Mission of Lace
あゆみは腕時計を見た。11 時半を過ぎた。間に合うだろうか。
「ごめんね。急いではいるんだけど」
つかまっている腕の力が緩んだのでそう気づいたのだろう、十六夜リコが前を見たまま言った。
「ううん。ありがとう」
箒で飛ぶこと自体は魔法の力によるものだが、ワープするわけではない。確かに、街の景色は足元を高速で流れていき、それは列車などよりは早いのだが、飛行機には遠く及ばない。
(お願い。間に合って)
もう二度とフーちゃんのことを忘れるわけにはいかない。それは、絶対に、だめだ。
「なんか嫌な感じがする」
花海ことはが険しい表情で言った。朝日奈みらいやリコは感じなかったが、すこやか市が近づくにつれて、ことはの不快感は強くなっていく。
「ひょっとしたらもうプリキュアたちが戦ってるのかも」
みらいの箒を握る手に力がこもった。変身してから来ればよかった。変身するにはみらいとリコがモフルンを介して手をつなぐ必要がある。飛んでいる間は無理だ。
「見て!」
あゆみが指さした。グレルとエンエンも肩のバッグから顔を出す。
すこやか市と思われる場所から、光が伸びていく。
「はー!
ミラクルライトの光だ!」
「あそこにプリキュアがいるのね」
つまり戦いは始まっている。
(あの光の下にプリキュアが)
知らず、リコに掴まっているあゆみの手に力がこもった。
(キュアスターや、キュアエールや…。
私たちがまだ会ったことのないプリキュアが)
そしておそらく、ミラクルライトによる応援が必要になるほど、プリキュアは苦戦しているのだ。
「グレル、エンエン」
「うん」
「行くか!」
「待って、あゆみちゃん、ここじゃ」
「今すぐミラクルライトが必要なの!」
みらいの箒が隣に寄ってきた。
「はーちゃん、前をお願い」
「はー!」
ことはが先頭を切る。そうしてできた空気の流れの中を、みらいとリコの箒が進む。これでいくらか安定するはずだった。
「リコ」
みらいの手が伸びてきた。リコは片手を離すとそれを握った。
呼吸を合わせる。ふたりの箒は、何度か前後したが、やがてぴったりと並んだ。
「あゆみちゃん、今だよ」
「フーちゃん、お願い!」
グレルとエンエンはバッグを飛び出し、あゆみの肩に乗った。胸元のエコーキュアデコルが輝き、純白の光が三人を包んだ。
「想いよ届け、キュアエコー!」
キュアエコーは、みらいとリコの箒の上に立った。キュアエコーの手の中のミラクルライト、グレルとエンエンのミラクルライト、エコーキュアデコルの光が強さを増す。
「みんなの光を預けて!」
「お邪魔します!!」
雪城ほのかと九条ひかりは、美墨なぎさの部屋に飛び込んだ。彼女たちが今行けるところで一番、高いのがそこだった。
「誰もいないから。早く!」
サッシを全開にする。
「すこやか市ってどっち?」
地図で照らし合わせて、ほのかが指さした。
そちらに向けてミラクルライトを振る。
「あゆみ、頼んだよ!」
「天文台、開けてもらったから」
「え、いいの?」
「急ごう」
舞は珍しく父に無理な頼みごとをした。理由は、なぎさたちと同じ。彼女たちがすぐに行ける場所で遮る物がないところがそこだった。
霧生薫・満とともに、すこやか市の方角に向けてミラクルライトを振る。
「お願い、あたしたちの光を届けて!」
「間に合わないわね」
水無月かれんは何度も時計を見た。
週末の幹線道路は混雑していた。渋滞とまではいかないが、正午までにすこやか市に着くのは無理なようだった。坂本が、申し訳ありません、と言う。
「気にしないで」
秋元こまちはミラクルライトを握りしめた。
春日野うららがミラクルライトを握って目を閉じる。夏木りんが続いて祈る。美々野くるみは、せめてもと車の窓を開けた。
見知らぬプリキュアに呼びかける。私たちは、あなたの味方、友人なのだ、と。
のぞみの手の中のミラクルライトの光が強まった。
「学校の屋上に行こう!」
桃園ラブからの提案を受けると、蒼乃美希は鳥越学園、山吹祈里は白詰草女子学院へと走った。待ち合わせしている余裕はなかった。
ラブと東せつなは屋上に飛び出すと、さらに管理施設の上へ登る。
「精一杯、頑張りましょう!」
「受け取って、あたしたちの光!」
「中からぁ?」
来海えりかが、ゆりの提案に大声を上げた。
「この植物園の窓全てをミラクルライトの光で満たすのよ」
「そうか、ミラクルライトだけの光より大きくなる」
明堂院いつきが力強くうなづいた。
「おばあちゃんもお願いします!」
花咲つぼみがミラクルライトを掲げた。
「私たちの心の花は絶対に枯れません!」
「揃ったけど…」
北条響が事情を把握できない様子で言った。
ミラクルライトの光を届けたい、と相談してみると、調辺音吉は四人を「調べの館」に集めた。館の中に流れている水路が使えると言う。
「心配するな、水と光は相性がいい。
おぬしらの友達にも水のプリキュアがおるじゃろう」
「すこやか市は海辺の町だって聞いたわ」
南野奏が言う。調辺アコはうなづくと自分のミラクルライトを水路にかざした。黒川エレンのライトの光がそれに重なる。
「あたしたちのハーモニー、響かせよう!」
「プリキュア スマイル・チャージ!」
みゆきたちはふしぎ図書館に集まると変身した。ここなら人目を気にする必要はない。プリキュアになれば光の力を最大限に発揮できるはずだ。
「あゆみちゃんならきっとやってくれるよ」
「うちらはうちらのできることをやる」
「私たちだってヒーローなんだから」
「直球勝負だよ!」
「これが私たちの道です!」
剣崎真琴はカメラの前に立っている相田マナたちにサインを送った。今だ。
配信ライブのクライマックス。マナたちは見学の予定だったが、戦っているプリキュアたちの応援に向かった方がいいのではないか、と結論が出かけたとき、菱川六花が「いい考えがある」と言った。
真琴のサインを合図に、タイミングを揃えてマナたちがミラクルライトを振る。急いで集めたおそろいのコスチューム、四人の姿がシルエットでカメラに映る。五つのライトの光が全世界に配信されていった。
「ともに上のステージにまいりましょう!」
「プリキュア くるりんミラーチェンジ!」
キュアラブリーたちはブルーに導かれてクロスミラールームに入った。
真琴のライブで配信されるミラクルライトの光は、世界中に届きはするが、一般の通信回線を通るので決して強くはない。クロスミラールームを通じて世界中のプリキュアと連携、彼女たちのミラクルライトの光と、配信を映し出しているモニタから発せられるマナたちのミラクルライトを共鳴させる、という作戦だった。
「プリンセス、ヨーロッパをお願い」
「ラジャー!」
キュアハニーがアメリカ、キュアフォーチュンがアフリカとオセアニア、キュアラブリーがアジアを担当する。
「今こそ、あたしたちの愛とラブとラブリーを!!」
できれば高いところがよかったが、いかに海藤みなみが信頼篤い生徒会長でも、普段は施錠されているノーブル学園の時計塔の開錠許可を、理由の説明なく緊急に得るのは難しかった。
「そうだ、海は?」
天ノ川きららが叫んだ。
「さすがです、きらら」
「だてに何度も海を越えてません」
紅城トワの言葉に、きららは「にひ」と笑った。
みなみが駆け出す。春野はるかも続いた。
理屈は響たちと同じ。海は世界中につながっている。学園の前の海をミラクルライトの光で満たすことができれば、それは当然、すこやか市にも届くはずだった。
「咲き誇れ、あたしたちの光!」
宇佐美いちかがいちご坂を駆け上がる。剣城あきらが追い越していった。彼女には珍しく、いちかを見向きもせず走っていく。今は、誰が一番かは重要ではない。とにかく一秒でも早く光を届けなければ。有栖川ひまりも必死の表情だった。
いちご山の頂上。あきらがミラクルライトをかざした。次にたどり着いた立神あおいが荒い息のまま続く。
妖精たちが、何事かと顔をのぞかせた。
「あなたたちも祈って!」
琴爪ゆかりが叫んだ。
キラ星シエルがライトを点灯させる。
「これでパルフェよ!」
その光はすべてそれぞれの頭上へ延びて行き、世界を覆っていく。濃淡を持って揺れる光の波は、まるで太陽の表面で踊るプラズマのようだった。
キュアエコーが高々とミラクルライトを掲げる。グレルとエンエンも続いた。
ミラクルライトが熱を持っている。世界中の光に呼応しているのだ。あとは、その光をすこやか市に導くだけだ。
「世界に響け、みんなの想い!
プリキュア ハートフル・エコー!!」
ミラクルライトを持った手を前に伸ばす。
世界を覆った光が、一斉にすこやか市へと向きを変えた。
最終更新:2021年02月19日 22:47