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ミデンとフーちゃん




「あ、軍手忘れた」
 あゆみは、友人たちに「先に戻ってて」と声をかけると校舎の裏手に戻った。後ろで「軍手くらいいいじゃん」「相変わらず真面目だなぁ」という声が聞こえた。
 あゆみたちの学校では秋に廃品回収をする。近隣の住宅から不用品を集めて売り払い、文化祭の運営費用に充てる、というのが毎年のイベントだった。
 廃品を置いてある空き区画に戻る。目印として甲側にピンクの縫い取りをした軍手がブルーシートの上に置いてあった。こんなところで役に立つとは、とあゆみは小さなため息をついた。
「?」
 足元、ブルーシートの下から段ボールの箱が零れ落ちた
「なに…カメラだ」
“MIDEN”と書いてある。戻そうと拾い上げたが、箱はしっかりしているようだった。開けてみると、確かにカメラで、箱のデザインから考えて古いものだと思われるのだが、中はきれいだった。パーツ類はビニールの袋に入っており、ひょっとしたら未使用なのかもしれない。
「これだったら、ちゃんとしたカメラ屋さんに持って行った方がいいんじゃないかな…え?」
 首筋に熱を感じる。
 いつも一緒にいられるよう、ペンダントにしてあるフーちゃんのキュアデコルだった。
〈ミデン…〉
「たぶん、そう読むんだろうね。
 フーちゃん、カメラに興味あるの?」
 キュアデコルが熱を持ち始める。
「フーちゃん…?」
〈同じ…フーちゃんと…同じ〉
 カシャ、と音がした。こちらを向いたレンズの奥、なにかがうごめいたようだったが、何も見えない。吸い込まれそうだ。それは「闇」、いや「無」と言った方がいいような気がした。
 次の瞬間、あゆみは今度はまぶしさに目を細めた。キュアデコルが光り始めている。
〈ミデン、フーちゃんと友達になるか?〉
〈…こい〉
〈友達になるか?〉
〈来い〉
 それは命令だった。であれば「友達」ではない。
「フーちゃん、だめ!」
 背筋に寒気を感じたあゆみはカメラの箱を投げ捨てると、右手でジャージごとキュアデコルを握り、左手をその上に重ねた。
〈なら、お前も来い〉
 カメラの奥から声が聞こえたような気がした。次の瞬間、あゆみの姿が消える。
 白い軍手が音もなく落ちた。

「ミデンはフーちゃんの力を使おうとしたんですね」
 有栖川ひまりが頷きながら言った。
 ミデンが欲しかったのは、貪欲に力を求めるフュージョンの能力だった。
 逆に言えば、ミデン自身はほとんど力を持っていなかった、ということになる。まさに廃棄処分される直前、記憶が欲しい、空っぽの自分は嫌だ、その思いが強くなったときに、フュージョンのかけらであるフーちゃんと出会ったのだ。プリキュアというものの存在を知ったのは、フーちゃんとあゆみを取り込んだ結果にすぎない。
「そして、フーちゃんを守ろうとしたあゆみちゃんも一緒に吸収してしまった、ってことか」
 愛乃めぐみの言葉に、白雪ひめが、欲張り過ぎだよ、と答えた。
「同じってどういうことなんだろう」
 春野はるかが首をかしげる。
「フーちゃんは…独りぼっちだったんです」
「え、あゆみちゃんは?」
「グレルとエンエンだっているじゃない」
「でも、フーちゃんと同じ存在はいません」
 まだ腑に落ちない者が何人かいるようだった。
「私は、みなさんと会うのが楽しいし。
 グレルやエンエンは、ミップルやメップルと会うのが楽しい。
 フーちゃんにはそういう相手がいません」
「…」
「あゆみちゃんやグレルやエンエンじゃ埋められないところがある、っていうことか」
 56人が黙る。花咲つぼみが口を開いた。
「フーちゃんは、疲れた、って言ってたみたいですけど」
「ミデンの中に取り込まれてすぐ、ミデンが友達を欲しがってたわけじゃない、ということに気づきました」

 ふたりは、フージョンの力を要求するミデンに抵抗した。
 だが、それはフーちゃん、あるいはフュージョンの「本質」である。宝石や現金のように、それを渡せばおしまい、というものではない。絶対に渡さない、という強い意志で抵抗し続けるしかなかった。
〈う…う…〉
〈フーちゃん!〉
〈あゆみ…苦しい〉
〈がんばって、フーちゃん!〉
 学校だったのがまずかった。グレルとエンエンは、ぬいぐるみのふりをしてあゆみの家にいる。一緒であれば、キュアエコーに変身してなんらかの手を講じることができたかもしれない。
 だが、あゆみの中にはプリキュアの光がある。それがフーちゃんの力によって引き出されて、あゆみはキュアエコーに変身するのだ。ふたりなら切り抜けられるはずだ。
〈がんばる。フーちゃん、がんばる〉
〈ミデン、あなたにフーちゃんは渡さない!〉
〈よ・こ・せ!〉



最終更新:2018年12月27日 23:07