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『映画ヒーリングっど♥プリキュア Connected World』 <前編>2




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「メガビョーーーゲンッッッ!!!」

 林に沿って開けた場所に、戦意むき出しの咆哮が響く。
 異形の巨体から放たれる『圧』。
 数十メートルの距離を置いていても、精神が押し潰されそうになる。
 だが、それを正面から受けとめる色鮮やかな四人の少女に、怯む気配はない。

 体高5メートルを超える巨大な切り株の怪物。 ―― ボディの下部から伸びる幾つもの太い根が足となり、自在な機動を行う。さらに本体の両側面から多数の蘖(ひこばえ)、すなわち新芽が伸びて、鞭のようにしなる長い腕となっている。
 禍々しい瘴気を発生させる切り株ボディの表面に浮かぶ凶悪な眼と口が、少女たちを威圧する。
 それは地球を蝕む『メガビョーゲン』という存在だった。
 そして、立ち塞がる少女たちは ―― 地球の癒し手『プリキュア』

「行くよ! みんな!」

 キュアグレースが凜と張る。
 ごく普通の中学二年生である花寺のどかが変身した姿は、普段の彼女の容姿から掛け離れていた。
 変身に伴う一時的な成長で、手足も身長もスラリと大人びて、おとなしめのボブヘアは、ふわっとボリュームを持たせて広がる桃色のロングヘアにチェンジ。
 身に纏うのは、可憐な花を思わせるピンクのコスチューム。花と宝石を乗せた髪飾りに、緑葉のイヤリング、ハート型の宝石が嵌った白いショートグローブ、さらには足元を可愛らしく飾る桜色のショートブーツと、戦うための出で立ちには到底見えない。
 ―― だが、瞳に込められた意志の強さが、彼女の姿を美しい戦士へと昇華させていた。

「メガッッ!」と凶暴な一声と共に、右側の蘖が数本、射出めいた速度で突き出された。伸縮自在の一撃。数十メートルの距離を一瞬で突っ切った蘖の先端が、キュアグレースへ襲い掛かってくる。
 しかし、キュアグレースの反応のほうが速い。
 ……正確には、キュアグレースたち、だ。
 彼女が右手に持つヒーリングステッキ ―― 先端にハート型のクリスタルが嵌った伝説の聖医療具には今、パートナーであるラビリンが合体している。
 合体前は、ピンク色の子ウサギのヌイグルミ……とでも言いたくなる二頭身体型のヒーリングアニマル。ヒーリングガーデンという世界からやってきた彼女はまだ幼く、単体で戦えるほどのチカラは備わっていないが、それでもこうしてヒーリングステッキと合体することでプリキュアと共に戦うチカラを得る。

 顔と両手の肉球だけを覗かせた状態で、キュアグレースが身を守るように構えたヒーリングステッキと完全一体化しているラビリンが叫んだ。

「ぷにシールドッ!」

 前方に大きく空間投影されたピンク色の肉球スタンプから発生するエネルギーシールド。円状の光楯が、すぐ目の前まで迫っていた蘖を派手に跳ね返す。
 ―― 刹那、同時に他の三人のプリキュアが動いた。

 地を駆け抜け、切り株型のメガビョーゲンに右サイドから切り込んでいくキュアフォンテーヌ。
 のどかと同じく中学二年生の沢泉ちゆが変身した姿は、麗しさが際立つ。もとより端整な顔立ちと陸上部で鍛錬されたスマートな肢体の持ち主だ。変身の効果で、それらにさらに磨きがかかっていた。
 運動の邪魔にならないようにシュシュでまとめられていたセミロングの黒髪は、清冽な水色へと変わり、量も倍以上に増加。豊かな髪はブルーのハートをあしらったカチューシャによって後頭部でまとめ上げられた後、左右に大きく分かれながら、ひざ下の辺りまで流れ落ちている。
 すらりと細く長い脚にフィットする青いロングブーツ。
 水を意識したコスチュームは、ブルーを柔らかに主張しつつ、エレガントなイメージで固められていた。
 その姿が、鋭くメガビョーゲンへと肉薄する。

 接近に気付いたメガビョーゲンが牽制。高速の杭をぶち込むみたいに、巨大な根の足で地面を踏み砕く。

「メガガッッ!」

 キュアフォンテーヌの目の前で爆発的に噴き上がる土砂。
 回避のため、タンッ!タンッ!と、大地を蹴って大きくバックステップ。だが、その動作で稼いだ距離を、次の瞬間には助走に使用。そして華麗なハイジャンプで土砂を飛び越える。
 それは完全にメガビョーゲンの意表を突いた。
 メガビョーゲンが意識を上空に向けるよりも速く ―― 、

「ったあああああッッ!!」

 キュアフォンテーヌの裂帛の気合!!
 落下の勢いに、空中での高速回転を加えた強烈な蹴りが切り株に叩き込まれる!!
 ただの切り株であれば真っ二つに裂けるほどの一撃。しかし、メガビョーゲンのタフなボディは耐える。
 ―― 瞬時に膨れ上がる怒気。

 これを誰よりも早く察知したのはペギタンだった。キュアフォンテーヌが右手に持つヒーリングステッキと合体している彼が叫ぶ。

「来るペエッ!」

 反射的にキュアフォンテーヌが切り株ボディを足裏で押し飛ばすように蹴り、後ろへ跳躍。直後、彼女がいた位置を、凶暴な緑の鞭と化した蘖が薙いだ。

「ありがとう、ペギタン。助かったわ」

 やわらかな微笑みと共に感謝の言葉。
 ヒーリングステッキと一体化中の子ペンギンの表情が、ちょっと照れて赤くなる。
 でも、油断はしない。
 こちらの姿を憎々しげに射抜いてくるメガビョーゲンの両眼。
 次の攻撃を予測し、いつでもキュアフォンテーヌのためにぷにシールドを張れるよう、準備しておく。

 ―― 突如、キュアフォンテーヌへと向けられていた敵意が揺らいだ。
 幾つもの根の足で地面を削りながら、メガビョーゲンが強引に切り株ボディを反転。
 凶眼が、背後に迫っていた黄色いプリキュアの姿を捉える。

「メガァァァァーーッ!」

「 ―― けど遅いぜ!」
「火のエレメント! ハアアアアッッ!」

 ヒーリングステッキと一体化した子ネコの顔が勝気に叫ぶのに続いて、彼をパートナーとするキュアスパークルが両手で聖医療具を構え、先端から精霊の炎を撃ち出す。
 ―― 命中。
 だが、本来なら胴体部に突き刺さるはずの火砲の一撃を、メガビョーゲンが左側面の全ての蘖を叩きつけることで相殺。体の左半分から火の粉を撒き散らしながら、猛スピードで突進してくる。

「うわあああっ!?」と思わず焦ってしまうキュアスパークル。
 のどか、ちゆと同学年であり、親友の仲でもある平光ひなたが変身した姿は、天然の愛嬌を振り撒く彼女の明るい性格と、ファッションに対するこだわりがそのまま反映されたような見た目だった。
 栗色のツインテールは、明るいイエローカラーにチェンジした上でボリュームマシマシの巻き髪ツインテールとなり、頭の両側にはネコミミっぽく仕上げたシニヨンまである。
 黄色のトップスは、大胆に肩を露出させるデザイン。左右の二の腕にはモコモコのファーのアームバングル。バルーンスカートの裾部分もモコモコのファー拵え。
 綺麗な脚を飾るのは、ストラップ付きのイエローのパンプスとブラウンのフェイクニーハイの組み合わせ。
 ……戦闘という概念がカケラも見当たらない格好だが、さいわいな事にプリキュアのパワーは外見に関係なく発揮される。

「いや慌てるほどのことじゃないだろ!?」とパートナーであるニャトランがツッコむと、「あ、そっか」とあっさりと動揺を引っ込める。そして脳裏に走った一瞬の閃きに従い、ダンッ!と十数メートル真上へジャンプして突進を回避。
 ズガガガッ!と地面を抉りながら幾つもの太い根の足で急ブレーキをかけたメガビョーゲンが、全ての脚部を強くたわめ、すかさず爆発的に解放することで高速ジャンプ。
 巨体が迫ってくるが、さっきニャトランにツッコまれたせいで、キュアスパークルに動揺は無かった。これは想定内だ。ヒーリングステッキを両手で縦に構え、メガビョーゲンのほうへ突き出す。

「ニャトラン!」
「ぷにシールド!」

 ニャトランの張ったサンイエローのシールドにメガビョーゲンが激突。
 ダメージは無いが衝突威力を殺しきれない。メガビョーゲンの強襲を受け止めた姿のまま、空中へと高く突き上げられる。
「グッ…」と一瞬、声を詰まらせるキュアスパークル。だが、表情には強気の笑み。彼女の瞳は映していた。メガビョーゲンの背後に風を裂いて現れた人影を。
 ―― メガビョーゲンの渾身の跳躍に軽々と追いついてくるジャンプ力。
 横に逃げるのではなく、あえて真上に高く飛んで回避したのは、この構図を作り出すためだった。とっさに立てた作戦だが、きっと上手くいく……はず。
 キュアスパークルが叫ぶ。

「……アースっ、お願いっ!」
「わかりました」

 落ち着きのある物柔らかな声音の主 ―― キュアアースがうなずいた。
 彼女は人間ではない。
 今は風鈴アスミという名で呼ばれている、地球によって風のエレメントから生み出された少女が変身したプリキュアである。
 つい最近誕生したばかりであるが、外見は20歳近くで、これは変身前も後も変わらない。
 清らかな容貌はそのまま。ただ変身に際して、金髪のロングヘアが薄いアメジスト色へと変化し、そこへ翼飾りの付いた黄金のティアラを着けることによって神秘性が増している。
 ほっそりした手を白いオペラグローブで覆い、金のアンクレットをまとう素足にはパープルのフラットシューズ。
 高貴な紫をイメージカラーにしたコスチュームは、彼女の華奢な両肩を淑やかに覗かせ、また、アシンメトリーのロングスカート部分は前を大きく開いて、彼女の魅力的な脚を露わにしていた。
 ―― 戦士というよりは、神々しき巫女を思わす姿。
 空を舞う彼女が、たおやかに風の神器を手招く。

「アースウィンディハープ」

 キュアアースの召喚に応えて異空より現れた竪琴を、ほそやかな指が優しく爪弾く。
 美しい音色とは裏腹に、彼女の頭上で空気が激しく渦を描き、見えない烈風の砲弾を紡ぎ上げる。
 本能的な危機感に突き動かされたメガビョーゲンが身を斜めによじりつつ、右側面の全ての蘖を上空へ向けてきた。

「メガァァッ!」

 来い! ―― とでも言うように突き出された蘖の盾に、不可視の砲弾が炸裂。
 ドンッッ!!と重い破裂音と共に、蘖の多くが千切れ飛ぶ ―― が、本体へのダメージは緩和されてしまう。
 しかし、関係なかった。
 防御されようとも、それごと押し潰してしまうならば。
 踏みとどまる足場のない空中で烈風の一撃を食らったメガビョーゲンは、見えない巨大な拳でぶん殴られたみたいに一直線に地上へ叩きつけられる。
 ―― 轟音。

「おっし! やった、作戦通り!」
 と、空中のキュアスパークルが片手でガッツポーズを作る。
 ニャトランが「ニシシ…」と笑って、彼女の言葉の後に繋げた。

「まあ作戦って言っても、ぶっちゃけほとんど、出たとこ勝負だったけどな!」
「えー。なんとかなったし、いいじゃん~~」

 地上では、メガビョーゲンが地面と激突したことにより、土煙が噴き上がっていた。
 その中に輝くブルーの光。激しく撒き散らされた土砂をガードするため、ペギタンが張ったぷにシールドだ。
 光楯に守られて立っているのはキュアフォンテーヌ、彼女のすぐ後ろにキュアグレース。
 キュアフォンテーヌが後ろを軽く振り返り、キュアグレースと視線を合わせてうなずく。
 ぷにシールド解除。続いて、キュアグレースがヒーリングステッキを自分の顔の高さにかざし、ラビリンの手の肉球にタッチ。そして二人で声をそろえる。

「「キュアスキャン!」」

 メガビョーゲンとは、さらに上位の存在である『テラビョーゲン』が放った闇の病原菌が、地球の様々なものに宿るエレメントを核として、異形的成長を遂げた怪物である。
 これの活動を停止させるには、闇のチカラに取り込まれているエレメントを摘出すると同時に、一気に浄化してしまうしかない。
 キュアスキャンの発動によって、パートナーのヒーリングアニマルと視覚を共有化した状態で、メガビョーゲンの体内を透視検査することが出来る。
 ―― 視えた。
 闇の病原菌に蝕まれて苦しんでいる、木のエレメントの姿。場所は、切り株ボディの中心から、やや左下。

(待ってて、すぐに助けるから!)

 キュアグレースの気持ちが、ヒーリングステッキに流れ込んでいく。
 ―― エレメントチャージ!
 ラビリンの肉球をテンポよく三回タッチ。
 ―― ヒーリングゲージ上昇!

「プリキュア・ヒーリング ―――― 」



最終更新:2022年01月15日 11:59