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続、せつなの捏造クリスマスイブの話




ウエスターが去って行ったあと、再び沈黙が流れる。せつな以外ウエスターがここにきた目的が最後まで分からなかったし、シフォンはやはりメビウスの手に渡ってしまっていた。それに、どうやらせつなはあのイースと同一人物らしい。シフォンの現状を知ったことの悲しさや、事実を知ってしまった人たちの困惑で誰も何も言えなくなってしまう。

そんな中、沈黙を破る声がした。
「ねぇ…せつな…」
ラブが、先ほどまでつかんでいた腕を離しせつなに呼びかける。表情は下を向いていてわからないが、少なくとも楽しい雰囲気でないことは確かだ。
「…なに?ラブ…」
「ウエスターと何の話をしてたの?さっきは結局教えてくれなかったよね?」
上手くはぐらかせたと思ったんだけどなぁ…やっぱりラブは侮れない
「ラビリンスの管理体制の話よ。私がイースからパッションになったことで、データの書き換えが行われるみたいね」
「…嘘」
「嘘じゃないわ。管理できない人間がラビリンスにどのくらい不都合があるか分からないから今の状況を偵察しにきたみたい」
「…じゃあ一か月がどうとかって話は?」
「前のデータの書き換えにそれくらいかかるみたいね。ウエスターは馬鹿だから内情をぽろっと言っちゃったのよ。でもそれだけ時間があればイレギュラーとしてラビリンスの隙をつけるわ」

…これでかわしきれるだろうか。ツッコミどころ満載の言い訳だが、これから大事な戦いなのだ。私のことがマイナスになって戦闘に影響でもでたら大変だ。
そんな風に考えていると、それまでずっと下を向いていたラブが顔をあげて私をまっすぐにみつめた。ラブの目に私の顔が映る。その目に映る顔はいつもと変わらない。ただ、ほんの少しだけ表情が硬かった。

「…わかったよ。せつな。あたしせつなの言ったこと信じる」
「ちょ、ちょっとラブっ!いいの?!」
「ラブちゃん…」

ラブが信じると言ってくれた。その言葉に美希と祈里は驚いている。三人にはきっと私がなにか隠していると感じ取ったのだろう。それでもラブは私の話を本当のこととして受け取ってくれた。ただ、その表情は納得なんてしていないようだが。
「美希たん、ブッキー、今は一刻も早くシフォンとこの世界を救いに行かなきゃいけないんだよ。だから…」
…だから、今は何も聞かない。全てが終わったら話してほしい。言葉にはしなかったけどせつなの目にそう訴えかけた。
「ラブ……そうね。アタシたちが今やらなきゃいけないことはメビウスの野望を止めることよね」
戸惑っていた美希だが、ラブの言葉を聞いて気持ちを切り替えた。ただ、
「せつな…あとで覚えてなさいよ」
そうせつなに向けて声を掛ける。あんたアタシたちに隠し事なんていい度胸じゃない…そんな副音声も聞こえた気がした
「……」
ちょっと憂鬱になった。
「せつなちゃん」
心なしかテンションが少し下がった時、祈里に名前を呼ばれる。
「なに?ブッキー?」
「……」
ただ私を見つめてくるだけの祈里にどうしたんだろうと不思議に思っていると
「……わたし、信じてる」
それだけを口にした。





そんなやり取りをしている間、ミユキは混乱した頭をどうにかしようと必死になっていた。

せつなちゃんがあのイースだって…?何の冗談だ。真面目でひたむきなせつなと破壊的な印象のあのイースは似ても似つかない。

コンサートやダンス大会をめちゃくちゃにされた。せっかくがんばって練習していたラブちゃんたちも、その成果を存分に発揮することができなかった。悔しかっただろう。私だってコンサートに向けて幾度となくレッスン、リハーサルを積み重ねて本番に臨んだ。プロとして応援してくれるお客さんにいい加減なパフォーマンスは見せられないと思ったから。そういったいろんな想いを会場と一緒に破壊していったイースには、怒りを覚えている。それは今でも変わらない。

でも、ラブちゃんたちがプリキュアだと私に言ってくれた少し後に、新しい仲間だと言って紹介してくれたせつなちゃんは、本当にいい子だった。ダンスをするのは初めてだと言ったけど、三人に追いつかんばかりのスピードでどんどんうまくなっていった。まるで乾いたスポンジのように教えたこと以上を吸収し、私ですら目を見張るその成長スピードに驚きを隠せなかった。なによりも、一生懸命さが伝わってきた。真剣にダンスを学ぼうとする彼女の姿勢は、コーチをしている身としては本当に嬉しかったし、そういう子に教えるのは楽しかった。ダンスだけじゃない。普段の生活で触れ合っていても、その性格の良さは全身からあふれ出していた。

……一体、どちらが本当の彼女なのだろう?

ぼうっとしながらせつなを見る。それに気づいた彼女と目があった。せつなは少し戸惑った後、とても、とても悲しそうな顔をして
「ミユキさん…私は、トリニティのコンサートやダンス大会をめちゃくちゃにしていたイースです。ダンスを教えていただいていたのに、恩を仇で返してしまいました。許してもらおうとは思っていません。ですが、謝らせてください。本当にすみませんでした。」
そういって深く頭を下げた。この言葉にラブは息をのむ。今まで話していなかったのは申し訳ないと思っていたが、タイミングがあまりにも悪い。

「………」
せつなから直接イースだと言われた。謝られた。怒ればいいのだろうか。罵ればいいのか。でも、目の前で頭を下げているせつなの顔に、今にも抱きしめたくなるような感覚もある。ごちゃごちゃした感情で、なにもいえないまませつなを見つめることしかできない。

「ミユキさん…!あのっ!せつなは確かに敵だったけど、それには理由があって!!」
「そうですっ!!コンサート会場を襲ったことも本当に反省していて…!」
「その事を気にしてミユキさんにダンスを教わるのも断ろうとしていたんです!でも私たちがそれを説得して…!」
なにも言わないミユキにラブが慌てて説明するのを、続けて美希と祈里が必死にフォローする。


「ラブ、美希、ブッキー、ありがとう。でも…いいの」
その三人のフォローを静かに止めるせつな。
「っ!!」
ラブが何か言いたげだったがそれを遮る。
「理由なんて関係ない。例え今プリキュアだったとしても過去に私がイースとしてこの町を襲っていたことに変りはないわ。そんな人間許せるわけないし…」
「許されるなんて思っていない」そう思いながらラブたちに言った言葉は、自分の心の中で反響して消えない。そう、これは罰だ。


ラブちゃんたちが必死に私に何か言っている。せつなちゃんを庇っている。それでも何も言えないでいたら、せつなちゃんがそれを止めて私に許してもらえるはずないと言った。…待って、待ってほしい。許さないだろうなんて決めつけないで。まだ事実を受け止めきれていないの。整理しきれていないのだ。時間が欲しい。考える時間が。


「ねえ、みんな。とりあえず一度お家に戻らない?」
それまで沈黙を保っていたあゆみが、ゆっくりとそう言った。

「ずっと外にいるでしょう?みんな体が冷えているだろうし、いろいろあって疲れているだろうから一度落ち着いた方がいいと思うの。」
「そうだな。まずそれぞれ家に帰って今後のことを考えよう」
あゆみに続き圭太郎もそう言う。
たしかに、ここに集まってもらってからずいぶんと時間がたってしまったし、驚くようなことがたくさんあって…事実を知ってしまった人たちに必要なのは、時間だった。


それから、その言葉に同調しそれぞれの家へと帰っていく。イースだと分かってしまった以上、あゆみたちと一緒に家に帰るのはどうなのかと戸惑うせつなの手を、ラブはしっかりと握り桃園家へと歩いていく。





「それにしても…ラブとせっちゃんがプリキュアだったなんてねぇ」
「ほんとに驚いたぞ」
「いやー、それは…黙ってたのは悪いと思ってたんだけどね?…」
家に帰ってきてとりあえず一息つくためにお茶をいれてから、リビングのソファに座っていると、同じく座っているあゆみと圭太郎にそう言われて、ラブもたははっ…と苦笑いしながらプリキュアになった話なんかをしている。
その間、せつなはまともにあゆみと圭太郎の顔を見れずに膝の上のマグカップを見つめていた。恐れていたことが起きてしまった。自分がイースだとばれてしまった。家族と言ってくれたやさしい人たちを騙していたことの後ろめたさと、これから大好きな人達に拒絶されてしまうことの恐怖を考えると、ひどく気持ちが沈んでいく。今までそんなこと思わなかったのに、今ではこの空間に息苦しさを感じる。

いや…でもこれは相応の罰じゃないか。幸せを奪っていた私には拒絶されるだけの正当な理由がある。公園でウエスターと話をした時、今までの関係は諦めようと腹をくくったじゃないか。…しょうがない。パッションになってからの生活があまりにも幸せすぎて、手放すのが惜しくなってしまっていた。私はキュアパッションなのだ。過去の行ないを悔いるなら、命を懸けてこの人たちの笑顔を守ることが、今の私にできる最大のことなんだろう。
まずは、ラブの話がひと段落ついたら謝罪しよう。
そう一人で結論づけて、せつなはマグカップに入っているお茶をちびちびと飲みだした。

その様子をあゆみはそっと窺う。
ラブに紹介される前、あの丘でせつなを見かけた時、その思いつめた顔につい声を掛けた。なんだか放っておけない気がしたから。そのあとラブに紹介され、一緒に食事をして、家に来ないかと誘った時、「幸せになってはいけない気がする」と彼女は言った。こんな少女が何を思ってその言葉を口にしたのか。驚いてしまった。でも、「ひとつひとつやりなおしていけばいい」とあの時言った言葉は、間違っていなかったのだと改めて思った。
今年になってから町を襲う怪物が現れだして、同時にプリキュアも出現して、その戦いは度々テレビ中継されていたから知っている。中継を見ていてたまに怪物に指令を出している人も映っていた。その中には女の子もいた。ラブと同じような年齢の、銀髪で、刺すような目が印象に残っているイースという子。ここ最近は見かけなくなったが、それがせつなだったとは…
…あれ?ということはラブとせっちゃんは最初敵同士だったの?敵すらも丸め込んでしまえるラブの力量に親ながら舌を巻く。うちの子は本当にすごいわねと親ばかなことを思った。


イースがしていたことは確かに間違っていた。ただ、それを悔いプリキュアとして町を守るために戦ってきたのだとしたら、せっちゃんは十分にやりなしができている。お手伝いをよくしてくれるし、料理も必死に覚えようとして、少し遠慮するところは今も変わらないけど、せっちゃんが家族として来てくれたことで、笑顔が増えた。ラブも以前以上に毎日が楽しそうだし、それは私もお父さんも感じている。

…だからそこまで自分を追い詰めないでほしい。そう思った。


ラブは、プリキュアになった経緯とともにせつなについて話をした。いままでちゃんと言えなかったが、どうやって仲良くなったのか、どんな出会いだったのか、そして、イースのことも。
ラブが一通り話し終わると、せつなは意を決したように立ち上がりあゆみと圭太郎に深く頭を下げた。
「あの…今まで黙っていてすみませんでした。ここに来る前は、私はイースとして町を襲っていて、ラブたちと戦って、そのあと寿命で死にましたがキュアパッションとして生まれ変わって、ここに御厄介になっていました。家族といってくれていたのに、暖かな家庭を壊していました。謝って済む問題じゃないと思います。でも、これから世界を救うためにラブと一緒にラビリンスに行くことを許してください。ラブは私の命にかえても守りますから!」
「せつなっ!」
命に代えてもと言われてラブは怒りを覚えた。どうして守る中に自分を入れていないのか。いつもいつもせつなは自分自身を大切にしない。それがすごく腹立たしかった。

「…せっちゃん」
せつなの言葉を聞いたあゆみはいつもの穏やかな風ではなく、厳しい表情だった。

怒っている。お母さんが…口に出してお母さんとは呼びにくくなってしまったけど、心の中では変わらずそう呼ぶ。せめてそれだけは許してほしかった。
お母さんがおこるのも当たり前だ。家族として迎えた者が実は町を破壊し苦しめていた張本人だったんだから。
あゆみは立ち上がりせつなの正面まできた。手が上がる。殴られてしまうのだろうと思った。そらさずにいようとしたけどたまらずに目を閉じた。

…くるはずの衝撃は思っていたのとは違うものだった。
抱きしめられた。強く強く離さんばかりの力で。
「…あ…」
驚きで思わず声が出た。抱きしめられるとは思わなかった。温かい。体温だけじゃない、あゆみの想いまで伝わってくるみたいで泣きそうになる。
「ねえ、せっちゃん」
抱きしめたままでせつなに話しかける。
「…はい」
「せっちゃんが今までどれだけ大変な思いをしてきたか少しだけど分かったわ。いっぱい辛いことがあったのね。それを投げ出さずに後悔して、一生懸命にやり直そうとしているのはとても偉いわ。
でもね…やり直すために自分自身を置き去りしては意味がないの。
もっと自分を大切にして。あなたも私の大切な娘なのよ?それはいつまでも変らないわ。」

こらえきれずに涙が出た。私をまだ娘だと言ってくれた。こんな私を家族だと思ってくれている。いいのだろうか。こんなに幸せをもらっても。抱えきれないくらい大切な想いが溢れてくる。

「…ごめんなさい……ありがとう…お、お母さん…」
震える声でお母さんと呼んでみた。抱きしめる力が強くなった。

ラブも私に抱き着いてきた。お父さんもみんなを囲むように抱きしめる。
ああ、私にはもったいないくらいの幸せだ。この幸せを守りたい。いや、守ってみせよう。そしてまたラブとこの家に帰ってくるんだ。

そう固く決意した。



最終更新:2013年12月25日 20:20