アットウィキロゴ

イエローハートの証明 ( 第4話:現れた男 )




「あれぇ・・・ブッキーん家、留守かなぁ。」
 ラブが首を傾げながら、電話を切る。その様子を見て、美希も怪訝そうな顔になった。
「リンクルンじゃなくて、家にかけたの?ラブ。」
「両方だよ。でも、ブッキーは出ないし、お家の電話は留守電になってる。」
「そう・・・。病院にでも行ってるのかしら。」
 ぼそぼそと言い合う二人の親友の顔を、せつなも心配そうに見つめた。

 三人は、四つ葉町公園のベンチに並んで腰掛けていた。ひとしきり再会を喜んだ後、まずは何をおいても祈里に連絡しなくてはと、ラブが電話をかけたのだ。
 公園の若葉は、もう高いところまで上った日の光を受けて、キラキラと輝いている。今のラビリンスにはまだ無い、緑の美しい光景。もっとも今のせつなは、それに見とれている気分ではなかった。
 ブッキーは・・・祈里は一体、どうしたのだろう。
 だが、ラブの言葉を聞いて、ここへ帰って来た重要な目的を思い出し、せつなは背筋を伸ばした。

「誰も電話に出ないんじゃ、いきなり押しかけるわけにもいかないよね・・・。どうしよっか、せつな。」
「そうね。じゃあ、ブッキーには後で連絡するとして、まずはナケワメーケが現れた現場に連れて行ってもらってもいい?」
 せつなの言葉に、ラブと美希の表情も引き締まる。
「わかった。こっちだよ!」
 ラブが勢いよく立ち上がり、先に立って走り出す。せつなと美希も、すぐその後に続いた。



   イエローハートの証明 ( 第4話:現れた男 )



「ここだよ。この中で、ナケワメーケが暴れてたの。」
 立ち止まったラブに続いて、せつなも囲いの破れ目から、その場所を覗き込む。
 何かの建設予定地らしい空地。その隅には、これから組み立てられるのであろう機材が、整然と積み上がっている。しかし、一度きれいに均されたように見える地面には、何か重くて大きなものが落下したかのような凸凹が目立ち、あちらこちらで土がめくれ上がっている。
 襲撃の跡が生々しい現場の片隅に、ぽつんと置かれている一台のショベルカー。それを見て、せつながわずかに顔を曇らせる。かつてショベルカーをナキサケーベにして、ラブたちを苦しめたときのことが頭をかすめた。
 気を取り直して、ラブと美希に向き直る。
「それで、ナケワメーケの元になったものは、もうここには無いのね?」
「どうやら無いみたいね。このくらいの大きさの、紫色をしたガラスの瓶だったわ。香水を入れて使う物よ。」
 美希が囲いの中に目を凝らしてから、親指と人差し指で香水瓶の大きさを示し、せつなのために簡単な説明を加えた。
「そう・・・。」

 せつなが土埃の立つ空地を見つめながら、両手を合わせ、その人差し指を唇に当てる。何か考えを巡らせているときや、迷っているときの彼女の癖だ。そんなせつなを、ラブは真剣そのものといった顔つきで、美希は心配そうに眉根を寄せて、じっと見守る。
 やがて意を決したように、せつなが顔を上げた。
「実は、二人に話しておかなきゃいけないことがあるの。本当は、ブッキーにも早く知らせなきゃいけないんだけど・・・。」
 が、そう言いかけて、せつなはハッとしたように口をつぐんだ。不思議そうに首を傾げるラブと美希の後ろから、バラバラと複数の足音が近づいて来る。
 揃いのグレーの制服を着た、十人ほどの大柄な男たち。その真ん中に立つ男が、いかめしい顔つきでじろりと三人を眺め、野太い声で言った。
「何だ?君たちは。ここは立ち入り禁止だよ。一体何をしてるんだ?」
「え、えーっと・・・それはですね・・・」
 困った顔で言葉を探す美希。ところがその隣りから、ラブがパッと顔を輝かせて前に進み出た。

「おじさん!おじさんって、去年のトリニティのコンサートのときに、警備員だったおじさんだよね?」
「ん?君は・・・。」
 怪訝そうな顔でラブを見つめてから、男がニヤリと笑う。
「思い出した!あの時のお嬢ちゃんか。確か、トリニティのボディガードだっけ?あれは傑作だったよなぁ。はっはっは・・・」
 楽しそうに笑う男に、ラブも笑顔で頷く。美希は合点がいった顔で、やれやれ、とため息をつき、せつなはキョトンとして首を傾げた。

 そう、あれは去年の七月の、トリニティのコンサートのとき。四人目のプリキュアと目されていたミユキがラビリンスに襲われたときのために、ラブたち三人がボディガードを買って出た。そこで、張り切り過ぎてスパイ顔負けの恰好をしていたラブを、不審者かと思って警備室に連行しそうになったのが、今目の前に居る彼だったのだ。

「それで、今日はどこで警備のお仕事なの?こんなに大勢で。」
「いや、実は昨日、そこの工事現場に化け物が出たって情報があってなぁ。ほら、あのコンサートを滅茶苦茶にしたヤツの、仲間みたいなヤツらしいんだが。」
 せつなが辛そうに下を向いたのにも気付かず、男は至極軽い調子で話を続ける。
「あのときはプリキュアが助けてくれたけど、今はもう、この町にはプリキュアは居ないらしくてね。それで俺たちが呼ばれたのさ。」
「おじさんたちが?え・・・まさか、おじさんたちで倒すつもりなの?ナケ・・・ううん、あの化け物を!」
 驚きと心配で、ラブが目を大きく見開いたとき。
「ちょっと待って下さい。困りますよ、町の人たちを不安がらせるようなことをおっしゃっては。」
 大男たちの後ろから、新たな声が聞こえた。

「え?この声って・・・。」
 美希が意外そうに呟くそばから、男たちが左右に分かれて、さっと道を開ける。
 悠々とそこを歩いてきたのは、ひょろりとした長身に、黒縁の眼鏡をかけた色白の少年――。
「やあ、皆さん。あ、東さん!お久しぶりです。」
 四つ葉中学校三年生、御子柴健人が、少し照れたような表情で、三人に向かってぴょこんと頭を下げた。

「健人君!どうしてここに?それに、このおじさんたちって・・・」
 勢い込んで問いかけるラブを押しとどめて、健人が後ろに控えている男たちを下がらせる。そして、こちらの話し声が聞こえない距離まで彼らが離れたのを確認してから、もう一度三人の方に向き直った。
「皆さんも、あの化け物の話を聞いて、現場を見に来られたんですか。あれ?でも、今日は山吹さんはご一緒じゃないんですね。」
「ブッキーは、体調が悪いらしくって・・・。それよりさ、あのおじさんが言ってたことって本当なの?」
「ああ、あの方たちは、僕がお願いして来て頂いたんです。人々の安全を守るプロですし、武道の心得もある方たちですから。」
 ラブの問いに、健人が事もなげに答える。
「じゃあ、やっぱりあのおじさんたちで、ナケワメーケを!?」
「無茶よっ!あの化け物は、普通の人間が太刀打ちできるような相手じゃないわ!」
 色めき立つラブと美希。が、健人はそれにもまるで動じる風がない。
「お二人とも、落ち着いて下さい。まさかそんなこと、僕も考えてはいませんよ。
あの方たちの役目は、あの化け物の謎を解く手掛かりを探すこと。そして万が一、また化け物が現れたら、町の人たちを安全に避難させること。それだけです。」
「じゃあ、もしまた怪物が現れても、それを倒そうだなんて思ってはいないのね?」
 今まで黙って三人のやり取りを聞いていたせつなが、静かに口を開く。健人は、三人の顔を順繰りに眺めてから、薄い胸を精一杯張って一言、こう答えた。
「いいえ。」

「ええ~っ!?」
「だからっ!さっきも言ったように・・・」
「桃園さん、蒼乃さん。御子柴グループを侮ってもらっては困ります。」
 再び健人に詰め寄ろうとしたラブと美希は、珍しく自信たっぷりのその言葉に、思わず口を開けたままで健人の顔を見つめた。
「御子柴グループは、家電製品だけじゃない、実に様々なものを手掛けているんです。それは皆さんも、ご存知ですよね?」
「それは、怪物を倒せるような武器も手掛けているってこと?」
「いや、東さん、そんなことは・・・。でも、武器と名の付く物は無くても、科学の力であの化け物を退治する手段はあるはずです。今、うちの優秀な研究者たちが、検討を始めています。」
 うっすらと笑みさえ浮かべながらそう言い切る健人に、せつなが厳しい目を向ける。
「もし、その怪物がナケワメーケだったとしたら・・・侮っているのはあなたの方よ。ナケワメーケは、ただ物理的に倒せばいいという相手じゃないの。危険過ぎるわ。」
「ならば、またプリキュアが戦ってくれるんですか?皆さんは、もうプリキュアにはなれないんですよね?」
 健人の方も一歩も引かずに、そう言ってせつなを睨むように見つめる。もっとも、その眼光にあまり迫力は無かったが、せつなは一瞬、言葉に詰まった。それを見て、健人が勝ち誇ったように、さっきの薄ら笑いを浮かべる。
「だったら皆さんも、今はただの一般人です。ここは僕に任せて、もうこの場所には近付かないで下さい。」
「何言ってるのよ!」
 美希が思わず苛立たしげに叫んだ、その時。
「ねぇ・・・どうしちゃったの?」
 心配そうに震える声が、今にも衝突しそうな三人の間に割って入った。

 ラブが、瞳をわななかせながら、健人に一歩近づく。
「今日の健人君、なんかヘンだよ。なんか・・・いつもと違って、凄く無理してるみたい。ねぇ、何があったの?」
「そ、それは・・・四つ葉町にまた怪物が現れた、非常事態だからですよ。」
 今まで滑稽なくらいにぴんと伸ばしていた健人の背中から、その瞬間、ふっと力が抜けた。眼鏡の奥の小さな目が、落着きなく揺れる。
 が、それも一瞬。
「ねぇ、大輔たちは?このこと、知ってるの?」
 ラブのこの言葉に、健人は再び背筋を伸ばすと、ぐっと拳を握った。
「大輔君たちには、関係のないことです。」
「そんな、関係ないって・・・。」
 ますます心配そうなラブの声に、耳を塞ぐようにかぶりを振ってから、健人は自分に言い聞かせるように呟く。
「僕は・・・御子柴グループの後継者です。大切なこの町の人たちは、僕が守ってみせます!」
「こんな風に一人で無理して、みんなを守ることなんて出来ないよっ!」
「皆さん!」

 ラブの叫び声を無視して、健人が後ろに控えている男たちを振り返る。
「話は終わりました。調査の間、現場に一般の方が近付かないように、警備を厳重にして下さい。それから、ここに居る一般人の方々には、速やかにお帰り願って下さい。」
「健人君!」
「ちょっと!話はまだ終わってないわよ!」
「待って!話を聞いて。本当に危険なのよ!」
 呼びかける三人に答えることなく背を向けると、健人は男たちの間の道を、今度は一目散に駆け去った。

 追いかけようとするラブの肩を、さっきの警備員が素早く抑える。
「そういうことだ。御子柴の坊ちゃんの言う通り、ここは危ないから、早く帰りなさい。」
「おじさん、離して!健人君と話をしなきゃいけないんだから!」
「おお、分かった。じゃあ、もうここへは来ないと約束してくれるな?」
「それは・・・。」
 ラブが困ったように俯いた、その途端。警備員が息を呑む気配がして、ラブの肩に置かれた手が離れた。
「おい。こいつに何をしているのだ?」
 突然、すぐ隣りから聞こえてきた声に、今度はラブが驚いて顔を上げる。

 いつの間に現れたのか、一人の男がラブの隣りに立ち、腕組みをして警備員たちを見回している。
 くたびれたアイスブルーのジーンズに、黒い長袖シャツ。鮮やかなオレンジ色のダウンベストに、さらに明るい黄金色の髪――。
「ウエスタ・・・あ、あわわ、は、隼人さん!」
「よぉ。」
 ラブの頭を、ぽん、と軽く叩いてニヤリと笑ってみせたのは、西隼人――元・ラビリンス幹部ウエスターの、この世界での姿だった。

「何だ、君は。」
 さっきの警備員が、警戒心も露わに問いかける。
「こいつらの知り合いの者だ。警察・・・ではなさそうだが、こいつらが何かしたのか?」
「いや。お嬢ちゃんたちが危険な現場を覗いていたんで、注意しただけだ。」
「ああそうか。すまん。こいつらはどうも、危険を顧みないタチでな。俺からも、よく注意しておこう。」

「ちょっと!何言ってるのよ!」
 せつなが小声で文句を言うのもどこ吹く風で、人懐っこい笑顔になった隼人に、警備員が警戒を解く。が、彼がくるりと踵を返し、当の現場に向かってスタスタと歩き始めたのを見て、慌てて声をかけた。
「おい、どこへ行く。」
「なるほど、現場っていうのはここか。ちょっと邪魔するぞ。」
「あ、こら待て。おい!」

 隼人は大きな身体を器用に折り曲げて、囲いの破れ目から空地の中へと入っていく。そんな彼を、一度は猛然と追いかけようとした警備員が、急に足を止めた。
 優秀な警備員で、武道においても相当な実力者。そんな彼だからこそ、隼人が空地に入った途端、その大きな背中がさらに大きくなったように見えたのだ。
 鍛え上げられた筋肉をまとった長身から、殺気にも似た強烈な気が立ち上る。警備員はただ圧倒されて、必死で身構えながら、その背中を睨み付けることしか出来なかった。そんな彼の目の前で、隼人は空地の真ん中に立ち、しばらく辺りを見回した後に、またさっきの破れ目からひょいと通りに戻って来た。

「ここにはもう、何も残ってはいないようだ。邪魔したな。」
 穏やかな声で警備員にそう言うと、隼人はラブたち三人に目配せして、先に立って歩き出した。
「あ、ちょっと・・・おじさん、さよなら!」
 ラブが慌てて後を追い、美希とせつなもそれに続く。
 やがて、警備員たちからその姿が見えなくなってから、隼人はくるりと振り返ると、いつもの能天気そのものの笑顔で、実に嬉しそうに言った。
「久しぶりだなぁ。キュアピーチ、キュアベリー、イース!」
「もうっ!その名前で呼ばないでよ!!!」
 少女たちに声を揃えて非難され、彼は冷や汗を浮かべながら、あはは・・・と力なく頭を掻いた。


   ☆


「それで、念のために聞くけど、あれはあなたが生み出したものでは無いのね?」
 鋭い眼差しを向けるせつなに、隼人が大いに不満そうな顔をする。
「俺のわけないだろう!大体、このところ地方を駆けずり回っていて、お前やサウラーにすら滅多に会わないじゃないか。こっちに来るヒマなど、あるものか。」
 そう言ってドーナツを口に放り込んだ途端、隼人の厳めしい顔が、みるみる幸せそうに緩む。その様子を苦笑気味に眺めながら、どうやら嘘をついてはいないようだと、せつなは内心ホッとした。

 ここは、カオルちゃんのドーナツ・カフェ。テーブルの上に置かれている山盛りドーナツは、既に二皿目だ。
 そして今日のドーナツは、久しぶりに店にやって来た「クローバーの四人目のお嬢ちゃん」と「ラビリンスの兄弟」への、カオルちゃんの歓迎の気持ちだった。

「だとすると、あの黄色いダイヤは一体何なのかな。ねぇ隼人さん、何か心当たりは無いの?」
「サウラーにもそう言われて、ずっと考えているんだが・・・。残念ながら、何も思い浮かばないな。」
 ラブの問いに、緩んでいた隼人の顔が、さすがに引き締まる。
「そっか・・・。まさか、誰かにダイヤを渡した、なんてこともないわよね?」
「渡したって、この世界の人間にか?何のために?俺が言うのもなんだが、そんなの危険過ぎるだろう。」
「え?どういうこと?」
 美希の問いに事もなげに答えた隼人に、ラブと美希が不思議そうに問いかける。それを聞いて、隼人は驚いた顔をせつなに向けた。
 せつなは、そちらをちらりと眺めてから、二人の親友を正面から見つめる。
「さっき話そうとしたのは、そのことなの。ナケワメーケを生み出す、ダイヤの力のことよ。」
 せつなはそう言って少し考えてから、よどみのない口調で話し始めた。

「あのダイヤは、素材の持つ力を増幅させてナケワメーケを作り出すことで、不幸のエネルギーを集めるためのもの。そして実はダイヤ自身も、周囲に災いをまき散らして、不幸にする力を持っているの。」
「え・・・ナケワメーケに、ならなくても?」
「ええ。威力は小さいけれど、近くにいると不幸に見舞われるおそれがあるって聞いたわ。だから、使うときには直前に召喚するようにって言われていたの。まあもう一つの理由は、そんな危険なダイヤを持っているときに攻撃されるのが、一番危ないからだけどね。」
 テーブルに目を落として、静かに語るせつなの言葉に、ラブと美希が真剣な表情で聞き入る。
「確かに危険ね。そういうことなら、隼人さんが言うことも分かるわ。」
 美希がそう言うと、ポカンとしてせつなの顔を見ていた隼人が、夢から覚めたように頷いた。
「あ・・・ああ。それに、この町の人間たちの手に渡ったら、俺たちが扱うよりもっと危険だ。
あの頃、俺たちは不幸を集めていた癖に、不幸がどんなものだかよく知らなかった。そんな怖いもの知らずの人間より、幸せや不幸をよく知っているこの町の人たちの方が、より大きな不幸に見舞われてしまうかもしれないからな。」
 隼人は淡々とそう言ってから、もう一度せつなの顔をじっと見つめた。
「それよりイース。お前・・・そのこと、ラブたちに話していなかったんだな。」
 低い声で唸るように呟く隼人に、せつなは何も答えず、黙ってテーブルの上のオレンジジュースに手を伸ばす。

 きっと、あまりの手ぬるさに呆れているんだろうな、とせつなは思った。この情報は、言わばナケワメーケで戦う場合の、ラビリンスの弱みとも言える情報だ。隼人は――いや、ウエスターはおそらく、プリキュアが当然この情報を知っているものだと思っていたのだろう。
 ウエスターもサウラーも、イースがプリキュアになったとき、ラビリンスの手の内は全てプリキュアの手に渡ったと思ったはずだ。だが実際は、ラブも美希も祈里も、ラビリンスのことを何一つ、せつなに聞いてはこなかった。
 理由は簡単。イースだった頃の行いを悔い、悩んでいるせつなに、これ以上辛い思いをさせたくはなかったからだ。
 ラビリンスと戦う戦士としては、あまりにも甘い考えだったと思う。だが、三人の優しさに甘え、不幸のゲージの存在すら、ゲージが満タンになる寸前にしか明かせなかった自分が一番甘かったと、今振り返って、せつなはそう思う。
 隼人は、それについてはもう何も言わず、黙って次のドーナツを口に運んだ。

「う~ん、それならあのナケワメーケって、一体何なんだろう・・・。」
 ラブが、とてもこの世界を救った戦士とは思えないような、テーブルの上に顎をのせた行儀の悪い姿勢で、ぶぅっと頬を膨らませる。
「とにかく、早く真相を突き止める必要があるわよね。ダイヤがあれ一つだけじゃなくて、もしまだこの町に別のダイヤがあったりしたら・・・。」
「ええ。もしそうなら、あの警備員さんたちが見つける前に何とかしないと、厄介なことになるかもしれないわ。」
「そっか、そうだよね。今日の健人君の様子も気になるし・・・。この事件が解決したら、きっとゆっくり話も聞かせてもらえるよね。」
 三人の少女の会話に、隼人も空になった皿を片付けながら加わる。
「明日、俺も町中をくまなく探してみることにしよう。もしもまだダイヤがあれば、俺ならば気配を感じ取れるはずだからな。」
 隼人の話では、あの空地にはもうダイヤの気配は残っていなかったらしい。それどころか、この町に来てから、隼人はまだ何の気配も感じていないという。サウラーがこの町に何らかの反応を認めているというのに、それが少々、気味の悪い話でもあった。

 四人は、それからしばらく明日の作戦会議を行ったものの、結局、町の人たちから情報を集めながら、丹念に手掛かりを探す、という以外の妙案は浮かばなかった。
 事件の真相は、まだまだ深い闇の中にあって、光は見えない。そういうときは、今自分たちに出来ることをやるしかないだろう。

 ドーナツ・ワゴンの中で、カオルちゃんが鼻歌を歌いながら、三皿目のドーナツを積み上げている。ワゴンの窓の向こうには、春には珍しいほどの美しい夕焼けが空一面に広がって、四人の横顔を照らしていた。

~第4話・終~



最終更新:2013年12月24日 19:36