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赤い頬 (前)/makiray




「寒いっ!」
「きゃっ!」
 坂上あゆみは小さな悲鳴を上げた。
 ふりむくとまりがしがみついていた。
「まりちゃん、びっくりするよ」
「ごめんごめん、寒くってさ」
「だからって急にドンってこられても」
「じゃ、今度から予告してからやるね」
 あゆみは、そうじゃなくて、とつぶやきながら笑った。
 冬本番。あゆみもまりも、学校指定のコートを着込み、マフラーをし、手袋をし、と完全装備ではあるが、冷たい風は容赦なく吹きつけてきて体温を奪う。
 心の片隅で、スカートを上げるのをやめれば少しは違うのだろう、と思う。
 あゆみとまり、みな、めいの三人は、クラスの中では比較的、大人しい方である。駅の階段を登るときに鞄でガードしなければならないほど上げてはいない。だが、買ってきたまま、というのはお年頃の乙女心が許さなかった。
「おっはよー」
「ひゃっ!」
 あゆみはまた小さく声を上げた。両方の頬に氷でもあてられたのかと思ったのだが、振り向くとみながニヤニヤと笑っていた。
「あゆみちゃんのほっぺ、あったかーい」
「どれどれ、あたしも」
「ちょっと、冷たいよ」
 まりはわざわざ手袋を脱いであゆみの頬を挟んだ。一瞬、タコのような顔になる。
「あ、本当だー」
 冷たいってば、と言うと、まりもみなもそれ以上はやらなかった。笑いながら手を引っ込める。
「みなちゃん、手袋は?」
「忘れてきちゃった。取りに戻るのめんどくってさ」
「カサカサだったよ。ちゃんとケアしないと」
「学校ついたらクリームぬる予定ー」
「手袋しないからだよ」
「なんかするとすぐ暑くなっちゃうじゃん。スマホも使えなくなるし」
「そういえば、過保護にしてもよくないって聞いたことある」
 あゆみはコートのポケットから手を出すと、手袋を外した。もちろん、外したままではいられないので、すぐに手をポケットに戻す。
「めいちゃん、遅いな」
「呼んだ?」
「ひっ!」
 あゆみのコートのポケットに、急に何かが突っ込まれた。これも冷たい。
「めいちゃん!」
 めいの手だった。
「あゆみちゃんの手、あったかーい」
「どれどれ」
「やめてよ、もう。
 あたしはカイロじゃない!」
「えー、だってあったかいんだもーん」
「きっと性格だよねー」
「だよねー」
「何よ」
「あゆみちゃんの心のあったかさがそのまま体温に現れてるんだよ」
「え?」
「坂上あゆみの半分は優しさでできている」
「もうちょっとじゃない? 七割」
「九割」
「それは多い」
 まりたちが早口でまくし立てている。あゆみはわずかに目を伏せた。
(優しくなんかないよ。悪い子なんだよ、あたし)
 転校してきた頃、この街なんかなくなってしまえばいい、と思った。灰色のビル街も、見慣れない校舍も、話しかけてくれない生徒たちも、自分の気持ちを理解してくれない大人たちも嫌いだった。憎んでいた、と言ってもいいのかもしれない。なにもかも消えてしまえ、と本気で思った。



競作5
最終更新:2014年02月10日 19:13