「ふわぁー」
「ほっとしますわね」
「本当に、なおちゃんの入れてくれるお茶はおいしいね」
「それはえぇねんけど、お好み焼きが合わんのがなぁ」
「紅茶だもん。
別に、あかねひとりだけペットのウーロン茶でもいいんだよ」
「またまた、そんないけず言わんといてぇ」
「お好み焼きは今度。
今日はあたしのクッキーをどうぞ」
「いっただっきまーす」
みゆきとやよいが手を出す。あかねも負けじと手を伸ばした。
「キャンディも食べたいクル!」
「どうぞどうぞ」
「おいしいー!」
「サックサクー!」
みゆきたちの歓声は木々の葉に吸い込まれていく。
ここは「ふしぎ図書館」。
一見、緑鮮やかな森のように見えるが、くねる枝の間、絡み合う蔦の隙間からは本の背中がのぞいている。それが見上げる高さにまで続いており、一体、何冊あるのか見当もつかない。
「おにいちゃんにもあげたいクル…」
キャンディが目を伏せる。
「ポップは今、何してるの?」
「わからないクル…」
小さな体で、ひとりだけでこの世界に来て、プリキュアを探し出し、一緒に戦っている。そんなキャンディでも、兄のポップが恋しくなることがある。
「そんなときには」
みゆきが、小さなアタッシュケースの様なものを取り出した。「デコルデコール」という、キュアデコルを集めるためのケースである。
小さなアクセサリーの様なキュアデコルの中に、電話の形をした「デンワデコル」がある。これを使うと、メルヘンランドにいるポップと話ができるのである。
「電話するクル。
おにいちゃんとお話したいクル!」
そのとき、周囲がうっすらと光った。
〈その必要はないでござる〉
「本棚だね」
「誰かいらしたのでしょうか」
このふしぎ図書館の本棚は、世界中の本棚につながっている。一定の手順を踏めば、本棚を通ってどこにでも移動できるのだ。本棚が光った、ということは、誰かがやってきた、ということだった。
光が収まると、その中に立っていたのは、小さなライオンのような妖精、ポップだった。
「おにいちゃんクル!」
「キャンディ。
元気だったでござるか?」
「おにいちゃんクル!
会いたかったクル!」
「こらこら、キャンディ。
あばれるのではないでござるよ」
キャンディは泣き笑いしながらしばらくポップに甘えていた。
「ポップ、おいしいクッキーがあるよ」
「『くっきー』でござるか?」
テーブルに乗るキャンディとポップ。
ポップはキャンディの小さな手からクッキーを受け取ると一口かじった。
「これは」
「おいしいクル?」
「キャンディの大好きな味でござるな」
「大好きクル。
さすがおにいちゃんクル」
「ポップは好きと違うん?」
微妙な言い回しにあかねがたずねた。
「拙者にはちょっと甘さが強すぎるようでござる」
「そっか。
男の人はそうかもね」
気にする様子もなく、なおが言った。
「ポップって渋いんだ」
やよいが覗き込む。
「渋いとはどういうことでござるか」
「かっこいい」
「か――」
ポップは残っていたクッキーの欠片を取り落とした。急に顔が真っ赤になったかと思うとふらつきはじめる。
「危ない!」
テーブルから落ちかけたポップの手を、あやういところでれいかが掴んだ。
「か、かたかたかた…かたじけない」
褒め言葉に弱いのは相変わらずだった。
「ところで」
ポップは二、三度、深呼吸をすると座りなおした。
「今日、ここにやってきたのはほかでもない。
新しいプリキュアのことについてでござる」
みゆきたちも姿勢を直した。
「どんなプリキュアだったか詳しく教えてほしいでござる」
「どんなって…。
可愛いプリキュア」
「…」
「あと、白いの」
「…」
「それでね、一生懸命なの!」
「…」
ポップの表情が険しくなっている。そうならないように必死に抑えていることがわかる。
「みゆきさん、ポップさんが聞きたいのはそういうことではないと思います」
「え、違うの?」
「例えば、どんな力を持っているのか、とか。
そういうことですよね」
「そうでござる」
「どんな力…」
「うーん」
だが、そう言ったれいかを先頭に、みな唸りながら考え込んでしまった。誰も口を開かない。
「…。
わからないのでござるか?」
「技とか使ったわけじゃないからね」
「エコーなんとか! とか言うてへんかったし」
「スーパーヒーローとしての自覚が足りないんじゃないかな」
「また一人で変なスイッチ入れてる人がおる…」
「スイッチって言えば」
みゆきが言った。
「キュアデコルは?」
「え?」
「あゆみちゃんがプリキュアになったって事は、キュアデコルとスマイルパクトがあったってことでしょ?」
「それなんてござるよ」
ポップの険しい表情が消えた。
「スマイルパクトは五つしかないはずなのでござる」
「そうなの?」
「だから、そもそも皆の衆のほかにプリキュアが現れたということ自体が不思議なのでござるよ」
「ということは…」
「どういうこと?」
「それを知りたくてやってきたのでござるが…。
こうなってはやむをえない。
その子に会って話を聞くしかないでござる」
「賛成。
私もあゆみちゃんに会いたいし」
「では、早速だが、行くと参ろう」
「うん!」
「どうやって?」
「本の扉があるじゃない」
「どこに行くの?」
「だから、あゆみちゃんのところ」
「それ、どこ?」
冷静な声でやよいが言っていることの意味がやっとわかった。
「住所は?」
「電話番号とか」
「ケータイとか」
「え…」
「誰もあのコの連絡先、聞いてへんの?!」
「あ…」
「あかんやん…」
「同じプリキュアだから、すぐに会えると思ってたクル」
キャンディが皆の気持ちを代弁した。
あの日、同じ場所にいて、心を一つにした。そう信じられたあの時。みんな、
ともだちになった。そう感じた。
「せやからって」
あかねがどれだけ嘆いてもどうしようもない。
「みんなでそのこのことを思い浮かべて、会いたいと念じるしかないでござろう。
そうすればきっと本の扉が連れて行ってくれるに違いないでござる」
本棚の前に並ぶ。目を閉じて、あゆみのことを思い出す。あの清らかでまっすぐな瞳を。
みゆきは本をスライドさせた。三度目に、本棚が光りだす。これで会える。
だがポップは一瞬、その光の向こうに不穏な匂いをかいだ。
(何かが起こっているでござる)