『コラボステージ! アイドルプリキュア&クローバー!』第2話




 それから数日経った、ある日のこと。
 カッティーとザックリーは、チョッキリ団のアジトであるいつものバーで、背中を丸めて溜息をついていた。
「お前……そろそろ出撃しないのかよ」
「もちろん今日は自分が行きますぞ。今、心の準備の真っ最中なのですぞ」
「何だぁ? そりゃあ。俺は、今日はパスだぜ。何だか気分が乗らねえや」

 ザックリーは、張り切って最初のクラヤミンダーを生み出したものの、やっぱり負けて帰って来た。それ以来、何だか不貞腐れている。
 カッティーは、いつものようにこっそりとアイドルプリキュアの動画を眺めていた。今見ているのは、キュアアイドルが歌っている映像だ。
 つい先日、なんとアイドルプリキュアがライブイベントを行うというニュースが流れた。そしてそれを境に、ネットに出回る彼女たちの情報がぐんと増えたのだ。もっとも、毎日くまなくネットをチェックしているカッティーにとって、それらの大半は目新しいものでは無かったのだけれど。
 そして今日はいよいよ、ライブイベントが行われる日だ。

「握手会では失敗しましたが、今度こそ……。いやいや、今度こそヤツらを倒すのですぞ!」
「な~にブツブツ言ってんだ? お前」
 眉をひそめるザックリーに、カッティーは慌てて背を向ける。
 そもそもアイドルプリキュアは、キラキランドの伝説の救世主。ダークイーネの野望を阻むにっくき敵で、この世界の“アイドル”とやらではないはずだ。それなのになぜCDを出したり、握手会やライブのようなイベントを行ったりするのか――。
「う、う~む……。ヤツらの謎の活動のせいで、自分の中の気持ちすら、バラバラですぞ~!」

「いいねぇ、それだよ。バラバラにしてやればいいのさ」
 不意に第三の声が薄暗いバーに響いた。いつの間に現れたのか、チョッキリーヌが二人の後ろに立って、部下たちを見下ろしている。
「あんたたち、まさかこのまま手をこまねいているつもりじゃあないんだろう?」
「と……当然ですぞ」
「そりゃあ、そうっすよ~」
 ボスにギロリと睨まれて、カッティーとザックリーの背中がさらに小さくなる。

 三人で力を合わせても、新たな合体技を発現させたプリキュアに敗れてしまった。それならばとダークイーネから力を授かった水晶を使い、パワーアップした怪物・クラヤミンダーを生み出したが、それでも敵わなかったのだ。
「それもこれも、三人が束になってかかってきたからさ。バラバラにして一人ずつを相手にすれば、あんなお嬢ちゃんたちを倒すのなんて、ワケないよ」
「だけど、この前だって最初は一対一だったのに、アイツらがさっさと合流したんじゃないすかぁ」
 不満顔のザックリーに、チョッキリーヌがニヤリと笑う。

「だから二度と合流なんか出来ないように、完全にバラバラにしてやるのさ」
「完全に、って……」
「どういう意味ですかな?」
「チョッキリ団のハサミは、何もリボンしか切れないわけじゃないだろう?」
 そう言うと、チョッキリーヌは部屋の隅に置かれた宝箱の中から、星型の水晶を一つ取り出した。ダークイーネの力を吸収して形を変えた、キラキラを閉じ込める魔の牢獄。クラヤミンダーの核だ。それを天井近くまで高々と放り投げると、水晶から不気味な赤黒いオーラが三人に向けて放たれた。
「ぐわぁぁぁっ!」
 三人が苦し気な叫び声を上げ、衝撃に揃ってのけぞる。その瞬間、彼らの服に描かれている薄茶色の大きなハサミの模様が、まるで墨を流したかのような漆黒に変わった。

「これであたしたちも、ダークイーネ様のお力を授かった。このハサミの力があれば、お嬢ちゃんたちは完膚なきまでにバラバラさ」
 チョッキリーヌがもう一度、さっきよりも邪悪な顔でニヤリとほくそ笑む。
「さあ、もう一度三人で出撃して、さっさと片付けるよ!」
「イエス、ボス!!」
 シャキン、という乾いたハサミの音と共に、三人が姿を消す。それと同時にバーの灯りもふっつりと消え、辺りは真っ暗な闇に閉ざされた。



最終更新:2025年05月11日 20:57