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『めぐみの悩み!?わたしなんて強くない!!(Aパート)』 /夏希 ◆JIBDaXNP.g




「かえして! わたしの帽子をかえしてよぉ~」
「チョイー!」
「チョイー!」
「チョイー!」

 河川敷で小さな女の子が泣き叫んでいる。
 その周囲を、黒タイツでサングラス姿の、十二体の怪人が取り囲んでいた。
 その子から奪ったらしい帽子をフリスビーに見立てて、仲間に投げてはキャッチを繰り返す。

「おっ、おいっ、誰か助けてやれよ」
「そう言うおまえが行けばいいだろ」
「あいつら弱いんだけど……数がやっかいだよな」

 騒ぎを聞きつけて、川原には多くの人が集まっていた。
 しかし、チョイアークとて幻影帝国の尖兵。つまりは戦闘訓練を受けた兵士だ。
 一般市民に比べたら、――ほんの少しだけ強くて、しかもそれが十二体もいるのだ。並みの人間なら二十人は居ないと太刀打ちできない。
 その場に居合わせた、わずか五十人ほどの市民では、ただ見ているだけしかできないのだった。

「おまえら、妹の帽子になんか怨みでもあるのかよ?」
「チョ、チョ、チョイー!?」

 空手着を着た中学生くらいの少年が、帽子を持ったチョイアークの腕をねじ上げる。
 少年は力づくで帽子を取り返すと、悠然とチョイアークをかき分けて進み、泣いている女の子に手渡した。

「大丈夫か? 兄ちゃんはゴミ掃除をしていくから、おまえは先に帰ってろ」
「うんっ!」

 突然の出来事にとまどうチョイアークの隙間を縫うようにして、少女はあっと言う間に人ごみの向こうに消えていった。
 ようやく、おもちゃを取り上げられたことを理解したチョイアークが、怒りの視線を少年にぶつける。

「「「「チョイー!」」」」」
「なに言ってるのかわかんねえけど、どうせロクなこと考えてないんだろ? いいからかかって来い!」

 少年は正眼に構えを取ると、襲い来るチョイアークを迎え撃った。

(焦るな、はやるな。空手に先手なし)

 チョイアークの攻撃は、力強いが単純だ。狙うは交差法――即ちカウンター!
 少年、誠司の正拳がヘルメットに保護されたチョイアークの頭部を打ち貫く。

「チョイー!」
「チョイー!」
「チョイー!」

(空手道――集団戦の心得! 全体を一つの生き物と捉え、常に正面にて迎え撃つべし!)

 誠司は横に、横にと、滑るように動き、チョイアークの周囲を旋回するように戦う。
 側面に回りこみ、自分から敵は近く、敵から自分は遠く。
 それが空手の極意の一つ。“体捌き”だ。

 正拳、裏拳、手刀、前蹴り、足刀蹴り。一撃を繰り出すたびに、確実にチョイアークを倒していく。
 そうして、その数を半分ほどに減らした時のことだった。

「しまったっ! 川に足を……」

 誠司の動きが急に鈍る。
 囲まれないように川を背に戦ったのが災いして、足を水中に取られてしまったのだ。

「「「「チョイー!」」」」」
「うああっ!」

 チャンスと見たチョイアークたちが、右手から電撃を放つ。威力は大したこと無いのだが、身体が痺れて動けなくなってしまう。
 膝を付いた誠司に、トドメとばかりにチョイアークが迫る。

「「そこまでよっ!」」

 間一髪、駆けつけた二人の少女が誠司とチョイアークの間に割って入った。

「大丈夫? 誠司」
「おまえら……変身してから来いよな。こんな人だかりの中で、素のままでどうする気だよ?」

「それなら、大丈夫!」

 赤と青の髪の少女たちは、それぞれ一枚のカードを取り出した。

「行くですわ!」
「「カンフーガールズ、かわルンルン」」

 少女たちは、どういう手品なのか、一瞬で中国風の衣装に着替える。
 めぐみと呼ばれる少女は赤のチャイナ服に、ひめと呼ばれる少女は同じく青のチャイナ服に。
 大きくスリットの入ったその衣装は、テレビや映画で観たことのあるような、女性用カンフー胴着“チャイナドレス”だった。

「アチョー!」
「それ……なんのつもりだよ?」

「なにって、カンフーだよ。ほら、アチョチョチョって、あれ!」
「いいけど、そんな奇声上げてたらチョイアーク並みの馬鹿に見えるぞ」

 カンフーとは功夫であり、武術の名前ではなくて“練習の成果”を意味する言葉なんだけどな……と誠司は説明しかけて止めた。
 今ここで必要なのは正しい知識ではなくて、チョイアークを撃退できる現実的な力だ。

「うーん、そうかなー」
「いやー、私もチョットかっこ悪いかな~、なんて思ったり……」

 三人が漫才をしている間に、ようやくチョイアークたちは敵が増えたと理解したらしい。
 彼らはめぐみとひめをターゲットに変え、一斉に襲いかかる。

「チョイー!」
「チョイー!」
「チョイー!」
「アチャー!」
「アチョー!」

 行き交う奇声、そしてこっけいなポーズ。
 ヘンテコな中国拳法(の真似事)を操るめぐみとひめは、それでもカードの力で相当に強くなっていて――
 チョイアークを壊滅させるまでに、大した時間はかからなかったのだった。

「まあ、とにかく助かったよ。めぐみ、ひめ、ありがとな」
「うん! 誠司も無事で良かったね」

「ああ。しかし、凄いな……。おまえらって強いよな」
「ふふーん。まあ、それほどでもあるけどっ」
「ちょっと、ひめ。わたしたちが強いのはプリチェンミラーとプリカードのおかげなんだから……」

「なんの! それだって、私たちの力じゃない。誠司もしっかりしないと、めぐみの足手纏いになっちゃうよ?」
「わかってる。本当にそうだよな……」
「だから違うって! 自力で強い誠司の方がずっと凄いよ」

「いいって、気を使うなよ。じゃ俺、真央が気になるから先に帰るぞ」
「うん、まおちゃんによろしくね」
「ばい、ばーい」

 激しい戦いの後だというのに疲れた様子も見せず、誠司はその場から走り去る。

「誠司、なんか元気なかったね」
「そうかなぁ……。むしろ元気がないのはめぐみの方じゃない?」

「うん。なんか誠司に悪いことした気がして……」
「なんで? 助けてあげただけじゃない。まっ、友達なんだから当然だけどねっ」

「そうなんだけどね……」と、めぐみはひめに曖昧に答える。彼女の中でも、今の気持ちを説明できるほど整理が付いていなかった。
 ただ浮かない顔で誠司の消えた方向を見つめつつ、物思いに耽るのだった。




 自宅に帰っためぐみは、ピンポーンと隣の家の呼び鈴を鳴らす。
 隣の家といっても同じマンションの同じ棟であり、彼女にとって隣の部屋のような感覚でしかない。

「はぁ~い。あっ、めぐみお姉ちゃんだ!」
「こんばんは、まおちゃん。誠司は居るかな?」

「う~ん、一度だけ帰ってきたんだけど、またすぐ出かけちゃったの。おかあさんもお仕事だから、まおは一人でお留守番なんだ。えらい?」
「うんうん、えらいよ、まおちゃん。夕ご飯は一緒に家で食べようか?」

「ほんとっ! やったあ」
「じゃ、先に行ってて。わたしは少しだけ用事があるから」

「うん、はやく帰ってきてね」

 外に出て探偵フォームに変わっためぐみは、その特殊能力を駆使して誠司の足跡を辿る。
 そして、夕暮れの公園で空手の稽古に精を出す誠司を発見する。そこは、奇しくもひめが逃亡した場所と同じ公園だった。
 すでに辺りに人気は無く、彼の突きと蹴りが空を切る音だけが、閑静な空間に響き渡る。

「誠司……」
「なんだ、めぐみか。いるなら声をかけろよ」

「昼間のこと、気にしてる?」
「ああ、俺が役に立たなかったことか? もちろん気にしてるから、こうやって鍛えているんだ」

「そんなっ、誠司は強いよ! 同じ歳で敵う子なんていないし、チョイアークだって一人で半分倒しちゃったし」
「そうだけど、俺はおまえ達の力になるって決めたからな。プリキュアに変身もしてないおまえより弱かったら、マズイだろ?」

「わたしの力なんかじゃ……ないよっ!」
「あっ、おい、待てよ! 夜中に女の子が一人で出歩いちゃ……って、あいつなら大丈夫か」

 誠司は苦笑すると、また再び空手の型の稽古に戻った。



最終更新:2014年03月02日 17:31