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せつなと美希とわがままになること




あれからいろんな話をしたが、そろそろ大晦日…というのが始まるらしい。除夜の鐘というのを聴いたり、夜におそばを食べたり、夜中に神社にいったり…そして、新しい年を気持ちよく迎えるためにとか、一年間の罪や穢れを払うことを目的として、家中を掃除するんだとか…




「というわけで、桃園家恒例の掃除大会を始めまーす…」

微妙にテンションの低いラブの掛け声とともに家族が一斉に動き出した。あゆみも圭太郎も昨日から仕事は休みらしく、みんながみんな手に雑巾を持ったりはたきを持って家中を忙しなく動く。
あゆみは台所、圭太郎はリビングで、そしてせつなたちはそれぞれ自分の部屋を掃除する。

ラブはいつもは手を付けない押入れから掃除を始めた。
せつなは、普段から部屋をきれいに使っているためそんなに汚れてはいないが、「いらないものや使わないものとかを整理するといい」とあゆみにアドバイスされたので、その通りに動いていく。

部屋中をみる。ここには私にとっていらないものなんて何一つないことが改めて分かる。どれも思い出があって、買ってもらったり、自分が苦労して選んだものがたくさん…
…いけない。これでは整理ができない。
私にとっては大切なものだが、自分がいなくなってしまった後には必要ないものが多くある。それを捨てていこう。少し心苦しいが、立つ鳥跡を濁さず。という言葉がこの世界にはあるらしい。できるだけ跡を残さないように、自分が来る前の状態に少しでも近づけておこう。そう思いながら掃除を始めた。


……整理していったら、結局、数着の服がクローゼットに、他は学校関係の道具を除けば段ボール一箱分くらいの量になった。少し残すものが多いかな?とも思ったが、これくらいなら迷惑にならない程度だろうと思い直した。
ずいぶんと殺風景になったと思いながら部屋を見渡したあと、せつなは壁に掛けてあるカレンダーを見た。それは今年のものじゃない。体育の時間に倒れたあの日、「絶対に世界は終わらせない。」そういう思いを込めて、来年のためにとラブと買ったおそろいのカレンダーだ。あの時は自分の体のことは知らなかったから買ってしまったが…必要なかったみたい。
せつなは表紙を一枚めくった。一か月分の日付が書いてある。そこに、あの日から数えて一か月後の日にちに、ペンで斜めに線を入れる。

「……」
しばらくそれを見ていたら、隣の部屋からラブが呼んでいる声が聞こえた。

「せつな~、掃除終わらないよ助けてー」

そう言ってくるラブにクスッと笑って、「はいはい」と言いながら自分の部屋の扉を閉めた。





あまりにも部屋が散らかっていて、一人ではもう終わらないと思いせつなに助けを求めた。せつなはどうもすでに自分の部屋の掃除は終わらせたらしく、おかしそうに笑いながら手伝ってくれている。
楽しそうなせつなに少しうれしくなった。こちらに戻ってからそんなに時間がたっていなかったのに、ミユキさんといつの間にか和解していたし、クリスマスイブの時にあの場にいて、イースの正体を知ってしまった人たちへの謝罪と説明もいつの間にかしていた。「後に伸ばすのはよくないから急いだの。」とせつなは言っていたが、そのおかげで他の人達とのわだかまりもなくなった。せつなはみんなに許してもらえたことを心底驚いていたが、当たり前だ。だってせつなだもん。今までのせつなを知っていれば誰だって許すよ。
これからはもっとたくさん幸せゲットできるよ。

…ただ、少し気になることがある。イブの日にウエスターと話していたこと。ラビリンスからの帰り際、ウエスターに少し聞いてみたが、言葉を濁すばかりで教えてくれなかったし、せつなに聞いても「そうね…また今度教えてあげるわ。それより…」と言ってはぐらかされてばかりだ。美希たんやブッキーが聞いても同じらしい。
確かにメビウスとの戦いは終わったし、あの時せつなが言っていたように管理体制の話だったらもう気にする必要もないけど…

「ラブ!手が止まってるわよ!これじゃいつまでたっても終わらないじゃない!」
「うわぁあ!ごめんなさい!がんばりますっ!!」

考えていたら掃除の手を止めてしまっていたらいくせつなに怒られた。とりあえず今は早く終わらせるために頑張ろう。そう思い慌てて止めていた手を動かした。





――――――――
大晦日になった。なんだかみんなそわそわしている。テレビを見ても特番が多かったり、あゆみが台所でせっせと料理をしていたり、それをラブが手伝っていたり…せつなも手伝ったが、いつもと違うことばかりで驚きっぱなしだった。
夜になってみんなでそばを食べる。年越しそばと言うらしい。この日に食べるのは、健康長寿や繁栄、その他いろいろな理由があるようで、大掃除もそうだが一つ一つに意味が込められていることに驚く。この世界には私の知らないことがまだまだたくさんあって興味が尽きない…
それからテレビでカウントが始まって、除夜の鐘が鳴るのを聴いた。

「今年もよろしくねせつな!幸せいっぱいゲットしよう!」
「……ええ、今年もよろしくラブ。お父さんとお母さんも、よろしくお願いします」



そして…ごめんなさい。



――――――
「美希―!遅れてごめんなさい…寝坊しちゃって…」
「いいわよ。それよりせつなが待ち合わせに遅れるなんて珍しいわね。遅れてくるときは大抵ラブが原因なのに」
「私も寝過ごすなんて初めてよ。もしかしてラブの寝坊癖がうつったのかしら?」
「まあ、色々あったし、お正月ってこともあって気が緩んだんでしょ。それより、今日は気合入れていくわよせつな!」

三が日が終わったころ、せつなは美希と街へ買い物に来ていた。せつなと美希はたまにこうして二人で服を買いに出掛ける。初めて二人きりで出掛けて以来、新しい発見ができるからとお互いに似合うものを探したりする。

「確か元旦に福袋?買ったって言ってたじゃない。なんでまた行くの?」
「今日は三が日も終わって、売れ残った福袋なんかが安かったり、バラで売ってたりしててねらい目なのよ!さあ、掘り出し物見つけるわよ!!」

そんな気合の入った美希の後をせつなは苦笑いしながらついていった。


「これなんかどう?せつな似合うと思うんだけど…」
「そうねぇ…あ、こっちのなんて美希に似合うんじゃないかしら?」
「え?そう?うーんじゃあ試着してみようかな」

そういって数点の服を持って試着室に入っていく美希を見送る。本当は、自分は今日なにかを買うつもりはない。少しだけ気になった服もあったが、今以上に物を増やすつもりはなかったので試着もしなかった。
美希を待つ間、なんとなくショウウィンドウから外を見る。ここ最近は天気も良くて気持ちのいい日が続いているからか、向かいに見える花屋の花たちが輝いてみえる。眩しいなあ…



…あ…そうだ。これにしよう。





一通りお店を見てまわり、買い物も終わったのでカフェで一息つくことにした。

「結局せつな、何も買わなかったわね」
「ええ、今日はこれってものがなかったのよ」
「ええー、アタシが見つけたあのジャケット結構良かったと思うんだけどなぁ…」
「そう?私にああいうのは…」
「…せつはもうちょっと自分に自信を持ちなさい!」
「ええ?!」
「あんた素材いいんだから大抵の服は着こなせるわよ」
「…そうかしら…?」

せつなはいつもこうだ。自分に自信がないからなのか、自身を過小評価している。こちらが褒めても素直に喜ばない。ラブなら飛び上がって喜ぶのに…
ひいき目なしに見てもせつなは可愛いと思う。体のラインがスッとしてるし、見た目も清潔感があり清楚でおしとやかにも感じる。物言いも上品だし、笑顔も可愛くてつい守ってあげたくなる。そして、……そして、いつもどこか一歩引いている。
自己主張をあまりしない彼女は、うっかりするといつの間にかみんなの意見ばかり聞いている。どこに行きたいとか、何をしたいとか、あまり言わない。そのくせ他の人の願いは何が何でも叶えようと必死になる。

あの時もそう。FUKOのゲージを一人で壊しに占い館まで行って…ゲージを壊せば助からないと分かっていたのに、シフォンのために、アタシたちのために。みんなが幸せなら自分の命はどうなってもいいと思ってしまうほどに、自身の価値を低く置いている。

ラビリンスで、メビウスのためにを合言葉にずっと言いなりになっていたからそれも仕方ないのかもしれない。自分の気持ちよりメビウスの意志を優先してきたから、自分の願いなんて持ってはいなかったし、持っていてもその望みは叶うことはなかった。そして、叶わないことは当たり前だと思っている…
そんなせつなだから、他人より余計に気にしていなければいけないと思った。だから、自分で選ばせるように服を買いに行ったり、行きたい場所も彼女の意見を意識して聞くようにしている。せつなに、願いは叶うのだと教えてあげたいから。

「ねぇせつな」
「なに?美希」
「アタシ思うんだけど、せつなはもうちょっと自分から求めていってもいいと思うの」
「?どういうこと?」
「解りやすく言うと、もっとわがままになりなさいってこと」
「わがままに…?」
「そう。何がしたいとかもっと主張しなさい。四人で遊びに行っても行きたいところあまり言わないし、言ったとしても迷う時は必ず自分が引くじゃない。我慢なんてしなくていいのよ?」
「私は我慢してるつもりはないんだけど…」

私は今とても幸せだ。だってみんなが笑顔でいるんだもの。これ以上の何かを望むなんて私には過ぎたことだ。

「うーん…せつなには、自己主張度が足りないわね」
「…自己主張度って何よ?」
「そうねぇ…例えて言うなら、もっとラブみたいになりなさいってこと」
「私がラブに?…無理よ。いろんな意味で」
「全てにおいてラブのようになれってことじゃないわ。もっと感情を表にだすの。ラブを思い出してみなさい。あの子裏表がないからいつも喜怒哀楽がはっきりしてるじゃない。あのくらいわかりやすく…もっと言うならあのくらいバカになりなさい」
「…美希って…分かってたけどバッサリ言うわね」
「それせつなに言われたくない…」
「え?」
「ええー…」

自分で自分の性格は分かりづらいのかもしれないが、せつなの物言いはバッサリどころじゃないと思うのだけど…まあ、せつなは天然というか鈍感だからなあ。自分のこととなると特に。

「まあいいわ。とにかく、もっと気楽に物事を考えるのことね」
「気楽に…」

「……せつなが思ってるほど、世界はそんなに複雑じゃないかもしれないわよ?」
「?…言ってる意味がよくわからないわ…」
「ふふっ…分からないなら自分でじっくり考えることね。…それともう一つ」
「まだあるの?」

「…自分を大切にして」
「…」


どこかで聞いたようなセリフだとぼんやり思った。一瞬思い出そうとしたけど頭の隅に追いやって考えるのをやめた。自分を大切にするなんて、どうしたらいいかわからなかったから。




…帰宅後、せつなは自室に戻り、机の引き出しを開けた。そこには宛名の書いた封筒や便箋の他に元旦にもらったお年玉が入っている。ポチ袋の中を確認するとそれをポケットにしまい、今度は机の上に置いてある貯金箱を手に取った。そこには今までにせっせと貯めたおこずかいや、お手伝いのお駄賃が入っている。そのお金もほとんど持って、せつなはアカルンで今日行ったあの服屋の路地裏を指定した。
誰にも見つかっていないことにほっとしながらせつなは向かいの店へ急いだ。そこは今日ショウウィンドウ越しに見た花屋で、そこで、持っていたお金で買えるだけの球根と花の種を買った。



「せつな。今日の美希たんとの買い物どうだった?」

みんなで夕食を食べている時ラブに今日のことを聞かれた。

「とても楽しかったわ。美希なんてこの前福袋買ったばかりなのに今日もたくさん服を買ってて驚いちゃった」
「あははっ、美希たんらしい。あれ?せつなは今日は荷物なかったけど買わなかったの?」
「ええ。なかなかいいのがなくって」
「そっか。じゃあまた今度みんなで行こうね!」
「ええ。そうね」

「あーあ。あたしも行きたかったなあ」
「あなたはまだ冬休みの宿題終わってないからだめっていったじゃない」
「ひどいよ!お母さんのケチー…もう…それで…」

その今度は…きっと来ないだろうけど…
さっきのラブに言葉に、沈んでいくような思考しか出来なくなっていたせいか、持っていた箸がするりと手を抜け、床に落ちた。

「あっ…!」
「大丈夫せつな?」
「大丈夫、少しボーとしてただけだから」

声を掛けてくれたラブにごまかすように笑いながら、落とした箸を拾って流しに持っていく。

「一日お出掛けしてて疲れたんじゃない?今日は早めに寝るのよせっちゃん」
「うん。分かったわお母さん」
「そうだよせつなー、明日は久しぶりにミユキさんにダンス教えてもらうんだからしっかり休んでおいてね!」
「もちろんよ。私も楽しみなんだから」

楽しみだな。本当に…



最終更新:2013年12月25日 20:36