Juvenile(5)
このタイミングで電話とは。堂々巡りしているうちに揺れは収まった。
「電波が戻っています」
亜久里がスマートホンを見せた。
「あの形態になったことでエネルギーが必要になったとか、そんなところでしょう。であれば、お友達に電話してみる価値はあります」
「でも」
「パニックになって出られない、ということはあるかもしれません。でも、出てくれるかどうか、それが一つの情報になります」
「…うん」
「どなたでも構いません。思い出せますか」
「え、と。0…0」
「深呼吸して。落ち着いて」
いつも電話帳から名前で呼び出してかけるから、そもそも覚えているのかどうかも怪しい。だが、友人たちの中で、スマホを手に入れるのが最も遅かったのがあゆみで、何度も公衆電話からかけた。思い出せるはずだ。目を閉じ、その時のことを思い出しながら、キュアエコーは 11 桁の番号を言った。
「これで間違いありませんか」
亜久里が見せた画面の数字を、声に出して読む。キュアエコーはうなずいた。
「かけます。
もしもし」
電話があっさりつながったことにはどちらも驚いた。
《えーと、どちら様》
亜久里の耳に、朗らかな、というよりは楽しそうな声が飛び込んできた。
「円と申します。さきほど、坂上あゆみさんに送っていただいて」
《あー、ケットシーに意地悪された子》
「皆さんにご迷惑をおかけしたので、お電話しました。あゆみ…さんの電話はなんだかバッテリーが切れたようで」
《あ、そうなんだー。わざわざありがとうねー》
亜久里は、その明るさが理解できないまま、スマホをハンズフリー モードに切り替えた。キュアエコーに目くばせする。
「まりちゃん?」
《あー、あゆみちゃん。無事にお努め果たした?》
「うん。そっち――みんな、どうしてるの?」
《楽しいよー。今はね、スペシャル イベントで気球に乗ってる》
「気球?」
360 度を見回す。エンエンが、あれじゃない? と指さした。
「どこに向かっているのですか?」
《んー、聞いてないけど、なんか海の方に向かってるね》
間違いない。あの気球だ。
「楽しそうですわね」
《楽しい! 今度、あなたも一緒に行こうよ》
「是非、お願いしますわ」
通話を終えると、亜久里とキュアエコーはうなずきあった。理由はわからないが、ドリーミアは巨大ロボットに変形する前に、子どもたちを排除したのだ。
「戦いの邪魔になると思ったのかもしれませんわね。人質にされなくてなによりです」
「ドリーミアを止めよう」
ドリーミアだった巨大ロボットは地面を踏みしめながらおいしーなタウンに向かっている。キュアエコーと亜久里は、警戒しながら来た道を戻り始めた。今となっては小型と言うことになってしまうロボットたちは見当たらないが、右側はドリーミアが巨大ロボットに変形した影響で崖になっていた。
「掴まりながら行きましょう」
左側の木やツタを、引っ張って抜けないことを確認してから、しっかりと握って降りる。気は急くが、とても走り下りることができる状態ではなかった。
「…」
ふたりは同時に立ち止まった。振動を感じる。音はしない。かなり先を行っているドリーミア ロボットの足音だけだ。ほっと息をつく。
「!」
突然、足元が抜けた。キュアエコーの長いツインテールの先に、遥か地上の土が見える。足元の岩がすべて崩れ落ちた。
「亜久里ちゃん!」
「エコー!」
背一杯、手を伸ばす。亜久里の小さな手を握った、と思った瞬間、キュアエコーの手に激痛が走った。ロボットの攻撃を受け止めたところだ。歯を食いしばる。だが、力が弱まった一瞬で、亜久里の小さな手はキュアエコーの手を滑りぬけていった。
最終更新:2023年01月22日 21:16