翼をもがれた鳥 第15話――三位一体――
「ラブちゃん……」
ミユキの白く細い指が、丁寧に折りたたまれた手紙を開く。
便箋は、その大切そうな扱いとは対照的に細かく破られた跡があり、雑にセロハンテープで繋ぎ合わせてあった。
文面に目を走らせながら、その子の顔を思い浮かべる。最初は笑顔で、やがて――
天真爛漫で、無邪気な女の子。およそ、この世の中の汚れとは無縁な子。
彼女を知る者ならば、誰しも、いつまでもそうあって欲しいと願わずにはいられない少女。
しかし、書かれていた想いは悲痛なものだった。
自分にどれほど憧れていたか、どれだけダンスが好きであったのか、レッスンの日々がどんなに充実していたのか。
それら全てが、“過去形”として綴られていた。お礼として、締めくくられていた。
遺書を残して失踪したと、その子の母親から連絡があった時は、胸を引き裂かれるような思いだった。
なんとか仕事の一つをキャンセルして、心当たりも無いまま闇雲に探し回った。
その日の夜に見つかったと連絡を受けた時には、安堵のあまり座り込んで動けなくなってしまった。
次に沸いたのは怒りの感情。どれだけ人を心配させたら気が済むのか。
叱ってやろうと携帯を開きかけて、思いとどまった。
(誰のせいだと思っているの?)
心の中で、もう一人の自分が問いかける。
この前心配した時は、入院の知らせだった。路上で気を失って倒れていたと。
それだって、自分の配慮の無い特訓が祟ったものだった。
今回も同じ。
きっと、無理をしてきたのだろう。
愚痴の一つもこぼさず、恨み言の一つも口にせず、笑顔で耐えてきたんだろう。
本来は四人であるプリキュアの、足りない一人を補うために。
色々なものをすり減らして戦ってきたのだろう。
別れを思わせる悲しい決意を、繰り返し読み返す。
前回は入院、今回は失踪。次は――無いかもしれない。
(どうして、私にはアカルンが現れないのだろう)
ずっと、そう思っていた。その答えが、この手紙の中にあった。
それが――命すら賭ける覚悟。
ラブ、美希、祈里。プリキュアに選ばれた経緯はそれぞれ違うものの、少なくとも彼女たちに迷いは無かったはずだ。
(私は、なんて自分勝手なんだろう……)
どちらかなんて選べない。そう口にしながらも、結局ラブたちはミユキの勧めに従い、ダンスを中断してプリキュアに専念している。
親友を救うために、命まで賭けたラブ。モデルや獣医を後回しにして、ラブの夢を共に叶えようとしている美希と祈里。
美希に至っては、最終選考まで勝ち残ったオーディションすら投げ出したというのに。
「ミユキ、本番始まるよ!」
「最近ぼんやりしておかしいよ。しっかりしてよね、リーダー」
「ゴメーン、今行くわ。今日も、思いっきり楽しんじゃおう!」
暗い考えを振り払って笑顔を作る。
本番まであと数分。それまでに、この笑顔を作り物じゃない本物に切り替える。
プロなんだから、甘えは許されない。
ここが私の――生きる場所なんだから。
これが私の――守るべき夢なんだから。
(ごめん、ラブちゃん、美希ちゃん、祈里ちゃん。私――やっぱりプリキュアにはなれない)
『翼をもがれた鳥――三位一体――』
ダンスの公開録画。コンサートほどではないけれど、それでも数百人のファンがトリニティのステージを一目見ようと押し寄せる。
“トリニティ”三位一体のユニット名が示す通り、ミユキ、ナナ、レイカはそれぞれ異なる個性の輝きを放ちながらも、三にして一の真理をダンスに取り入れた。
チームならば、動きを合わせるのは当たり前。彼女たちはそんな次元ではなく、完全なる合一を体現して見せた。
三位一体は、三者だけを指す言葉ではない。神学において、父と子と聖霊が一体となること。
そう、トリニティのダンスは、観客まで巻き込んで一体化してしまう。
デビューして数年で、芸能界の在り方すら変えてしまった奇跡のユニット。
彼女たちの登場により、ダンスはそれまでの従から、主へとその地位を逆転して見せたのだ。
(やっと、ここまで来れたのに……)
決して平坦な道ではなかった。親友と三人でひたむきに追いかけた夢。
トリニティのリーダーなんだもの、自分の判断だけで辞めるなんてできるわけがない。
幼い頃からの夢、仲間の夢、支えてくれた事務所の人たちの夢。目標としてくれてるダンサーや、支えてくれてるファンのみんなの夢。
失いたくない、失うわけにはいかない。
一曲目が終わり次の曲に移るまでのわずかな時間、ミユキの表情が憂いを帯びる。しかし、それも一瞬のこと。二曲目の伴奏と共に心が完全に切り替わる。
曲と交わり、音と一体化し、仲間と融合し、観客と一つになる。
その奇跡を、ステージの上から起こる騒音が遮る。照光機の変化、ライトの特性を取り込んだナケワメーケが、会場を光と闇と絶叫で満たしていく。
“ストロボ・フラッシュ”
眩い閃光が観客席に伸びる。高熱の光が、マシンガンのように降り注いで人々を恐怖に陥れる。
混乱する観客とは対照的に、スタッフの対応は落ち着いたものだった。
カメラを回し続ける者。貴重な機材を抱えて下がる者。多数のガードマンは巧みに人々を誘導し、最寄の出口へと導いていく。
ナナとレイカも、日頃の打ち合わせ通りに速やかに避難した。
(慣れたものね、それもそうか……)
ミユキは逃げず、かと言って踏み込みもせず、悔しそうに破壊の様子を見守った。
もう、何度目だろうか? こうしてダンス会場が襲われるのは。
思えば最初の襲撃からして、トリニティのダンスコンサートだった。それから、ことあるごとに狙われた。
回数が多すぎないかと、トリニティとの因果関係を指摘する声もあった。
やがて、ラビリンスは人の多い場所を襲うのだから、結果として狙われやすいだけだとの見方が主流となった。
(それだけじゃない。彼らの目的はこの私――四人目を変身前に潰してしまうこと……)
仲間のため? 事務所やスタッフのため? ダンサーやファンのため?
違う。本当は、自分が辞めたくないだけ。それを、言い訳がましく悩んで見せたり、アカルンのせいにしてみたり。
心の決まっていない者に、チャンスなんて訪れるはずが無い。そんなのわかっているはずなのに。
これ以上の迷いは、他人を傷付けるだけ。ラブたちを傷付け、仲間やファンを危険に晒し、それでもワガママを貫くのだろうか?
逃げ出すこともできず、踏み込むこともできず、事態の収まるのをただ傍観するだけ。
皮肉なものだと思う。まさに、ダンスとプリキュアに挟まれた自分の立ち位置そのものではないかと。
“シーリングライト”
会場の電源が落ち、暗闇に覆われていたステージに照明が差し込む。闇に紛れていたミユキがスポットを浴びる。
ナケワメーケは目的の人物を発見して、恐るべき速度で三脚の脚を蜘蛛のごとく動かして襲いかかる。
ミユキは動かない。恐怖に足がすくんで動けない。
果たしてその恐怖は、襲われることに対してか。それとも――自分の危機を察知して現れるアカルンを恐れてだろうか。
ナケワメーケの巨大なレンズが、至近距離でミユキを捉える。最早、逃げようにも間に合わない。
ここで蒸発するのか? それとも、プリキュアとなって戦うことになるのか?
麻痺した頭の中で、ダンサーとしての自分は、もうどうあっても助からないと感じていた。
“トリプル・プリキュア・キック”
その時、三色の閃光がナケワメーケに突き刺さる。
身体の大きさとしては一割にも満たない少女たちの攻撃が、ピンボールのごとくナケワメーケの巨体を弾き飛ばす。
しかし、それも間に合わなかった。レンズから発射された光線は、狙いを過たずにミユキに襲いかかる。
「危ないっ!」
突然現れた少女が、ミユキに飛びついて跳躍する。ミユキは窮地を救った者を見上げる。それは、プリキュアでもアカルンでもなくて――
暗闇に映える真っ白な肌が、微かな灯りを受けて輝く。闇に溶け込むような、美しきミディアムレイヤーの髪が揺れる。
年齢はラブたちと同じくらいだろうか? だが決定的な違いがあった。
見開かれた瞳に宿る感情は、禍々しくも激しいもの。
剥き出しの闘志と迸る殺気が、可憐な少女を手負いの獣のように見せた。
どのような力が小柄な身体に秘められているのか、遥かに体格で勝るミユキを軽々と抱き上げる。
「ありがとう。あなたは誰?」
「ラブたちの友人です。話は後で、こっちへ!」
立ち上がったミユキの手を引いて、少女はステージの出入り口目指して駆け抜ける。
後方では、プリキュアとナケワメーケの激しい戦闘が繰り広げられていた。
ただ、逃げ出すのは嫌だった。何もできないとしても、せめてみんなの戦いの応援くらいはしたかった。
しかし、少女は有無を言わさず強引に自分の手をつかんで走り出す。
成人男性を思わせるほどに強力な握力、全力疾走に近いペース。気を抜けば足をとられそうになり、抗議の暇すら与えてもらえなかった。
もういいでしょ! どこまで行くつもり? そう叫びかけた時、少女は足を止めた。
反対方向から、悠然と歩いてくる男の姿があったからだ。
「久しいな、イース!」
「ウエスター! 襲撃はサウラーのナケワメーケだったはず。いつからつるむようになったの?」
「待って! 今、イースって……」
「黙っていてごめんなさい、私はイース。今はもう……敵ではありません」
「それはこちらのセリフだ。四人目覚醒までの代用品でも勤めているのか? 安くなったものだな」
「ラブたちは、そんな目で私を見ていない。メビウスの道具に言われる筋合いは無いわ!」
「呼び捨てにするとは……。そこまで堕ちたかっ! イース!!」
「気が付いただけよ、奪ってきたものが何なのか!」
“スイッチ・オーバー”
少女の両手が胸の中心で重なり、翼を広げるが如く大きく左右に開かれる。
身体は清らかな純白の衣装に覆われ、髪は白銀の輝きを宿す。
神聖な存在であることを主張するかのように、少女の全身が淡い光に包まれる。
(イース? 確かにそう言った。それに、この顔は間違いようもない。なら、この姿は一体?)
ミユキの混乱を他所に、目の前で戦闘が開始される。
大男と、小柄な少女の絶望的な体格差。しかし、イースは臆せず、果敢に挑みかかる。
激しい打撃音を響かせながら、徐々に戦場を遠い場所に移していく。
違う! 意図的にイースがウエスターを誘導しているのだ。自分を巻き込まないために。
常人より優れたミユキの動体視力ですら、二人の動きは捉えきれない。ただ、音と振動と、ほとばしる殺気が突き刺さる。
巨大な化け物と戦うプリキュアのバトルとは根本的に違う。これが――人間同士の戦い。
攻防を繰り返す手や足は目で追いきれない。かろうじて把握できるのは、動きの少ない体と表情のみ。
「なぜ裏切った? 全てはメビウス様のために! お前の口ぐせだったはずだ、イース!!」
「それが間違いだと気が付いたから、私は戦っている!」
メビウスというのは、おそらく彼らの親玉の名前だろう。
ウエスターと呼ばれる男は知っている。ラビリンスの三大幹部の一人として報道されている。
体格のいい美形の青年だが、ひょうきんなところがあり、戦いにおいてもそれを楽しむような様子が報告されている。
しかし、今、目の前にいる男の形相は痛切だった。
激しい怒り、いや、憤り。そして、苦しそうな、どこか悲しそうな感情も見て取れた。
「ウオォォォ――!」
「ハアァァァ――!」
裂帛の気合が、ミユキの心を震え上がらせる。
“殺気”“死闘” 言葉にして聞くのと、実際に目の当たりにするのとで、なんと違うことか。
命と命が、互いの存在をかけてぶつかり合う。それがなんと悲痛なことか。
床を穿ち、壁を抉る炸裂音。それに混じって聴こえてくる嫌な音。
肉と肉がぶつかり合う鈍い音。直後に響く両者の苦しみの声。
(やめて――もう――やめて!)
これが――戦い。本当の戦い。
強固な鎧とて、敵がそれを突き破るだけの攻撃力を持っていれば何の意味があるだろうか。
超人的な身体能力も、互いが備えていれば何の慰めにもなりはしない。
これは――生身の殺し合いと同じ。
(ラブちゃんたちは――こんな戦いをしていたの?)
巨大なモンスターとの戦いは、不思議と安心して見ていられた。
相手が無生物だからかもしれない。どこか現実味がなくて、まるでアトラクションを見ているみたいで。
約束された勝利を、微塵も疑ったことがなかった。戦いの後には、きっと今まで通りの幸せが待っていると信じられた。
これが同じ戦いなのだろうか?
命と命の削りあい。ダメージとダメージの交換。
それが――少なくともどちらかが倒れるまで続けられるのだ。
(止めなくちゃ……。こんな戦いは――認められない!)
勇気とは異なる衝動に突き動かされ、フラフラとミユキが戦場に足を進める。
ウエスターの渾身の突きがイースを襲う。サイドステップで回避しようとして――背後にミユキの気配を感じた。
ふと感じる既視感、回避から防御に切り替える。ウエスターの怪力から繰り出される拳は、易々とイースのブロックを突き破った。
「イース!!」
「降伏しろ、イース。お前は騙されているだけだ。帰ってきたら、全てが元通りだ」
「げほっ……。おこと…わりよ……」
「もうやめてっ! 事情はわからないけど、暴力で他人を思いのままにするなんて許せない!」
「どけっ! 覚醒もしていない出来損ないめ!」
ミユキがイースを庇って立ち塞がる。ウエスターが排除しようとゆっくり手を伸ばしかけた時、新たな足音が響き渡る。
「イースっ! 大丈夫?」
「よくも、イースを!」
「ミユキさん、離れてください」
「邪魔が入ったな、今日のところは引き上げるが……。近いうちに連れ戻してみせるぞ、イース!」
引き上げていくウエスターの後姿を見ながら、安堵のため息を漏らす。プリキュアのみんなにも怪我は無い様子だった。
イースもダメージは大したことが無いのか、助け起こされた後は自分の足で立っていた。
ピーチの笑顔に、同じように笑顔で応えていた。
ああ、この子はこんな顔もできるんだなって。そう思うと、少しだけ救われた気がした。
「事情を、聞かせてもらえるかしら」
事後処理の終わった、翌日の夕方のこと。ミユキはクローバーに収集をかけた。場所は公園。例の子も、連れてくるようにと言い渡して。
ラブ、美希、祈里ともう一人。四人は一様に沈痛な面持ちだった。特にせつなと呼ばれる少女は、裁きを受ける前の罪人そのものだった。
三人で顔を見合わせてから、ラブがポツポツとこれまでの経緯を話し出す。
たどたどしい口調だった。本来なら、美希の方が説明は上手に違いない。それでもラブが話すのは、彼女が一番事情に詳しいからだろう。
ところどころ、美希と祈里が口を挟んで補った。
その内容は――驚くべきものだった。
美希と祈里の苦渋の決断。イースとの命の奪い合い。そして――ラブの決意。
占い館潜入後の説明はせつなが引き継いだ。それはラブたちも知らないことであったらしく、三人の目が驚きに見開かれる。
最後の変身――それは、最期の戦い。
何も持っていなかった子が、唯一つ求めてきたもの。奪われ続けた少女が、死を前にして唯一つ願ったもの。
感情を込めない、淡々とした説明だった。それが――返って悲しかった。
溢れんばかりの幸せを失いたくなくて、戦うことを拒んだ自分。ほんの一欠片の幸せをつかむために、命すら投げ出して戦った少女。
なんて――違うんだろうと思った。心の中に残っていたわずかなわだかまりも、綺麗に消えていくのを感じていた。
「破壊は任務でした。でも、ミユキ……さんを襲ったのは、ダンスを集中的に狙ったのは、私の一存です。すみませんでした」
説明が終わり、せつなが頭を下げる。深く――深く――
そんなせつなに、ラブが駆け寄る。続いて、美希と祈里も。
そして、一緒になって頭を下げた。「どうか、許してあげてください」って。
(謝るのは、何もしてあげられなかった私の方よ。――みんな、ごめんなさい)
本当は、そう言ってあげたかった。
気にしてないからって、優しく励ましてあげたかった。
でも、それは口にしてはいけないような気がした。
せつなが頭を下げているのは、きっとミユキ個人じゃないと思えたから。
プリキュアの掟を守るため。ラブたちの日常を守るため。そして、世話になる人たちに迷惑をかけないため。
きっと、せつなは一部の人にしか秘密を明かせないだろう。謝ることができないだろう。
ここで安易に謝罪を受け入れれば、せつなは永久に自分が許せなくなるかもしれない。
「許してください」そう口にしながらも、せつなが望んでいるのは“許し”ではないと感じていた。
戦いの中で垣間見た、イースの想い。怒り、悲しみ、苦しみ、憎しみ。身を焦がすような――憎悪。
ピーチたちの戦闘を、実際に見てきたミユキが感じた違和感。
傷付くことを恐れず、むしろ望むような無謀な戦い方だった。まるで――敵だけではなく、自分自身を傷付けようとするかのように。
彼女自身が、その身に裁きを下そうとしているのなら――止めなければならない。それでは誰も幸せにはなれないから。
今、せつなが口にしたように、最も多くイースの標的にされたのがミユキだった。彼女にとって、謝罪すべき人々の象徴なのだろう。
だから、“許せない”そう言ってあげられるのもまた、ミユキだけなのだろう。
「異世界の人間であること。未成年であること。命まで管理下にあったこと。この国の法律も、イースを罪に問うことは無いと思うわ」
「ミユキさん! じゃあ、せつなのことを――」
「だけど、事情はどうあれ、多くの人々を不幸にした事実は許せない!」
「っ――」
「待って! 待ってください。せつなは、ほんとうに反省しているんです」
「アタシからもお願いします。せつなはもう――十分に苦しみました」
「せつなさんは、命がけで戦っています。生まれ故郷の人たちと。それがどんなに辛いか……」
「反省したって、誰も救われないわ。あなたがどれほど苦しみ、傷付こうと、それでみんなが幸せになるわけじゃない」
「どうすれば――許してもらえますか?」
「その答えは、自分で見つけなさい」
「……ないで。……お願い、これ以上……せつなを苦しめないで……」
その場の空気が変わる。うつむいた、ラブの低い声が響く。両手の拳が固く握りしめられる。尊敬するミユキに対して、丁寧語を崩したのも初めてだった。
ゾッとするほどの、暗い声。それは怒りすら伴った懇願だった。
「一つだけ、ヒントをあげる。守るだけではなくて、与えられる存在になりなさい」
ミユキはそう言って踵を返した。
ラブたちは、引き止めることもせず、立ち去ることも無く。
ミユキが完全に姿を消すまで。いや、恐らくはその後もずっと――ただ、その場に立ちつくした。
(これで――良かったのかな)
不器用な言い方しかできなかった。ラブたちまで傷付けてしまったことが悔やまれる。
でも、きっとこれは自分の役割。そう思えた。
深く後悔している者には、慰めの言葉が返って辛く響くこともある。
栄光と挫折を知り尽くしているミユキだからこそ、わかってあげられることもある。
自分自身を責めると、心が前を向けなくなる。深く悔いるほどに、自分が許せなくなっていく。だから、矛先を変えてあげたかった。
(あなたにとって、本当に大切なことは何なの? それを自分の心の中から見つけるのよ)
イースは開放されたはずだった。ラビリンスという迷宮から、メビウスの管理支配から、自由になったはずだった。
なのに、今度は自分自身を呪縛してしまっている。罪という呪いと、償いという強迫観念によって。
(何をすべきかじゃなくて、何をしたいかで判断するの。それが――生きるということよ)
自分も、選ぶべき時が来ている。もう――迷っている時間はない。
(私が、一番大切にしたいことは――)
答えはとっくに出ていた。
憧れるのも、同じ道を選んだのも当然だろう。結局、似たもの同士なのよね、と悲しげに微笑んだ。
ラブの口ぐせ、みんなで幸せゲットだよ。
それは――かつて自分が口にしていた言葉なのだから。
最終更新:2013年02月17日 09:45