アットウィキロゴ

第3話 彼女のお人形




「ちょっとラブ、もうお湯沸いてるわよ?!」
「は~い。・・・ブッキー、そっちタマネギ切ったぁ?」
「ごめん、今やってるー。せつなちゃん、サラダは大丈夫?」
「今、精一杯キャベツ刻んでるわ」


 今日は、ラブちゃんのお家で、お泊り会。
 ご両親もお出かけなんで、わたし達4人でお夕飯の準備をしてるところ。
 メニューは、カレーライスと、サラダ。
 わたしはカレーに入れるお野菜を切る当番なんだけど。うー、タマネギが目にしみる・・・。


 ・・・・・・でも、これくらい我慢しないと。
 みんな一緒とはいえ、せつなちゃんと一晩過ごすことができるんだもの。
 もう一週間も前から、今日という日が来るのを夢にまで見たんだし・・・・・・。
 それに!ご、ご飯の後にはみ、みんなでおおおおお風呂入ることになってるし・・・・・・。


 一気にわたしの頭の中には邪な妄想が広がる・・・・・・。


(ブッキー、背中流してあげるわ。こっち来て)
(せせせせつなちゃん!い、いいって、それくらい自分でやるから!)
(?何を恥ずかしがってるの?・・・ほら、次は前を洗ってあげるから、あたしの方を向く!)
(いや~!いくらこっちの世界の常識に疎くても、やり過ぎだよ~!!)


「・・・・・・ブッキー・・・お腹空いてるからって、はしたないんじゃないの?・・・よだれ出てるわよ」            
「・・・・・・は!え!?ゴメンゴメン!」


 美希ちゃんにたしなめられ、現実に戻るわたし。せつなちゃんにだらしない子だって思われちゃう・・・。



「―――――痛っ・・・!」



 その時、せつなちゃんが小さな呻きを漏らした。
 見ると、包丁を離し、右手で左手の指を押さえている。


「せせせせつなちゃん!指切ったの?!ちょ、ちょっと待って―――」


 慌てたわたしは、咄嗟にいつも持っている救急セットを取り出そうと、バッグに手を伸ばす。



「―――――せつなっ!手出してっ!!」


 わたしの行動よりも早く、ラブちゃんがせつなちゃんの元へ駆け寄る。
 彼女はせつなちゃんの左手を掴むと、躊躇うことなく、怪我している指を口に含んだ。


「―――――――!!」


 その一連の動きから、目を離せなくなった。


「・・・・・・・・・」
「・・・ラ、ラブ・・・そ、そんなとこ・・・な、舐めたら・・・き、汚いわ・・・」


 せつなちゃんが、顔を赤くして、ラブちゃんを止めようとする。
 でも、ラブちゃんはそんな制止も聞かず、指を口から離そうとしない。



 それは、甘くて淫靡な、恋人同士のキスに見えた。



 ラブちゃんの口元からする、ぴちゃ、ぴちゃ、という水音のような響き。
 その度にせつなちゃんは押し殺した喘ぎを漏らし、背を反らす。



 バッグに手を入れたまま、わたしは固まっていた。
 目を逸らしたいのに、逸らせない。
 ・・・・・・嫌だ・・・こんなの見たくない・・・・・・。


 一瞬、ラブちゃんとわたしの目が合う。


「―――――!」


 その目が、嘲笑っているように、感じた。
 高価な玩具を、手に入らない子に自慢している子供のような目―――。




 ―――これはあたしだけのモノよ?羨ましいでしょう?




 ・・・彼女は、わたしに、そう言っているのだ。



 ―――永い一瞬が、過ぎた。
 ゆっくり、別れを惜しむように、唾液の糸を引きながら、ラブちゃんが口を離す。



「ンぅっ!・・・・・・ラ、ラブぅ・・・・・・」
「・・・・・・こっちの世界では指を切ったら、こうするんだよ、せつな・・・・・・」


 頬を染め、息を荒げているせつなちゃんに、ラブちゃんは優しく、ふしだらに微笑みかける。


「・・・・・・ブッキー、バンソーコー、ちょうだい。」
「――――――え?!あ、あ、うん!」


 その声に我に返ったわたしは、ラブちゃんにバンソーコーを渡す。
 彼女は、可愛がっているお人形にリボンでも結ぶように、それをせつなちゃんの指に巻きつける。


  ・・・わたしは、魂の抜けた案山子みたいに、その光景を見つめる事しか出来なかった。


「ちょっとブッキー、あなたもどっか怪我したの?」
「・・・え?」
「・・・・・・もう、涙浮かべてるじゃないの!」


 美希ちゃんに言われるまで、気付かなかった。


「や、やだ。タ、タマネギ切ってたから・・・い、イタタタ・・・・」



 ゴシゴシ、っと目をこする。
 ・・・・・・本当に痛いのは、目なんかじゃないのに。



 目を開けたとき、再びラブちゃんと視線が絡む。




 ――――せつなで遊んでいいのは、あたしだけなの。あなたの手は決して届かない・・・・。




 長い夜は、まだ始まったばかりだった。


                                        了




第4話は分岐しており、ふたつとも同じ第5話に繋がっています。
イライラがテーマの話を選択する方は、第4-1話 走り出した日
嘘がテーマの話を選択する方は、第4-2話 悲しい嘘に、乾杯を
最終更新:2013年02月16日 02:42