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『映画ヒーリングっど♥プリキュア Connected World』 <前編>7




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「それでは、今から簡単にやけど、ツナグの歓迎会を始めます! かんぱーい!」 

 なぜかミナが乾杯の音頭をとる。
 ほかに誰もいないハート展望台のバルコニーに、ちゆの持ってきたレジャーシートを敷き、各々好きな場所に座って、グミのせジュースを持っている。
 ちなみにツナグの手にあるのは、ジュースの入った1オンスの紙コップ。試飲などに使われる小さな紙コップで、今、ヒーリングアニマルたちが持っているものと同サイズ。
 乾杯というものが理解できず、ボーっとしているツナグの紙コップに、ちょこん、と可愛らしく自分のカップを当てたのどかが、
「美味しいから、飲んでみて」
 と、優しくうながした。

「え…、ボク、これ飲んでいいの?」

 手渡されたものの、そこから先はどうしたらいいか分からず、ジュースを持て余していたツナグが驚いた顔を見せた。
 しかし、すぐにハッとした表情になって、いったん紙コップを脇に置き、自分のリュックの中身をあさり始めた。
 世界を旅してきたツナグは、人間たちの町で何度も見た。人間はお店の人たちから何かを貰う時、お礼に『お金』というものを渡すのだ。
 ツナグはお金をもってはいないが、代わりに、一番美味しそうな木の実や、形が綺麗な葉っぱ、海岸で拾った素敵な貝殻などを両手に乗せられるだけ乗せて、のどかに差し出した。

「こ…、これで足りますか?」

 のどかがニコッと笑って、それに答える。

「ツナグ、友だち同士でそういうのはしなくていいんだよ」
「ともだちっ!?」

 驚いて目を見開くツナグ。
 あやうく両手に乗せた物全部を落としそうになった。
 のどかの隣に座っていたちゆが、ペギタンと一緒に軽く身を乗り出して言う。

「のどかだけじゃないわ。わたしも、ひなたも、アスミも ―― 」
「ぼくやラビリン、ニャトラン、それにラテ様も、みーんなツナグの友だちペエ」

 ミナが、んっ?という表情になって自分を指差しているが、誰もそっちを見ない。

 ツナグは、呆然と「すごい…」と洩らし、両手の物をリュックにしまったあと、勧められるままにジュースを口にした。
 ―― たまに果実を口にすることもあるが、その汁よりもずっと甘みが深い!

「すごいっ!」
 と目を白黒させて、思わず紙コップの縁(ふち)から口を離してしまったツナグが、あわてて次の一口を飲み、また「すごいっ!」と目を白黒させる。

「これも美味しいラビ。すこやかまんじゅう」

 ツナグがジュースを脇に置いて、ラビリンが包みをはがして差し出した饅頭を手に取り、少し遠慮がちに口をつける。
 ほろほろと崩れる柔らかな食感に続き、上品な餡の甘みが口の中に染み渡る。
 頬の内側が『じわ…っ』と蕩けてしまいそうな、ツナグが初めて体験する甘さ。
 饅頭をほおばったまま「ふごいっ!」と叫んで、がつがつ食らう。

「そんなに急いで食べたら、のどを詰まらせちゃうペエ」

 ペギタンがツナグの傍まで飛んで移動し、ジュースを飲ませてやる。
 さっそく一個食べつくしてしまったツナグを見て、ミナが「はははっ」と笑う。そして、自身の分のすこやかまんじゅうの包みをはがして、彼の手に乗せた。

「今度はもっとゆっくり味わって食べや」

 ミナの声を聞く余裕もなく、手に乗せられたすこやかまんじゅうにかじりつく。
 そんな彼のほうへ、シートに座ったままズルズルと移動してきたひなたが、
「ツナグ、他にもお菓子あるよ~~。はい、あーんして」
 と、クリームチーズをはさんだクッキーサンドを右手でつまみ、その下に左の手のひらを添えて、ツナグの口元へと近づける。
 ツナグは興味津々といった感じですこやかまんじゅうから口を離して、差し出されたクッキーサンドを一口かじった。サクサクしたクッキー生地の歯触りと、スウッと歯が通るクリームチーズの柔らかさが一緒に口の中に飛び込んでくる。そして、口の内側全体が甘み一色に染まってしまうような感覚。

「…………っ!」

 すごい!という言葉の代わりに目を輝かせるツナグ。
 ひなたも嬉しそうに両目を細めて、ツナグが食べ終わるまで、その姿勢を維持。

「今日は遠慮しないでいっぱい食べて。ツナグはあたしの両目の恩人なんだから」
「あっ、そうだツナグ、これも美味いぞ」
 と、ニャトランがニボシを差し出す。
「いや、ニャトラン、お菓子食べてる流れで、ニボシはちょっと……」
「え……ダメか?」

 ショックを受けた顔になるニャトラン。
 でもツナグは、そんなニャトランの差し出したニボシを、はむっ、と咥えて、ほくほく顔で食べてしまう。これも気に入ったようだ。
 そばで見ていたミナが、眼鏡のブリッジを中指でクイッと中指で上げた。

「くくく…、ツナグは魚も嫌いやないんやね。せやったら、いずれ機会を見て、私と一緒にシュールストレミングを食べてみよっか」

 ―― シュールストレミング。ニシンを発酵させた缶詰。最大の特徴として、食べ物の中では世界一と言われるほどの凶悪な臭気を発することが挙げられる。
 そんな事は露も知らず、とりあえずシュールストレミングが料理名だと理解したツナグが、ミナを見上げて両目を期待でキラキラさせる。
 ちゆがにっこりと慈母のように微笑み、氷みたいに冷えた声でアスミに声をかける。

「いいわよ」
「ハイ」

 返事こそ丁寧だが、声に宿っているのは、容赦を感じさせない鉄の響き。『メガネメガネ』を執行すべく、アスミがミナの顔へと両手を伸ばした。
 ―― だが、いち早く両目の危機を覚えたひなたが、悲鳴を上げながら両手で顔を覆ってレジャーシートの上を転げ回る。全員、お菓子とジュースを持って散り散りに避難。

 一緒にバルコニーの手すりのほうへ逃げてきたちゆとのどかが、互いに顔を見合わせて苦笑。バルコニーの壁に背を預けるように並んで座る。

「こうしてると、ちゆちゃんとのどかちゃんって、なんか姉妹みたいやねぇ」

 突然話しかけてきた声に、二人そろって妖怪に出くわしたような驚き方をする。

「ミナさんっ!?」
「ヒッッ」

 のどかのすぐ隣に座っているのに、まったく気配がなくて気付かなかった。
 妖怪扱いの反応に気を悪くした様子もなく、ミナが再び話しかけてくる。

「別に二人の顔が似てるとかやなくて、ほら、ちゆちゃんって常に、のどかちゃんをサッと守ってあげられる位置におるやん? その気にかけ方がお姉ちゃんっぽいっていうか」

「そうなの?」と、キョトンとした顔で尋ねてくるのどかに、ちゆは困惑しながら「さあ、どうかしら?」と返す。
 でも、のどかがクスッと笑って、「ちゆちゃんが本当のわたしのお姉ちゃんになってくれたら、すごく嬉しいのにな」と裏表のない表情で言うので、ちょっと照れつつも「わたしはかまわないわよ」と冗談めかして答える。

 二人のほうは見ずに、ミナが独り言っぽくつぶやく。

「まあ、のどかちゃんを無意識に気にかけてたってコトやね。 ―― のどかちゃんに、昔、何かあったんかな?」

 ちゆたちが顔を引きつらせて、声を出さずに慌てる。
 ミナが率直な疑問で突いてきたとおり、のどかには、幼い頃にテラビョーゲンの母体となり、以来、長く苦しい入院生活を送ってきたという過去がある。
 それを知っているからだろうか? ―― ちゆが無意識で行っている自身の振る舞いの原因を求めようとしたが、隣にいるのどかの顔が目に入った途端、どうでもよくなった。
 つらかった記憶を思い出しているのか、表情が曇りかけている。
 守ってあげなくては ―― と、強い衝動が湧き上がってきて、胸が締め付けられる。
 とっさに話題をそらそうと口を開きかけたところで、ミナがポツンと言った。

「別にどうでもええか…」

 口から出かかっていた言葉を詰まらせて、ちゆが、がくっ、と頭(こうべ)を垂れた。
 反対に、のどかは小首を傾げつつ、ミナを見つめ返した。
 今の話の打ち切り方は、なんだか自分たちの空気を察して、あえて興味の無いように振る舞った感じだった。

(いやいや、でもミナさんだし……。むむむ……)

 すぐに両目を細めて『じーーーっ』と疑り深い視線をミナの顔へと向ける。
 その視線が、ふと下がって、のどかが「あっ」と小さな声を上げた。
 だらんとリラックスして座っているミナが、スマートフォンを使い、少し離れた場所でラビリンたちと打ち解けているツナグの姿を動画撮影している。
 隣のちゆも気付いて、眉をひそめながら声を上げようとした。……が、それを制するようにミナが自分の口もとに人差し指を当て、小さくウィンク。
 ちゆがまたもや言葉を呑み込んだところで、動画撮影を続けるミナが、二人にだけ聞こえるぐらいの小声で話し始めた。

「……ツナグって、ああいう風に誰かと ―― ううん、『友だち』と話したり、何かしたりするんは初めてなんとちゃうかな? それで、せっかくやから記念に撮っといたろ思って。
 ほら、ツナグ、ぎこちないけど一生懸命がんばってる」

 レンズの奥で温かみを帯びているミナの眼差しを追って、のどかとちゆがツナグたちのほうを見る。

 ちょうど多数の青く透き通った立方体がバラけ、そこに開いた虚空の穴からニャトランが出てきたところだった。

「おおーっ、スゲッ、本当にワープできた!」

 楽しそうに興奮するニャトランに、ツナグが雑談がてらに自分の能力を説明する。

「昔、雨の日に沢に落ちそうになってた子鹿を、このチカラで助けた事があるんだけど、自分のサイズよりも大きな出入り口を作るのはメチャメチャ疲れて」
「へぇー、大変だな」
「助けたあと気を失って、沢に落ちて流されちゃったんだ」
「…ってオイっ」

 次、あたしっ ―― と、ワープ体験をさせてもらおうと手を上げかけていたひなたが、二人のやり取りを聞き、ツナグに気付かれないようにそっと手を下ろして、「たはは」と力なく笑った。
 代わりに、ツナグの前に出てきたのがラビリン。……出てきたというか、ペギタンに背中を押されて、半ば強引に突き出された感じだった。

「ほ…、本当にだいじょうぶラビ?」
「だいじょうぶペエ。……ほら、よく見るペエ。ニャトランの体は何ともなってないペエ」
「なんだよ、俺は人柱かよ」

 腹を立ててペギタンに食ってかかっているニャトランは置いといて、ツナグがラビリンの手を取った。

「こわくないよ。安心して、ボクが一緒だから」
「わ、わかったラビ…」

 そう言いつつも、やはりおっかなびっくりのラビリン。彼女の手を優しく引いて、正面に開いた虚空の中へツナグが進んでいく。
 ワープ距離はニャトランの時と同様、約1メートル。
 二人はすぐに出口へと到着して、ほぼ一瞬でワープの旅は終わった。
 精神的に楽しむ余裕は無かったラビリンだが、すでに元の空間の面を取り戻している背後を振り返って、初めての体験に軽い興奮を覚えつつ、
「本当にワープしたラビ!」
 と、ニャトランを同じような感想をこぼした。

「だから言ったペエ。何ともないって」
「ま、体の外側は何ともなくても、内側がどうなってるか分かんねーけどな。ニシシ」
「怖いコト言うなラビィィッッ!!」

 今度は、ラビリンたちの様子をあたたかい微笑みを浮かべて眺めていたアスミの足元近くで空間の立方体がバラけ、虚空が開いた。
 こっそりと出てきたラテが、ツナグに感謝の視線を送る。次にアスミを見上げて「わんっ」とイタズラっぽく吠えた。アスミをびっくりさせてやろうという作戦だった。

「まあっ!」

 アスミはびっくりするよりも可愛らしさに心を打たれ、思わず胸の前で両手のひらを重ねて頬を染めながらしゃがみこみ、ラテを見つめ返した。
 ラテ、あらかさまに残念そうな顔になる。

 ……そんな皆の光景を、少しだけまぶしそうに目を細めて見ていたちゆが、しみじみと言葉をこぼした。

「たしかに、これは記念として残しておく価値がありますね」
「やろ?」

 ニッ、と人好きのする笑顔を見せるミナへ、ちゆがまっすぐに顔を向けて尋ねる。

「のどかの昔の話に興味はありますか?」
「んー、ぶっちゃけ私が知ったところで、お役に立てそうにもないからなぁ。のどかちゃんの助けになってやれる子は既に知ってるワケやし、それでええんやないの?」
「ふふっ。そうですね。『お姉ちゃん』らしく、のどかの助けになれるよう、がんばります」

 最初に会った時と比べて、ちゆのミナに対する雰囲気はずいぶん柔らかくなっている。
 のどかも自然と警戒を解いて、ミナに話しかけてみる。

「ミナさんは、何かの取材でこっちに来たんですか?」
「うん。ネットでニュースのネタを漁ってたら、この町に、しゃべるウサギやらペンギンやらネコやらがおるっていう信憑性不確かな怪情報を見つけてな」
「うっ…」
「そういう面白そうな情報見つけると、ついついフリージャーナリストとしての魂が……。それでイタリアからスッ飛んできたワケやけど、まあ、なんやかんやでニュースとしては扱われへんようになりましたとさ」
「あはは」
「ツナグを見つけた時は、この子が怪情報に書かれてたしゃべるネコなんやな…って勘違いしてしもて。
 ―― あ、そういえば、私な、昔、ケット・シーっていう猫の妖精たちが住む村に立ち寄ったコトがあるねん」
「ふわぁぁっ、ヒーリングアニマルじゃない猫の妖精ですか?」
「そうそう。いろいろあったけど、最終的に怒り狂ったケット・シー全員がグルカナイフ振り回しながら村の外まで追いかけてきたんや。懐かしい思い出やで」
「何をやらかしたんですか、ミナさんッッ!?」

 のどかの上げた大きな声に反応して、ラテを胸に抱きかかえたアスミが小走りで近寄ってくる。

「のどかっ、『メガネメガネ』ですねっ!?」
「アスミちゃんはちょっと落ち着いてっ!?」

 アスミの背後では、両目を押さえて叫びながら出鱈目に転げまわるひなたの姿が。それに巻き込まれそうになったツナグとヒーリングアニマルたちが必死で逃げ惑う。
 ちゆが「ハァ…」と諦めたような溜め息をついて、話題を変えようとした。



最終更新:2022年01月15日 12:12