アットウィキロゴ

赤い翼の輪舞曲 第19話――大逆転! グランドフィナーレ!!――




「フュージョン、あなたは確かに強いよ。でも、どんなにたくさんの人を吸収しても、融合を続ける限り、あなたはずっと独りでしかない。
 あたしたちは、一人一人みんな違う。だから、みんなで愛し合えるの。みんなで一緒に生きていく意味があるの。
 あたしたちだけじゃない、全ての世界の、全てのハートを一つに重ねて!」


“チェインジ・プリキュア・ビートアップ!!”


 それぞれの胸にある四つ葉のマークに、新たに白い葉が追加されて五つ葉となる。

 ホワイト!――ハートは!――みんなの心!
 羽ばたけ!――フレッシュ!――


“キュアエンジェル!!”


 ピーチの背中に、純白の大きな翼が生える。服の色は薄桃色に変化して、脚には赤いガーターベルトが装着される。
 ベリーの背中に、鋭角的な翼が生える。衣装が華麗に伸びて、よりスマートでシャープなフォルムとなる。
 パインの背中に、柔らかい翼が生える。頭のリボンは巨大化し、丸みを帯びた衣装に可憐なフリルが付く。
 パッションの背中に、ピーチと同じ純白の翼が生える。スカートは大きく開き、黒いリボンとガーターベルトが装着される。

「澄んだ歌声、優しい音色……ホントに素敵な曲だね。この音楽に込められたハートが、あたしたちを目覚めさせたの。もう――これまでのようにはいかないから!」

「やったでぇ! これぞ、伝説にもない奇跡のプリキュアや。まさか異世界で見られるとは思わんかったでぇ!」
「キュアキュア!」

 タルトが跳び上がって喜ぶ。シフォンは嬉しそうにクルクルと飛び回る。

「プリキュアを超える、プリキュア……。あれがせつなたちの、本当の姿……」
「せつなが言ってた、奇跡のプリキュアね」

 荘厳とも言うべき四人の姿に、メロディとリズムが嘆息する。その美しい外見も然ることながら、全身から迸る、凄まじいまでの――力。

「認めん! 絶対に認めんぞっ! グオォォ――!!」

 再びフュージョンは口を開き、先程よりさらに強大な光線を、キュアエンジェル目がけて発射する。
 エンジェルピーチは顔色一つ変えず、軽く片手を翳す。
 その掌から発生したピンクのハート型バリアーが、フュージョンの攻撃を軽々と受け止めた。
 街を一つ完全に消し去るほどの破壊エネルギーが、まるで単なるライトでも当てたかのように、あっけなく四散する。

「ならば――これならどうだっ!」

 今度は、高層ビルに匹敵するほどのフュージョンの巨体が分裂し、直径一メートルほどの無数の飛礫に姿を変えた。
 放たれた飛礫は唸りを上げて、キュアエンジェル目がけて襲いかかる。

「数が自慢みたいね。ならば、それを超えてみせる!」

 エンジェルパッションがそう呟くと、真っ白な姿となったアカルンが嬉しそうに飛び出して、秘密のカギへと姿を変える。
 それを差し込んでリンクルンを開き、ホイールを回すと、ディスプレイから光のエネルギーが飛び出してハープを形作った。
 そこに、胸の五つ葉から生まれたハートのコアを取り付ける。


“歌え! 幸せのラプソディ! パッションハープ!”


 ハープの弦を弾く。神秘的な旋律が鳴り響き、周囲に真っ白な羽が出現する!


“吹き荒れよ! 幸せの嵐!”


 高く掲げたパッションハープ。上昇気流に乗って天使の羽が舞い踊る!


“プリキュア・ハピネス・ハリケーン”


 両手を広げ、美しく回転する。プリキュア唯一の空間制圧攻撃。
 握られたハープからは無数のハート型のエネルギーが生まれ、羽と共にフュージョンの飛礫を余すことなく包み込む。

 舞う――踊る――回る――
 横回転から縦回転に、風の渦が十字を切る! 

「ぐあぁぁ――。馬鹿な、この私が、究極の生命体である私が、こんなところで滅ぶはずがない!」

 飛礫は全てハピネスハリケーンのハートに叩き落とされ、再び一つに融合する。
 後には、満身創痍となったフュージョンが残された。






『赤い翼の輪舞曲――大逆転! グランドフィナーレ!!――』






「せつなたち、凄い……」
「あのフュージョンを圧倒するなんて……」


“感心していないで、あなたたちも戦うのです! 今こそ、真の力の封印を解きましょう!”


 地上から、クレッシェンドトーンの声が響いてくる。

「えっ、それって……」
「わたしたちも?」
「やろうっ!」
「ええっ!」

 四人の胸のキュアモジューレから、眩いばかりの光が放射される。
 それぞれの衣装は淡い色となり、頭と肩のリボンが羽の形に変化していく。
 より美しく、そして可憐に、華やかに飾り付けられる。
 背中からは、鳥を思わせるような金色の羽が生える。腰からは尾羽根も伸びて、力強く輝かしい不死鳥のごとき姿となる。

 全身に、溢れんばかりの力が漲ってくる。
 クレッシェンドメロディ、クレッシェンドリズム、クレッシェンドビート、クレッシェンドミューズ。再び――奇跡の変身を遂げる!

「クレッシェンドトーン。お前さん、もしかして対抗意識など燃やしてはおらんかの?」
「なっ! ……何を言っているのですか、音吉。私は、響たちの覚悟を受け止めて、解放の刻を待っていたのです」

 音吉のからかうような一言に、クレッシェンドトーンは少しムキになったような口調で答えてから、高らかな叫びを上げる。


“さあ、今こそあの技を使う時です!”


「でも……」

 確かにせつなを助け出して、最大の懸念事項は無くなった。けれど――
 メロディの表情が、苦しそうに歪む。
 その一瞬の隙を突いて、フュージョンの巨体が破れかぶれに飛び込んでくる。

「そうは――させんっ!」

 その技の恐ろしさを、フュージョンはノイズの記憶から知っていた。何としてでも阻止しようと、メロディに向かって拳を叩きつける。
 だが、身体よりも遥かに大きいその拳を、クレッシェンドメロディは軽々と受け止めた。

「こんな――こんなことがっ!」
「ハァァ――!」

「――……」

 振りかざした拳を、メロディは途中で止める。
 それをチャンスと判断したフュージョンは、今度こそ渾身の力でメロディを殴り付けた。
 強大な拳による一撃は、直撃したメロディだけではなく、周囲に居たリズムたちをも巻き込んで、四人をいとも簡単に弾き飛ばした。

「キャアァァ――……えっ?」
「大丈夫だった?」

 落下しかけていたメロディを、ピーチが抱き寄せるように支える。
 リズムをパッションが、ビートをベリーが、ミューズをパインが、それぞれ柔らかく受け止めた。

「メロディ。どうして今、攻撃を止めたの?」
「パッション……。あなたは知ってるよね? あいつの身体は、そのほとんどがピーちゃんなの。そう思ったら……」

 これまでは、簡単には倒せないと思っていたから全力で攻撃もできた。
 だけど、今の力で本気で戦えばどうなるか――

「つまり、パッション以外にも吸収された子がいて、その子を助け出せばいいんだね?」
「無理だよ。ピーちゃんは、せつなとは違うもの……。もう完全に吸収されて、その力まで取り込まれているの」

 ピーチの言葉に、メロディが一瞬顔を輝かせる。しかし、すぐにうつむいて、それが不可能であることを伝える。

「フュージョンを倒せば、多分、ピーちゃんは転生できると思う。でも確証はないし、できればそんなことしたくなくて――」

 リズムが、努めて平静を保ちながら補足する。ノイズ自身は、何度でも転生する不死身の存在だ。でも、フュージョンと完全に融合してしまった場合はどうなるのか?
 転生できたとしても、戻って来るのは、自分たちの知っているあのピーちゃんではないのかもしれないのだ。
 何より――もうこれ以上、ピーちゃんを傷付けたくはなかった。

「大丈夫だよ!」
「えっ!?」

「あたしたちが手伝うよ。みんなの想い、ピーちゃんに届けよう!」
「ピーチ、それって!」

 パッションの言葉に笑顔で頷いて、ピーチはメロディの肩に、そっと手を置いた。

「ピーちゃんは、あなたたちの大切な友達なんだよね。だったら、ピーちゃんが大好きだって想いを、繋げよう。そして、届けようよ。ねっ?」

 呆然とピーチの顔を見つめていたメロディの目に、強い光が宿る。それを見届けてから、ピーチは三人の仲間たちを振り返った。

「ベリー、パイン、パッション、行くよ!!」
「「「ええ!!!」」」

 四人の天使は、四色の軌跡を描いて真っ直ぐに上昇していく。
“何か”をする気だと感じ取ったフュージョンは、急いでその後を追う。だが、今の彼女たちとは飛翔速度が違いすぎた。
 四人とフュージョンとの距離は、どんどん開いていく。

 上空へと遠ざかって行くピーチたちを見送ってから、メロディは三人の仲間たちを見回す。

「ピーちゃんに届けよう。わたしたちの――想いを!」
「そうね! 大好きだって気持ちを!」
「ええ!」
「うんっ!」

「みんな~。こっちからも、行っくニャ~!」

 不意に、能天気と言って良いような暢気な声が聞こえてきた。
 地上を見下ろすと、ハミィと街の人々が、皆笑顔で手を振っている。アフロディテの力で、今までのやり取りを聞いていたに違いない。

「もっちろん! 任せたわよ、ハミィ!」

 ビートが力強く応える。そして、空と地上の二つの場所から、歌声が響き始めた。

 ラ~ララララ♪ ラ~ララ~♪ ラ~ララララ♪ ラ~~♪

 ビートとハミィの、申し合わせたようにぴたりと揃った二重唱。
 メロディ、リズム、ミューズの歌声が、そして街の人々の演奏が、それに加わる。
 さらにあたたかさを増した“幸せのスキャット”は、天を震わせ、地を優しく撫でるように響き渡る。

 上空高く舞い上がったピーチたちは、両手を翳してハートを形作る。
 生まれた四色の光のハートは、ピーチの掛け声で一つに合わさり、大きなハート型のオーラとなる。

 光のハートは、四人の心。その心に、ピーちゃんを愛するメロディたちの想いを乗せる。
 そして更に、“幸せのスキャット”に込められた、みんなの想いを込めていく。
 巨大なハートは、遂には空を埋め尽くすほどに膨れ上がっていく。

「ハァ――ッ!」

 ピーチが両手を上空に掲げる。まるで空を掴むかのように――空に浮かんだ心を掴む。
 上げた両手を弓のように引き絞り、力強く前方に突き出した。
 トリガーを引き、撃鉄を叩き降ろすように、放たれる――キュアエンジェルの究極の技。


“想いよ、届け!!”

“プリキュア・ラビング・トゥルーハート!”


 迸る光の奔流は、フュージョンの巨体を呑み込んでいく。
 それは浄化技ではなかった。魂を抜かれるような、そんな喪失感すらなかった。

 何も奪わない。ただ、相手に与えるだけの技。
 無償の愛を注ぐだけ。一杯の希望を伝えるだけ。一心に祈りを捧げるだけ。一途に幸せを願うだけの技だった。

「これは……。この――あたたかい心は!」

 フュージョンの中に眠る、ノイズの悲しみの心が癒されていく。
 悲しみは無くなりはしない。でも、みんなの想いがノイズを満たし、それを乗り越える力となる。そして、喜びへと変えていく。


“フレ――ッシュ!!”


 光は膨れ上がり、臨界に到達して爆発する。
 フュージョンは、その巨体を見る見るうちに収縮させていく。そして最後に、真っ白な小さな生き物を吐き出した。

 パタ、パタ、

 小さな羽音が響き渡る。

 パタ、パタ、パタ、

 光の粒子を掻き分けて、白い小鳥が飛んで来る。

 パタ、パタ、パタ、パタ、パタ

 その小鳥は、歌いながらすぐ近くまで昇って来ていた、クレッシェンドメロディの胸に飛びこんだ。

「ピィ――!」
「お帰り……ピーちゃ……」

 メロディの瞳から、とめどなく涙が零れ落ちる。声が震えて、最後は言葉にならなかった。
 リズムも、ビートも、ミューズもみんな泣いていた。

「ありがとう。パッション、ピーチ、ベリー、パイン。ピーちゃんを、助けてくれて……」

 少ししてから、やっとそれだけを伝える。

「ピィ――!」
「ピーちゃんも、ありがとうって言ってるみたい」

 ミューズが、ピーチたちに微笑みながらそう伝えた。

「お礼を言うのは私の方よ。みんなを助けてくれてありがとう。私、あなたに色々なことを教わったわ」
「ピィ――!」

 小鳥は、パッションの言葉を素直に受け取ったようだった。
 小さな胸を張って、偉そうにふんぞり返る。八人の少女たちから、小さな笑いが起こった。

 そして、メロディの表情が引き締まる。
 完全に光が収まった後に残った、小さな黒い影。
 体長をわずか三メートルにまで縮めた、本来のフュージョンの姿がそこにあった。

「あんた、自力で空を飛べたんだね?」
「無論だ。でなければ、星を渡ることなど出来るものか」

「わたしね、生まれて初めて、本気で怒ってるの。あんただけは絶対に許さない!
 ――って言いたいけど、もう二度と、誰も吸収したりしないって誓うなら、見逃してあげてもいいと思ってる」
「断る! それは私の存在意義の否定だ。それに、まだ負けたわけではない。今ならお前たちの技も吸収できる。試してみるか?」

 メロディの瞳が、悲しみに揺れる。が、その目が一瞬閉じられた後、再び見開かれたその瞳には、強い決意と、穏やかな光だけがあった。

「出でよ、全ての音の源よ!」

 ヒーリングチェストが、スーっと音も無く上がって来て、パカリと蓋を開く。ハートを散りばめた、あまりにも愛くるしい魔法陣が出現する。
 フェアリートーンからヒーリングチェストへと、宝石のような光が集まる。
 メロディが七色の鍵盤をなぞると、この世界の全ての音を生み出した、最高位の精霊――クレッシェンドトーンが姿を現す。
 ト音記号型の模様が付いた、鳳凰のような羽根。直視できないほどの輝きを放つ金色の身体。全ての音の精霊の母であり、王である、その神々しい姿。

「届けましょう、希望のシンフォニー!」

 メロディたちが、胸元のキュアモジューレに、始まりのト音記号に、祈りを捧げるように両手を合わせる。
 そこから生まれた瑠璃色に輝く四つの泡は、ひとつの大きなシャボン玉となり、弾けて光の五線譜となる。
 その光り輝くロイヤル・ロードを、四人の天使が翔け抜ける。


“プリキュア・スイートセッション・アンサンブル・クレッシェンド!”


 クレッシェンドトーンの体内に飛び込み、一体となって巨大化する。
 大きく――大きく――大きく――
 一気に加速して、フュージョンを目指す!

「おのれ……おのれぇ――! ここは脱出して、いつか必ず!!」

 それは到底、吸収しきれるようなエネルギーではなかった。
 フュージョンは身体の大半を消失しつつも、残りを飛礫に変えて脱出を試みる。
 いかにクレッシェンドトーンが巨大でも、いや、巨大だからこそ、小さくなれば追えないはずだと。

「逃がさないよっ! 音は響き――広がって行くものなの!」


“フィナーレ!!”


 クレッシェンドトーンの強大な力が爆発し、暗い空を明るく照らし出す。光は遥か上空にまで届き、街を覆う黒い雲さえも打ち払う。
 空が――加音町に、青い空が蘇っていく。

 メロディは空を見上げる。その頬から、一筋の涙が零れ落ちた。

「フュージョンは、滅ぼしたの?」

 いつの間にか、パッションが隣りに居た。その問いかけに、メロディは小さく首を振って空の一点を指差した。
 キラキラと輝く金色の粒子が、ゆっくり、ゆっくりと空に昇っていく。

「きっと、もう一度やり直すために、空に帰って行くんだと思う。そして、今度は……仲良くなれたらいいな」
「そうね。いつか、どこかでまた会えるわ。お疲れ様――みんな!」

 街の方から、大きな歓声が聞こえてくる。
 その声に応え、感謝の気持ちを伝えるために、八人のプリキュアは地上へと舞い降りた。



最終更新:2013年02月17日 10:57