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せつなの捏造クリスマスイブの話




公園のステージで四人がプリキュアだと告げた。みんなが驚いている。当たり前だ。自分の子供たちが今まで町を襲っていた怪物と戦っていたんだから。
呆然とする人たち。引き留められた私たちも何も言えずに立ち尽くしていた。

その時せつなは暗い道の向こうから誰かがあるいてくるのに気付いた。暗くてよく見えないが体格的に男性だろう。ゆっくりと正面から近づいてくる。
そのうち街頭に照らされて、金髪の頭が見えた。黄色のダウンジャケットも着ている。
どうしてここに彼がいるのだろう。どうせなら見間違いであってほしかった。
しばらくするとみんなも人の気配に気づいてそちらを振り返る。ラブたちも気付いたようだが仮の姿では彼だと分からないようで、知らない人がまっすぐにこちらを見ながら近づいてくることに不思議がっていた。

「あれ?あの人よくカオルちゃんのドーナツ食べてた人じゃない?」
そう言ったラブに、
「ああ、そういえば…」
と美希とブッキーも思い返していた。
そうして、ステージの前まできた彼はいつものようなひょうきんな顔ではなく、無表情にせつなを見て
「よお、…イース」
と言った。
「…ウエスター」
せつながその名前を口に出した途端ラブは
「ええ!?ウエスタ―!?」
と驚き、美希は警戒し、祈里は戸惑っていた。

「どうしてあなたがここにいるの…?」
「ちょっとな…」
なんとなく歯切れの悪いウエスタ―の言葉に疑問を持ちながら続けて言った。
「シフォンを返しなさい!!」
「そ、そーだよ!シフォンはどこ!?」
「あなたここに何しにきたの!!」
「シフォンちゃんを返して!」
せつなに続きラブ、美希、祈里が今にも襲い掛からん勢いで口ぐちにウエスタ―に問いかける。

「あ?シフォン?…ああ、インフィニティのことか。あれならすでにメビウス様の元にある」
ウェスタ―のその言葉に四人はゾッとしない。今頃シフォンは泣いているかもしれない。そう思うと怒りや悲しみで心が覆い尽くされそうだった。

ミユキを含めた周りにいた人は、なんとなく四人とウエスタ―と呼ばれた男は敵対しあっているのだと分かった。そういえばウェスタ―と言う名前は町を襲っていた悪者の名前だったような…ミユキはそれに加えウエスタ―がせつなにイースと言ったのも気になった。その名前はトリニティのライブを度々襲ってきて、夏以来姿を見せなくなった悪者の中にそんな名前の人がいたような気がしたから。

敵意むき出しな四人の態度をもろともしないようにウエスタ―はせつなに話しかける。
「少し聞きたいことがあってな」
ウエスターが何の目的でここに来たか分からないが敵であることに変りはない。警戒する。
「…なによ」
「おまえ最近変わったことなかったか?」
「…は?」
こちらの内情を聞いてくるのかと思っていたらなぜか私のここ最近について聞いてきた。意味が分からない。
「だから、変わったことだよ!ここ一週間くらいで!」
「なんであなたにそんな近況報告しなきゃいけないのよ!!」
「あったのかなかったのかどっちなんだよ!」

突然始まった言い争いにラブたちもミユキたちも何が何だかわからずに警戒が薄れぽかーんとしてしまった。
あゆみはぎゃーぎゃーと言い争っている二人を見て、せっちゃんもこんな風になることもあるのね。と、普段落ち着きがあるせつなとの違いに驚いていた。

「…ぁああ!だから!最近、例えば急に意識を失って倒れたとか無かったかって聞いてんだよ!!」
さっきまで無表情だった彼がコミカルな顔になって大声でせつなにそういった。
「だから!なんであんたに…」

なんで私があんたにそんなこと言わなきゃいけないのよ、と言おうとしてふと思い出した。そういえば一週間前に、体育の授業中に突然意識がもうろうとして倒れたことがあった。ラブがあわてて保健室まで運んでくれたが、原因は分からなかった。きっといろいろあって疲れが出たのだろうと自分で解釈したが、そのことを知っているのは同じ学校に通っているラブとこの場に集まってくれた中では同じクラスの男子三人くらいなもの。ステージに乗った私を見上げているこの男が知っているはずがない。

「どうしてせつなが倒れたこと知ってるの…?」
ラブが目を見開いて驚きながら口にした。
その言葉を聞いて、「やっぱりか…」とうつむきながらウエスタ―はつぶやいた。
「あんたまさか私たちのこと監視してたの!?」
美希が驚愕しながら一歩後ずさりした。
「ち、違う!違うぞ!そんなことはしてない!」
ウエスタ―は手をぶんぶんしながら必死で否定した。
「と、とにかく!イースは最近倒れたんだな?」
仕切り直しとばかりに聞き直すウェスタ―に
「…それがなに…?」とせつなは厳しい表情のまま返事をした。
するとウエスタ―はまたまっすぐにこちらを見つめ
「俺たちのところに戻ってこい…イース」そう静かに言った。

せつなは驚いた。シフォンを奪って今更何を言っているのか。この期に及んでプリキュアの私にラビリンスに戻れなんて答えは言わなくても分かっているだろうに。
「せつなはもう私たちの仲間だよ!ラビリンスには渡さない!」
「そうよ!せつなは私たちの大切な仲間よ!」
「せつなちゃんは連れて行かせないんだから!」
ラブが美希が祈里がウエスタ―と私の前に立ち両手を広げてそう言った。

守ろうと力強くそう言ってくれた三人の背中をみて泣きそうになった。かつては敵だった私を今はこんなにも想ってくれている。仲間だと言ってくれた。こんな人たちのそばにいられて、私は本当に幸せだ。
せつながそう思っていると、今は目の前の三人で姿が見えないウエスタ―から、怒りのようなものを感じた。

「いいから戻ってこいと言っているんだ!!イース!!!」
あまりの声の大きさと殺気に周囲がたじろぐ。せつなを庇うラブたち三人も、敵であってもいつもひょうきんな彼からは想像できない雰囲気にビクッと体を硬直させた。

周りの反応と同じようにせつなも驚いていた。イースだったころ彼と任務を遂行していた時ですらこんなに殺気立ったのを見たことがことがなかった。せつなの中のウェスタ―は、馬鹿でアホで、いつもくだらないことで悩んでは一喜一憂しているが基本は何でも楽しんおり、とても侵略者には見えなかったから。それなのに今目の前にいるウェスタ―は敵意むき出しの悪役そのものだ。一体何が彼をここまでにさせているのかわからないが、私に向けられた言葉は返さなければならない。
私の前にいるラブたちの肩に手を置き後ろに下がってもらう。安心させるように大丈夫だからとほほ笑むと三人も渋々といった感じで引いてくれた。

「ウエスタ―、何度言われても私はあなたたちの仲間には戻らない。みんなの笑顔を守るためにもあなたたちがやっていることをもう認めることはできないの」
「今ならまだ間に合う!メビウス様もきっと許して下さるはずだ!管理データを書き換えてもらって前みたいに一緒に…!」
「ウエスタ―…過去の私はたくさんの人の笑顔を奪ってきた。でも今はそれがどれほどまちがっていたかが分かる。もうこの町の人たちの悲しむ姿は見たくないの」

これまでの会話で、きっとミユキやあゆみたちもせつなが以前町を破壊していたイースだと分かってしまっただろう。大切な人達に拒絶されることは怖い。でもこれは私の罪だから、嫌われてしまうことはきっとその罰なのだろうと、ウェスタ―と話しながら取り繕うことはやめた。
そんな私の言葉に、ウエスタ―は今にも泣きそうな顔で
「頼むから!…頼むから戻ってこいよイース…」
絞り出すような声でそう言った。

さっきの怒号が嘘のように力のない声に、せつなはいぶかしげる。いつものウエスタ―らしくない。なんだかせっぱ詰っているようにも感じる。
彼はどうして一人でここに来たんだろう。なんで私が倒れたことを知っていたんだろう。それに倒れたことを確認してからラビリンスに戻ってこいと声を荒げた。いろんな疑問がせつなの頭の中を駆け巡る。…そうしているうちに、記憶の奥底にあったあることを思い出した。

都市伝説のような話。ラビリンスではあらゆることが管理されている。生まれながらにしてその行く先が決められているように寿命もまた管理される。そんな中でも、ハプニングというのは存在する。突然交通事故にあったりけがをしたり…ラビリンスは様々な面で発達しているため、そういった突発的事故にあっても発達した医療でほとんどは解決される。寿命を延ばす医療があることでそうした問題が解決される。一方でその逆もまた存在する。例えば脳に外部から信号を送れたり、高度な技術で相手に触れずともウイルスを脳に侵入させることができたり…そんな技術を、寿命がきても不測の事態で生きながらえてしまった人たちに適応する。そうして予定通りにことを運んでいく。そんな技があるらしい。そして、そういう人たちは決まって寿命で停止する前に一度倒れるとか…
管理された世界でそもそも予定とは違うことなんて起きるはずはないのだからそんな話はただの噂だと、初めて聞いたときは興味もなかった。

でも、今分かった。都市伝説なんかじゃなかった。ラビリンスにいた者はラビリンスで死んでいくと誰かが口にした言葉は間違ってなかった…
彼はきっと、私にこの技術が使われたことを知り、ここにきたのだろう。私をラビリンスに連れて行き寿命を停止させるのをやめさせるために。パッションになってから幾度となく拒絶してきた私を、今でも仲間だと思っていてくれたことがなんだか嬉しかったし、そんな彼を見て愛おしくなった。
…でも、たとえラビリンスに寿命が管理され、この体が再び機能を停止するのだとしても、心までは管理されたくない。心はこの四ツ葉町に、ラブたちのもとにいるのだから。何もかも思い通りにはさせない。

「ありがとう。ウエスタ―」
突然感謝の言葉を口にしたせつなに、誰もが驚いた。さっきまであんなに平行線を辿っていた会話、厳しい表情が和らぎ、気持ちが通じたように朗らかにそういったから。ウエスタ―はその言葉に今日初めての笑顔を見せ、「じゃあ…!」と言いかけるが、せつなはそれを遮って続けた。
「そこまで必死になってくれて嬉しかった。でも、やっぱりラビリンスには戻れない。私は今までいろんなことを間違えてきた。だからもう、道を間違えることはしたくない。すべてを投げ出してでも守りたいものができたの。それはもう揺るぎないことだから。何かを惜しんで選択を間違えるようなことはしたくない。…それに、ラブたちと殴り合いなんてもうしたくないわ」
そう笑顔で言ったせつなに、ウエスタ―は見惚れてしまった。イースの頃、一度も見たことがないようなやさしい顔だったから。

ラブたちは、会話を聞いても二人が何を感じ合って話しているのか分からなかった。それでも一つだけわかったことは、せつなは自分たちの仲間であり、もうラビリンスに戻ることはありえないということだった。口にしてはっきりとそういってくれたことに嬉しかった。でも、ラブはなんとなく心がざわついた。せつなが達観したような言い方をしたから。まるでこの世に未練なんてないようなそんな清々しい言い方をしていたから。せつなはこのまま自分たちの手の届かないところへ行ってしまうのではないか。まるで、雨の日に戦ったときのように…

ラブがせつなに声を掛けようとする前に、せつなは何も言わないウエスタ―に続けて言った。
「ねぇ、ウエスタ―」
「…なんだ」
「あと、どれくらい猶予はあるの?」
「……一か月以内だ…」
「…そう。なら十分ね」
「なっ…!」

十分だと言ったせつなを信じられないとでも言いたげなウエスタ―が驚いていた。
「十分なはずないだろう!!一か月しかないんだぞ!」
突然に声をあらげるウエスタ―に先ほどと変らぬ様子でせつなは続ける。
「あら。十分じゃない。それだけあればラビリンスに行ってメビウスの野望を止めてここに帰ってきてもおつりがくるわ」
「それならおまえは戦いに勝っても負けても結果がかわらないだろうが!!」

必死なウエスタ―、ゆったりとしているせつな。二人の対照的な会話に周囲の人間も困惑するが、ラブは先ほどからどうしようもなく胸騒ぎが止まらない。
二人はなにか大事な話をしている。そしてそれはきっと私にも大事なこと…
「ねぇ!せつな!さっきからウエスタ―となんの話をしてるのっ!?」
たまらずにせつなの腕をつかみ問いただした。せつなはラブを方を向く。よく見ると後ろの美希と祈里も悲しそうな顔をしていた。
その顔を見て、この会話が悲しいものだとみんなは気づいてしまっただろうかとせつなは苦笑いした。意外と聡いラブにいたってはつかんでいる手が心なしか震えていた。

「ねえ、ラブ」
静かに呼びかける
「なに?…せつな」
「私ね、ラブには感謝してるの。もちろん美希やブッキーにも。お母さんやお父さん、この町の人みんなにも。私にたくさん楽しいことがあるって教えてくれたし、ダンスも面白かった。家族の温もりまでくれて、私にはどれも過ぎたものだって思ったけど、それでもたくさんの幸せを感じる事ができて嬉しかった」

…せつなはどうしていきなりこんな話をするんだろう。どうして過去形で話すの?これからも一緒にたくさんの幸せをゲットするのではないのか。
こわい…せつなを遠くに感じてしまう。触れている腕から暖かな温もりをこんなにも感じるのに。

「プリキュアになって、仲間になれてたくさんの笑顔を守れて本当にうれしかった。だから、シフォンを取り返してこの世界も守って、これからもみんなが笑顔でいられるように精一杯がんばりましょう」
せつなは、そう笑顔で言った。
「…みんなの笑顔の中にせつなはちゃんといる?」
腕をつかんだ態勢のままのラブからの問いかけにせつなは少し驚いてから
「ええ、当たり前でしょ」
そう返した。だって心はいつまでもラブの傍にいるもの。という思いは口にせずに。
笑顔で当たり前だと言われてもどうしても信じられないラブは、何も言えずにただぎゅっと腕をだく手に力を込めた。

ウエスタ―はそのやり取りを見て、もうなにを言っても無駄なのだと悟った。そういえばイースは意外と頑固だもんな。一度決めたら突っ走るもんなと思いだした。
「イース」
ラブたちに微笑んでいるせつなを呼ぶ。
「なに?ウエスタ―」
「俺たちが次に会う時は戦場だ」
「そうね」
「…手加減なんてしてやらないからな」
「……望むところよ。あなたたちの思い通りにはさせないわ」
お互い目をそらさずに言った。この会話にいろんな気持ちを込めて。
「じゃあな。プリキュア。お前らも次会うときは今までのようにいくと思うなよ」
そういって踵を返し元来た暗い道に歩きだした。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
美希があわてて呼び止めるがウエスタ―は一度だけ振り返りそのあとスッと闇に紛れて消えていった。



最終更新:2013年12月25日 20:13