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One Step Beyond ―キュアエコーの方法― (5)




「おっと」
 みゆきたちの体が本棚から飛び出す。勢いに思わず声が出てしまったが、みゆきの口をあかねが塞いだ。
「ううっ」
「静かに。
 ここ、本屋さんやんか」
 通路には誰もいない。たまたま人のいないタイミングだったのだろうか。
「いい匂いがするね」
「コーヒーの香りだね」
 そういう本屋も少なくないらしい。なおとやよいは棚の角を曲がった。
「えっ」
「どうしたんですか――これは」
 客はテーブルに突っ伏して、店員は座り込んでいた。誰もが黒い波動をにじませている。
「バッドエンド王国の仕業でござる!」
「行くよ、みんな!」
 本屋を飛び出す。
「ここ、横浜よね」
「そうだ。
 あゆみちゃんと初めて会ったのもこの街」
 本の扉は正しい場所を選んだようだ。
「でも、ここでバッドエナジーが集められているっていうことは」
「あゆみちゃんも襲われてるっていうこと?!」
「急がな!」
 走る。
 場所は簡単にわかった。バッドエナジーが集まっている場所を見つければいい。
「あそこクル!」
「幹部が三人、揃ってるでござる」
「どないなってんねん」
「あゆみちゃん、無事でいてね」
「急ぐよ!」
「待ってください。
 あれは」
 れいかが立ち止まると、四人も揃って足をとめた。
 三人の幹部と、三体のアカンベー。その前で光を放っているのは。
「キュアエコー!」
 やよいが叫んだ。
 キュアエコーはウルフルンに接近しては離れるということを繰り返していた。アカンベーはそれを妨害しようとしているようではあるのだが、キュアエコーは身軽にそれをかわしている。
「何してるんだろう」
「説得しようとしてるのではないでしょうか」
「説得?」
「あいつら、説得なんかできる相手ちゃうやん」
「でも、彼女は『キュアエコー』ですから」
 声の届かない相手になってしまったフーちゃんに思いを届けるために、あゆみはプリキュアになった。おそらく、それと同じことをしている。
「それに、技もなかったよね」
 やよいが言った。あゆみがキュアエコーだった時間はごく短い。技がない、と断言することもできないが、あのときの様子から言って、それは正しいだろうと思われた。
「あれが『キュアエコー』でござるか」
 ポップが飛び回るキュアエコーを見つめている。
「どうかしたの?」
「…。
 いや、ここはひとまず、アカンベーを退治するのが先でござろう。
 プリキュアの衆、よろしくお願いするでござる」
「うん!」
「プリキュア スマイル・チャージ!」
〈Go! Go! Let's Go!!〉
「キラキラ輝く未来の光! キュアハッピー!」
「太陽サンサン、熱血パワー! キュアサニー!」
「ピカピカぴかりん、じゃんけんポン! キュアピース!」
「勇気リンリン、直球勝負! キュアマーチ!」
「しんしんと降り積もる清き心。キュアビューティ!」
「五つの光が導く未来! 輝け! スマイルプリキュア!!」
「はっ!」
 アスファルトを蹴る。五本の光のラインが鈍い色の街を切り裂いていく。
「げっ、あいつらも来やがった!」
 ウルフルンが叫ぶ。
「ほら見るオニ。
 やっぱり助けが必要オニ」
「いらねぇ!」
「『げっ』って言ったわさ」
「アカンベー、あっちのプリキュアどもを倒すオニ!」
「アカンベー、遅れを取るんじゃないよ!」
 ハンセンアカンベーとムーンアカンベーが向かってきた。
「三方向に別れましょう!」
「サニー、行くよ!」
「やったるで!」
「ピース、私と一緒に」
「はいっ!」
「エコー!
 遅くなってごめんね!」
「ハッピー!」
 みなとみらいの上空で三組の火花が散った。
 キュアマーチがハンセンアカンベーの下から蹴りこむと同時に、キュアサニーが上から拳を叩き込む。
 キュアピースがムーンアカンベーの攻撃を払うと、その先にキュアビューティが待ち構えている。
 キュアハッピーは、キュアエコーの前に出てかばう。そして、ツーロアカンベーの胴体に体当たり。
「エコー、あの人たちを説得しようとしてるんだね」
「うん。
 みんなにエナジーを返してほしくて」
「あたしも手伝う。
 集めてたのは誰?」
「狼の人です」
「よし、一緒に行こう!」
 キュアハッピーはキュアエコーの手を取った。ツーロアカンベーがくねらせる体の隙をぬってウルフルンの元へ。
「何度言われても返さねぇぞ」
「どうしてですか!
 こんなにたくさんの人を苦しめて」
「ぜーん然、気にならねぇなあ」
 ウルフルンはバカにするように笑った。
「なんだい、こいつ」
 マジョリーナが覗き込んだ。
「バッドエナジーを返せってうるせぇんだよ」
「馬っ鹿じゃないかね。
 あたしたちはバッドエナジーを集めに来てるんだ。返すわけないじゃないかね」
「そんなこと絶対にさせないもん!」
「もうやってるオニ。
 邪魔はさせないオニ」
「アカンベー!」
 三体のアカンベーが一斉に吠える。キュアハッピーとキュアエコーの危機に気を取られた四人はアカンベーの反撃を受けて、同じように弾き飛ばされた。
「集まってください!」
 飛ばされたのは公園のようになっている区画だった。キュアビューティの声で一ケ所に集まる。
「丸見えじゃない?」
「こちらからもよく見えますから」
 なるほど、とつぶやくキュアピース。キュアエコーはウルフルンを探していた。
「それにしても三体はちょっと」
 アカンベーがゆっくりと迫ってくる。幹部たちはその背後に浮いていた。
「どうしてわかってくれないんでしょう」
「無駄や。
 あいつら、どないしてもピエーロとやらを復活させる気なんやから」
 キュアエコーの呟きにキュアサニーが答える。キュアピースが続いた。
「そのためにバッドエナジーを集めてるんだから、アカンベーを倒すしかないの」
「でも」
「来たよ!」
 ツーロアカンベーの口からコンクリートの塊が飛び出した。一斉に宙に舞うプリキュアたち。
「やめて!」
 キュアエコーが叫ぶ。ウルフルンに向かって飛ぼうとすると、ハンセンアカンベーが立ちはだかった。
「危ない!」
 キュアハッピーとキュアビューティがその体を抱えて脇へ逃がす。なんとか地上にたどり着いて距離をとる。
「今は落ち着いて話ができる状態ではありません。
 先にアカンベーを倒すことを考えないと」
「それじゃ…。
 私は一体、何のためにプリキュアになったんでしょう」
「エコー…」
「私も、エコーが正しいと思う」
 キュアハッピーがキュアエコーの前に立った。まっすぐに目を見つめる。
「ハッピー」
「ビューティ、なんとかして狼さんに近づくタイミング作れないかな」
「難しいですね」
「でも、そのほうがいいよ。
 ちゃんと話をしてやめてもらえるんだったら、絶対にそれがハッピーエンドにつながるよ」
「…」
 確かにそれはその通りだ。
 だが、そもそもウルフルンたちは耳を貸さないだろう。現実としてこの三体のアカンベーもどうにかしなければならない。
「アカンベーは怪物だというだけでなく、中にキュアデコルが閉じ込められています。
 浄化して取り戻す、というステップは必要です」
「そんなことが…」
 目を伏せるキュアエコー。彼女の知らないことばかりだった。
 ふたりの言うことはわかるが、思いを届けるために、あの怪物たちと戦わなければならない、ということに釈然としない気持ちが残る。
「一体ずつでも倒すよ!」
 しびれを切らしたキュアマーチが飛び上がった。
「プリキュア!」
 キュアマーチの両手からほとばしった光が、彼女の前で凝集する。
「マーチ・シュート!」
 鋭く蹴りこむと、球体となった光が唸りを上げてハンセンアカンベーに飛んでいった。
「やった!」
 ハンセンアカンベーは動きを止めたかと思うと、マストにかかっている帆を一斉に畳んだ。マーチ・シュートの光は、そうしてできた隙間を通過、はるか上空で消えた。
「嘘!」
 キュアマーチはその場に座り込んだ。シュートはキュアマーチのエナジーを大量に消費するのだった。
 そこへ帆を広げたハンセンアカンベーが遅いかかかる。キュアマーチは、疲れている上に、気づくのが遅れ、逃げる体勢を取れなかった。
「マーチが。
 プリキュア!」
 キュアピースが、ピースサインにした右手を高く掲げる。すると稲妻が走り、キュアピースは自分で「ひゃぁっ」と悲鳴を上げた。
「ピース・サンダー!」
 両手を振ると辺りを明るく照らす雷が発生する。
「あかん。間に合わへん」
 ハンセンアカンベーは信じられない速度で宙を滑っている。打ち出したばかりのピース・サンダーが当たるよりも先に、ハンセンアカンベーがキュアピースを跳ね飛ばすほどの勢いだった。
「ピース!」
 キュアエコーは恐ろしい想像に、届くはずのない手を伸ばした。キュアビューティも叫ぶ。
「ピース…え」
 見間違いだろうか。ハンセンアカンベーは突然、何かにぶつかったかのように速度を落とした。
〈アッ、カン、ベッ〉
 その隙にキュアピースは体を翻す。その直後、ピース・サンダーが炸裂した。しかし、後ろのマストが折れただけで、倒す事はできなかった。
「今のは…」
 誰もが首をひねる。ハンセンアカンベーはなぜあそこでブレーキをかけたのだ。
 しかし、考えている余裕はなかった。今度はムーンアカンベーが襲い掛かってきた。顔を満月にして威嚇している。
「ハッピー、エコーをお願い。
 プリキュア!」
 キュアハッピーがキュアエコーを伴ってその場を離れる。同時に、キュアビューティの周囲に時ならぬ雪が舞った。その白い世界を六つに切り裂く。
「ビューティ・ブリザード!」
 ムーンアカンベーはさっきまで満月だった顔を三日月に変化させた。そうしてできた空間を、ビューティ・ブリザードが通過していく。
「そんなのあり?」
 キュアマーチがつぶやく。キュアビューティが膝をついた。
 ムーンアカンベーは止まらなかった。キュアビューティに襲い掛かる。
「危ない!」
 またキュアエコーが手を伸ばしながら叫んだ。
 すると、どういうものか、ムーンアカンベーは何かにぶつかったように、ボヨンと音を立てて、後ろに倒れこんだ。
 キュアビューティは目の前の景色を呆然と見ていた。波打って歪んでいる。そこに何か、幕の様なものがあるように見える。
 幕は上のほうから消えてゆく。気配に振り向くと、キュアエコーが腕を下ろしかけているところだった。
「…。
 まさか」
「ビューティ!」
「大丈夫ですか?!」
 キュアハッピーが駆け寄り、キュアエコーが泣きそうな顔をして走ってくる。
「あれは、あなたの技だったんですね、エコー」
「え?」
「さっきアカンベーの動きを止めたのも、今のアカンベーを跳ね返したのも」
「私の…」
 キュアエコーは自分の手を見た。キュアハッピーも覗き込む。
「私に、そんなことができるなんて」



最終更新:2014年04月05日 18:29