One Step Beyond ―キュアエコーの方法― (6)
「すごいね!
すごいよ、エコー!」
「でも、本当に私だったんでしょうか。みなさんの――あっ」
キュアビューティの体が傾く。今のビューティ・ブリザードで力を使ってしまったせいだった。その手をキュアエコーが掴んで支える。
暖かい。いや、それだけではない。体の中の力が蘇ってくる。軽いめまいと、力の入らなかった足が嘘のようだった。体中にみなぎる力に、かすかに頬が染まる。
「これも、あなたの」
「私が?」
キュアエコーは自分の技のことをまったく知らないようだった。それはそうだろう。変身したのはこれで二度目。戦いに参加するのは初めてなのだ。
「エコー、すごい!」
キュアハッピーは同じ言葉を繰り返した。感激してかキュアエコーをハグして喜んでいる。
「私、みなさんのお手伝いができるんですね」
「そうみたい。
私たち、あの技は一度しか使えないんだけど、ひょっとしたら」
キュアビューティは自分の手を握りなおした。痛みも疲れも感じない。おそらくもう一度、ビューティ・ブリザードを使えるだろう。
「じゃあ」
キュアエコーはキュアマーチのもとに駆け出した。
その後姿を見送るキュアハッピー。
「あれ?」
「どうしました」
「エコー…あんな色だったっけ」
走るキュアエコーの背中で、ぶどう色の飾りが風になびいている。記憶が定かでないのだが、あれは淡いピンク色だったような気がした。
キュアエコーはひざまづくとキュアマーチの手を握った。
「え」
キュアマーチも目を見開いた。キュアエコーが握った掌がぼんやりと光り、それと同時に疲労感が消えていく。
「これ…」
「大丈夫ですか?」
「うん…ありがとう」
キュアエコーは、困惑しているキュアマーチをよそに、キュアピースに駆け寄り、同じく手を握った。
「あ、暖かい」
キュアピースの頬に赤みがさす。
しかし、キュアハッピーとキュアビューティはキュアエコーの変化に言葉を失った。
「エコー、ちょっと待って」
遅かった。
ふたりは、エコーの髪を結んだピンクのリボンが輝きを失いぶどう色に変わるのを見た。
「エコー!」
当のキュアエコーは、ふたりは一体何を騒いでいるのだ、という表情で顔を上げた。
「エコー、そのリボン」
キュアピースがかすれた声で言った。胸元の宝石を囲むリボンが、艶をなくして草色に変わってしまった。
「え」
そして顔が青ざめる。
「これ…―体」
「なにをゴチャゴチャやってるオニ!」
「お手々つないだくらいでなんとかなると思ったら大間違いだわさ!」
アカンベーたちが唸り声を上げる。
バッドエナジーの黒い波動は細く薄くなり始めていた。あるいは、人々が発するエナジーの大半が吸い上げられてしまったのかもしれない。そうだとすれば時間の余裕はない。
「マーチ、大丈夫ですか?」
「もちろん!」
キュアビューティの声に答えたキュアマーチが腕をふり、自分の回復を確かめるように力を込めた。その動作が風を巻き起こす。
「プリキュア ビューティ・ブリザード!」
その風にキュアビューティの雪が吸い込まれていき吹雪となった。ハンセンアカンベーはその猛烈な吹雪にこらえきれず後退して行った。
「なにやってるオニ!
逃げるんじゃないオニ!」
だが帆を張っている限り、その風には抗しきれない。ハンセンアカンベーは帆を巻き上げた。
「今です!」
「プリキュア マーチ・シュート!」
これで狙いは確定する。光球がハンセンアカンベーの胴に命中した。
〈アッカンベー!〉
「ピース、行ける?!」
「はいっ。
プリキュア!」
雷鳴が響き渡る。キュアピースはまた小さな悲鳴を上げていた。
「プリキュア サニー・ファイヤー!」
キュアサニーの火の玉が電気を帯びてムーンアカンベーの顔面に襲い掛かる。
「三日月になりな!」
マジョリーナの命令の通り、顔を三日月にしようとするムーンアカンベー。
「ピース・サンダー!」
激しい雷撃を受けたムーンアカンベーは、そのショックで顔面を満月に戻してしまった。
「もらったで!」
そこに火の玉が炸裂する。
二体のアカンベーは赤い鼻だけを残して消滅、その赤い鼻もガラス球のように破裂してしまった。
「なさけねぇな、どいつもこいつも」
「あの人が」
キュアエコーはウルフルンを見つけて前に進もうとしたが、何かに躓いたかのように膝をついてしまった。
「エコー!」
「大丈夫です。
私は、みなさんの力を蘇らせることができるんです。だから、きっと」
「やめるでござる」
ポップはキュアエコーの前に立った。厳しい顔で腕を組んでいる。
「でも」
「みんなを見るでござる」
キュアサニー、キュアピース、キュアマーチ、キュアビューティ。みなさっきと同じように肩で息をし、立っているのがやっとという状態であった。
「先ほどと同じではござらん。
いつもより疲れている様子でござる」
キュアサニーは、そんなことない、と言ったが、腹に力が入らずかすれた声しか出なかった。
「拙者の見たところ、キュアエコー殿は、皆の衆に力を与えたのではなく、皆の衆の中に残っている力を掘り起こしたのでござろう。
つまり、残っている力も使ったということ。いつもより疲れるのは道理でござる」
「掘り起こした…?」
「そして、エコー殿も同じように疲れている」
「そんなこと」
「そのリボンが明るさを失っているのが何よりの証拠。
胸の宝石がまだ輝いているのが奇跡に思えるほどでござる」
キュアエコーは自分のドレスを見た。リボンだけではない。ドレスの黄色もくすみ、白い部分は透明感を失っている。
「エコー殿は、スマイルパクトを使って変身したのではござらん。
だから、キュアデコルの持つ力がきちんと制御できていない。
それはものすごい無理がかかることなのでござるよ」
「…」
「もちろん、それを可能にしたエコー殿の意思の力には敬意を表する。それはもう並大抵のことでないのでござるから」
「でも、私は」
「気持ちはご立派。
だが、ここまででござる。
このままでは、エコー殿がキュアデコルの力に負けてしまう。
そうなったとき、何が起こるかは拙者も知らされておらぬが…エコー殿にとって良い事は何もないと思う」
「そんな…」
キュアエコーの困惑と絶望の声を破る笑い声が響いた。
「ウルッフッフ!
早い話が、そいつは役立たずってことなんだろう?
そんなのなら何十人増えてもなんの意昧もねぇなぁ」
「そんなことないもん!」
キュアハッピーが叫んだ。
「エコーは頑張ったんだよ。
こんなことしないで済む方法はないかって、一生懸命、あなたと話をしようとして、頑張ったの!」
「悪いが、俺はそんな相談に乗る気はねぇ」
「当たり前オニ」
「だから無駄だって言ってるだわさ」
エコーが顔を上げた。青ざめた顔のままで訴える。
「無駄なことなんかありません!
話さないと、伝えて、話を聞いてみないとわからないことはあるんです!」
「まだ言ってるぜ」
「エコーは。
エコーは、あなたたちと争わなくて済む方法を探してがんばったんだよ。
話を聞いてくれたっていいじゃない!
エコーの努力を無駄にしないで!」
「そんな努力してくれって、誰が頼んだんだよ。
片付けちまえ、ア力――」
地面が揺れた。いや、地面だけではない。世界全体が揺れた様な気がした。
「ウルフルン、何をしたオニ!」
「マジョリーナじゃねぇのか」
「あたしは知らないだわさ」
〈あゆみ…。
あゆみ…〉
空から声が降りてきた。
〈あゆみはどこ?〉
「フーちゃん…。
フーちゃん!」
〈あゆみ、声が小さい。
あゆみの街がとても遠いのはどうして?〉
キュアエコーが立ち上がった。空に向かって叫ぶ。
「フーちゃん、私はここ。ここにいるわ」
〈あゆみ…〉
「心配しないで。
私は大丈夫だから」
〈誰かがあゆみを隠してしまった。
でも、もう見つけた。フーちゃんには、あゆみの心が震えているのがわかる〉
「フーちゃん…?」
〈あゆみ!〉
「見て!」
キュアピースが空を指さした。
薄暗く塗りつぶされていた空にひびが入った。そこから光が差し込んでくる。
「なんだ!」
「まずいオニ」
「自分のバッドエンド空間くらい、ちゃんとしときよ!」
危険を察知したアカオーニとマジョリーナは素早く姿を消した。
「あ、お前ら。
逃げるんじゃねぇ!」
〈あゆみをいじめたのは誰?〉
空の割れ目から金色の光が潜み出す。それはおそらくフーちゃんの光である。
その光を浴びたキュアエコーに輝きが戻った。ドレスとリボンがもとの鮮やかさを取り戻す。
「狼さん、お願い!
みんなのエナジーを返して。
この街を平和で楽しい街に戻して!」
「う、うるせぇ!」
「こんなに言ってるのに!」
キュアハッピーが顔を真っ赤にして叫んだ。
〈あゆみをいじめたのは誰?
フーちゃんが許さない〉
「アカンベー!」
プリキュアたちは―斉に構えた。しかし、技を使う力が残っているのはキュアハッピーだけ。そして、今回のア力ンベーは一人の技では浄化できなかった。
「フーちゃん、私に力を貸して!」
キュアハッピーが叫ぶ。
「この街を元に戻したいの。
あゆみちゃんが大好きなこの街の人たちにハッピーを返してあげたいの」
〈フーちゃんも手伝う〉
金色の光の粒が舞い降りてくる。それはキュアハッピーの周りで揺れ、キュアハッピーの体を包んだ。
「プリキュア!」
キュアハッピーが両腕で大きなハートを描く。その軌跡が金色に輝いた。
「ハッピー・シャワー!」
黄金のハートがツーロアカンベーを包み込む。ツーロアカンベーは抵抗する様子もなく一瞬で消えてしまった。赤い鼻は浄化され、キュアデコルが現れた。
波動は、バッドエンド空間の隙間からこぼれる光に黒さを失い、「バッドエナジー」ではなくなった。それは見えなくなってしまったが、人々は少しずつ意識を取り戻し始める。
「あ…みんなが」
それに気づいたキュアエコーに笑みが戻る。
その時、キュアエコーの胸の宝石からキュアデコルが零れ落ちたが、地面に落ちる前に消えてしまった。それには誰も気づかなかった。
最終更新:2014年04月05日 21:04