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Eas to Eas 第3章 受け継がれる宿命




「せつな! どうしたの!?」

 あの時の自分達が頭を過り、飛んで駆け寄ると、せつながすっくと立ち上がり、
「お帰り、ラブ!今日はカレーよ。ニンジンもしっかり食べて貰うわよ」
「え? は、はい……って、せつな、今倒れていたんじゃ……?」
「気のせいよ。 ちょっと帰るのが遅くなったけど、今日のカレーは私が作るわ。手伝ってね」

 家に入るとせつなはいつもように素早く着替え、夕御飯のカレー作りに取りかかった。

「あたしが見たのは何だったんだろう?」

 疑念の残るラブであったが、普段と変わらぬキビキビしたせつなの動きを見るにつれ、
先ずはカレーへのニンジン投入を阻止するのが先決と考えた。

「せつなー!ニンジンは勘弁してー」
「だーめ、今日はちゃんと食べて貰うわ」
「そんなぁ……」


 時を同じくして、撤退後暫くは人目のつかぬ場所にて倒れていたイースも立ち上がった。
ナキサケーベのカードにより体中に巡らされた触手の棘による傷口はすべて塞がっていた。痛みはまだ残っていたものの、今のイースにいつまでも倒れ伏していることは許されないことであった。

「カードはあともう一度だけか……あの時もう少しであいつの息の根を止めることが出来た。これが完全体でない弱さか……」

 いくらでも替わりのいるとはされていたが、ラビリンス国民すべてがイースになれるというわけではなかった。
 それは痛みに耐え、ダメージをあとに引きずらない強さをもつこと。

 インフィニティ争奪のための戦いに要求されるのはスピード。
もし他者に先を越されて確保されては元も子もない。
 そこでダメージを負っても直ぐに戦線復帰出来る回復力が要求された。
こればかりは与えることができるものではなく、かつてのせつなも今のイースも
これらが所要の水準にあることにより、戦士の受け皿たりえたのである。

「あと一枚……これで必ずあいつを倒す……でないと私は……」
 戻る場所のないイースは与えられた記憶を頼りに、夜営の準備を進めた。
 この時期寒さはないものの、明かり替わりの火に集まる虫は多く、それはラビリンスに育ったイースにとっては見慣れぬものであった。
「この世界には小さな生き物が多いものだな……」
中には炎に飛び込んでいく虫がいる。
「炎に飛び込んでいけば命を落とすだろうに……どして?」

 その様子をクラインは本国でモニタリングしていた。

「カードは残り一つ。早く使ってゲージを貯めていただきます。
管理できなくなりつつある貴女をメビウス様はもうお見切りです……」


「せっちゃーん、もうお風呂に入っちゃってー」
「ええ、ありがとうございます。おばさま」

 桃園家で暮らすようになって以来、せつなはラブ達に入浴時等で裸体を見られるのを
固く拒んでいた。
 ラブが一度風呂に入るのを覗きかけた時には、せつなは激怒し、その晩は一言も
口をきかなかったことがあった。
 それに痛く堪えたラブは以降あえて覗こうとはしなかった。

 とは言え、今日台所にいるときに一瞬だけ見せた苦痛の表情をラブは見逃してはいなかった。

「せつなの身にきっと何かがあったんだ」

 脱衣場をちらりと覗き見ると、身体中傷だらけのせつながいた。
たまらずラブは脱衣場に飛び込んだ。

「せつな、その傷どうしたの!? 大変だよ、お母さー……」
 あわてて母親を呼ぼうとするのを、せつなは止めた。その目は怒りのものではなく、哀願であった。
「やめて、ラブ。この事はおばさまには言わないで!」
「そんな!ひどい傷じゃない!?」
「お願い!」
「でも……うん、後で本当のこと話してね」
「……わかったわ」

「ラブー、せっちゃーん、どうしたのー?」
 何も知らないあゆみが声をかける。
「せつな、ゴキブリでもみたのかな?」
 ラブはあくまでとぼける。
「おかしいわねえ、最近はゴキブリなんて出ないようにちゃんと掃除してるんだけどねえ」
「さあ、なんだったんだろうねえ……」

 その夜、真実を訊くためラブはせつなの部屋に向かった。
 シフォンのことはタルトに見ておいてくれることを頼んでいた。
「今夜はシフォンをお願い、タルト!」
「しようがおまへんなあ……ピーチはん、パッションはんと何かあんのん?」
「女の子なんだからいろいろあるの!」

「せつな、入るね」
 部屋は整然としており、机や家具も丁寧に遣われていることが感じられた一方で、せつなの色にまだ染まりきっていない部屋の雰囲気を感じた。
「ラブ、さっきはごめんなさい」
「せつな、本当のことを言ってくれるって約束だったよね。あの傷は何?」

 せつなはやおらパジャマを脱ぎ始めた。
 同性の目から見ても眩しく映る白く美しい裸体には……

「えっ!?」

 せつなの身体中にあったはずの傷はもうなかった。その代わりに傷の治った跡が無数にあった。

「さっきあたしが見た傷は?」
「私の傷の回復力は、この世界の人間のものとは違うの」
「せつなはもうイースじゃない、よね?」
「キュアパッションとして生まれ変わってからは、少し傷が治るのが遅くなったわ」

 せつなの身体に見入っていたラブをせつなは再び服を着ながらたしなめた。

「ラブ、そんなに私の身体を見ないで……」
「ごめん…… 傷が治っても傷跡は消えないんだ…… だから、あたし達に見られることを
嫌がっていたんだね」
「こんな身体を知られることで、おばさまにも皆にも懼れられることが怖かったの……」

 せつなの着替えは普段から素早く、普通の人がその裸体を見ることなどは不可能であったが、入浴時にはさすがに長く裸でいなければならない。そうなると、傷跡だらけの身体を見られることになる。ダンス合宿のときも、せつなはみんなと浴場に行くのを固辞し、自身は素早くシャワーを浴びただけであった。

「せつな、だいじょうぶだよ。正直驚くかもしれないけど、せつなのこと受け入れてくれることには変わりないよ。それにしてもあの傷…… まさか、今日せつな一人で戦ったの? 何で?」
「私は皆を巻き込みたくなかった。私だけを付け狙うあの子との戦いには……」
「どんなことがあってもあたし達は仲間なんだよ? 一人で背負うことはないんだよ?」
「そうね…… 一人じゃなかった…… イースを背負うこともね」
「え?イースは昔のせつなのことじゃないの?」
「イースはね、戦いの中で命が尽きるたびに交換されてきたの……」
「どういうこと?」
「メビウスは傷の回復力の早い国民を選んで、能力と……心も植えつけてきたの。
私もかつてそうしてイースになった。そして、あの子も……」
「あの子もせつなと同じようになるということ?」
「あの子は今日ナキサケーベを使ったの。あと一回使うことになったらその時は……」

 ラブには疑問があった。プリキュアの防御力というのは半端なものではなく、例え敵に叩きつけられたりなどしたときに痛みを受けることはあっても、生身の身体に傷がつくことは防いでくれるようになっている。だからこそ傷が職業生命に響くことになるモデルの美希も懸念なく戦えるのである。

「プリキュアに変身して戦っていたのに、あの傷は何?」
「ナキサケーベを倒すためにはああするしかなかったの」

 せつなは、ある意味プリキュアとしての「禁じ手」を使った。
 ナキサケーベに反撃を試みた時に自らの防御力を封印し、すべてを攻撃に割り振ったのであった。
 無論ナキサケーベもキュアパッションの反撃をただ甘んじて受けているわけではない。捨て身のパッションハープ弾を放っている間も反撃を続け、いわば丸裸同然のせつなの身体にダメージを刻みつけていたのである。

「私はイースの宿命を止めてみせる。あの子が、イースが罪を重ねることは許さない。命に代えてでも……」

 ラブはせつなを抱き締めた。

「そんなことしなくていいんだよ。プリキュアの戦いは罪滅ぼしじゃない。
大切な人たちを……そして自分を守る。ただそれだけでいいんだよ。
もしもせつながそれを許せないなら、あたしが全てをかけてせつなを守ってあげるから」
「ラブ……」
「それがイースの宿命というなら皆で止めるよ。せつなにはせつなの明日があるように、 その子の明日のためにも」

 もし今度あの子が出撃すれば、最後のカードを使うに違いない。プリキュアはナキサケーベに負けるわけにはいかない。そしてナキサケーベを退けたときには、あの子にもクラインの手紙が来る。

「ラブのその目、あの時と同じね」
「へっ?何が?」
「『プリキュアもダンスも両方とも…… それ以上手に入れて見せるよ!!』って言ったでしょ?あの頃は、言うに事欠いて何無茶苦茶なことを……と思ってた。でも今なら、ラブが言うのだからそうなんだって思えてきたの」
「はは、そうだね……」

「今夜は一緒に……いてくれる?」
「うん」


 その頃、タルトは
「ふあ~あ。ピーチはん、遅いなあ……まあ、シフォンよお寝てるからええけど、
久しぶりにゲームしてこましたろ」



最終更新:2013年02月16日 23:05