ふたりの光
「あ、ミデンが最初、『よこせ』ってしか言ってなかったのは、フュージョンの口癖?」
あゆみは答えなかった。そのとき、あゆみとフーちゃんはミデンの中にいたので、ミデンがなぎさとほのかを襲った時に何を言ったのかは知らない。
「あの、私、何をしたんですか?」
「いや、あゆみちゃんが何かしたわけじゃ」
「みなさん、どんな目にあったんですか?!」
琴爪ゆかりが、頭のいい子ね、とつぶやいた。
「教えてください」
立ち上がる。
あゆみが諦めることはないだろう。誰が言う? 誰が説明するのがいいだろう、と顔を見合わせる少女たち。
「あのね」
はなが進み出る。輝木ほまれが止めようとし、薬師寺さあやが心配そうに見ていたが、はなはそのまま説明を始めた。
「…。
わかりました」
「あゆみちゃん」
説明が終わった。あゆみは何も言わない。フーちゃんのペンダントを首にかけなおすと、頭を下げた。
「迷惑をかけてごめんなさい」
「あゆみちゃんは悪くない!」
何人かの声が重なる。
「でも」
「だって」
「わたしがちゃんとフーちゃんを守れればこんなことにはならなかったかもしれない」
「いいえ」
海藤みなみが反論する。
「ミデンの思いは強かった。早晩、なんらかの力を得ていたと思う。
キュアエコー以外のプリキュアに出会って、その力を使っていたかもしれない」
「だったら、最初になっちゃった人は、やっぱり同じように謝ると思います」
「それは…」
当然だ。どの道、ミデンは暴れるんだから最初の一人だとしても自分は悪くない、などと考える者はここにはいない。
「すべてわたしのせいだ、とは言いません。ミデンの寂しさが起こしたことだから。ミデンの持ち主だった人たちにも、もっと大事にしてあげてほしかったとも思います。
でも、私は防げたかもしれないんです。
私は、プリキュアだから。
私は、防がなきゃいけなかったんです」
「それは違うと思います!」
さあやの声は意外に大きかった。本人が驚いている。
「すいません。
違うというわけではなくて…あの」
「聞かせて」
あきらが促す。
「わたし、不思議だったんです。ミデンがどうして、何もしなかったのか」
「何もって」
「わたしたちの記憶を集めただけですよね」
「だけっていうか…」
「うん、はなは大変だったと思う。迷惑をかけてごめんなさい。
でも、それ以外は何もしなかった」
さあやはみなを見渡した。
「だって、プリキュアの力を手に入れたんですよ。
それを悪用すればこの世界を征服することだってできたかもしれない」
「ミデンは『思い出』が欲しかっただけなんでしょ?」
ほまれが口をはさんだ。
「それも事実。
でも、力を手にしたら人が変わってしまう、というのもよくあることでしょう。
それを止めていたのが、あゆみさんとフーちゃんじゃないのかな」
「そうだ。
あゆみちゃんとフーちゃんは十分にその役割を果たしていた、ってことだよ」
はなの言葉に、そうか、という空気。何人かがあゆみを見たが、あゆみは目を伏せた。
北条響が、珍しく難しい顔をしていた。
「確かにあたしたちも一度はフュージョンにやられそうになっちゃったからね。
あの勢いで来られたら大変なことになったかも」
「でも、ミデンはそんなことしなかった」
「自分の『思い出』が欲しい、それだけを…貫いたわけだよね」
「暴走を食い止めた…というか、あれをミデンの純粋な思いにとどめたのが、あゆみさんが持っているプリキュアの光。無理がある推測だとは思いません」
あゆみは目を伏せたままである。
「あゆみさんは、なぜそんなにつらそうな顔をなさっているのです?」
愛崎えみるだった。
「…」
「あゆみさんは、プリキュアとして立派に戦ったのです。
そして、友達であるフーちゃんさんのことも守ったのです!
これは、とっても素晴らしいことなのです!!」
「そんなこと」
「変身するだけがプリキュアではないのです!」
ほまれが、え、とつぶやく。はなとさあやの肩が震えた。
「何を笑っているのですか!
私は今、大事な話をしているのです!!」
苦しそうな呼吸の下から、ごめん、という声が聞こえる。
「あなたは、昔の私に似ています」
ルールー・アムールがえみるの隣に立った。
「計算だけで判断していた頃の私のようです。
ですが、あなたは人間。アンドロイドの私とは違って、柔軟な心を持っているはず。
その柔軟さを発揮できない局面があるようですね。想像ですが、ご自分のことになったときに」
「…」
「確かに、あゆみちゃんにはそういうところがあります」
リコがあゆみの手を取った。
「顔を上げて、真ん中にきて。
あゆみちゃんは、私たち『みんなのプリキュア』なんだから」
「私は、そんな立派なものじゃない!」
あゆみがリコの腕を払う。だが、リコはもう一度、その手を取った。
「もしあゆみちゃんじゃなかったら、って思ったら、私は足が震えてくる」
何を言い出すのだ、という視線にも構わず、リコは続けた。
「ヨクバールにドンヨクバール、私たちは色々な種類の敵と戦ってきました。
もし、ミデンが取りこんだのがフーちゃんとあゆみちゃんじゃなくて、そういう存在だったとしたら」
「負けてたかもしれない」
宇佐美いちかが言った。
「ラッキーだったわね。そのラッキーを呼び込んだのはあなたよ」
ゆかりが笑みを浮かべる。あゆみはやはり答えなかった。
「本当に面倒なコねぇ」
ゆかりの言葉に、立神あおいが、どの口が、とつぶやいた。
「ね、誰かあゆみを元気づけるパーティを企画してくれない?」
はいはいはい、と手が上がった。
最終更新:2018年12月27日 23:09