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One Step Beyond ―キュアエコーの方法― (1)




「あゆみちゃん、あそこ、いっぱい並んでるよ」
「本当だ」
「売り切れちゃうかも」
「急ごう!」
 横浜の街に初夏の日差しが降り注いでいる。
 坂上あゆみは、クラスメートの声に明るく答えた。だが、まりも、みなも、めいもすでに限定スイーツの行列に向けて走り出している。あゆみは、待ってよ、と言いながら駆け出した。
 30分後、少女達はスイーツの箱を手に笑顔で店を出た。30分も並んでいたのだが、彼女達の間で話題が尽きる事はなく、あっという間だった。
「まりちゃん、どうして二つ買ったの?」
「決まってるじゃん」
「何が」
「今食べたいから!」
「食いしん坊…」
「じゃ、みなには上げない」
「え、あたしたちも食べていいの?」
「安心して。おごりじゃないから」
「よし。じゃあ食べよう。今食べよう。すぐに食べよう」
「めいちゃんったら」
「誰が食いしん坊なんだか」
 あゆみが笑う。みんなも笑った。
 大きな帆船の前の階段に腰掛けてスイーツの箱を開く。おいしそう、かわいい、と歓声が上がった。
「ね、食べる前に写真とろうよ」
「あたしがとる」
 あゆみは立ち上がってケータイを開いた。
「ハイ、チー…」
「違うよ、あゆみちゃん」
「え?」
 違う、と言われて不安そうな瞳を上げるあゆみ。
「チーズじゃなくて、『スイーツ』」
 まりの声にあゆみの笑顔が戻った。
「そうだね」
「じゃ、一つずつ持とうよ」
 それから、あたしはこれ、あたしはこれ、と―騒ぎがある。あゆみはニコニコとそれを見ていた。
「じゃ」
「スイーーーーーーツ」
「はいっ」
 カシャ、という音とともに三人の笑顔が納まった。
「よくとれてるよ」
「あゆみちゃんが入ってないよ」
「え、でも」
「誰かにお願いしようよ」
「誰かって」
 あゆみの心臓が跳ねた。それは、知らない人に頼め、ということだった。
(でも…)
 自分は一歩、踏み出したはずだ。
 転校したばかりで誰も友達がいなかった。元いた町に帰りたい、学校なんか行きたくない、とずっと思っていた。その気持ちが大事な友達を怪物にしてしまうところだった。
 あゆみは空を見た。まぶしい。大好きな友達が、この日差しのどこかで、キラキラ輝きながら見守ってくれている。
 以前のあゆみは、クラスメートに話しかけることすら恐い、と思っていた。だから、最初の一言を口にするのは、あゆみにとっては、たとえば目の前の帆船の天辺から飛び降りるのと同じくらいの勇気を必要とした。
 だが、意を決して話しかけてみると、この三人はあっさりとあゆみを受けいてくれた。こうして休みに遊びに来ることもできるようになった。本当に、自分だけが勝手に怯えていただけだったのだ。
 そこに大学生くらいのカップルが通りかかった。
(できるはず)
「あの」
 思いのほか、大きな声になってしまった。あゆみ自身も驚いたが、言われたほうもびっくりしている。
「写真…。
 写真をとっていただけませんか」
「あ、いいですよ」
 何を言われるのかと思っていたのかもしれない。男性のほうが笑いながら手を出した。
「おねがいします」
 あゆみが体を90度くらいに曲げて頭を下げると、ふたりは苦笑した。
 走ってまりたちのところに行くと、白い粉砂糖のかかったスイーツが出てきた。ありがとう、と言ってそれを手に取る。
「おねがいしまーす」
「はい」
「スイーーーーツ!」
 四つの笑顔がフレームに収められた。
「ありがとうございます」
「ふふふ。
『スイーツ』っていいね。
 あたしも今度、使ってみる」
 ケータイを受け取りに走っていくと、女性から思わぬ言葉が返ってきた。
「はい!
 どうもありがとうございました」
 また深々と頭を下げる。
 まりが、お幸せにー、と声を出すと、ふたりはまた苦笑しながら歩いていった。あゆみも笑っていた。
(言えたよ。
 フーちゃん)
 かすかな風が、まるでフーちゃんの声のように聞こえた。
(あゆみ)



最終更新:2014年04月05日 18:23