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『ばとる☆ひーたー』2




☆★2★☆ 

 果てしなく延々と広がる、一面の砂、砂、砂……。
 360度どこまで見渡しても、視界に入るのはおよそ生命の生き延びる術があるとは思えない、砂塵渦巻く砂の世界……ここは名高き、過酷なる灼熱の大砂漠地帯。
 ――アフリカ大陸北部、サハラ砂漠。モロッコ近辺。
 この乾ききった熱砂の地に、今、似つかわしくない制服姿の少女五人が立っていた。

「あ、暑……な、なんでサハラ砂漠くんだりまで来なあかんねん……」
「うー……あ、あたし達に一体何させるつもり……?」

 口や目に容赦なく飛び込んでくる砂を必死に払いのけながら、みゆき達から少し離れた場所で向かい合ったあかねとなおは、不満気に疑問を口にした。
 しかし、それが理解できないのは何もこの二人に限った事ではない。

「み、みゆきさん、どういうおつもりなのですか?こんな所にわたくし達まで……」
「ほ、ホントよ……やだっ!靴や服の中まで砂まみれ!!」
「ふっふっふっ……」

 含み笑いを漏らすと、みゆきは傍らに立つやよいとれいかにだけ聞こえるように、囁くように自らの企てを打ち明けだした。

(ホラ、あの二人って勝負事には熱くなるでしょ?でね、こういう暑い場所連れてきて、思う存分身体を動かさせれば、コタツの事なんか考えるのも嫌になる程あったまるんじゃないかな~、なんて思って……しかもそれを3セットだもん)
(あ、な~るほど。それなら最終的にどっちが勝っても、戻ったところで喧嘩にはならないよね!)
(何という計略……後の世に諸葛亮と共に語り継いで行きたい程の名策士ですね、みゆきさん)
(やー、それほどでも……で、れいかちゃん、そのショカツ郎ってどんな名作なの?おとぎ話にしては聞いたことないけど……あ、ともかく、わたし達が一つずつ対決を担当していこう、ね?)

 こそこそと密談を交わす三人に、我慢できなくなったかのようにあかねとなおが大声を出す。

「おーい!!ほんでウチらこれから何で勝負したらええんや!?」
「砂漠だからって『ピラミッド建築対決』、なんてのは勘弁して欲しいんだけどー!!」
「あ~、ゴメンゴメン!じゃあ二人とも、これ持って」

 てててっと二人に駆け寄ると、みゆきは手にしたバッグから二枚の板を取り出した。
 それを見た途端、あかねとなおの身体から一気に力が抜けていく。

「じょ、冗談やろ……こんなとこまで来て……」
「み、みゆきちゃん、もしかしてふざけてる?」
「冗談でもないし、ふざけてもいないよ!ちょうどね、お正月からふしぎ図書館に置きっ放しにしてたから――」

 羽根のついた黒い玉を、満面の笑みで差し出すみゆき。

「それでは第一の勝負……サハラ砂漠羽根つき対決、始め!!」

 ……と、開始の合図はあったものの……。
 なおとあかねによって繰り広げられる、やる気のないコーン…コーン…という間延びした音の羽根のラリーを、みゆき達は砂を掘って作った日陰に体育座りして見守っていた。
 さすがにこの暑さの中、ましてやあかねもなおも部活動帰りで疲弊しているのだ。気合の入った戦いが期待できるわけもない。

「……みゆきちゃん……これって失敗だったんじゃないの……?」
「ですね……あの二人がいかに負けず嫌いとはいっても……」
「う~ん……やっぱりこんなとこまで来て羽根つきなんか、バカバカしくてやってられないのかなあ……」

 三人がこの作戦に疑いを持ち始めたその時、あかねの打った羽根が、彼女の背後から吹いた気まぐれな砂漠の風によって軌道を外れ、なおの左横1メートル程の距離に返される。

「……!!このっ!!」

 しかし、さすがはサッカーで鍛えた健脚といったところか。横っ飛びに近い形で、地面スレスレ、なおは羽根を打ち返す。
 予期せず返ってきた羽根に、これもまたバレーで培った反射神経を持って、あかねもギリギリ対応する。

「!!やるやん、なお!!」
「あかねもね!!」

 今のやり取りで火が点いたのか、これまでは二人の間で呑気な音を立てていた羽根が、カッ、コッ、と短く鋭い音を立てだした。
 どちらも本気……お正月定番のお遊びが、今や少しでも気を抜いた方が負ける、抜身の日本刀での鍔ぜり合いの如き様相を呈している。
 最早行き来する羽根を目で追う事すら、見学しているみゆき達三人には厳しくなってきていた。

「な、なんか凄いことになってきてる……」
「これは……どちらが有利かすらわたくし達では判断つきかねますね……」
「あ、でも……やよいちゃん、れいかちゃん、見て!!」

 再びあかねの背後から、砂を巻き込んだ一陣の突風が吹いた。しかも今度は、先ほどとは比べ物にならないくらいの強風だ。
 打ち返された羽根がまたしても軌道を大きく外れ、なおの頭上を軽々と越えると、その遥か後方へと飛んでいく。
 誰しもあかねの勝利を――羽根を打った本人すらも確信した、その時。

「プリキュア、スマイルチャージ!!」

 掛け声と共に、なおの身体が緑色の眩い閃光に包まれる。
 ――その片手にはいつの間にか、スマイルパクトが握られていた。
 一瞬の後、その光と風の中から姿を現したのは、緑川なおではなく、一人の清冽な疾風の戦士だった。

「勇気リンリン直球勝負!!キュアマーチ!!」

 名乗りを上げるが早いか、キュアマーチは後ろへと振り返ると、砂埃を巻き上げながら一直線に羽根を追う。
 けれども、マーチの驚異的な脚力を持ってなお、羽根の落下地点まではその手にした羽子板が届かない。

「くっ!!」

 流石にもうどうしようもないと観念したのだろうか、マーチの手から握力が抜けたように羽子板がすっぽ抜け、羽根目掛けて飛んだ。
 ―――いや。
 観念などしてはいない……それすらもまた、マーチの計算だったのだ。

「プリキュア……マーチシュート!!」

 手は届かない距離だろうと、ギリギリ足なら届く――そう踏んだマーチの、美しき弧を描いたオーバーヘッドキック。
 キュアマーチの右足は、見事に羽子板ごと着地寸前の羽根をあかねに向かって打ち返した――彼女の秘めた風の力もプラスして。

「な、なんやて!?」

 さすがのあかねといえど、変身してない以上、この一打に反応しろというのが土台無理な話だ。
 ザシャア!!という轟音と共に、あかねの右後方の砂に、風を伴ってドリルのように高速回転しながら、羽根が深く深くめり込んでいく。
 一拍遅れてその傍に、荒野に立てられた墓標の如く羽子板が突き刺さった。

「――ふふーん、まずはあたしの完全勝利、だね」
「か、完全勝利やあるかい!!こんなん卑怯やろ!!」

 胸を反らし勝ち誇ったマーチに、声にも表情にも不満を顕にして詰め寄るあかね。だが、マーチの顔はあかねとは対照的に、余裕綽々といった風だ。

「卑怯?わざとじゃなくても、先に追い風で有利になったのはそっちでしょ?風には風、ってね」
「か、風には……って、せやからってナンボなんでも変身すんのは無しやろ!?しかも足で蹴るなんて、反則やんか、反則!!」
「羽子板はちゃんと使っただろ?それに、変身無しとは言ってないよねー、みゆきちゃん?」

 マーチの問い掛けに、事の成り行きを見守っていた三人がヒソヒソと耳打ちし審議し合う。
 話が纏まったのか、やがてうんうんとお互い頷き合うと、この勝負の提案者として代表してか、みゆきが高々と右手を挙げた。

「サハラ砂漠羽根つき対決、勝者、なおちゃん!!……そろそろ暑くて嫌になってきたし」




最終更新:2018年05月02日 09:39