One Step Beyond ―キュアエコーの方法― (4)
人間ではないものに話を聞いてもらおうと思ったのが間違いだったのだろうか。
(どうすればよかったんだろう)
どうすれば、みんなを助けることができたのだろう。
一瞬、体の動きが止まった。次にはゆっくりと下降していく。
(フーちゃんは、自分を見失いかけていても、ちゃんと話を聞いてくれたのに)
冷静そうに見えるウルフルンは、あゆみをからかうような口をきくばかりで、耳を貸そうとしてはくれなかった。その結果、みんなは――
「!」
その恐ろしい想像にあゆみは目を開いた。ぼんやりとした月が目に入る。
「まだ」
自分は、できることをすべてやっただろうか。本当に、ほかにできることはなかったのだろうか。
あるはず。いや、ある。
あれは確かに現実に起こったことだった。
手を伸ばす。古い紙を貼り付けたような空に向かって。
(私の思いを伝えるために、できることはまだあるはず)
冷たかった掌に温もりが戻ってくる。いや、それが冷たかったのだ、ということも気づかなかった。その両手を胸に重ねる。
「お願い。
もう一度!」
何も起こらない。空は暗いままだったし、あゆみの体は落下を続けていた。
「お願い。
もう一度!」
耳のそばを吹きぬけていく風の音が激しくなってきた。目の端をビルの看板が通り過ぎていく。
「私は、あの人を止めたい。みんなのエナジーを取り戻したい。
そのために、やらなければならないことがあるの!」
ダメか。あゆみは目を閉じたくなるのをこらえた。
「もう一度!」
風の音が消えた。同時に、目の奥が痛くなるほどの光があゆみの体を包んだ。
「な――なんだ」
ウルフルンが笑いを忘れて呟く。
光の中であゆみの体が回転する。その間に、あゆみの髪は淡いクリームに色を変えた。白いドレスにはピンクのラインが走り、緑と黄色がアクセントを加える。胸元には大きなリボン、その中心で宝石が輝いていた。
光が淡くなり、彼女はアスファルトにゆっくりと降り立った。そしてウルフルンを見据える。
「まさか」
「思いよ届け!
キュアエコー!!」
「またプリキュアか!!」
ウルフルンが唸る。
道理で絶望に囚われないわけだ。まったくプリキュアは一体、何人いやがるんだ。
ウルフルンは、自分があゆみに言った、一人見たら30人いると思え、という言葉を思い出した。冗談ではない。今でさえ充分に面倒くさい。これでプリキュアが30人もいた日には、ピエーロの復活がいつになるかわからない。
「お願い。
みんなのエナジーを返して」
「うわっ!」
いつの間にキュアエコーが目の前に迫っている。ウルフルンは慌てて飛びのいた。
だがキュアエコーは追ってくる。ウルフルンがどこに位置を変えても、ワンテンポの遅れでついてきていた。
「木霊かよ!
アカンベー、こいつをなんとかしろ!」
〈アカンベー!〉
ツーロアカンベーが長い胴体をくねらせながら迫ってくる。キュアエコーは飛び上がった。
「どわっ!」
目標を失ったツーロアカンベーがウルフルンに突っ込みそうになる。ツーロアカンベーが急ブレーキをかけ、ウルフルンも慌ててよけた。
「何やってる。
俺じゃねぇ、あいつだ、あいつ!」
空中、ウルフルンやツーロアカンベーよりも更に高いところに滞空しているキュアエコーを指差した。
ツーロアカンベーがまっすぐに突っ込んでくるが、キュアエコーはそれをきわどくかわし、ツーロアカンベーが巻き起こす風を切って、逆にウルフルンに迫った。
「ピエーロというのが何かは私は知らない。
でも、みんなを絶望させて、あんなふうにエナジーを奪うことが正しいはずがない。
あなたは間違っている!」
「お前なんかの言うことに貸す耳は持ってねぇ!」
「みんなのエナジーを返して!」
ウルフルンはポートタワーの屋上へ逃げた。
その隣に、二つの影が現れた。一つは大きく、もう一つは小さい。
「なんだ、お前ら」
「自分だけバッドエナジーを集めようったってそうはいかないオニ」
「それに、なんだか助けが必要そうじゃないかね」
アカオーニとマジョリーナ。
バッドエンド王国の三幹部が揃ったのだった。
「助けなんか」
「遠慮おしでないよ。
いでよ、アカンベー!」
アカオーニとマジョリーナも赤いボールを高く掲げた。
一つは帆船にとりつき、ハンセンアカンベーとなった。
もう一つは月の形をしたホテルに入り込み、ムーンアカンベーに。
キュアエコーは唇を固く結んだ。
最終更新:2014年04月05日 18:28