アットウィキロゴ

『ばとる☆ひーたー』1



 ――冬には魔物が棲むという。
 古来より、季節が寒さを帯び始めた頃より、『それ』は闇の奥へと追いやられた仮初めの封印を解かれ、人々の前へと姿を現す。
 何びとたりとも『それ』の秘めた魔力からは逃れられず、その身を捕らえられ、ただ怠惰な生活を送るだけの傀儡と化さざるをえない。
 人々を魅了し堕落させる、邪悪なる正方形の四足の魔物。
 その名は――。


★☆1☆★

「お、コタツやんかー!」

 ふしぎ図書館内部、切り株を模したいつもの秘密基地に入るなり目に飛び込んできた光景に、外の寒さに強張っていた日野あかねの表情が綻んだ。
 彼女の言葉通り、いつもなら置かれているテーブルが隅へと片付けられ、キチンと真新しいカーペットが敷かれた広間には、酷く年季の入った立派な魔物――もとい、炬燵が置かれていた。ご丁寧にも、その上にはカゴに入ったみかんまで用意してある。

「すごいでしょー!れいかちゃんが持ってきてくれたんだー!」
「やっぱり冬といえばこれよね…ぬっくぬく……」

 それぞれ炬燵の一辺に腰まで潜り込ませた星空みゆきと黄瀬やよいは、蕩けそうな笑顔で上半身を天板に突っ伏している。

「家で炬燵を買い換えて不用になったのですが、これは長年使用してきて愛着もあるので、廃棄してしまうのも偲びなくて……けれど、捨てる神有れば拾う神有り……皆が喜んでくれて何よりです」

 普段通り冷静ではあるものの、どことなく嬉しそうにそう言って、青木れいかは手にした湯呑から上品にお茶を啜った。
 愛着があるというその言葉通り、この年代物の炬燵には彼女の思い出も詰まっているのだろう。

「なんで捨てた紙をまた拾うねんな?ま、まあなんやよう分からんけど、ホンマ嬉しいわ~!部活帰りやけど、ここに来るまですっかり身体が冷え切ってもうたからなあ……」

 ブルッと軽く身体を震わすと、あかねは皆に背を向けて、肩に掛けたスポーツバッグと、制服の上に纏っていたコートを部屋の隅へと置いた。
 そして芝居がかった仕草で両手をこすり合わせながら、満面の笑みを浮かべて炬燵に潜り込もうと向き直る。

「ほな、遠慮なくお邪魔させて――」
「あ!コタツじゃん!!ラッキー!!」

 まさしく風を思わす速さで、秘密基地に足を踏み入れるや否や、あかねの横をすり抜け、着ていたコートを脱ぎ捨てると、緑川なおは炬燵へと身体を潜り込ませた。
 その一連の動きがあまりにも素早かった為、あかねは固まった笑顔のまま、ただ呆然と立ち尽くすのみ。
 なおはと言えば、呆気にとられたあかねなど眼中に無いようで、ふぃ~、と安堵の溜息などついている。

「う~!!あったまる~!!部活帰りなんだけどさ、ここに来るまですっかり身体が冷えちゃって~……」
「……ちょ、ちょっと待たんかい、なお!!それはさっき言うたウチのセリフや!!それから、その場所もウチの入る場所や!!」

 ようやく我に返り、なおに向かって噛み付くようにまくし立てるあかね。
 その声に、なおはやっと彼女の存在に気がついたようで、のんびりとした口調で言った。

「なんだ、あかねもいたんだ」
「いたんだ、やあるかい!あんたの目には目標物以外映らんのか、この猪娘!!」
「あー、集中力凄いっていう事?……そういうのって一流アスリートの条件だよね。やだな、あんまり褒めるなよ、あかね」
「褒めてへんわ!!むしろ嫌味まじりで怒っとんねん!!あーもー、何でもええからそこ退き!!」

 当然の事ながら、一応説明しておこう。
 先にも触れたが、通常、炬燵という魔物は四本の足に支えられた、四角四面の正方形である(時に長方形や一人用などの変則的なものもあれど)。
 それに対し、立ち向かう勇者――今はすっかり骨抜きにされているが――であるところの、我らがスマイルプリキュアのメンバーは五人。
 どうしても一人あぶれる計算となる。
 したがって。

「なんであたしが退かなきゃいけないんだよ!こういうのは早い者勝ちだろ!!」
「早さで言うたらウチの方がここに来たんは先やで!!」
「は?知らないね。コタツに入ったのはあたしの方が先だし~」
「ぐぬぬぬぬ……」

 このように、正義のヒロインにあるまじき醜い諍いが勃発するのも……まあ仕方のない事と言えよう。
 ましてや五人の中でも負けず嫌いで知られるこの二人だ。

「ええい、こうなったら実力行使あるのみや!!コタツから出ぇ!!」
「痛たた!!コラあかね、髪の毛引っ張るなって!!こ、この~!!」
「ふぁ、ふぁにすんねん!!ほっぺひっぱりゅなや!!」

 ついには事態は武力衝突へと激化しつつあった。
 下手に関わるとこじれる、と、あえてこの状況を静観していたやよいとれいかも、事ここに至り、ようやく仲裁に入りだす。

「よしなさい二人とも!たかが炬燵の場所取りで、みっともないですよ!!」
「そ、そうよ、ほら、あかねちゃんもなおちゃんも、もっとお互いに譲り合うって事を……」
「みっともないとか譲り合うとか言うならさ、やよいかれいかがあたしの代わりにあかねの場所空けてよ!」
「ほ、ほうやほうや!!なおはほっちにふつったらええねん!!」
「う……そ、それはそうなのですが……」
「そ、その……場所を空けてと言われても……」

 二人に反論されて、言葉を濁すれいかとやよい……やはり炬燵の魔力からはどうあっても逃れられないらしい。

「へ、へやからやっぱひ、なおが退いたらへぇんぶかいふぇつふるんやって!!」
「あかねが諦めれば済む事だろ!!い――だ、だから痛いって!!」

 いよいよ二人の熾烈な争いもピークを迎えつつある中、一人の少女が突如バン!と天板を叩き、敢然と炬燵より立ち上がった。
 その勢いに驚いたあかねとなおを含む一同が、一斉に彼女を仰ぎ見る。

「分かったよ、二人とも。そこまでやる気満々なら仕方ないよね……」

 彼女――普段はドジだったりオッチョコチョイだったりもするけれど、それでも一応スマイルプリキュアチームのリーダー。
 星空みゆきは、堂々と胸を張り、絶賛取っ組み合い中のなおとあかねに向かい、三本の指を立てた手を伸ばした。

「それではこれより、なおちゃんとあかねちゃんによる、コタツの場所争奪三本勝負を行います!!」





最終更新:2018年05月02日 09:38