プリキュア VS ディケイド(VIII)
…………
ディケイドとキュア・パインは、ナケワメーケ化したアンデッドの王と対峙していた。
手にした“ピーチ・ロッド”を構えるディケイド。 しかしそこに剛剣が振り下ろされて、慌てて横に飛び退く。
体勢を崩したところを再び斬撃が襲う…。 が、前に出たパインが、その剣の根元をがっしりと受け止めていた。
「ディケイドっ!」
「大したパワーだな。 助かるっ」
そう言ったディケイドの手に、何かの“端末”が握られていた。
モニタに並んだアイコンを、指先が順にタップしていく。
“KUUGA”
“AGITO”
“RYUKI”
“FAI'S”
“BLADE”
“HIBIKI”
“KABUTO”
“DEN-OH”
“KIBA” ....
ファイナルカメン端末“K-TOUCH(ケータッチ)”…。
かつて士が巡った9つの世界の“仮面ライダー”の力をひとつに集め、ディケイドは最強のライダーへと変貌する。
最後に“DECADE”のアイコンをタップして、その力は解放された。
“FINAL KAMEN RIDE .... DECADE !!”
ディケイドの姿が一転した。
黒を基調に銀色をあしらったスーツ。 そして何より特徴的な、胸部に並んだ9人のライダーカードのローブと、頂(いただき)を飾る冠の、自らの姿のカード。
仮面ライダー・ディケイド、“コンプリート・フォーム”…。
「姿が変わった? 何だ、あれは?」
アンデッド・ナケワメーケの肩の上で高みの見物を決め込んでいたイースだが、次々と不可解な力を発揮するディケイドに戦慄を覚える。
これ以上、猶予を与えるのはマズいかもしれない…。
「ディケイドだっ。 奴を倒せ!」
アンデッド・ナケワメーケに指令を下す。 巨剣を振り上げようとするアンデッドだが…。
『アアアンデッドォ…』
「うううううっ…」
キュア・パインがその剣を捕らえたまま放さず、力比べの格好になる。
「何をやっているっ!」
「“最強のナケワメーケ”が、最強じゃないって事さ。 そして…」
キュア・ピーチの“PRECURE RIDE”カードが、その手にあった。
「見せてやるよ。 この子たちの“最強”を、な…」
手にしたカードを“裏返して”、ベルトに固定したケータッチに差し込む。
モニタに映るカードの裏面。 そこには4色ハートのクローバーマークがあった。
その中の、ピンクのハートと“F(フォーム)”のアイコンを順にタップする。
“CURE PEACH, PRECURE RIDE .... ANGEL !!”
ディケイドの胸部に並ぶカードの絵柄が、一斉にキュア・ピーチの肖像に変わる。 そして横に並ぶように、そのプリキュアは降臨した。
純白の翼を閉じて自らを包み込んだ格好。 その翼を大きくゆっくりと開き、姿が現れる。
ピンク味を帯びた衣装はキュア・ピーチのものと類似しているが、長くなったスカートの尾羽や袖の部分のカット、宙を舞う腰のリボンの長さなど、より華やかさが増したドレス姿。 そしてその顔は…。
「えっ…? わたし!?」
アンデッドの軍勢とやり合いながら、その様子に気付いたピーチが驚く。 その顔は、キュア・ピーチそのものだった。
純白の翼を背負ったもう一人のピーチ。 “キュア・エンジェル”…。
ディケイドが手にしたピーチロッドを上段に構え、ゆっくりとイースの方へと向ける。 隣に並ぶエンジェルも、自分のキュア・スティックを手に、ディケイドの動きをそのままトレースする。
周囲に純白の羽根が、ぱっと広がった次の瞬間。
舞い散る羽根を吹き飛ばすようにして、ディケイドとエンジェルの杖から七色に輝く光が放射され、イースに浴びせられた。
「なにっ!? あああああああっ!!」
聖なる光に身を焦がされ、イースはナケワメーケの肩から転落。 地面に打ち付けられた。
「バカな…。 何だ? その力は」
ガクガクする上半身を起こし、震えながらディケイドとキュア・エンジェルを見る。
『アンデッド? アンデッド?』
司令塔を失ったアンデッド・ナケワメーケが、困惑するように左右を見回していた。
「今だ。 お前の力を見せてやれっ」
「はいっ!」
キュア・パインの呼びかけに応えて、彼女の守護精、鍵型妖精“キルン”が姿を現す。
くるくる廻り、解除キーと化すキルンを手に取ると、リンクルンに差し込み手帳を開く。
目を閉じて、先端のキルンに軽く口付けるパイン。
「えいっ!」
指先でローラーを回す。 小さな光のリングと共に、彼女のキュア・スティックが現れた。
「癒(いや)せ、祈りのハーモニー。 キュア・スティック“パイン・フルート”!」
その名の通り、スティックをフルートに見立てて鍵盤を順に指で押さえ、音階を奏でる。
「わるいのわるいの飛んでいけ!」
光を灯した先端のオブジェで、空中にダイヤマークを描き不可視の結界を張ると、その中にエネルギーを注ぎ込む。
結界の中で逃げ場のないエネルギーは物質化寸前まで凝縮され、黄金色に輝くダイヤの光弾となった。
「“プリキュア! ヒーリング・プレア――…、 フレ――――ッシュ”!!」
突き出した杖先にダイヤの光が触れ、周囲の空間に衝撃が走った。 発射されたダイヤは空中を疾走し、アンデッド・ナケワメーケに激突する。
「はあ――――――っ!!」
杖先を回し、パワーを増幅する。
膨れ上がった金色の光の中に、アンデッド・ナケワメーケの巨体は呑み込まれていった。
…………
ピーチとベリーはアンデッドの軍勢に取り囲まれていた。
ブレイド・ブレードを振るい果敢に戦うピーチ。 しかしプリキュアになり超人的な力を得たとは言え、ピーチには剣術の心得などなかった。
当たるを幸いに近づく怪人達をなぎ払うが、その包囲網は徐々に縮まっていく。
「まずいわね、ピーチ」
背中合わせにキュア・ベリーが言う。 自らのキュア・スティック“ベリー・ソード”を手にアンデッドをけん制するが、状況を好転するには至らない。
キュア・ピーチも大剣を構えながら、息を整え、左右に厳しい目を向ける。
「もう…、このトランプの剣。 何かもっとこう、どばーっとすごい技が出せないのかな」
「トランプの剣?」
ピーチが持つ剣に目を向ける。 柄のところに扇状に開いている大きなカード。 それは確かに数字の刻まれたトランプのようだった。
ベリーは自分の持つ“ベリー・ソード”の先端。 スペード型のオブジェに目を移す。
「トランプ…。 スペード…」
「ベリー、なに?」
「ピーチ。 私の力を、上乗せしてみるわっ」
ベリー・ソードを帯刀の形に構え、引き抜く。 その動作でスティックの鍵盤がなぞられ、メロディーが流れた。
「わるいのわるいの飛んでいけ! “プリキュア! エスポワール・シャワー――”…」
剣先でスペードのマークを描く。 ピーチやパインの時のように、それが青く輝く光の集合体となって実体化した。
「“フレ――――ッシュ”!!」
打ち出されたスペードの光は次の瞬間。 無数の小さなスペード・マークへと分裂・四散した。
ブレイド・ブレードを持つピーチの周囲にそれが渦を巻き、漂う。
「これは…」
光のスペードが、ブレイド・ブレードのカードに貼り付き最強の手札を組み立てていく。
スペードの10、J(ジャック)、Q(クイーン)、K(キング)、そしてA(エース)…。
そこに確かな手ごたえを感じて、ピーチは両手で大剣を振るい、腰だめに構えた。
「わるいのわるいの飛んでいけ!」
ピーチの前門に、5枚のカードが次々と現れ道を差し示す。
猛然と駆け出したピーチは、ドアを突き破るかのようにカードの門を潜っていく。 その度に手にしたブレイド・ブレードの刀身に力が宿っていった。
「“プリキュア! ロイヤル・ストレ――ト”…」
最後のA(エース)の門を潜るキュア・ピーチ。 ブレイド・ブレードからは、炎のようにエネルギーが吹き上がり、その刀身の長さを数倍にも伸ばしている。
「“フレ――――ッシュ”!!」
手にしたブレイド・ブレードで360度をなぎ払う。 周囲のアンデッドの群れ全てを、その雷刃が通過していた。
“死”すら凌駕するその力を受け、アンデッドが一斉に爆発する。
その轟音が治まった時…、立っている者はピーチとベリーの二人だけだった。
「やったぁ! あたしたち、完璧!」
ハイタッチを交わす二人。 だがすぐに、戦いはまだ終わっていないことを思い出した。
「パインとディケイドは!?」
周囲に目をやる二人。 そこに、キュア・パインの“ヒーリング・プレアー・フレッシュ”に押されるアンデッド・ナケワメーケの巨体を見る。
ダイヤの形の光に包まれた巨体。 その光に…、ひび割れのような亀裂が走り、繊細なガラスのように粉々に砕け散った。
最終更新:2013年02月24日 15:56