アットウィキロゴ

「link to…」1




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 氷上にて少女は歌う。
 声ではなく、すらりと伸びた綺麗な腕で。瑞々しさに満ちた美しい脚で。
 ほっそりとしたプロポーション ――― その柔軟さに富んだ全身が、しなやかに翼を羽ばたかせるように弾む。それもまた歌声。
 少女は、重力から解き放たれたみたいな速度と自由さで、スケートリンクの上を舞い滑る。
 繊細さと力強さが溶け合わさった動きで、観客席へと歌いかける。
 何よりも優しくて、そして、曲げられないほどに強い気持ちを。

 ……でも、それはどこか儚くて、切なくて。

 次のフィギュアスケートの大会での優勝を目指す少女が、いつのまにか胸に込み上げてきていた感情に気付いて、一瞬、動きを途切れさせそうになる。
しかし、すぐに持ち直した。
 今はただ練習に集中すべきだと心に言い聞かせて滑り続ける。


 ――― 優雅な滑りの裏側に、そっと秘められた気持ちに。
 観客席から静かに練習を見守っていた女子中学生も、それに気付いたのだろうか。
 スケートリンクの上で演技に集中する同級生を目で追いつつ、知らず知らずの内に、胸の前で両手をぎゅっと握り合わせていた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「今日の私、全然イケてなかったよね」
 輝木ほまれは着替え終わったあと、薬師寺さあやと顔を合わせると、まずそう言った。
 さあやは小さくうなずいた。しかし、それはほまれの言葉を肯定したのではなく、彼女の今の気持ちを柔和に受け止めた、という感じだった。
 ほまれはちょっと、むずがゆいような感情を瞳に浮かべて微笑んだ。嬉しいような、少し照れくさいような、さあやの気遣いに対する素直な気持ち。
 ほまれのサラッとした細い髪 ――― 清潔感のあるショートの髪型の下で、クールな印象を持つ顔付きが優しく緩んだ。
(ありがと。さあや)
 心の中で、軽く感謝。
 フィギュアスケーターの均整の取れた細身が、すっ…と自然な動きで、さあやの隣に並ぶ。
 細いが、華奢というイメージはない。思春期の身体の線を最大限美しく見せるために、日々のトレーニングでスリムに仕上げた肢体だ。
 青春を真っ直ぐに生きる少女特有の、爽やかな初夏の風めいた眼差し。そこに、心許せる者同士の気さくさを乗せて、ひょいっと、さあやの顔を覗き込んだ。
「とりあえず、帰ろっか」
「うん」
 澄んだ声で頷き、微笑みを返す薬師寺さあや。
 つややかなロングヘアが似合う彼女は、髪の左側だけをシニヨンにして、控えめにかわいらしさをアピールしている。
 奥ゆかしい可憐な外見と、曇りのない知性を帯びた瞳。
 ほまれと同じく、年齢は14歳。
 学年成績トップの優等生で、クラスの委員長も務める彼女は、実のところ、日本を代表する女優・薬師寺れいらの娘であり、さあや自身も最近はコマーシャルやドラマの主演などでテレビによく登場している。

 帰り道、特に二人で話すこともなく。
 でも、それは無理に気を使って話さなくてもいいという、自然体のカタチ。
 ほまれとさあや、二人とも体幹がしっかりしているので、歩き方が綺麗だ。
 加えて、どちらも面立ちが整っており、スタイルもいい。
 なので、こうやって一緒に並んで歩いているだけで絵になる。

 今日は、野乃はな、愛崎えみる、ルールー・アムールの三人は、ハリーの店の手伝いに回っている。さあやは本日スケジュールされていた次のドラマのインタビューが終わったあと、ほまれと合流して、そちらに向かう予定だったが。
「あとで、はなたちに連絡入れておくね」
「ん…、お願い」
 ほまれが軽く答える。
 自分は今、ハリーの店には行けない。それをさあやも分かってくれている。
「さあやは?」
 ――― どうするの?という言葉を省略して尋ねると、「わたしも、今日は……」と返ってきた。
 ふっ…と、やや自嘲気味に薄い笑みを浮かべて、ほまれが目線だけを空に向けた。
(私の気持ちに巻き込んじゃった……かな?)
 未練なのは自分が一番分かっている。

 あの時、輝木ほまれの、生まれて初めての告白。
 相手はハリー。
 自分らしく、ただ真っ直ぐに気持ちを伝えた。
 そして、初めて失恋した。

 後悔なんてしていない。
 でも、気持ちの整理はきっぱりつけたはずなのに、ときおり、あの瞬間の感情が胸に甦ってきて、締め付けられるような苦しさを覚える。
 現実には叶わなかった恋 ――― けれど、もし、それが叶っていたら。
 胸が痛いほどに疼く。
 その感覚は、時間が過ぎれば、いずれ治まってくれるが……。
「ほまれ」
 名前を呼ばれて、はっ、と我に返る。
 歩いていたつもりが、いつのまにか、ほまれの足は止まってしまっていた。
 隣を見ると、さあやも足を止めていた。
 二人の視線が重なる。
 さあやを見たら、ちょっとだけ、重い気分が抜けた。
「ねえ、さあや先生。今晩、勉強見てもらってもいい?」
 再び歩き出したほまれが軽い調子でそう言うと、さあやがクスッと小さく表情をほころばせた。
「いいよ。わたしも、そのつもりだったから」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 『勉強を見てもらう』 ――― これは二人だけの符丁(ふちょう)。
 フィギュアスケートの練習に勤しむほまれが、勉強面をさあやにサポートしてもらうという建前で、彼女の家に外泊する際に使う。
 ……ただ、建前とはいえ、勉強に関して、さあやは絶対に手を抜かない。
 ほまれが少しでも解かりづらいと思った箇所をめざとく発見して、それについて丁寧に教える傍ら、簡単な小テストを作り、きちんと理解できたかどうかを確認してくる。
 小テストでは、ほまれが苦手だと感じたところを的確に……というか容赦なく突いてくるので、毎回緊張する。さあや先生、優しいけれど、ちょっとこわい。

「……さあや先生、どうだった?」
 と、今回の小テストの結果を尋ねる声に、不安げな色が混じる。
 しかし、小テストの採点を終えたさあやは、にっこりと満足そうに微笑みを返してきた。
 今日は追試は無いようだ…と、ホッとするほまれに、微笑んだまま、さあやが提案する。
「まだ時間あるし、せっかくだから、明日の授業の予習もしちゃう?」
「う…っっ」
「ふふっ、冗談。……じゃあ、そろそろベッド、行く?」
「行くっ! すぐ行くっ! さあや先生の気が変わらないうちに!」
 笑顔で、しかし大急ぎで勉強道具を片付けていくほまれ。さあやは、そんな彼女が面白くて、つい笑いを洩らしてしまう。
 ……でも、その表情には、気持ちの昂りから来る小さな緊張が垣間見える。
「ねえ、今日は、着ている物……全部脱いじゃおっか」
 さあやの言葉の震えに表れる、恥じらい。
 片付け終わったほまれが、気遣うように尋ねる。
「私はいいけど、さあやは平気?」
「……うん、わたし、今日は、ほまれの、裸……、見ながら、したい…から」
 かぁぁ…と赤らめた顔を少しうつむかせながら、さあやが小声で言う。
(さあや、可愛い)
 ほまれのほっそりした指先が、つっ…と、さあやの白いあごに這う。
 そして、彼女の顔を、クイッと、優しく自分のほうへ向かせる。
「私も、さあやの全部を見ながら……してみたいな」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 二人は、初めての時の事を思い出す。

 それは、輝木ほまれ ――― 大人びた態度を取るも、まだ14歳の少女にとって、救いだった。
 恥じらいに染まったカラダを甘やかに慰めてくれる指使い。
 皮膚を這うように触れてくる、くちびるの軟らかさ。
 失恋の切ない疼きを、全て快感に溶かして吐き出させてくれる。
 やり方が分かったので、もう一人でも出来るけれど、ほまれは、心許せる『誰か』と一緒にしたい。相手のぬくもりを肌で味わいつつ、気持ちよさに溺れていきたい。

 それは、薬師寺さあやにとって、自分が『女の子のカラダを愛せるかどうか』の大切な証明だった。
 さあやが好きになってしまったのは、自分と同じ「女の子」。
 まだ相手に自分の気持ちを告げる予定は無いけれど、もし、結ばれた時のあとを想像すると、少し不安があった。
 自分は同性のカラダに ――― キス以上の行為に、嫌悪感を抱いてしまわないだろうか?
 ほまれと初めてする前に、好きになった子の名前だけを伏せて、それを相談した。彼女は、同性に恋愛感情を抱いているさあやを拒否せず、自分の身体を使って試させてくれた。
 ベッドの中で「怖がらないで」と、手を導いてくれたほまれ。くちびるを触れさせてくれたほまれ。
 彼女のカラダの切なさを丁寧な愛撫で慰めながら、さあやは、下腹部に官能的な痺れを募らせた。ほまれが息遣いを喘がせて反応するのに合わせて、さあやも熱い吐息をこぼした。
 ……ほまれとの『初めて』を終えたさあやは、自分が女の子のカラダを好きになれると分かり、嬉しくて、ちょっとだけ泣いた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ……向かい合って服を脱ぐのも、なんだか気恥ずかしい感じがしたので、自然とお互いに後ろを向いて脱ぎ始めたのだが。
 さあやは、すぐ後ろでする衣擦れの音ひとつひとつに、どうしても注意が行ってしまう。
 服も下着も脱いで、それを綺麗に畳む手付きも、急いでいるワケでもないのに、いつもより早くなってしまう。
(……あ、間に合った)
 心の中で思わず洩らしてしまったさあやが、全裸でベッドに腰かけた。
 視線の先には、こちらに背中を向けて脱いでいるほまれの姿。
 まじまじと眺めるのではなく、ちらり、ちらりと盗み見るように。
『先に脱ぎ終わったので、とりあえず待っている』という体裁(ていさい)を装いつつ、こっそりと胸をドキドキさせて、同級生のカラダを観賞してみる。

 細いながらも、しなやかな筋肉を肌の下に忍ばせた美しい四肢。
 さあや自身もテレビに映る立場なので、スタイルには気を使っているが、やはりフィギュアスケート選手のカラダにはかなわない。
 弾むような瑞々しさの肌と、キリリっと引き締められた全身のスマートさ。
 そして、女子中学生らしい健康的な色香を匂わす、バストとヒップの適度な丸み。
(ほまれの背中、綺麗……)
 写真にとって、じっくりと眺めたい。
 背中だけじゃなく、全部を。
 ……そんな事を考えつつ見蕩れていたら、下着を脱ぎ終えたほまれが、不意に後ろを振り返ってきた。
 視線を逸らすヒマはなかった。しっかりと目が合ってしまう。
「ん…? どうしたの、さあや」
「ううんっ、別にっ」
 さあやが、カーッと熱くなってきた顔を慌ててうつむかせる。

 ……何でもなかったように、ほまれが顔を元に戻した。
 しかし、内心、少しドキドキしていた。
(ううっ、さあや……やっぱり綺麗すぎる……)
 無意識に右手を自分の頬に当てて、うっとりとする。
 自分の後ろで、先にハダカになっているさあや。その姿を一秒でも早く見たいという気持ちを抑えきれずに、つい振り向いてしまったけれど。
(へ…、変に思われなかったかな、さっきの……。それにしても……)
 透き通りそうなほどの、白い肌。
 そして、それと美しく対比する艶やかなロングの髪。
 発育途中の胸はなめらかな丸みを帯び、先端の可愛らしい突起は、淡い桜色で彩られている。
 まだ、カラダの線にあどけなさを残しつつも、日々、節制をおこたらず、女優としての洗練さを身に着けた美少女の全裸は、同性の目から見ても観賞に値する。
 そんなさあやのハダカを、今からたっぷりと見られると考えただけで、幸せな溜め息が洩れてしまう。
(ふふっ、せっかくだし、今日は一生分、さあやのハダカを拝ませてもらおうかな)
 バレないように心の中で笑うほまれが、ふと、さあやの先程の反応を思い出した。
 ――― 目が合った瞬間の、あの初々しい恥じらい方。
(あれっ……?)
 ほまれの胸の奥が、一瞬、溶けそうなほどに甘く疼いた。



最終更新:2019年04月02日 20:20