幸せの赤い翼――翼の種子のパッション(第11話 あらゆる不幸を乗り越えて)
黒一色に染め上げられた夜の森に、眩い光を放つ赤い球体が出現する。光はすぐに収まって、再び辺りは闇に閉ざされる。
さっきと違っていたのは、その場に四人の少女と二体の妖精とが横たわっていたことだった。
イース、ピーチ、ベリー、パインと、タルトとシフォンだ。
唯一意識があったイースが、ヨロヨロと起き上がり、仲間たちの無事を確認して回る。ほどなくして、タルトとシフォンを含む、全員が目を覚ました。
最後に意識を取り戻したピーチが、青い顔をしてイースを食い入るように見つめ、事の顛末を尋ねる。
そして彼女が――せつなの姿をしたソレワターセが、アカルンに頼んで自分たちを助け、ノーザと共に館に残ったのだと聞くと、一層青い顔をしてイースの腕を掴んだ。
「こうしちゃ……いられないよ。イース、お願い! あたしたちを、もう一度占い館に連れて行って!」
「それが……」
イースの困惑した瞳が、彼女の側に浮かぶアカルンを映す。アカルンはイースの耳元に近寄って、囁くように「キィー」と同じ答えを繰り返した。
その言葉を直接理解できるのは、イースただ一人だけ。口の重い彼女に代わって、仕方なくキルンが飛び出し、アカルンの言葉をパインに伝えた。
「そんなっ!」
「どうしたの、パイン? アカルンは、なんて言ってるの?」
「占い館は――もう存在しないって。だから、行くこともできないって……」
「存在しないって、それってどういうこと!? お願い、ちゃんと答えて!」
「落ち着きなさい、ピーチ。教えて、イース。あなたなら、何が起きたのかわかってるんでしょ?」
ベリーの問いかけに、イースは観念して顔を上げる。固く両拳を握って、仲間たち一人一人の顔を見渡すと、確信に満ちた声で言った。
「私がやろうとしたことを、あの子が代わりにやったんだと思う。不幸のゲージを破壊して、占い館ごとノーザを消し去ったのよ」
「そんなっ! それじゃ、あの子は……」
「どのみちゲージを壊せば、壊した者は不幸のエネルギーに呑み込まれて――死ぬわ」
ラビリンス幹部の間では、それは常識のようなものだった。あえて守りに力を割かなくても、不幸のゲージそのものが強固な防御システムになる。
そしてイースは、それを逆手に取った計画を立てていた。
自分を遥かに超える戦闘力を持つノーザを、しかも敵地で打ち破るには、不幸のエネルギーを暴走させるしかない。自分の命さえ度外視すれば、まさしく一石二鳥の上策だった。
問題は、ノーザを空間移動で逃がさないこと。その方法を模索していたのだが、あの少女なら、それすら力づくで解決してしまう。
「でも、あの子はソレワターセだったんでしょ? 確か、不幸のエネルギーは栄養分みたいなもので、呑み込まれても平気なんじゃ?」
「普通の人間に比べたら、いくらか耐性はあるでしょうね。それでもたった一体で、ソレワターセ数千体分ものエネルギーを受け止められると思う?」
「せやなあ……。ワイかて、いくらカオルはんのドーナツが大好物でも、いっぺんに千個も食べたらあの世行きやで」
「タルトちゃん、さすがに食べ物に例えるのは……」
パインが困った顔でタルトを嗜める。見ればピーチが恐い顔で睨んでいて、慌ててタルトはパインの陰に隠れた。
ベリーはそんな二人を無視して、イースに別の質問を投げかける。
「さっきから気になっていたけど、イースもあの子も、どうしてそこまでノーザにこだわるの? ゲージさえ壊せば、ノーザは別の機会に倒したっていいはずでしょ?」
「……私が、ラビリンスから手紙を受け取った後のことよ。鏡がさらに変化して――」
イースが説明しようとした時、一瞬だけ大きく森が揺れる。地震……のようだったが、それはほんの数秒で収まった。
辺りは変わらず闇に覆われたままで、特に変化も無い――そう判断して続きを話そうとしたところ、不意に顔を上げたタルトが、跳び上がって騒ぎ始めた。その視線の先を見て、イースもギョッとする。
「あわわっ! あわわわ!! 大変や! のんびり話してる場合やないで!!」
「ちょっと黙っててよ、タルト。今、大事な話を……」
「話は後よ、ベリー。相手が大きすぎて、逆に気付かなかった。正面っ!」
以前、占い館が建っていた、だだっ広い平地に、巨大な何かが聳え立っていた。館が再び姿を現したのかと思ったが、それは明らかに建造物では――いや、無機物ではなかった。
月の光も、星々の煌きも全て遮ってしまう巨大な体躯は、闇に沈む森の中にあって、更なる深い闇を纏う。
唯一明るく見えるのは、遥か上空にぽっかりと浮かぶ、鈍い赤色に光る二つの三日月――それがこのモノの目であることは、そこから放たれる射るような視線でわかる。
そして何より、全身から天へと立ち昇る様な、強烈で、それでいて一切の熱を感じさせない、震えが来るほどに冷徹な殺気――!!
「あれ……は……なに?」
「ずっと上に見えるのは……顔? そして身体は……巨大な植物みたいな……。アタシ、夢でも見ているの?」
「ソレワターセ……じゃないよね? だって、占い館より大きいよ」
「あれは、ノーザ……よ」
畏怖に慄いた表情で、イースがつぶやく。見たことのない姿だったが、狂気に満ちた気配でわかる。
間違いなく奴だという、絶対的で、絶望的な確信――
そして皆、イースの言葉に、驚きの声さえあげられなかった。
ソレは、ただそこに居るだけで、ひたひたと気配が押し寄せてくるような、威圧感を放っていた。
これまで戦ってきた、どんなナケワメーケよりも、ソレワターセよりも、何十倍も大きくて――何百倍もの恐怖を与えて。
ソレは、余りにも突然に姿を現した。夜空のように隙間無く――絶望という名の闇をもたらしながら。
静かなる狂気と殺意の権化。まるでこの世の終わりを告げる、地獄の使者であるかのように――
『幸せの赤い翼――翼の種子のパッション(あらゆる不幸を乗り越えて)――』
「イィィィ――スゥゥゥ! プリキュアァァ――ッ!」
そう……言ったのだろか? 遥か頭上から響く声は、もはや人の発する“言葉”なんかではなかった。
まるで強風で揺れる木々の唸りのように、猛々しく荒れ狂う。その様子に、タルトがシフォンをしっかりと抱きしめて、慌てて四人の後ろに下がった。
圧倒され、硬直する少女たちの中で、唯一、キュアピーチだけが、一歩前に進み出て声を張り上げる。
「ノーザ……なんだね? あなたに聞きたいことがあるの。あの子は――どうしたの?」
「アノ……コ……? コノ……コ? フフフフフ アノコハ……ココダ。ワタシノ チニクト ナッタ。アトハ オマエタチサエ タオセバ ワタシハ メビウスサマニ――アアアア!!」
ピーチの問いに答えたのか、ノーザは小山のような巨体を震わせて、何事かを叫ぶ。
たったそれだけで、辺りに強風が吹き荒れて、木々は激しく煽られ、足元は地震のように揺れた。
「なんて言ってるの? パイン。これじゃ台風の音みたいで、聞き取れないわ」
「うん。キルンが言うには、ノーザはあの子を吸収して巨大化したんだって。そして、その力でわたしたちを倒すって」
「吸収って、そう言ったの? イース、ノーザは人間なんじゃないの? それがソレワターセを呑み込んだって、どういうこと!?」
「わからない……。ノーザとクラインの素性は、謎に包まれているの。それより、この期に及んでシフォンじゃなくて私たちを狙うなんて、正気を失ってるとしか思えないわ」
「でも、占い館が壊れたってことは、不幸のゲージは無くなったんでしょ? どうしてノーザは無事なのかしら?」
パインの問いに、イースは黙ってある一点を指差す。今にも血が滲みそうなほどに、唇を噛み締めながら……。
暗くてわかり難いが、よく見れば、無数に伸びたノーザの蔦の何本かが、棒状の物体を抱えていた。それ自体はとても大きいのに、ノーザが持つと小さく見える。
そう、その物体こそは――
「無事とは、言えないかもしれないわね。あれはもう、ノーザではないわ。それに見て! 不幸のゲージは、壊れていなかった……」
棒状の物体とは、剥き出しになった不幸のゲージそのものだった。
その一点に、グルグル巻きにするかのように、ノーザの蔦が絡み付いていている。
蔦と言っても、一本一本がまるで巨木のような太さだ。それらは不幸のエネルギーの流出を食い止める防壁であると同時に、不幸のエネルギーを吸収するための、支茎としての役割も担っていた。
ヒビ割れた不幸のゲージの中の、溢れんばかりの黄色い液体を、まるで乾いた人が水を飲むかのように、ゴクゴクと吸収していく。
「見て……また一回り、大きくなったわ……」
「これじゃ、もう手が付けられないっ!」
ベリーとパインが、思わず悲鳴を上げる。イースは、ノーザをじっと見つめて黙ったままだ。
代わりに感情を爆発させたのは、ノーザにあの子のことを尋ねてから、ずっと俯き沈黙していたピーチだった。
「どうして……あの子が何をしたの? なんで……こんな目に遭わなきゃならないの? そうやって……何もかも壊して、誰か幸せになれるの? 答えて――っ!!」
大きく息を吸うと、ピーチはノーザまでの距離を、一気に駆け抜けた。
近くまで来ると、ノーザの全貌が明らかになった。色は赤黒く、上半身が野太い幹で、下半身は、まるで何本もの足を折り曲げているかのようでもあり、幾重にも分かれた根っこのようでもあった。
その足のような部分を駆け上がって、ピーチは胴体まで迫る。そして拳を振り上げて――気合一閃、打ち抜いた。
「タアァァ――!」
“プリキュア・パンチ”
渾身の力を込めた全身全霊のストレートが、ノーザの巨体に突き刺さる。ピーチの拳は、岩より硬いノーザの身体を貫いて、肘から先をスッポリと埋め込んだ。
並みのナケワメーケなら、いや――ソレワターセですら、もしかしたら倒せたかもしれない一撃だった。
しかし、ノーザの身体はあまりにも大きかった。ピーチの腕全部で貫いたとしても、蚊が刺したほどのダメージにもならない程に。
そして今度は逆に、腕が抜けなくなったピーチを、ノーザが一本の蔦で拘束する。軽く動きを封じただけで、全身が圧迫されて、ピーチは苦痛のあまり絶叫した。
「いけないっ! パイン、やるわよっ!」
「うんっ!」
呆然とピーチの戦いを見守っていたベリーとパインが、彼女の危機に目を覚ます。パンチもキックも間に合わないと判断して、リンクルンを取り出した。
「響け! 希望のリズム! キュアスティック、ベリーソード」
「癒せ! 祈りのハーモニー! キュアスティック、パインフルート」
リズミカルに、高速で繰り出される短縮モーション。二人の動きが、まるでダンスのように完全にシンクロする。
「「悪いの、悪いの、飛んで行け! プリキュア!!」」
「エスポワール・シャワー」
「ヒーリング・プレアー」
“想い”は固く、“願い”は強く、凝縮した閃光のようなエネルギーが、闇夜を切り裂いてノーザを目指す。
「「フレ――ッシュ!!」」
交じり合い、絡み合い、螺旋となって飛ぶ二色のエネルギーが、着弾の瞬間に二方向に分かれる。
青い光は、ピーチを捉える強靭な茎を断ち切り、黄色い光は、ピーチの身体を包み込んで癒しつつ、その腕を拘束する幹の部分を浄化した。
すぐに次の蔦が触手となって、四方八方から襲いかかる。
しかし、技の発射と同時に飛び出したベリーとパインの助けを借りて、ピーチはなんとか脱出に成功した。
「ありがとう。ベリー、パイン」
「どういたしまして、と言いたいところだけど、無茶しないでよね、もう!」
「でも、どうしよう? キュアスティックの技でも、かすり傷にもなってないみたい。これじゃ何発当てたって……」
少しだけ冷静さを取り戻したピーチが、悔しそうにノーザを見上げる。ノーザは無数の蔦をビュンビュンと振り回し、ゆっくりと彼女たちに迫っていた。
大きい分だけ動きは遅く、逃げるだけならなんとかなるだろう。
しかし、どう見ても正気を失っているノーザを、野放しにしたらどうなるのか? 想像すらしたくなかった。
「問題は、それだけじゃないわ」
「「「イース!」」」
いつの間にか、三人のすぐ側にイースが立っていた。
焦りと動揺を隠せないピーチたちとは対照的に、冷静で落ち着いた立ち姿だった。
「不幸のゲージは、一部破損している。そこから零れ出たエネルギーを吸収して、ノーザは今もどんどん成長を続けているの」
「だったら、早く倒さないと、もっと手ごわくなるってこと?」
「でも、どうやって? グランドフィナーレですら、あれに通じるなんて思えない……」
「それでもやらなきゃ! 考えている時間はないよ。イース、パッションに変身して!」
グランドフィナーレは、四人揃って始めて発動できるプリキュア最強の技だ。
三人の視線と期待が、イースに集中する。
しかし、イースは首を横に振って、その提案を拒んだ。
「ダメよ。仮にそれでノーザを倒せたとしても――不幸のゲージの破壊を食い止めているのは、そのノーザなのよ。もし倒してしまったら……。たちまちにゲージは砕けて、不幸のエネルギーは世界中にばら撒かれ、災厄を振り撒いてしまうわ」
「それじゃ、どうしようもないじゃない……」
悔しそうに、拳を握り締めるベリー。ピーチは歯を食いしばってノーザを睨み付け、パインはただ呆然と、蔦に巻かれた不幸のゲージを見つめる。
そしてイースは、落ち着き払った声で言った。
「いいえ。まだ私には、やらなきゃいけないことが――ううん、やりたいことがある」
「イース! あなたまさか、また無茶なことを……」
声を荒げかけたベリーが、イースの顔を見て、ハッとしたように目を見開く。
そこにあったのは、その場にそぐわないほどに、あたたかで、優しいイースの瞳だった。
イースは、三人の仲間たちに向かって、静かに語りかける。
「私ね、あの子のおかげで、ようやくわかった気がするの。かつてのイースは――みんなと出会うまでの私は、不幸ですらなかったんだって。私はこの街で幸せとは何かを知って、そこで初めて不幸になったのよ。そして、みんなの愛情で、それを幸せに変えることができた」
「イース、こんな時に何を言ってるの?」
パインが不安そうに、イースの顔を覗き込む。
「私は、不幸のゲージを、そのエネルギーを、悪いモノとして処分することばかり考えていた。でも、そうじゃないんだって、あの子が教えてくれたわ」
「えっ? それって……どういう意味? ねぇ、イース……せつなっ!」
穏やかな口調の中に、静かなる決意を感じて、ピーチが悲鳴のような声を上げる。
そんな彼女を見つめて、イースは確かに――笑った。
「不幸のエネルギーで育ったはずのソレワターセが、誰よりもシフォンの幸せを願っていたのは、どうしてだと思う? ラブやおかあさんの愛情で、自分の不幸を幸せに変えられたからだと思うの。
不幸は忌むべきものなんかじゃなかったのよ。幸せを求める強い想いの裏返し。不幸を恐れて無きものにすることは、幸せを導くことにはならないんだわ。だから……私――謝ってくる!」
そう言うと、イースは振り返りもせずに、ノーザ目がけて――その右腕に握られた不幸のゲージ目指して――全力で駆け出した。
「「「待って! イースっ!!」」」
ピーチが、ベリーが、パインが、それぞれに手を伸ばして、イースを引き止めようとする。
だけど誰の手も、イースの腕を掴むことはできなかった。
『想い』の強さが違った。『願い』の強さが違った。何より、彼女たちの心には『迷い』があった。
“止められない!”
立ち尽くす三人。イースの背中が、どんどん小さくなっていく。
戦っても勝ち目なんてまるで無くて――逃げ出すことすら許されなくて――仮に倒したところで世界が滅びてしまう。
こんな絶望的な状況の中で、なんと言って彼女を止めたらいいんだろう?
だけどっ! このままイースを――一人で行かせるわけにはいかない!!
我に返ったベリーとパインが、イースを追って走り出そうとする。その時だった――
さっきのイースに、負けず劣らず穏やかな声に、二人の足がピタリと止まる。
「なぁんだ……簡単なことじゃない」
「何をしてるの? ピーチ! イースを止めるか、せめて援護しないと!」
「ピーチ? どうしたの?」
振り返ったベリーとパインに、チラリと視線を走らせてから、ピーチは遥か前方を駆けるイースをじっと見つめる。その瞳は、どこまでも優しくて――
「止められないなら、一緒に行けばいいんだよ。イースが間違ったことをしたのなら、あたしも一緒に謝るの。当たり前じゃない? だって、親友なんだもの。そして、あたしが間違ったら、せつなに一緒に謝ってもらうの。そうでしょ!?」
“いいか、ラブ。みんなで幸せゲットするってことはな、みんなで不幸を乗り越えるってことだ。他人の痛みを自分の痛みとして感じて、一緒に泣いて、その後、一緒に笑うってことだ。そうすりゃ、大抵の不幸なんてものは幸せに変わっちまうもんだ”
脳裏に蘇る、懐かしい源吉の瞳と、あたたかな声。確か、あゆみからも同じことを言われた気がした。
なんで――忘れていたんだろう?
なんで――同じ家族である、せつなに教えてあげなかったんだろう?
(今からでも、遅くなんてない! きっと今からでも、ううん――人はいつからだって、やり直せるから!)
「わかったわ、ピーチ。いいえ、ラブ。アタシもせつなの親友なのよ。せつなは一人じゃない! 決して一人にはならない! だから一緒に行って、アタシも謝る!」
「うん、わたしもラブちゃんと美希ちゃんと、そして、せつなちゃんの親友だもの、一緒に謝るね。必ず許してもらえるって、わたし――信じてる!」
「行こう! 美希たん! ブッキー!」
「ええ!」
「うんっ!」
ピーチ、ベリー、パインは、リンクルンを手にして、ノーザまでの最短距離を駆け抜ける。
「「「キィー!!!」」」
それぞれの相棒がリンクルンから飛び出して、秘密の鍵へと姿を変える。それを手にして、全力で走りながらのキュアスティックの召喚――
「届け! 愛のメロディー! キュアスティック、ピーチロッド」
「響け! 希望のリズム! キュアスティック、ベリーソード」
「癒せ! 祈りのハーモニー! キュアスティック、パインフルート」
「「「悪いの、悪いの、飛んで行け! プリキュア!!!」」」
「ラブ・サンシャイン」
「エスポワール・シャワー」
「ヒーリング・プレアー」
放たれた三人の光弾は、美しき曲線を描いて飛ぶ。
彼女たちを止めようと迫り来る、無数の蔦を次々と打ち破りながら――
前方には、あと一息のところまで迫りながら、ゲージの手前で拘束されたイースの姿。
「「「させないっ!!!」」」
ピンク、ブルー、イエローの光が、イースの両手と、胴体と、両足を掴んでいる蔦を、それぞれ一瞬で消滅させた。
「「「イース、大丈夫!?」」」
「みんな……どうして?」
「あたし、言ったよね?」
まるで包み込むような、穏やかな笑顔でピーチはイースを見る。やさしくて、あたたかで、愛情に満ちた、その眼差しには覚えがあった。
それは、かつてのイースが商店街で水晶のナケワメーケを召喚し、決死の覚悟でピーチに戦いを挑んだ時のこと。
『あたしの幸せを半分あげる。だから、せつなの、イースの不幸を半分ちょうだい。そして、せつなの悩みや苦しみを聞かせて。その代わり、あたしの夢や喜びを聞かせてあげる。楽しいことも、辛いことも、悲しいことも、全部分け合って乗り越えていこうよ』
それは、決して同情なんかではなくて――対等の立場で相手を見つめて、全てを受け入れて、分かち合う。本当の――友情にして、愛情。
「一緒に謝ろう。必要なら、一緒に償おう。いつかあたしも、せつなに助けてもらうから。ねっ?」
「ちょっと! 仲間ハズレにしないの。アタシもよ?」
「わたしもっ!」
「ホントに――バカね、あなたたちは……」
イースはそう言って、右腕を真っ直ぐにピーチたちに突き出す。
そのイースの掌の上に、ピーチが、次にベリーが、そして、最後にパインが掌を重ねていく。
しかし、そこはノーザの本体の上でもあった。
数本の蔦が、鋭い槍と化して四人を貫こうと牙を剥いた――その時!
“フレ――ッシュ!!”
「タアァァ――っ!」
「ハアァァ――っ!」
「ヤアァァ――っ!」
三人の放ったキュアスティックの光は、まだ死んでいなかった。いったん、遥か上空に登った光弾が、落雷の速度でノーザに撃ち落とされる。
その光は、四人を狙っていた蔦を打ち砕いて――不幸のゲージを覆っていた蔦の一部を、人間が通れる大きさで蒸発させた。
そして、少女たちは黄色い液体の中に――不幸のエネルギーの中に、躊躇なく飛び込んでいった。
最終更新:2014年01月26日 13:16