Soliste Echo -プリキュア スーパースターズ Ver.1.1- 帰還
「咲…」
「うん…」
「咲、しっかりして!」
咲は球体の中に座り込んで頷くだけだった。舞が、自分が閉じ込められている球体をたたく。だが、相変わらずそこから出ることはできない。ふたりとも、膝まで石になってしまっている。舞は自分の勢いでバランスを崩し、やはり球体の中に座り込んだ。
「まずいわね…」
水無月かれんが辺りを見回す。鬼火の体内はサイケデリックな配色のまま。その中に閉じ込められている彼女たちも、ほとんどが膝まで石になっている。そこから先、腿がどうか、あるいは腕はどうなのか、というのは人によって違うようだった。
次に座り込んだのはラブだった。蒼乃美希が球体越しに名前を呼んだが、ラブは手を上げて返事をしただけだった。
ひかりが深い息をつく。自分を落ち着かせるため、そして、実際に苦しい。
ゆりと菱川六花が視線を交わす。
この疲労感はしばらく前から強くなっている。外で何が起こっているのかはわからないが、はっきりと「力が抜けていく」という感触があった。
プリキュアの力が吸収されている。そしておそらく、その力は鬼火の力となっている。
「そんな。これは、闇の力なんでしょう?!」
「確かに。ウソバーッカにとってはプリキュアの光の力はマイナスでしょうね。でも、そのマイナスをプラスに転じることができれば」
40 人ものプリキュアの力を手にすることができる。
「だって」
「私、ウソバーッカの形が気になってる」
ゆりが言った。
「形?」
「ルビンの壺にそっくり」
「壺…?」
ウソバーッカの体そのものに目を向ければそれは壺だ。だが、そのアウトラインに目を向ければ、それは向かい合った人間の顔となる。
「ウソバーッカは二面性を体現しているんじゃないかしら。
光と影。
プラスとマイナス。
嘘と真実」
「早く出ないと」
真琴が力のない声で行った。
手がかりのない球体に手を押し付け、なぎさがやっとの思いで立ち上がる。
「プリキュアの力が、悪いことに使われるなんて冗談じゃない」
「なぎさ…」
「でも、どうすんの」
「全員、一度に脱出するのが理想ですが」
青木れいかが言った。賛同は得られたものの、その方法がない。
「出る元気がある人だけでも」
「みんなを残していくなんて」
「だけど」
「来る」
星空みゆきが言った。
「なんて」
「キュアエコーは絶対に来てくれるよ」
坂上あゆみがいないのにはみな気付いていた。
「あゆみちゃんは、絶対にこの異変に気が付く」
「そして、気付いたら、黙っているはずがありません」
最初に出会った「スマイルプリキュア」の全員が断言した。
「悔しいけど、エコーが来てくれるのを待つしかないんだね」
北条響は顔色の悪い南野奏を心配そうに見ながら、早いといいけど、とつぶやいた。
「来ましたわ」
「え?」
「私にはわかります。あゆみちゃんのあふれるような愛が――」
「亜久里ちゃん!」
アコの声が一条の光でかき消される。気を失いかけた亜久里もそのまぶしさに目を開けた。
「エコー!」
気味の悪い色がうねる中、真っ白い光を渡ってくるのはキュアエコーだった。
「みなさん、ご無事ですか?!」
「ありがとう!!」
球体がキュアエコーの周りに集まってくる。キュアエコーはそれに押しつぶされそうになった。
「あの、ちょ、ちょっと待ってください」
「あ」
「みなさん、お揃いですよね」
「点呼!」
来海えりかが号令をかけると、それぞれのグループ毎に確認が始まる。全員いるようだった。
「では、早速――」
「その前に外の状況を教えて」
ゆりが言う。
「え、はい。あの」
さっきまで捕まっていたメンバーも含め、三組のプリキュアが変身していること、ウソバーッカだったものはクローバーと分離して今は「闇の鬼火」単体であることを伝える。
「野乃はな…誰か知ってる?」
手が上がらない。
「また新しいプリキュアが生まれたってことだね」
知らない名前。だが、それは朗報だ。みな、勇気づけられたように頷く。
「では――」
「どうするつもりなのですか?」
れいかが尋ねる。
「えと、外からここまでのルートはああいう風に見えているので」
キュアエコーが指さす。キュアエコーはシズクからもらったカードに導かれてこの奥に来たが、その痕跡が光の粒の流れとして残っていた。
「私の力で皆さんをそちらの方向に押し出します」
「エコーの力だけで?」
「大丈夫かな」
「それは…」
「いいんじゃないかな。あたしたちの力はまだ残ってるだろうし。力を合わせれば」
「はい。
それでは」
「あのさ――」
「お前ら、エコーの話を聞けーっ!」
ついにグレルが怒鳴った。一瞬、皆が口をつぐんだが、雰囲気は緩んだ。
「ごめんごめん」
なぎさがごまかすように笑う。
ほのかはキュアエコーの胸元のエンブレムが光を失いかけていることに気づいていた。
当然だ。「プリンセスプリキュア」までのプリキュアはここにいるのだし、「魔法使いプリキュア」よりも後輩たちはその手前に捕らわれていたことがわかった。みらいたちは外にいたが変身できない状態、つまり、ウソバーッカの外にいたのはキュアエコーだけだったのだ。
それは奥に捕らわれていた彼女たちの希望ではあったが、その結果が、この真っ白いドレスに傷をつけリボンの色もくすんだ、今のキュアエコーだった。助けてもらう必要はあるが、一刻も早く、キュアエコーを解放しなければ。
「お願い」
「はい」
キュアエコーが、今度は真剣な顔で頷いた。
球体は自然にキュアエコーの周りに集まった。
キュアエコーは「扉」のカードを見た。終わったらシズクに返すつもりだったが、最後まで原形をとどめていてくれるかどうか不安になる。
「グレル」
「おう」
「エンエン」
「うん」
「フーちゃん」
〈うん〉
キュアエコーはカードを投げた。自分が来たルートを反対になぞる。
「プリキュア」
全員の呼吸が一つになる。
「ハートフル・エコー!」
キュアエコーが手を高々と掲げる。その指先から伸びる光は、上空からシャワーのように降り注ぎ、やがて光の川となって、プリキュアたちを閉じ込めた球体を運んで行く。全員の球体が動き出したのを確認するとキュアエコーもその後に続いた。何人かが球体の中で振り向く。キュアエコーは頷き返した。
みんなを闇の鬼火の中から助け出すことが私の役目だから。
ハートフル・エコーの光と、プリキュアたちの中の光は呼応しているようだった。球体はどんどん加速していく。
(早く)
(急がないと)
(助けるんだ)
(新しい仲間のプリキュアを)
(まだ会ったことのない友達を)
(みんなを助けるんだ)
(みんなを!)
(みんなを!!)
「行くよっ!」
出口が見えた。
40個の球体はその勢いのまま、鬼火の体から飛び出した。その瞬間に球体も割れる。
「出た!!」
着地。
「みんな、変身できる?!」
なぎさが叫ぶ。
彼女たちはいっせいに自分たちの変身用アクセサリを確認したが、まだ石のままだった。
「だめか」
「すいませ――」
言いかけたキュアエコーの足から力が抜ける。
「エコー」
わずかな光が飛び散り、キュアエコーは坂上あゆみの姿に戻ってしまった。
「あゆみちゃん!」
「大…丈夫…です」
限界だった。フーちゃんのキュアデコルも輝きを失っている。
「グレル! エンエン!」
ふたりとも みゆきの手の中でぐったりしている。
「みんな、お願い!!」
たまらず はるかが叫んだ。
キュアミラクル、キュアマジカル、キュアフェリーチェが頷き返す。
魔法使いプリキュア、プリキュアアラモード、HUGっとプリキュアが円を形作る。
「プリキュア スーパースターズ!!」
鬼火が浄化されていく。
それがわかったのか、あゆみの体から緊張が抜けて行った。その手の間から、扉のカードが零れ落ちたが、すでに模様の判別も難しくなっていたそれは、淡い光を放ったと思うと風に消えて行った。
最終更新:2018年10月06日 10:22