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ふたりのプリンセス




「はぁっ!」
 ゴーカイシルバーがキュアリズムに飛び掛った。ゴーカイスピアをきわどくかわすキュアリズム。
「ほらほら。
 そんなドンくさい逃げ方で大丈夫かなあ?」
「『ドンくさい』ですって?!」
 その不用意な言葉がキュアリズムに火をつけてしまった。
「刻みましょう、奇跡のリズム!
 おいで、ファリー!」
 ファンタスティックベルティエで次の攻撃を払う。
「そんなかわいいお道具――あっ!」
 キュアリズムはファンタスティックベルティエの輪の中にゴーカイスピアの先を絡め取った。
「うわ、放して。放してくださいよ」
「あなたが放しなさい!」
 そのまま体ごとファンタスティックベルティエを引く。振り回されたゴーカイシルバーがバランスを崩すと、キュアリズムはゴーカイスピアを放り投げてしまった。
「あぁ、僕のゴーカイスピア!」

「ちょこまかと!」
「大人しくなさい」
 ゴーカイイエローとゴーカイピンクの攻撃もキュアミューズに対しては精彩を欠いた。海賊らしい大きなアクションに対して、小柄なキュアミューズは素早くかわし、その腕の下を潜り抜けた。
「逃げるな!」
「そう。
 じゃ、これはどう。
 プリキュア シャイニング・サークル!」
 黄色の光が飛び散ったかと思うと、キュアミューズの姿が五芒星の頂点に並んで、ゴーカイイエローとゴーカイピンクを取り囲んだ。
「え、五人」
「卑怯よ!」
〈そっちは大人なんでしょ。これくらいのハンディがあって当然よ〉
 二人はすでにキュアミューズの技の中だった。その声も遠くに聞こえる。
「とにかく一人ずつ倒せばいいんでしょ!」
 その言葉どおり、ゴーカイイエローとゴーカイピンクは、一人ずつキュアミューズを倒していく。いや、倒しているのではなく、それはすべて幻影で、単に掻き消えてしまうだけだった。そしてその影はすぐに復活するのだった。
「何やってるんだか」
 キュアミューズは、存在しない敵に剣を振り回している二人を、木の上から見下ろしていた。

「身が軽いのはメリットとは限らないぞ」
「褒めてくれてありがとう」
 ゴーカイジャー随一の剣の使い手であるゴーカイブルーの剣は空振りを繰り返した。あるときは低く地を走り、あるときは木々の間を渡るキュアビートにその剣がかすりもしない。だが、ゴーカイブルーの目はその動きを把握し始めていた。
「見切ったぞ。
 そこだ!」
 するどい突き。しかしそこにキュアビートはいなかった。
「なに!」
 目の高さに青いブーツ。
 キュアビートはゴーカイサーベルの上に立っていた。
「どう、重い?」
「く…」
「あなたが、女性に向かって『重い』なんて言わない紳士でよかった」
 ゴーカイブルーはわずかにその切っ先をずらしてみた。キュアビートの体は、その動きに逆らわずについてくる。信じられないバランス感覚だった。
 ゆっくりと左手を腰に。ゴーカイガンを使うしかない。
「させないわ」
 キュアビートが指を鳴らすと、その腕の中にラブギターロッドが現れた。
「ビートソニック!」
「うわぁっ!」

「待って、ネコちゃん!」
「待てって言われて待つネコはいないニャ!」
 走り回るハミィを追いかけるゴーカイグリーン。枝に躓いては転び、ヤブの中にもぐりこんでは泥だらけになる。緑色のスーツに枯葉がまとわりつき、遠目には誰だかわからない有様であった。

「ガキにはこれだ」
《ファーーーイブマン!》
「兄弟戦士、ブラザー アタック!」
「プリキュア スイート・ハーモニー・キック!」
 ファイブマンとなったゴーカイジャーが個々に攻撃をしかけるより前、プリキュアのキックが決まった。レッドが V ソードを振るう隙もなかった。
「ガキだガキだって言うから怒ったんじゃないの?」
「事実だろうが!
 スピードならこれだ」
《ハーーーリケンジャー!》
「プリキュア ミラクルハート・アルペジオ!」
「プリキュア ファンタスティック・ピアチェーレ!」
 その炎の前にはニンジャとても太刀打ちできない。
「炎ならこっちにもある!」
《ギーーーンガマン》
「炎のたてがみ!」
「ビートバリア!」
 キュアビートのラブギターロッドが唸り、ギンガレッドの攻撃を防いだ。
「…。
 やるじゃねえか」
「音楽をバカにしたこと、謝って」
「ふん、音楽なんかがなんの役に立つ」
「また言った!」
 キュアメロディのキックがゴーカイレッドの右手を襲った。
「おぉ、おっかねえ」
 まだ軽口を言う余裕はある。しかし、ゴーカイレッドはキュアメロディに押されていた。ゴーカイレッドの攻撃は一つも当たっていないが、キュアメロディの攻撃は何度か掠めている。それが、子供相手に本気を出していないからだ、とは言いがたいことは認めざるを得ないようだった。
(その力はどっから出てくるんだ)
 案外、ナビィが言っていた「お宝」とはこいつらのことかもしれない、とゴーカイレッドは思った。
(『大いなる力』、持ってるかもしれねぇな。
 だったら)
「ゴーカイスラッシュ!」
「リズム!」
「はいっ!」
「プリキュア ミュージック・ロンド、スーパー・カルテット!」
 二つの赤い光がゴーカイレッドとキュアメロディの間で破裂した。枯葉が舞い上がり、土が吹き飛ばされる。
「きゃぁっ!」
 突然の爆発に、木の上に立っていたキュアミューズがバランスを崩した。辛うじて着地はできたが、体勢を立て直したと思うと、その目の前にゴーカイピンクのゴーカイサーベルがあった。
「油断なさいましたね」
「姫様!」
「動かないで」
 助けに行こうとしたキュアビートを、ゴーカイイエローが牽制する。
「アイム?」
 ゴーカイピンクは気丈に睨み返すキュアミューズを見つめていた。
「『姫様』とはどういうことですか」
「…」
「では、そのティアラは略王冠なのですね」
「アイム、そんなこと」
「教えてください。
 あなたはどこかの国の王女なのですか?」
「そうよ」
 キュアミューズはゆっくりと立ち上がった。
「アコ様は、メイジャーランドの王女、第一王位継承者でいらっしゃいます」
 ラブギターロッドを構えるキュアビート。ゴーカイイエローとゴーカイブルーの銃口が向けられてもひるみもしない
「メイジャーランド。
 聞いた事のない国です」
 ゴーカイピンクはそう言いながら、変身を解除した。
「アイム!」
「わたくしはアイム・ド・ファミーユ。
 ファミーユ星の王女でした」
「聞いたことがないわ」
「国はザンギャックに滅ぼされてしまいましたから」
「滅ぼされた…?」
「はい」
 かすかな微笑に悲しみが隠れているのをキュアミューズは読み取った。それは全く知らない種類の悲しみではなかった。
 彼女も同じくアコに戻った。そして全てを語る。
「この宇宙の全ての悲しみを糧として育った者がある。
 その名は『ノイズ』」
「ノイズ…」
 ノイズが、この世界を悲しみのメロディで埋め尽くそうとしていること。それは怪鳥を思わせる姿をしていること。長らく封印されていたが、復活のために音符を集めていること。
 それを止めようとしているのが、彼女達プリキュアであること。
 そして、アコの父が、ノイズの手先となっていたこと。アコ自身が父と戦い、父を取り戻したこと。
「辛い思いをなさったのですね」
「…。
 でも、メイジャーランドは滅びてないわ」
「よかった」
 微笑み会う二人の王女。ゴーカイブルーもゴーカイイエローも銃をおろしていた。
「つまり、お前らはザンギャックとは関係ねぇってことか」
 同じように変身を解いたマーベラスが言った。まだ不満そうである。
「あたしたちが国を滅ぼしたりするわけないでしょ!」
「じゃ、旗は!」
「それはノイズの手下がやったの!」
「それを早く言え!」
「言おうとしたじゃん!」
 マーベラスと響がほとんど顔をくっつけんばかりにして言い合っている。
「じゃあ、僕たちは共通の敵を追ってるってこと?」
 ハミィにのしかかられたままのゴーカイグリーンが呟いた。
「で、そのノイズとかいうのはどこにいるんだ」
「知らないよ」
 マーベラスは、ガキが、と言いながらモバイレーツを取った。
「おい、鳥。
 ちょっと探しもんだ。鳥のことならお前が詳しいだろ」
《僕はノイズなんかじゃないよ!》
「聞いてんじゃねぇよ。
 いいからとっとと探せ」
 そして全員が変身を解いた。
 戦いが終わったことを察知したフェアリートーンたちが姿を現して彼らの周りを飛んだ。静かなメロディが辺りに満ちる。アイムとハカセが、かわいい、とつぶやいた。
《今探してるよ。
 じゃ、そのプリキュアが『大いなる力』ってことなのかな》
「その話は後だ。
 まずは旗だ」
《ところでマーベラス》
「なんだ」
《ゴーカイガレオンの甲板に変なものが一杯落ちてるんだけど。丸くてカラフルで》
「…。
 集めとけ」
《僕がぁ?》
「ノイズを見つけたら教えろ」
 と言って通話を切ってしまう。
「おい、プリキュア」
「何よ」
 反射的にトゲのある声で答える響。マーベラスの横柄な物言いはどうも彼女たちに合わないようである。
「旗を取り返しに行く。手伝え」
「命令しないで」
「命令じゃねえ、取引だ」
「取引?」
「あの旗は音符がくっついてネガトーンとかいう化け物になってる。そうだな」
「そうよ」
「その音符はくれてやる」
「それ取引って言うの?」
「心配すんな、場所はすぐに――来た来た」
「場所がわかったの?」
「手伝うんなら、教えてやる」
 響の手を引く奏。
「何、すねてるのよ。
 悪い話じゃないじゃない」
「このオジサン、なんかいけ好かないのよ」
「なんか言ったか」
「誤解もとけたんだし、協力してもいいじゃない」
「まったく、子供なんだから」
 アコに言われてはぐうの音も出ない。響も承諾するしかなかった。



最終更新:2013年03月10日 22:48