ハラハラ! 海賊と海賊の対決ニャ!
「鳥、はじめろ」
「レッツお宝ナビゲート!」
その「鳥」は突然、奇妙な声を上げながら船室の中を飛び回った。中にいる者たちは、それにぶつからないようにわずかずつかわす。小さな、無駄のない動きだった。鳥はやがて、壁にぶつかると床に落ちた。
「戦士たちよ、戦いのカノンをつまびくべし」
「なんだ?」
鳥に命令を出した、赤い装束の男が眉を歪めた。
「『カノン』ってなんだ」
隣に立っていた、青いジャケットの男も、黄色い上着の女も知らないようだった。
「聞いたことがあるような」
と言ったのは、緑のシャツを着た男。派手な靴下を履いた男は、そういう戦隊は聞いたことがありません、と、内容の割に大きな声で言った。
「音楽ですわ」
と言ったのは、ピンク色のドレスを着た女であった。
「音楽の演奏形式の一つです」
「俺たちに歌でも歌えって言うのか」
赤い男、その船の船長である「キャプテン・マーベラス」が吐き出すように言った。顔を見合わせる六人。この中に、音楽の心得がある者はいないらしい。
調べてみようか、とコンソールに向かったのは、「ハカセ」ことドン・ドッゴイヤー。
「アイムはできるでしょ、音楽」
「お城で基本的な手ほどきは受けましたが、地球の音楽の事はよく…」
これは、ルカとアイム。
青いジャケットの男、ジョーは自分には関係のないことだと結論を出したのか、その場で腕立て伏せを始めた。
「あ、面白い町があるよ」
「どこだ」
「加音町だって。
音楽が盛んなところみたい」
「カノンの町か…」
気乗りしない様子のマーベラスは、「もっとわかりやすいナビゲートをしねぇと捨てるぞ」とその鳥、ナビィに言って立ち上がった。行ってみる気にはなったらしい。
「海賊戦隊ゴーカイジャー」
それが彼らの名前である。
全宇宙を支配しようとする「宇宙帝国ザンギャック」に反旗を翻し、「宇宙最大のお宝」を奪取するべく地球にやってきた彼らは今、音楽を愛する町、加音町に進路を向けた。
「可愛い!」
「なんたって本物のお姫様だからね」
「お似合いですよ、姫様」
黄色いドレスをまとった少女は、これだけ褒められても全く嬉しそうではない。むしろ嫌がっているようにも見えた。
「なんでこんな格好しなきゃいけないの」
「だってハロウィンだもん」
調辺アコは不快感を隠さずに不満を口にしたが、北条響は今日がハロウィンであるというだけで浮かれているようだった。それがアコをさらに苛だたせる。
「いいじゃないですか、姫様。みんな、楽しみにしてたお祭りなんですよ」
「私は楽しくない。
それからエレン、私を『姫様』って呼ぶのはやめて、って何度も言ってるでしょ」
「あ、申し訳ありません」
「だから、『申し訳ありません』もダメ!」
黒川エレンは一歩下がって平伏したが、それもダメだったらしい。
「そもそも、ハロウィンって何よ」
視線は南野奏に集まったが、奏は目を逸らした。知らないようだ。
「お祭りよ、お祭り。
皆で歌って踊って」
「私は歌わないし踊らない」
アコは抵抗したが、響の「お祭り、お祭り」という声で、奏とエレンにひきずられるようにして部屋を出た。
「スイートプリキュア」
世界を悲しみのメロディで埋め尽くそうという「ノイズ」と戦う少女達が街に繰り出していく。
「騒々しい町だな」
「着ているものがめちゃくちゃだ」
「っていうか、お祭りじゃない?」
「楽しそうだね」
「みなさん笑顔です」
「何食べようっかなあ」
宇宙船・ゴーカイガレオンを沖合いの上空に停め、ゴーカイジャーは加音町にやってきた。マーベラスは嫌悪感を隠そうともしない。
「で、どれがお宝なんだ」
「あたしに聞かないでよ」
ルカが言うと、マーベラスは頬を引きつらせた。
「音楽だろうな」
「音楽だらけじゃねぇか」
子供達は“Trick or Treat”と叫びながら走りまわり、商店は BGM を鳴らし、楽団がパレードをし、この時計台のある広場ではまもなくコンサートが始まるようである。そのどれが「お宝」だと言うのか。
「お宝が一杯だね」
ハカセを睨みつけるマーベラス。
「楽譜というのはどうでしょうか」
「ガクフ?」
アイムが提案した。マーベラスはその単語も知らないようである。
「音符を書いてある、音楽の設計図の様なものです。
それを見れば、誰でも音楽を演奏することができます」
「オンプが書いてある設計図か。ありそうな話だな。
よし、探すぞ」
マーベラスは何か勘違いしたまま歩き出そうとした。
「音符発見ニャ!」
「どこだ!」
振り向くマーベラス。だが、ゴーカイジャーの面々は、自分じゃない、と首を振る。
「ほら、あそこニャ。
船のところ!」
マーベラスは目を丸くしたままつぶやいた。
「…。
地球に、人間以外にもしゃべる動物がいたのか」
「いないと思いますけど…」
ガイが自信なさそうに答える。
叫んだのは、白いネコだったように見えたのだ。
「ちょっと、ハミィ」
それを抱き上げたのは海賊だった。どうやら女性らしい。彼女は、いくらか慌てた様子で「音符だニャ」と叫んだ。誤魔化すような笑いを付け加える。
「地球にも海賊がいるのか」
「いや、いないと思いますけど…」
「頼りにならねぇやつだな」
その間に、海賊、魔女、お姫様、ネコという統一性のない一団は姿を消していた。
「見てみろ」
ジョーはマーベラスに望遠鏡を渡した。
「ゴーカイガレオンの旗に何か張り付いてる」
「旗?」
ピントを合わせる。確かに、彼らのシンボルマークである旗の中央に、赤い点が見えた。
「赤い点に、棒がくっついてる」
「マーベラスさん、私に見せてくださいますか」
アイムはマーベラスから望遠鏡を受け取って覗き込んだ。
「あれが音符です」
「オンプ?」
「いでよ、ネガトーン!
いでよ!
いでよぉっ!!」
ファルセットは岬で声を枯らしていた。
「だめだな」
「だめだな」
隣には、緑色のカエルの様な姿をしたバスドラと、青いトカゲの様なバリトンが立っている。二人は、ファルセットを笑うように声を合わせた。
「全然だめぇー」
「うるさいっ!」
肩でぜぇぜぇと息をする。
世界にあふれている音符は、邪悪な力を秘めた彼らの声によって近くの物体を巻き込み「ネガトーン」という怪物に変化する。ゴーカイガレオンの旗に音符を見つけた彼らは、ゴーカイガレオンをネガトーンにしようとしているのだが、ゴーカイガレオンが変化する様子は全くなかった。
「どういうことだ」
「お前の力がなくなっちゃったんじゃないの?」
「それは困る。なくなる前に、僕を元の姿に戻してもらわないと」
「お、そうだ。そっちから先にしろ、ファルセット」
「『ファルセット様』だ!」
今まで、ネガトーンがプリキュアに破れた事はあっても、ネガトーンを生み出せない、ということはなかった。あの船にはなにか特別な力があって、変化することを拒んでいるのに違いない。
ファルセットはゴーカイガレオンを睨んだまま手を出した。
「チョキ」
「バスドラの勝ちぃー」
「音符をよこせって言ってるんだ!」
「やだよ、折角集めたのに」
「いいからよこせ」
しばらく揉みあった後、ファルセットはカラフルな音符が入った透明な瓶をバスドラから奪い取った。それをゴーカイガレオンに向かって投げつける。
瓶はゴーカイガレオンのマストに当たって割れた。中の音符が、仲間を求めて旗に集まる。
「今度こそ。
いでよ、ネガトーン!!」
どす黒い波がファルセットの周りを覆ったかと思うと、ゴーカイガレオンに向かって広がって行った。
「よし」
ファルセットはそう呟いたが、やはりゴーカイガレオンが変化する事はない。だが、その波は音符の集まっている旗に吸収されていった。
風で揺れていた旗が動きを停めたかと思うと、マストから飛び出した。
旗の周りに動物の骨の様なものがまとわりつき、それはまるで帆のようだった。
「小 (ちっ) さ」
あれだけの音符を投入しても旗をネガトーンにするのが精一杯というわけだった。
「音符がこぼれてるみたいですよ、ファルセット様ぁ」
「拾っておけ」
ファルセットは人々に悲しみを与えるべく、町に戻った。
「旗が!」
ゴーカイジャーには旗が千切り取られたように見えた。
ハタネガトーンは広場に向かってくる。着地するなり、唸り声を上げた。
「ぐ」
「なんだ、この音は」
さすがの宇宙海賊も顔をゆがめる。胸の奥をひっかき回されるような不愉快な音だった。さっきまで笑顔だった人々が、悲しみに涙を流し始めた。
ハタネガトーンはそれで満足したのかまた飛び立った。
「追うぞ!」
「マーベラス、あれ」
「あ?」
ルカが顔で示した角を、さっきの少女海賊たちが走っていった。
「そうか、あいつらもオンプがどうとか言ってたな。
挟み撃ちにするぞ」
「急ごう」
「帆みたいだから、早いわね」
「どこかにファルセットたちもいるはずよ」
「急がないと、町が悲しみに包まれてしまうニャ」
ハタネガトーンを追って森を走る響たち。
アコは何が気になるのか、何度か後ろを振り返っていたが、ふいに叫んだ。
「誰かが追ってくる」
「ファルセット?」
「違う」
「うわっ」
先頭を走っていた響が急に立ち止まり、エレンがそれにぶつかった。ジョーとガイだった。
「どうしたの…って、誰」
「海賊の旗を千切るとはいい度胸だな、偽海賊のお嬢さんよ」
後ろからやってきたマーベラスが憎しみをこめた声で言った。
「これはハロウィンの仮装。
あんただって同じでしょ」
「やかましい。
俺たちのゴーカイガレオンに何をした」
「ゴーカイガレオン?」
「妙な格好をしてるから、怪しいとは思ってたんだ」
「だから、人のこと言えないでしょ」
奏が反論したが、ルカににらまれてひるんだ。
「子供相手に荒っぽい真似はしたくねぇ。
旗を元に戻せばおうちに返してやる」
「そんなこと知らないわよ」
「荒っぽい真似はしたくねえ、って言ってるんだぜ」
海賊達は、その言葉とは裏腹に剣を抜いた。
船、そしてそのマストの一番上にひらめく旗は海賊の「心」である。よその者など触れることすら許されない。それを引きちぎったのだから、マーベラスの怒りがどれほどのものかは想像がつくというものだった。
「どうする」
響たちは無言だった。剣を持った六人の大人に囲まれてしまった。答を間違えば大変なことになる。彼女達には、あれがネガトーンであることは明らかなのだが、それを説明できる雰囲気ではなかった。
「随分、大人しくなっちまったな。
子供はそれくらいの方がいいってもんだ。
まったく、あの町の騒がしいことといったら」
「だって、今日はハロウィンなんだから」
アコが叫んだ。
「みんなで準備して、みんなで楽しむ、お祭りなんだから!」
「くだらねぇ」
「くだらない、ですって?」
「カノンだかなんだか知らねぇが、バカみてぇな音楽ならして、ヘタクソな歌うたいやがって。まだ耳鳴りがしてやがる」
アコが怒りの表情と共に唇を噛んだ。響も奏もエレンも拳を握り締めた。
「まぁいい。
で、どうする」
「…。
私たちじゃない」
「そうか」
剣を構える海賊達。しかし、少女達は今度はひるまなかった。
「音楽をバカにした」
「加音町をバカにした」
「みんなのイベントをバカにした」
「歌をバカにした」
「あ?」
「絶対に許せない!」
その怒りと、少女達が突き出したツールに海賊達がひるんだ。
「レッツ プレイ、プリキュア モジュレーション!」
「なんだ!」
色とりどりの光のリボンが辺りを埋め尽くした。少女達の服がきれいなドレスに変わる。
「届け、四人の組曲!
スイートプリキュア!!」
堂々とした名乗りに海賊達はあっけにとられていた。マーベラスが片頬で笑う。
「ザンギャックもシャレたことをするようになったじゃねぇか」
「子供を使うのは感心しないけどね」
ルカの言葉に全員が頷く。
「ゴーカイチェンジ!」
最終更新:2013年03月10日 22:44