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プリキュア VS ディケイド(III)




 その日も、ラブ・美希・祈里の3人は“プリキュア”に変身して戦っていた。

 しかし相手は、いつものナケワメーケではなかった。

「何なの!? こいつは?」

 苦戦を強いられる3人。 その前には、銀色の直立した虎のような怪人が立ちはだかっていた。

「“ラブ・サンシャイン”が効かないっ!?」

「“エスポワール・シャワー”もだめ。 跳ね返されるわっ!」

 見た事もない怪人は、唸り声をあげながらじりじりと迫って来る。 プリキュアたちのパンチ・キックも決め技も効いた風になく、次第に追い詰められていく。

「パイン!」

「うんっ…。 やってみる!」

 ピーチに促され、キュア・パインが前に出た。

「わるいのわるいの飛んでいけ…!」

 頭上で打ち鳴らした両手で、印を結んでダイヤの紋章を形づくる。

「“プリキュア! ヒーリング・プレアー”!!」

 手のひらから黄金色に輝く光の奔流が溢れ、怪人を押し流そうとする。 それまでどんな攻撃にも怯まなかった怪人が初めて苦しげなうめき声をあげた。

 それでも怪人は急流に逆らうかのようにプリキュア達に肉迫するが…。 徐々にその身体が崩れ、蒸発していく。

 やがて怪人の姿が完全に消滅したのを見て、パインはようやく波動の放出を止めた。

「やったわ…」

「何とか倒したみたいね」

 3人は安堵の息をつく。

「それにしても、あれ…、何だったのかしら?」

「とうとうこの世界までも、奴によって汚されてしまった!」

 突然、真横から掛かった声に振り返る。

 いつの間に現れたのか。 そこに…一人の中年男性が立っていた。

 暑苦しいコート姿に帽子、眼鏡…。 姿格好は四つ葉町でもよく見かけるような冴えないオジさんだったが、その風貌から強烈な“違和感”を漂わせている。

「すべては奴の。“ディケイド”の仕業…」

「あなた…誰なの?」

「私が誰かなど、どうでもいい…」

 プリキュアたちの方に歩を進めながら、男は熱弁を振るい始める。

「問題なのは、あの男…。 “ディケイド”だ」

「ディケイド?」

「そうだ。 世界に亀裂を開けながら彷徨う男“ディケイド”。 奴が通った所から、世界は綻びを生じ、やがて崩壊してゆく…。

 あの怪人も、そんな綻びが生み出した、この世界にあるべきではない忌まわしき者…」

 突拍子もなく抽象的な口上に、ピーチ・ベリー・パインとも何の事なのか理解が及ばなかったが、ただ、その言葉の重さだけは深く胸に刻まれていった。

「ディケイド…」

「プリキュアたちよ、その名を忘れるな。 間もなく奴は姿を現す…。 君たちの世界を、幸せを守るため、“世界を破壊する悪魔”ディケイドを倒すのだ!」

 中年男性は最後にそう言い放って、身を翻す。 その身体は正面から迫る白黒の渦をまく壁に突き当たり、そして…消えていった…。



 …………

「だいたい分かった」

 美希の話がひと区切りついたところで、士はうんざりした様子で、一人グチる。

「鳴滝…。 あいつがある事ない事言いふらしてまわるおかげで、俺はこんな子供にまで“悪魔”呼ばわりだ…」

「あの…。 門矢(かどや)さん」

 それまで士たち3人の様子を静観していた祈里が、遠慮がちに声を掛ける。

「門矢さんは知ってるんですか? あの怪人って何なのか」

「不死生物(アンデッド)…。 奴らも別の世界から来た連中だ。 太古の昔に滅び、現代に蘇った好戦的な狩猟民族。 この世界の法則とは合わないから、お前らの攻撃は効かないんだろう。 ま、一度死んでるわけだしな」

「よく分からないけど…、幽霊みたいなものかな?」

 形のいいあごに人差し指を添え、ラブは考え込んでいるのか、いないのか、分からない様子でぼんやり中空を眺める。

 けど、美希はそんなラブの一言にヒントを得た。

「あ、そうか。 だからパインの“浄化の力”なら倒せたんだ」

 3人で頷き合う。

 完全に太刀打ち出来ない相手じゃない…。 けれど新たな敵勢力を前に、頼みの綱がキュア・パインの決め技しかないというのは何とも心もとなかった。

「そうだ。 ツカサちゃんも、あの“ディケイド”になれば倒せるんだよね? だったら心強いよ!」

「まあな…、って、俺がお前たちの味方になる前提で言ってないか?」

「あ、バレたかー。 えへえへ」

 悪びれた様子もなく言うラブに、皆が揃って笑みを漏らす。

 士は首から下げたカメラのレンズの蓋を外すと…、そんなラブたちに向けピントを合わせ、シャッターを切った。



「コーヒーとドーナツ1つ」

 話し込む士たちの隣のテーブルから、注文の声が挙げる。

「あ、ほら。 ツカサちゃん、お客さんだよ」

「はいはい、いらっしゃい…。 お前!」

 背後のテーブルには、士と同じくらいの歳の青年が座っていた。

 茶色のジャケットを軽く着こなし、肘をついて士やラブたちのやりとりを眺めている、士に似たシニカルな雰囲気を持つ青年。

「海東(かいとう)!」

「なんだ、士じゃないか。 “ライダー”は廃業して、ドーナツ屋に転職したのかい?」

 驚いた様子もなく、そんな事をわざとらしく言ってくる。

「え? なになに? ツカサちゃん、知ってる人? お友達?」

「友達なわけないだろ」

 無邪気に椅子の背から身を乗り出すラブに言い返して、士はその男に冷徹な視線を向ける。

「こいつは、ただのコソ泥だ」

「お客に向かって、随分な言い方だな」

「どんな店でも“泥棒”を客とは認めない」

 ゆらりと立ち上がった士は、男のテーブルに近づく。 ラブたちはそんな二人の様子を不思議そうに見ていた。

「今度は、何が目的だ?」

「別に。 ただドーナツを食べに来ただけさ。 けど、ドーナツが出てこないんじゃ、しょうがない」

 “海東”と呼ばれた男は、右手を顔の前にあげて振って見せる。 その手に黄色いパネルの、デジタル携帯音楽プレイヤーのようなものがあった。

「代わりにコレを、テイクアウトして行くよ」

「……ブッキーの“リンクルン”っ!!」

 それが何なのか、いちばんに気が付いたのはラブだった。

 そう言われて、祈里が自分の腰のキャリーポーチに目を向ける。 キャリーの蓋が開き、中身がなくなっていた。

「いつ間に…!?」

「ちょっとぉ! あなたっ」

 ラブと美希が詰め寄るが、海東はすかさず椅子から立ち上がると後ずさって距離を取る。

「ドロボーっ! それはブッキーのものよ!」

「返してっ。 私のリンクルン!」

 祈里も駆け寄って懇願するように声をあげた。

 海東は困ったように小首をかしげると、そんな祈里を諭すように言う。

「悪いね、お嬢ちゃん。 これはね、君がおもちゃにするよりも、ずっと価値があるものなんだ」

 リンクルンを左手に、海東は背中に回していた右手を構える。 そこに奇妙に機械的な、大きな拳銃が握られているのを見て、ラブたちは息を呑んだ。

「この世界のお宝。 変身携帯手帳“リンクルン”はいただいていくよ」

 海東は拳銃を3人ではなく、真上に向けた。



「変身」

 トリガーを絞る。 打ち出された光点と共に、迷走する光の影。

 それらが海東の姿に重なり、その身を鎧と仮面で覆い隠す。

「まさか…! この人も!?」

 蛍光ブルーの身体に黒い装甲。 頭と胸部を幾重にも差し貫くライド・プレート。

 ディケイドと対を成す、世界間の跳躍者。 その名は“ディエンド”

 恐怖に立ちすくむ祈里を庇うように、ラブと美希がその前に立ち、自分たちの“リンクルン”を構える。

「チェインジ! プリキュア・ビートアーップ!!」

 キュア・ピーチ、キュア・ベリーに姿を変えた二人は、ディエンドを取り押さえようと、飛び掛かるタイミングを計る。

 リンクルンをしまい込んだディエンドが、代わりに2枚のカードを抜いた。

 そこには、“二人の少女”の顔が描かれている。

「…面白いカードが使えるね。 この世界は」

 2枚のカードを、たて続けに手にした拳銃、“ディエンドライバー”のスロットに差し込む。


 “PRECURE RIDE ....  ROUGE !!”

  “PRECURE RIDE ....  EAGLET !!”


 銃を二人に向け、引き金を引く。

 マズルから弾丸は発射されなかった。 代わりに飛び出した光点が膨れ、一瞬で人の姿を成す。

 そこに立っているのは…。 燃えさかるような赤毛に薔薇の髪飾りをつけた少女と、白銀の翼のような衣装をまとった少女…。

 二人の少女は、腕を振るって構えを取ると、ピーチとベリーに猛然と挑みかかって来た。

「“キュア・ルージュ”!? “キュア・イーグレット”!?」

 白い少女…イーグレットの蹴り技を、すんでのところで受け流しながら、ピーチは驚きの声をあげた。

「どうして…? 操られているの!?」

 ベリーはルージュの正拳をガードするが、衝撃で後ろに滑り、慌てて体勢を立て直す。

 現れた二人のプリキュアは、ひと声も発する事なく、黙々とピーチたちに攻撃を繰り出してくる。

「ダメだよ。 お友達同士、仲良くしなきゃ。 それじゃ、僕はこれで」

 そんな事を言って、ディエンドは背中を向ける。

「待ちなさいっ!」

 ピーチがその後を追いかけようとするが…、行く手を阻むイーグレットの回し蹴りを受けて、反対方向に蹴り飛ばされる。

「ピーチっ!」

 そう叫んだベリーの頭上へ、ルージュが空中から蹴り落とした火球が降ってくる。 爆炎が辺りを包み込み、その中からベリーが吹き飛ばされていった。

「あああ…。 どうして…、やめて…。 ピーチ! ベリー! ルージュ! イーグレット!」

 ディエンドの姿は既に見えない。

 必死に叫ぶ祈里の前で、4人のプリキュア達の激闘が繰り広げられていった。



最終更新:2013年02月24日 15:39