ラボで仮説




 あゆみは、科学捜査チームのラボに呼ばれた。そこではすでに、ほのか、水無月かれん、六花がチームのメンバーと協力していた。グレルが、「お前たち、白衣、似合いすぎだろう」と言った。
 ありすは、テーブルに置いてあったミラクルライトを一本、取り上げた。
「あゆみさん、ちょっとこれを持ってみていただけますか」
 言われるままにそれを受け取る。何か期待されているような気がするが、どうすればいいのかわからない。両手で握ってみたりした。ありすに言われて、何本か持ち替える。何が起こるわけでもなかった。
「ありがとうございます」
 横にあったモニタに今の様子が映し出された。画面が映画のような雰囲気なのは何か加工をしているからだろうか。
「さきほどの動画をもう一度見ましょうか」
 画面が二つに区切られる。左側に今の様子、右側には別の動画が映し出された。
「以前、あゆみさんにミラクルライトの回収を手伝っていただいたことがありましたわね」
 あぁ、とあゆみ。
 前に ありす――というより四葉家――の手伝いをしたことがあった。戦いが終わって、人々が放置したミラクルライトを集めて回ったのだった。
「確かに光ってるのよね…」
 ほのかがつぶやいた。
 どちらの動画も画像処理をしてあるようなのだが、以前の動画では、あゆみが手にしているミラクルライトがうっすらと光っているように見えた。
「しかも、ほら」
 かれんが指さす。
 ミラクルライトは、あゆみが手にした瞬間に光り始めるのである。そして、四葉家の担当者に渡すと消える。
「あゆみちゃんに反応しているとしか思えない。
 でも」
 六花が、左側の動画から、あゆみに視線を移した。あゆみは自分が持っているミラクルライトを見た。光ってはいない。
「もちろん、目で見て分かるようなものではないのですわ。
 この処理済み画像も、たまたま見つけたものですし」
「どういうこと…なんですか?」
 エンエンが心配そうに見上げる。
「わたしたちの仮説…っていうか、勝手な想像なんだけど」
 ほのかが控えめに言う。
「あゆみさんは、フーちゃんを説得するために自分の意思でプリキュアになった」
 黙ってうなずくあゆみ。
「その時に作用したミラクルライトの力は、ひょっとしたら想像以上に強かったかもしれない、と思って」
「なんだよ、強いって」
 グレルがややいら立っている。かれんは、グレルとエンエンをきちんと見ながら続けた。
「あゆみ、というか、キュアエコーは、ミラクルライトに対して、ほかのプリキュアよりも敏感なんじゃないかな、って考えてるの」
「わたしが、あの星を見ただけで顔色がよくなったことですか?」
「そう。れいかちゃんは確かに、きれいだとか、勇気づけられる、とかそういう感じはしたって言うんだけど、それでれいかちゃんの体調に影響が出たわけじゃないの」
「キュアエコーは、《思いを届けるプリキュア》であると同時に、《ミラクルライトのプリキュア》なのではないか、ということですわね」
「ミラクルライトのプリキュア…」
「グレル、エンエン、ふたりはどうなの?」
 六花が視線を向けてくる。グレルが視線をそらし、エンエンはうつむいた。
「ひょっとして、あゆみちゃんと同じ?」
 ゆっくりうなづくエンエン。
「あの星を見た時は確かに、体調が戻ったような気がしたんです。
 でも今は、前より悪くなっているような」
 悪いっていうほどではないんですけど、とあゆみは小さな声で付け加えた。
「あの連星の光が弱くなっているような気がするのよ。関係あるのかもしれない」
「観測できればいいのですけどね…」
 連星は「プリキュアである者の目」にしか見えない。弱くなったような気がする、と言った者は多かったが、「気がする」の域を出ない。一方で、あゆみの体調が相変わらずよくなさそうであることもわかる。手詰まりなのかもしれない、と誰もが思っていたが口にはしなかった。
 チャイムが鳴った。みらいたちが来たらしい。ありすがボタンを押すとドアが開く。みらいは、お手伝いすることがないかと思って、と言ったが、ありすは、残念ながら、と首を振るしかなかった。
「わからないことばかりなのですわ」
「フーちゃんは?」
 ことはがのぞき込む。以前から、「はーちゃん」と「フーちゃん」で仲がいい。
《フーちゃんは元気だ》
 同じことを繰り返す。納得しているのかどうか、ことはは「よかった」と言った。
「一旦、休憩にしましょう。
 リコさん、あゆみさんをお部屋まで」
「大丈夫だよ」
 子どもでもあるまいし、とあゆみは笑ったが、リコは笑わなかった。じゃ一緒に、とつないだ手に力強さが感じられなかった。



最終更新:2019年08月17日 14:53