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プリキュア VS ディケイド(VI)




「ブッキー! 危ないよっ」

「大丈夫、だから」

 一歩一歩、海東に近づき銃口に身をさらす祈里。 その悲壮ながら強い意志に満ちた姿に、ラブも美希も、士さえも声を掛けられなくなった。

「無理はしない方がいいんじゃないかな。 膝が震えてるよ」

 海東の言う通り、微かに膝を震わせてぎこちなく足を前に出す祈里。 しかし…。

「お願い。 リンクルンを返してっ」

「もの分かりの悪いお嬢さんだな」

「あなたの言う通り、本当はそのリンクルンは、私にはふさわしくないのかもしれない…」

 また一歩、祈里が震える足を踏み出す。

「臆病で弱虫で、怖いのも痛いのも嫌いな私だけど、他の誰かが怖いのや痛いのはもっと嫌だから」

 海東の銃が火を噴いた。 祈里の足元に兆弾して、ラブと美希が声を殺した悲鳴をあげる。

「…守りたいのっ。 ラブちゃんや美希ちゃんや、四つ葉町の大切なみんなを。 この気持ちだけなら私だって負けない。

 けど、今の私じゃ。 祈ってるだけじゃ叶えられない。 だから必要なの。 リンクルンが…、プリキュアの力が」

 海東の目前まで来た祈里。 その額にディエンドライバーの銃口が触れた。

「そのために私はプリキュアなんだって。 プリキュアになれたんだって。 私…、しんじてるっ!」

 今にも泣き出しそうな目で、それでも祈里は海東をまっすぐ見上げる。

 その肩に、背後から歩み寄ってきた士の手が触れた。

「門矢さん…」

「海東、いい加減返してやれ。 大人げないぞ。 それはこの子が持っていてこそ、価値あるものなんだ」

 見つめ合う海東と祈里。 そして見守る士、ラブ、美希…。

 やがて海東が、くるりと銃を回して銃口を祈里から離した。

「やっぱり僕はフェミニストみたいだね。 泣いてる女の子には勝てないよ」

 海東が差し伸べた手が、祈里の差し出す手と重なる。 その手が離れた時、祈里の手に黄色いリンクルンがのせられていた。

 祈里が表情を輝かせ、堪えていた涙がせきを切ったように溢れる。 見ていたラブと美希にも笑顔が浮かぶ。

 士も無言で、口元に微かな笑みを浮かべ頷いた。

「喜んでいる暇はなさそうだよ」

 海東は背後に目線を向ける。

「早速、価値あるところを見せてもらわないとね」

 騒ぎを聞きつけたのか、公園の中には5人の様子をうかがう人集りが出来ている。

 いや…。

 それは“人”ではなかった。

 公園の中にうごめく、異形の姿の群れ…。

「不死生物(アンデッド)…。 それに…」

 先頭に立つ、黒い衣装の少女。

 その開いた目から、赤い視線がラブと士たちを捕らえた。

「見つけたぞ、プリキュア。 それにディケイド!」

「管理国家ラビリンス…」

 青ざめるラブたちの一歩前に、士が出る。

「やはりアンデッドと手を組んでいたのかっ!」



 ラブと美希と祈里、それに士、海東。

 対するはイースとアンデッドの王、そして配下のアンデッド軍勢約50体。

 祈里のリンクルンが手元に戻ったとは言え、絶望的な戦力差には変わりない中で、もはや衝突は避けられない一触即発状態となっていた。

「なるほど、これでディケイドとプリキュアを一網打尽か」

「ああ。 手間がはぶける」

 アンデッドの王に答えて、イースが赤紫色の剣先のようなジュエルを構えた。

(“ナケワメーケ”のパワー・ストーン…)

 士が舌打ちする。 誰も変身すらしていない状態で止めるすべがなかった。

 一体今度は、何をナケワメーケ化する気か?

 ジュエルを指と指の間に挟み、左上段に構える。 伸ばした腕に片目が隠れ、残る隻眼で士たちを見据えたまま…。

 次の瞬間。

 イースは身体を捻り、背後にジュエルを放った。

 誰もが息をのむ。

「貴様、何を…」

 アンデッドの王…。 スペードのK(キング)“コーカサスビートル・アンデッド”

 その額の中央に、イースの投げたジュエルが貼り付いている。

「言っただろう? ディケイドを倒すため、“最強のナケワメーケ”をつくってやると」

「裏切ったのか!?」

「裏切った?」

 冷ややかな目で、イースは王を見る。

「裏切ってなどいない。 最初から仲間になったつもりはないからな」

 異常事態に気付き、周囲のアンデッドがイースに迫ろうとするが遅かった。

「ナケワメーケ! 我に仕えよ!」

 イースの指令の声と共に、王の地獄から響くような咆哮と、全てを覆い隠すような白煙が巻き起こる。

『ア~ンデッドォ!』

 煙が晴れた、そこに。

 つり上がった光の目と額のジュエルを持ち、巨大化したアンデッドの王が膝をついて鎮座していた。



「アンデッドが、ナケワメーケになった!?」

「どうやらラビリンスの方が、一枚上手(うわて)だったみたいだね」

 ディエンドライバーに“ディエンド”のカードをセットしながら、海東が言う。

「どう言うこと? ラビリンスとアンデッドは手を組んだって…」

「はははっ。 素晴らしいな、“アンデッド”の力は。 これでナケワメーケとして制御すれば、まさに最強か」

 イースを肩に乗せ、“アンデッド・ナケワメーケ”が重厚な身を立ち上げる。

 その足元のアンデッド達は、動揺して右往左往するばかりだった。

「さぁ、約束は果たしてやろう。 ディケイドとプリキュアを倒せっ!」

『ア~ンデッドォ!』

 手にした巨大な剛剣が振り下ろされる。

「危ねえっ!」

 慌てて散り散りに逃げる士とラブたち。 その元いた場所に剣が突き刺さり、土煙を舞い上げた。

「最初から、こういうつもりだったというわけか」

「アンデッドを騙して利用してたのね。 ひどい…」

 士と祈里の言葉を、イースは軽く鼻で笑う。

「しょせん別々の世界の住人。 分かり合えなどするものか…。 お前たちだってそうだ!」

 イースが眼下の士を指差す。

「その男は“世界の破壊者”だ。 この世界を破壊するためにやって来た、な。 仲間にでもなったつもりか? いずれお前たちも、滅ぼされるというのに!」

「そんなことないわっ!」

 祈里が、毅然と言い放った。

「門矢さんは、そんな人じゃないわ!」

『さっきは仮面に隠れてて顔が見えなかったけど、こうしてちゃんと目を見てお話しすれば分かる…。 ツカサちゃん、悪い人じゃないって』

 あの時ラブが言った事が、今なら祈里にも分かる。

 夜の公園で、祈里の話を聞いて、そっと頭を撫でてくれた士。

 不器用で少し意地悪で、皮肉屋さんだけど、そんなふうに分かりにくい形で隠れている優しさの欠片。

 心が通じ合っているとまでは言えない。 けれどあの時僅かに寄せ合った気持ちは偽りじゃない。

「私もこの人なら信じられるわ。 世界の破壊者なんかじゃない。 きっと今、この時のため。 この世界を守るために来てくれたんだって!」

 ラブと祈里がここまで信じられる人なら。 美希にとっても異存があるはずもなかった。

「そうだよっ!」

 ラブも祈里と美希に並ぶ。

「大切なものや、守りたい気持ちが同じなら。 別々の世界に住んでいたって、きっと分かり合えるんだからっ!」

「!」

 ラブの言葉に、イースが目を見開く。



最終更新:2013年02月24日 15:50