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『映画ヒーリングっど♥プリキュア Connected World』 <前編>5




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「 ―― というわけで、あらためまして、さっきは怪物から助けてくれてありがとう」
「いえいえ」

 丁寧に頭を下げるミナに対して、のどかたちもお辞儀を返す。
 のどかは頭を上げる前に、いったんチラッと上目遣いでミナの反応を窺う。
 隣でスッと頭を上げたちゆが、背筋を伸ばして一歩前に出る。

「あの、わたしたちのことなんですが ―― 」
「ああ、わかってる。スクープにはせえへんって。いくら特ダネや言うても、罪もない人を困らせたり苦しめたりするのはアカンやん?
 ―― 『知る』っていうのは、皆が正しく幸せになるための手段の一部なんやから、そこを履き違えたら元も子もないやろ」

 そう言って、ニッと笑ってみせた。
 とても人好きのする笑顔だった。

「くくく……、まあ、それはそれとして、こう…なんていうか、フリージャーナリストの魂がうずくっていうか。ぶっちゃけ私個人として色々興味津々でたまらへんから、みんなのコト根掘り葉掘り、ぜーんぶ聞かせてほしいんやけどなあ」
「いえ、だからそれは……」
「ダイジョーブダイジョーブ。話してくれた内容は、私の脳内だけに留めとくから。約束するって」

 ミナが右腕の親指を立てて、ビッ!と腕を突き出す。退(ひ)く気は全くないらしい。

 罪もないのにさっそく困らされているんですが。 ―― ちゆは思わずそう言いかけたが、ミナのきらきらと期待に満ちた笑顔に押されて、言葉を呑み込む。

「…………」

 ちゆが困り顔で、隣に浮かぶペギタンに相談の視線を投げかけた。現在、人間界に来ているヒーリングアニマルは、ラテを除いて皆、浮遊能力を持っている。
 パートナーの隣に当たり前のように浮かんでいる二頭身体型のヒーリングアニマルたち、
 すなわち、
 ―― ピンク色の子ウサギのような姿のラビリン、
 ―― 見た目が水色と白のツートンカラーの子ペンギンであるペギタン、
 ―― 黄色の体毛にオレンジの縞が入った、子ネコっぽい外見のニャトラン、
 それぞれを順々に見上げて、ツナグが洩らした。

「すごい……、みんな浮いてる。どうやってるの、それ?」

 ん?と、ちゆの隣に立っているひなたが、ツナグに視線を向けて素朴に口にする。

「あたしとしては、あの空間にサクサク穴開けて移動するワープのほうがすごいーって思うけど。あれこそ、どうやってるのって感じだったし」

 即座にミナが食いついてきた。

「それな! 私もむちゃくちゃ気になる!」
「ですよねー!」

 ミナ、ひなた、意気投合。
 ……と、二人の視線が重なったところで、ミナが申し訳なさそうに声のテンションを落として言った。

「あの…、さっきはゴメンなぁ」
「あ、いいですよ、目もお腹も無事だし、全然気にしてな ―― 」
「 ―― 大切な友だちを幽霊呼ばわりしてしもて」
「えっ? 謝ってるの、そっち!?」

 ちなみに現在、アスミは元の状態に戻っている。
 だぼっとした感じの横縞ニットパーカー姿のひなたが『ま、いっか…』という態度であっさり流し、ミナへと向けて、明るく自分たちの自己紹介にかかる。

「あたしは平光ひなた。すこやか中学の二年生。うちは獣医やってて……あっ、お姉のやってるカフェのジュース、めっちゃ美味しいから今度飲みに来て。
 ―― で、この子が」

 すぐ傍らで言葉を失ったまま浮かんでいるニャトランを両手で挟み込むみたいに掴んで、自分の正面に持ってくる。
 栗色のツインテールを揺らすひなたの表情は、自慢の友だちを紹介したくてウズウズしていた。

「パートナーのニャトラン。あたしとめっちゃノリが合うの。もう、なんて言うのかなー、生涯の友ってカンジ? こういう関係って確か、ヒヨコの鳥って言うんだよね。
 ニャトランはね、ラビリン、ペギタンと同じくヒーリングガーデンっていう世界から、地球のお手当てにやってきたお医者さん見習いなんだ。それでね、プリキュアに変身したあたしと一緒に、あの怪物みたいな連中から地球を守ってるの。
 ……あっ、ちなみに、あたしが変身するのは光のプリキュア・キュアスパークル」

 ヒヨコの鳥じゃなくて比翼の鳥 ―― 普段ならそう訂正してくれるちゆは、ひなたの隣で凍りついたみたいに固まっていた。
 その反応を無頓着に素通りして、ひなたが続けて、ちゆとペギタンを紹介していく。

「水のプリキュア・キュアフォンテーヌに変身する沢泉ちゆ。あたしと同じクラスで、家は『沢泉』っていう温泉宿をやってるの。
 ちゆちーはね、えーっと見た目で分かると思うけど、真面目で頭も良くて、あと美人。
 部活は陸上部やってて、うちの学校が誇る走り高跳びのエースなんだよ。
 パートナーのペギタンは優しい性格の子で、ちゆちーが大好きなの。
 ちゆちーのコトをもっと知りたかったら、この子に尋ねてみて。ちゆちーのイイところ、普段からたっくさん見てるから、誰よりも詳しく語れるよ」

 ひなたの説明に付け加えるならば、現在のちゆは、水色のシュシュでまとめた長い黒髪とロングスカート姿が相まって、しっかり者のお姉さんという感じだった。

 紹介は、ちゆと同様に固まってしまっているのどかと、彼女のパートナーであるラビリンへと移った。

「今年の春にすこやか市に引っ越してきた花寺のどか。花のプリキュア・キュアグレースに変身するんだよ。
 のどかっちはね~~、ひとことで言うと、普通かな」

 地味ながら可愛らしさをアピールするボブヘアに添えられた花の髪留め。
 黒いタートルネックの長袖インナーに重ねられた、ピンクの半袖ワンピース。
 のどかの見た目は、確かにどこにでもいそうな普通の少女だ。
 しかし、ひなたがあわてて言い直す。

「 ―― あっ、普通にすっごくいい子って意味での『普通』ね。困ってる人がいたら当たり前に助けようとするし。
 えーっと、つまりね、のどかっちの『普通』は、きっと、たっくさんのイイ物が詰まった最高の普通なんじゃないかな。
 パートナーのラビリンは、体はちっちゃいけど、胸に秘めた頑張り屋さんなハートは、人一倍大きいんだ。
 あと、責任感も強くて長女っぽいイメージがあるよね。正直、あたしよりも生活面ではキチンとしてると思うよ」

 笑顔のひなたが、さらに続けてアスミとラテを紹介する。

「風のプリキュア・キュアアースに変身する風鈴アスミと、パートナーのラテ」

 ロングの金髪をアップにしたアスミが、ミナに向かって上品に会釈する。
 白いスウェットに紫のマーメイドスカートというシンプルな着こなし。そして、まだ俗世に染まりきっていない透明な無垢さを、彼女独特の雰囲気として纏う。

「アスミンはねー、どう見ても大人の女性なんだけど、実は今年生まれたばっかなんだ。
 だから最初の頃は常識ズレてて、いきなり道ばたで寝ちゃおうとするし……。
 でもね、今はのどかっちの家にホームステイしてるから、ちゃんと部屋で寝てるよ。
 ―― あ、そうそう、アスミンが生まれた理由しなきゃなんだけど……、
 その前にラテのこと話したほうがいいよね。
 ラテは、ニャトランたちと一緒に人間界にやってきたヒーリングガーデンの王女なの。
 まだ幼くて言葉はしゃべれないけれど、ヒーリングガーデンの聴診器を使えば心の声を直接聞けるよ。
 ラテはね、アスミンと同じでのどかっちの家で暮らしながら、地球のお手当てのサポートをしてるんだけど、ある時、ラテがピンチになっちゃってね、それに気付いたヒーリングガーデンの女王でラテのお母さんでもあるテアティーヌさんが、めっちゃ地球に願ったんだって。
 おりゃあああッッ! ラテをどうかお守りくださいいいいっっ!……みたいな感じで。
 そしたら、地球がそれに応えて、風のエレメントからアスミンを誕生させたんだ。
 ……うんうん。母の愛はとんでもなく大きくて、だからこそ、とんでもなく大きな奇跡を起こせたんだねー」

 そして自らの言葉に感じ入ったように目を閉じ、「これはとんでもなくスゴいことだ」と両腕を組んで頷いてみせた。
 アスミがそんな彼女をにっこりと鷹揚に見つめる。反対に、アスミよりも状況を理解しているラテが、ちょっと心配そうにひなたを見上げていた。
 絶句したままワナワナと震えていたニャトランが、ここにきてようやく言葉を取り戻し、ひなたに向かって叫ぶ。

「おま…おまっ、おまえっ、なんで片っ端からしゃべってるニャアッッ!?」
「あれっ? えっ…、うそっ、もしかしてダメだった!?」
「ダメだろッ!! 普通にッ!! ダメだろッ!!」

 ミナが「まあまあ」となだめるみたいにニャトランに声をかけてから、自分の顔の前で、イカした仕草でグッと右手の親指を立てた。

「大丈夫やで。こっちとしては全然問題ナシ!」
「いや大丈夫じゃねえしッッ! コッチとしちゃ大問題だよッッ!」

 ニャトランの叫びで我に返ったのどかたちが、ひなた・ミナを除いて全員集まり、今さらながらだが、現状について話し合いを始めた。

「まあ、ミナさんも話さないって約束してくれたし、それでひなたちゃんも安心してしゃべっちゃったんだと思うけど」
「それにしても無関係の人にしゃべりすぎペエ」
「本当に誰にも話すつもりはないとしても、うっかり口を滑らせちゃうってコトはないかしら」
「ツナグはどう思うラビ?」
「えっ、ボク!?」
「わたくしが、もう一度『メガネメガネ』を仕掛けてみるというのはどうでしょうか?」
「それ、やる意味あるペエ?」
「ていうか、落ち着いて考えてみると、ひなたがこっち側にいる時点で、こういうのは遅かれ早かれだよなぁ」
「わんっ」
「ひなただけを責められないわね。元はといえば、わたしたちがミナさんの前で変身を解いてしまったのが原因であるわけだし……」
「いや、あれって半分以上、ミナのせいじゃねーか?」
「そういえば、わたしの変身、なんで解けちゃったんだろう?」

 皆がそれぞれ複雑な表情をしつつ、ふと、ひなたとミナのほうへ目を向けた。
 ミナがスーツのポケットから取り出した紙を広げて、ひなたと一緒に見ている。
 それはさっきのどかが読んだのと同じ、メガビョーゲンの捜索用チラシだった。

「この町に来た時に、風で飛ばされてきたのを偶然拾ったんやけど……。
 今から、このグアイワルって人に電話してみよか? 『どもー、プリキュアですー』みたいな感じで」
「あっ、ウケルー」

「そこっ! 何しようとしてるラビィィィィッッ!?」

 ラビリン、絶叫。
 ひなたとミナを一緒にしていてはダメだと素早く判断したのどかが、アスミに声をかける。

「アスミちゃん、お願いっ」
「ハイ! 『メガネメガネ』ですね!」
「ううんっ、『メガネメガネ』はいいから、ひなたちゃんの代わりに、ミナさんから目を離さないで」
「わかりました」

 アスミと入れ替わりでひなたを迎え入れて、話し合いを再開。……しかし、そもそも何をゴールとして話をすればいいのかが分からない。
 再開早々、短い沈黙が皆の間に降りた。
 ……ミナがアスミに向かって大きな声でしゃべっているのが聞こえてくる。

「ええかっ、『マック』ちゃうで! 『マクド』や! 『マック』なんて言う奴は、棒か何かでぶん殴ってやればええねん!」
「はいっ、棒で叩いてやります!」

 何の会話をしているんだろうと思いつつ、のどかが心の中で優しくつぶやいた。

(棒で叩いたら駄目だよ、アスミちゃん……)



最終更新:2022年01月15日 12:07