『さらば悟くんのオチンチン』2/猫塚◆GKWyxD2gYE
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一緒にファミレスで朝食を取ったあと、いったん悟の家に立ち寄って、彼のショルダーポーチを取ってきた。悟が言うには、中に入っているモノがもしかすると役に立つかもしれない、とのコトだ。
……朝から色々あったが、とりあえず二人は、こむぎと大福の散歩をすることにした。
「でね、わたしと悟くんが入れ替わっている理由なんだけど」
大福のリードを握る悟の隣で、いろはが話し始めるも…………
前を歩くこむぎがチラチラと後ろを向いてくるのが気になって、言葉が途切れてしまう。
いろはが一歩、悟のほうに近寄って、自分が手にしているリードを差し出した。
「こむぎのリード、今は悟くんが持っててくれたほうがいいかも」
「うーん…。たしかにぼくの外見は犬飼さんだけど、でも、やっぱり中身はぼくだから」
思案に暮れる二人を見上げて、こむぎが犬の姿のまま、複雑な気持ちに揺れつつ言った。
「こむぎは、いろはにリード持ってもらって、お散歩したいワン」
いろはが自分を指差した。
「……いろはだけど、悟の姿ワン」
「…………」
いろはが黙って隣の悟を指差す。
「……いろはの姿だけど、悟ワン」
「なるほど。この件は迷宮入りだね」
「いろは、ひどいワンっ!」
こうしていても仕方がないので、いろはが強引に話を戻した。
「この前ニコガーデンに行った時、わたし、こっそりニコダイヤに願ったの。 ―― 悟くんになりたいって」
「えっ?」
「あ、もちろん、こんなふうに入れ替わりたいって意味じゃなくて、動物のことなら何でも知ってる悟くんみたいになりたいって願ったんだけど」
「なるほど」
ニコダイヤ。ニコガーデンの創造主のチカラが込められた巨大なダイヤであり、奇跡というカタチで世界に干渉することすら出来てしまう。
現在、犬飼家の愛犬こむぎが(※人間の女の子に変身している状態で)いろはと同じ中学に通えているのも、その奇跡のおかげである。
「確かに、ぼくたちの状況……ニコダイヤが原因である可能性もなくはないね」
冷静にうなずく悟の隣で、いろはが少し弱々しい表情で笑った。
「わたし、たまにね……ホントにたまになんだけどね、もしかしたら悟くんのほうがプリキュアにふさわしいんじゃないかって思っちゃうことがあるの。
―― おとといぐらいだっけ? ガルガルが現れた時だって、悟くんのアドバイスが無かったら、わたしもこむぎも危なかったし」
いろはが視線を下に落とし、溜め息をつくように言った。
「プリキュアの時だけでも、わたしと悟くんが入れ替われたら……。みんなもきっと、そっちのほうがいいんじゃないかな」
らしくない言葉 ―― 。いろはが、ハッとして顔を上げ、恥ずかしさをごまかすように悟に向かって言った。
「ご、ごめんっ、今のは心の中でつぶやいたつもりだったんだけど声に出ちゃってた。
……いつもこんな事考えてるわけじゃないよ。普段のわたし、すっごいポジティブ。だから悟くん、心配しないで」
あたふたしているいろはを見て、悟がクスッと微笑んで、話の方向性を変えた。
「まずはニコガーデンに行って原因と思われるニコダイヤを調べるところから始めよう」
「あ、うん」
「そうだ。行く前に、メエメエに事情を話しておいたほうがいいかもね。
予備知識なしに今のぼくたちを見れば、絶対パニックになるだろうから」
「悟くんのスマホ、持ってきてるよ」
「ありがとう」
いろはがスマホを渡すと、さっそく悟はメエメエに連絡を取った。
『おや、この声はいろは様? 今日は何のご用で?』
「えーと、なんて言えばいいのかな。ぼく、犬飼さんじゃなくて、悟なんだけど……」
『……はい?』
「実は、ニコダイヤに関する事で話があって……」
現在の自分たちの状況から、原因がニコダイヤにあるらしいことまでを順を追って説明していく悟。
メエメエ、最初こそ困惑が大きかったものの、ニコガーデンの至宝たるニコダイヤが勝手に使われた可能性に対して、だんだんと感情を昂らせていった。
加えて、創造主が帰還した際に自身が管理責任を問われるかもしれないという不安も募らせているらしい。
『あなたたちは(以下省略) ―― !!』
スマホの受話口(レシーバー)から聞こえ続けるメエメエのわめき声。
最終的に『滅(メッ)えええ~~、滅(メッ)えええ~~』としか言ってこなくなってしまったため、しかたなく悟は通話を切った。
「だめだ、犬飼さん。しばらくニコガーデンには行かないほうがいい。
きっとメエメエ、『もののけ姫』のタタリ神みたいな状態になってると思う」
「こわいね」
それはともかくとして、ニコダイヤを調べられないのは痛い。
いろはが頭を悩ませていると、不意に思い出した。
「たしか、悟くんのショルダーポーチに、役に立つかもしれないモノが入ってるんだったよね?」
いろはの表情 ―― といっても顔自体は悟だが ―― に好奇心がにじむ。
「いったい何が入ってるのかな? すっごい御利益があるお守り? それともすっごい科学アイテム?」
さっそくショルダーポーチを開けて、中身を取り出してみた。
―― わら人形
―― 五寸釘
―― 小型のハンマー
以上。
「……………………」
いろはは何も言わずにショルダーポーチに戻した。
打つ手を無くし、頭を抱えそうになっている彼女へ、こむぎがチカラ強く提案する。
「いろは、こうなったらやるしかないワン」
「やるしかない……? 何を?」
「楽しくお散歩ワン!」
「わーいっ」
駆け出すこむぎに続いて、リードを握るいろはも笑顔で走り出す。
一瞬遅れて、悟と大福も追いかける。
「待って犬飼さんっ、思考放棄しても問題解決にはならないよっ」
「大丈夫だってば。さすがに今日はもう、これ以上問題なんて起こらないだろうし、ちょっとぐらい先送りにしても」
「あっ、まゆワン」
「おっとぉぉぉぉっっ!」
いろは、急ブレーキ。
まっすぐな道路沿いの歩道。50メートルほど先から、猫屋敷まゆがこちらへと歩いてくる。
……問題発生。
いろはに追いついた悟が、素早く視線で問うた。
―― どうする、犬飼さん?
いろはが戸惑いながら視線を返す。
―― うーん、まゆちゃんはプリキュアのこともニコガーデンのことも知ってるから……。
入れ替わっていることを下手に誤魔化そうとせずに、ちゃんと話せば特に何も ―― 。
こむぎが振り返って、無邪気に尻尾を振りながら言ってきた。
「まゆに、いろはが悟のオチンチンでオシッコしたことを教えてあげるワン」
いろはと悟、見つめ合ったまま強くうなずく。
―― 絶対にバレちゃならねえ。
二人の心が完全にシンクロした。
最終更新:2024年08月22日 16:35