バイト始めました。よん
ある日、学校からの帰り、道が十字路になっている場所にさしかかろうとしていた。ここを右に曲がればアパートにたどり着きます。
その時、今まさに曲がろうとしていた方向から、聞いたことのある声が聞こえてきた。
「へー、…な…だ。…あこれか…もっと…楽し…なるね…」
話の内容はよく聞こえないが、その声は天使もとい黄色ちゃんだってなんとなくわかった。友達とでも話してるのかなあと何となくそちらをそっと覗いてみる。
…黄色ちゃんしかいなかった
…彼女は家の塀の上を見上げながら、なんだか楽しそうに一人で話をしていた。
携帯を使っているわけでもない。塀の向こうに人がいるわけでもなさそう。いるのは木にとまっている鳥が一羽だけ…なんだか、みてはいけないものを見てしまったような気がして、声を掛けることもできずこっそりとその様子を窺う。
「あはは…きっと…そ…も…ゆる…」
どんなに耳を澄ませても、距離が遠くて話はちゃんと聞けないが…これはつまり……
……黄色ちゃんは天使だったけど、同時に不思議ちゃん(若しくは電波ちゃん)ということなのだろうか…鳥と会話なんて一見すると心優しい少女のようだが、一歩はずれるとただの危ない人である。天使で電波ってスペック高すぎ。いろんな意味で。
次に会った時はこの前のお礼言おうと思ってたのに、なんか近づきづらくなりました。あれかな、中学生の時期によくある自分能力設定で、動物と会話できる体で過ごしてるのかな。当時はかっこいいとか思うんだけどね…あとあとね…うん
生暖かく見守ることにしよう。とりあえず今日はこのまま挨拶せずに迂回して帰ることにしました。
「…そういえば、アカルンを探すときに手伝ってくれた鳥さんがいたでしょう?あの後また雛が生まれたらしいんだけど、お父さんの方が今度は育児疲れしちゃって逃げちゃったんだって。そのお父さんに、今から奥さんに謝りにいったら許してくれるかなあって相談されたから、大丈夫だよって励ましたの」
「…なんか、鳥の世界も意外と大変なのね…」
「あたしこれから鳥をみかける度にモヤっとした気持ちになりそう」
「この世界は動物の感情まで豊かなのね」
いつもの四人が、いつものドーナツ屋の前で、いつものように話していた時、そういえば…と言って祈里が話してくれた内容は鳥なのになんだか人間臭さが表れていて、動物の世界の大変さを少しだけ知った三人だった。
「でも、道端でそんなほいほい動物としゃべってたら、いつか誰かにみられちゃうかもしれないから気を付けなよブッキー?」
「うん。心配してくれてありがとう美希ちゃん」
[次の日]
今日はなんかすごい暑い…こういう日に限って授業はないし、家の中にずっといるなんて耐えられなかったので近くの公園に来ました。木陰に行けばそれなりに涼しい気がしたので舗装された道から逸れて林の中へ。昼寝でもできそうないい場所ないかと探して歩くこと五分ほど、それなりに風が吹いて日が差さない場所を発見。ここでいいかと思って木の根元に横になりました。
目をつぶってみると結構いい感じで、ざわざわと葉っぱが重なる音がする。
ざわ―ザワ―かさかさ――すー―ざわわ――すぴー―そよそよ――きゅあー―――さわ
……ん?なんか風の音に紛れて時折別の音がする気が…
なんとなく気になったので目を開けてあたりを確認してみる。人がいるわけでもなさそうだけど…なんて思いながら木の根元にそってグルッと回っていたら、自分がいた場所から丁度反対の位置にぬいぐるみ?が置いてあった。
なにこれ?こんなとこにぬいぐるみって、誰かが置き忘れたのかなあ。こういう場合って交番とかに届けるのがいいのか、ここに置いておいた方がいいのかちょっと悩むんだよね。
にしてもぬいぐるみなんて久しぶりに見た気がする。小さい頃はそれなりに遊んだけど…今の子も人形とかぬいぐるみとかで遊ぶもんなのかな。今やDSだのPSPだの片手にピコピコやってそうな気がしないでもないけど。あれってそんなに楽しいのかな?自分はどっちも持ってないからよく分からないよ…
泣きそうになった。
気を取り直してちょっとぬいぐるみを持ち上げてみる。
…なんか…なんか生暖かいんですが…まるで生きてるみたいです。この暑さだから仕方ないのかとも思うけどちょっとした違和感を感じないでもない。しかもよーく見てみると、胸が上下してるような気がするっていうかさっきから「すぴー」って寝息みたいな音するんですけど…怖いんですけど…
最近のおもちゃはどこまで進化してるの?むかし話せるぬいぐるみとか流行ったけどそんなもんとは比較にならない程高性能だよこれ。だって機械的な感じ全然しないもの。もう生きてるよねこれってくらい自然体過ぎて日本のテクノロジーを疑うね。
「きゅあー…すー」…ええー…なにその寝言…何をコンセプトに作ったのか分かんない…
きゅあーなんて鳴く動物地球上に存在すんの?見た目は…クマかなあ?額に変なマークあるけどツキノワグマみたいな感じを表してるのか…でも子供のおもちゃにリアリティなんて求める方がいけないのかもしれないな。
…しばらく悩んだ末に近くの交番に預けることにした。赤ちゃんを抱くみたいに両手で抱え込んだのはなんとなくだった。
林を抜けて道にでた。えーと、交番はどっちだっけ…
「シフォーン!」「シフォンー!!」「シフォンちゃーん!」「シフォーンっ!」
必死に何かを探しているピンクちゃん、レッドさん、黄色ちゃんに…青いジャージの人がいる…あの子は青ちゃんでいいかもう。
遠巻きでも焦ってるように見えるけど大変そうだな…探し物なら手伝ってあげたくなるけどそんなに親しくないし、黄色ちゃんは不思議ちゃんだから会話成立するのか不安だし…いや手当てしてもらった時は普通だったけどさ。
なんて考えながらそっちの方へ歩いていたら(交番は声のする方の側にあるんで)、腕の中のぬいぐるみが、「きゅあー」って言いながら欠伸して、目を開けて「ぷり?」とか頭傾げてこっち見てきた……ぬいぐるみだよね?そうだよね?なんか得体のしれない恐怖を感じる上に手が震えてきたんですけど…待って怖い。精巧すぎて怖い。最早これぬいぐるみじゃねーな、別の有機体生命だ。いつかロボットの方が人間を支配する時代が来そうだわこれ。今すぐおまわりさんに引き取ってほしい。捨てたのにいつの間にか部屋に戻ってる呪いの人形じゃないことを祈るしかない気がしてきた。もうそれじゃなきゃなんだっていいよ。とにかく早く交番にっ!!
早歩きに変えて迅速にまっすぐ進む。その間も「ぷり?」とか「きゅあ」とか言ってるけど気にしない。っていうか二単語しか話さないのかよ。そこだけ退行してるじゃねーか
「シフォン見つかった?」
「まだよ…」
「どこ行ったんだろ…」
「ねえ、あの人が抱いてるの…」
「「「え?」」」 「…え?」
丁度ピンクちゃんたちの横を通り過ぎようとした時、レッドちゃんがこちらを指差してきた。
「あ、シフォン…」
「え?しふぉん?」
え?なに?なんでみんなこっちを凝視すんの?あとしふぉんて何?自分はそんなグローバルな名前じゃないんだけど…
「あ、あの!その子…」
「え、な、なんでしょうか?」
黄色ちゃんがすごい勢いで話かけてくるからびっくりしてどもって裏声になっちゃったよ。
それにしてもその子って…あ、もしかしてこれのことか?
「きゅあーいのりー」
「あ、シフォンちゃんっ!!」
「…二単語だけじゃないのかよ…」
ぬいぐるみと思われるものが黄色ちゃんを見て「いのり」と呼んだ。そっか、黄色ちゃんっていのりって名前なのかー
なんか慌ててこっちにくるのでとりあえず腕の中にいたぬいぐるみを渡した。
「あのその、今のはですね?!えっと…あ、そういえばこの子どこに…」
「え…?あ、ああ、む、向こうの林に落ちてましたよ」
「そうだったんですか!」
「それ君の?」
「はいっ!そうなんです!ありがとうございました!!」
「い、いえいえ…えっと…大丈夫なんですか?(主に呪い的な意味で)」
「え?あ、はい。大丈夫みたいです(どこも怪我してない的な意味で)」
「そ、それなら、yよかったです。じゃあ自分はこれで」
「あ、あの…!って行っちゃった…」
「シフォン、よかった無事で…」
「きゅあーラブ~」
「ねえせつな…あの人なんか…」
「美希…ええ、ちょっと挙動がおかしかったわね。ブッキーと話してる時も目が泳いでたし」
「何か隠してるってこと?」
「分からないわ。でも、シフォンが喋ったことについて何も追求しなかったのは少し引っかかるわね」
「まさかラビリンスの…」
「どうかしら…少なくとも私は会ったことはないわ…まあ、そんなに気にしなくても大丈夫よ美希。あの人からはそうゆう気配は感じなかったもの」
「…そう…ならいいんだけど…」
あー、きいろ…じゃなかった、いのりちゃんが話しかけてきた時どうもあの鳥と話してる場面がちらついてキョドっちゃったよ…でも普通に話せたな…日常的には大丈夫ってこと?にしてもあのぬいぐるみっぽいものが手元から離れてよかった…呪いはこわい。でも人の名前を登録して認識するってすごいなー今の技術は。それだったら通常会話が「ぷり」と「きゅあ」しかなくてもいい気がした。
自分が知らないところで日々進歩してるんだなーって思いました。
…でもなんで「ぷり」と「きゅあ」なんだろ…?
最終更新:2014年01月23日 22:45