクルたちにバトンタッチするのだ。
キュアエコーは、シズクからもらった「扉」のカードを取り出した。何度も使ったせいで縁が欠けている。
このカードを使えるのは、「思いを届けるプリキュア」、キュアエコーだけだ。役目を果たさなければ。
キュアエコーはそのカードをウソバーッカに向けて投げた。闇の中を白い線が伸びていく。
カードから溺れ落ちた光は小川のせせらぎのように揺れた。地面を蹴るキュアエコー。
「エコー!」
「こちらはお願いします!」
信じていないのではない。任せていく。シズクがあのカードを預けてくれたように。
「みなさん、もうすぐ行きます!」
最終更新:2018年10月06日 10:20