『コラボステージ! アイドルプリキュア&クローバー!』第1話
「えーっ!? ライブイベントぉ!?」
「はい。そういうオファーを頂きました」
 うたの叫び声が、小さな出張所に響く。相変わらず無表情でテキパキと言葉を返すのは、アイドルプリキュアのマネージャー・田中だ。
 うた、なな、こころ、それにプリルンとメロロンは、彼に呼び出されて、このキラキランドの出張所にやって来ていた。
「ライブイベント、って何プリ?」
「ステージに上がって、お客さんたちの前で歌うイベントのことだよ」
 プリルンの問いに、うたが答える。それを聞いて、メロロンが怪訝そうな顔をした。
「それって、アイドルプリキュアがいつもクラヤミンダーにやってるメロ」
「アハハ、それはそうだけど……今度のライブでは、もっとたくさんの人たちに歌を届けるの」
「楽しそうプリ。プリルン、いーっぱい応援するプリ!」
 プリルンが目を輝かせる。
「まあ……姉たまが行くなら、一緒に応援してあげてもいいメロ」
「ありがと」
 うたが二人に笑いかけたところで、田中がカチャリと眼鏡を押し上げた。
「会場も近くですし、週末一日限りのイベントですので、皆さんの学校にも影響しないかと。ユニット曲の初披露にもちょうどいいと思いますが、いかがでしょう」
「ん~、それってすっごくキラッキランラ~ン! ねっ? やるよね? ななちゃん! こころ!」
「うん。本当のアイドルみたいで緊張するけど、やってみたいな」
「わたしも、お二人の足を引っ張らないように頑張ります!」
 予想通りの答えに、田中がわずかに目元を綻ばせ、小さく頷く。この三人なら、ノーとは言わないと思っていた。
 アイドルプリキュアへのオファーを受けるかどうかを、田中は基本的に、三人の意志を尊重して決めることにしている。
 ななの言う通り、アイドルプリキュアは本当のアイドルではない。だから最初は、人前に出る必要はないと思っていたのだが、彼女たちを見ているうちに考えが変わってきた。
 彼女たちは、人と触れ合うことでよりキラキラと輝くように思えるのだ。その輝きが、いつか闇に閉ざされた故郷・キラキランドを救うことに繋がるかもしれない――そんな期待が自分の中で少しずつ膨らんでいくのを、田中は感じる。
「そうと決まれば、『Trio Dreams』今から歌わない? わたし今、猛烈に歌いたいっ!」
「うん、三人で練習しないと」
「田中さん、スタジオ使ってもいいですか?」
「もちろんです」
 小さな出張所から溢れる弾んだ声に、森の木々もつられたように、ざわざわと優しく揺れた。
   ☆
 次の日の放課後、ななとこころはいつものように、うたの家を訪れた。すでに三人の指定席になりつつある中二階の応接スペースに、うたがいそいそと飲み物を運ぶ。
「み・ん・な♪ ライブに来てよね~♪ 張り切って歌うよ、いっぱい♪ ぜったい♪」
「うたちゃん。その歌、みんなの前では歌っちゃダメだよ?」
 いつにも増して上機嫌なうたに、ななが微笑みながらやんわりと釘を刺す。そんな彼女も、昨日は家に帰ってからずっとソロ曲『まばたきの五線譜』のピアノを弾いていたそうだ。
 そしてこころは座るや否や、二人にスマホを差し出した。
「この動画、見てください。今大人気のユニットなんですけど、とにかく凄いんです。見ているだけで、心キュンキュンします!」
「どれどれ?」
 うたとななが、こころのスマホを覗き込む。そしてすぐに、その動画に釘付けになった。
 それは、ダンスのライブ映像だった。軽快な音楽に乗って、四人の少女が踊っている。
 四人のダンスは生き生きしていて、実にパワフルだ。その動きは少しのズレも無くぴたりと合っているのに、四人それぞれ違った個性がはっきりとわかる。何より彼女たちが心からダンスを楽しんでいるのが伝わって来て、見ているこっちまで心が弾み、身体が勝手にリズムを刻み出す。
 ライブが行なわれているのは、どこかのアリーナのようだった。観客は数千人、いやもしかしたら一万人を超えているだろうか。観客席を埋め尽くした人々の熱気が、一つの大きなうねりとなって、会場全体を包んでいるのが画面から伝わって来る。
「なにこれ。ものすごーくキラッキランラ~ン!」
「すっごくキラキラプリ!」
 目を輝かせながら動画に見入っていた、うたとプリルンの声が揃う。だが。
「これが、今大人気のユニットの実力……」
 隣から聞こえて来たななの言葉に、うたは密かにドキリとした。
 自分たちのステージはどうなんだろう。こんな風に強く真っすぐに、観客の心に届くんだろうか――初めてそんな不安を感じて、思わず強がりが口を突いて出た。
「で、でも! わたしたちだって、三人の方が一人よりパワフルだし……」
「そうだと思います。でもこれを見ると、わたしたちはユニットとしてはまだまだです」
 しどろもどろの反論を、こころの冷静な声が遮る。
「あ、もちろん、アイドルもウインクも凄いです! でも、もっとキラッキランランな三人のステージにするために、彼女たちを研究したくて」
「うん、いいと思う。ね? うたちゃん」
「そ……そうだね……」
 いかにもこころらしい提案に、即座に頷くなな。それを聞いて、うたがトホホ……と肩を落とした、その時。
「少しよろしいでしょうか」
 普段はうたの両親が営む『喫茶グリッター』のアルバイトをしている田中が、音もなく中二階に現れた。
「当日のスケジュールが決まりましたので、お知らせに来ました」
 そう前置きして、田中がライブ当日のスケジュールを告げる。午前中から会場でリハーサルを行って、午後に本番。そう説明してから、田中は自分のスマホを取り出し、その画面を三人の方に向けた。
「それからもう一つ、大切なお知らせがあります。こちらの方々からバックダンサーをやりたいという申し出がありましたので、ありがたくお受けしました」
「こちらの方々って……え? えぇぇぇぇ~っ!」
 田中のスマホを覗き込んだうたが、続いてななとこころが、驚きの声を上げる。
 そこに映っていたのは、生き生きと踊っている少女たち。たった今動画で見ていた四人のダンサー――ダンスユニット・クローバーだった。
最終更新:2025年05月10日 20:58